とりっく・おあ・とりーと!







「エドエド-!」

ぼんやりと本を眺めていた人形使いの少年−エドワード・ザイン−は、己を呼ぶ声にふっと顔を上げた
部屋の入り口に向けてかけてくる足音…。
非常に楽しそうに駆けてくる少女−リ・ファンメイ−の楽しそうな顔が思い起こされ、無意識に笑みが浮かぶ。

他人にはわからないかもしれない。
しかし、これからやってくる少女や、錬、フィアといった一部の面々は判別できるし、喜ぶだろう。
最近のエドは笑顔を浮かべることが多くなった。

「じゃじゃーん! これ見て−! 魔女っ子ルック! メリルさんが作ってくれたの!」








予想通りの笑顔で,しかしその姿は予想からはかけ離れていた。
エドはきょとん、とした顔でメイを見る。

「メイ…それ、なに?」

「だって今日、ハロウィンだよ! 今から博士にさ、お菓子もらいに行こうよ!」
「はろうぃん?」

I-ブレインで検索するエド。
ハロウィン
10月31日で、ケルト人の1年の終り。
この夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていた。

家族の墓地にお参りし、そこで蝋燭をつけるという地方もある。墓地全体が、大きなランタンのように明々と輝く。
日本のお盆の迎え火・送り火にも似ているかもしれない。

「…おか、し?」
ケルト人における一年の終わりと、お菓子、なんの関係があるのだろうか。

「ああ、うん! あのねあのね、ハロウィンには子供は「トリックオアトリート!」っていいながら大人の人達にお菓子をねだって良いんだって!
 お菓子をくれなきゃいたずらするぞー! って。
 だからね、一緒にお菓子もらいに行こう!」

「…?」
「良いから、一緒に行こう?」
「…うん」
よくわかっていないもののメイについて行くことにするエド。



エドが一緒に部屋を出たのを確認して、メイは改めて箒にまたがる。
平べったい箒ではなく、昔ながらの竹箒である。一体どうやって入手したというのか。
竹とか非常に貴重なはずなのに。

「…たけ、ぼうき?」
「んー? エド、どうかした−?」
「たけ…なんで?」

あまりにも言葉足らずで、おそらく普通の人は理解できないだろう疑問を伝えようとするエド。
しかし、つきあった時間も長く、密度もやたらと濃いメイには通じたらしく、答えが返ってくる。

「これもメリルさん! もうすぐハロウィンだね−、っていいながら貸してくれたの!」
「…」

こういうのも親ばかというのだろうか。 
親ばかとは違うかもしれないが、この可愛がり様は一体どういうことか。
過去、メリルはエドに「こんなの来てみない?」と明らかな女物の服を手ににじり寄ってきたこともあったのをふと思い出す。
それを見てエドは思わず逃げ出してしまった。
その時の目を見るに、彼女は可愛い物に対して常軌を逸した執着があるのかもしれない。

「じゃ、いこう!」
ふわりと浮かび上がる箒ーわざわざ情報制御までしているらしいーの先端には、シャオロンがいた。
いつものネコの姿ではなく、コウモリのような不可思議な生物の形で。

「…ねこじゃ、ない」
「だって、ハロウィンだし…」
「…なんで?」

純粋な疑問のまなざしにたじろぎながら「えーとね、えーとね」と説明を開始するメイ。
魔女ならコウモリでなく黒ネコでもいい気がするが…。
イベントと言うことでイメチェンを図った、ということらしい。
その説明をどうにか終え、エドも納得したところで手をさしのべるメイ。

「ほら、エドも!」

一瞬きょとんとした後、そろそろとその手を取る。
メイは、その手をぐいっと引っ張り上げ、エドもまた、箒に乗せる。
メイはなぜか慣れた様子で箒にまたがっており、エドは浮いた箒におっかなびっくりの様子で横座りする。

それを確認して、メイは声を張り上げた。

「じゃ、出発しんこーう!」

二人は,他のみんなが居るはずの研究室に向かって進み始めたーーー

「きゃあああー!?こ、これ、どうやって止まるのー!?」
「…ん」

途中暴走したり、エドが情報制御で止めたりと色々あったが、研究室にたどり着いた二人。
研究室の前で笑い合う二人は、本当に楽しそうだった。

「トリックオアトリート! お菓子くれなきゃいたずらするよー!」
「…とりっくおあとりーと」

これらの声と一緒に研究室は大騒ぎになったようだが…それはまた、別のお話。






〜END〜







【あとがき】






○しし
ハロウィンには個人的になんの関わりがあるわけでもないので、書いてるような事は一切経験ないですが…。
楽しいハロウィンを過ごしてみたかった様な気もしています。
この二人は何となくほのぼのしてるので、大好きです。
なにやらメリルさんがなぞの人になってしまいましたが、これはこれで別に良いのかな?(汗)
ハロウィンはケルトの年末、だそうで。それでは皆様、よいお年を(違
ありがとうございました


○画龍
どうも、絵を担当した画龍です。
ふと「メイちゃん魔法士モード」があるなら「メイちゃん魔女っ子モード」なるものがあっても
なんらおかしくないのではと思い、気がついたら書いてました。
季節的にもちょうどハロウィンに該当いたしますし。
あと、シャオロンの形状にはつっこまないのが吉かと^^; いい資料がなかったので(笑)
ししさんには、お忙しいところSSをつけてもらってありがとうございます。
では。







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