■■画龍点せー異様■■

DESTINY TIME RIMIX
〜あなたがいて、わたしがいて。〜















安堵の後に訪れる絶望は、

どうしてこうも痛々しいのだろうか。

忌わしきモノが消えた安堵を襲う、無慈悲な現実。

そして連鎖的に発動する、消え行く命。

呪われているのは自分の運命か。

あるいは神か。

その日、少女は泣くだろう。

失って生まれる、悲劇。

























―――【  極 秘 た る 事 実  】―――
〜THE NORTYUEL&ZEINESUT&SHARON〜
















 第三次世界対戦が始まるまではフランスという国があった場所に作られ、長い間放置されていたわりにはかなり設備の整っている、本来の主亡き研究所跡に、今では非常に珍しい珍客が訪れていた。
 錆びた扉の向こう側には、パチパチとキーボードを叩く音。その音に混じって「あー」とか「うー」とか言う声も聞こえる。
 天井の明かりは意外にも当分はもちそうで、点滅する予兆すら見せない。
「えーい、何で出てこないのよ!!」
 ディスプレイに羅列する無数の文字に対し鋭い目つきでにらめっこしながら、金髪のおさげの少女、ノーテュエル・クライアントは叫んだ。
「ノーテュエル、短期は損気」
「そんなこと分かってるわよ」
 あくまでも冷静に諭すシャロンと、ぶすくれるノーテュエル。
 二人…否、別室で待機中のゼイネストを含めて三人は、ここの研究所跡のデータ検索(というよりハッカーと言った方が近いか)をしている真っ最中だった。何か使える情報が無いか探っているのだが、いかんせんここのプロテクトが無駄に強固なために、作業はちっともはかどってなどいなかった。
 何の酔狂か、データを探し当てたと思ったらある日の担当の日記だったり、はたまた趣味で書いたと思われる小説だったり、はては俗に言う十八禁ゲームだったりと、違う意味での宝庫状態だ。
 ちなみに、最後のソレを見たときに、二人して赤面したのは言うまでもない。
 この上、いきなり停電になってしまったりした日には、血管の一本や二本は軽く切れそうだ。
 そしてさらに五分後、ノーテュエルの手が完全に止まった。
「…ノーテュエル?」
 いきなり作業を止めたノーテュエルをいぶかしげに見ながら、シャロンはおずおずとノーテュエルの顔を覗き込もうとして、
 いきなりノーテュエルが顔を上げた。
「……あー、疲れた。ゼイネスト――!交代――!!!」
















 
そしてシャロンは、至近距離からノーテュエルの魂の叫びを聞く…というか無理矢理聞かされる羽目になった。

















「うう、まだ耳なりがする…」
 耳を抑えたシャロンは、ノーテュエルを恨みのこもった目でじっ、と睨む。が、その仕草は怖いというよりむしろ可愛らしく、ちっとも睨んでいるようには見えないのが悲しいところである。
 至近距離からノーテュエルの魂の叫びの直撃を喰らい、シャロンの耳は当然耳鳴りを起こす。シャロンのI−ブレイン能力『ラーズエンジェル』は、あくまでも他人の治癒能力を一時的に大幅に高める能力であって、シャロン本人に対しての使用は出来ない。
「あー、ごめんごめん。つい…ね」
 てへへ、と、後頭部を抑えつつ、ノーテュエルははにかみながら謝罪する。
「…つい、ですむなら警察は…」
「この世界にそんなのはもう意味をなさないし」
 シャロンの反論は、ノーテュエルの鋭い切り返しでたやすく打ち消され、シャロンは後に続くはずだった膨大な量のセリフを飲み込む羽目になった。
 警察よりもそこらの魔法士の方が遥かに強いこの世界で、警察は意味を成さない。…というか、そんな職業自体、いつの間にか廃止されてしまった。
 はあっ、と大きなため息一つ、ノーテュエルは休憩室へと入る。
「…じゃ、後は任せたわよゼイネスト」
「ぐご〜〜〜〜〜っ!!!」
 返って来たのは間抜けな鼾。
「…って、起きろ―――!!!!」
 先ほどのノーテュエルの魂の叫びもなんのその、ものの見事に無効化してゼイネストは爆睡していた。
「……」
 ノーテュエルの放った叫び声が聞こえていないと知るや否や、口元に悪意ある笑みを浮かべたノーテュエルは無言でゼイネストのそばまで歩み寄り腰を下ろして、
「それっ!!」
 がっし、と、ゼイネストの枕を掴んだ。
 そして次の瞬間にはゼイネストの枕をすっ、と取り除く。
 がすっ!!!!
 一秒足らずの間をおいて、万有引力の法則に従い、ゼイネストの頭が自由落下。
 後頭部にいい感じで、強化カーボンの床の硬さがクリティカルヒット。
 ゼイネストの意識が完全に覚醒。
 そして起き上がり、リバーサル(※1)で第一声。
「ってぇ!!!何しやがる!!!人が気持ちよく寝てんのに!!!!」
「交代の時間」
 睡眠を邪魔され怒っているゼイネストの返答をその一言で一蹴して、ノーテュエルは手ごろなところにねっころがる。
「〜〜〜〜〜っ」
 安眠を妨害され、ゼイネストはわなわなと拳を握り締めるも、
「ZZZZ…」
 殴るべき相手は既に夢の中。昔からそうだが、ノーテュエルは非常に眠りやすい体質らしい。しかも一度眠ったら中々起きない。某アニメの、眼鏡をかけたあやとりと射撃が得意な少年みたいだ…間違っても直死の魔眼を使う少年ではなくて。
「…のやろう…そうだ!」
 ゼイネストはこのやり場の無い怒りを、近くにあった黒のマジックペンで、ノーテュエルの額に「肉」と書くことで和らげた。
 …まあ、次にノーテュエルが起きたときに、一悶着ありそうだが、それはその時に対処しよう。

















しかし三人は知らなかった。
















その一悶着が、予想を遥かに超える悲劇になろうとは。
















そして知る。
















つかの間あっても長期であっても一瞬であっても、
















楽しい日々などあっという間に
壊れてしまうということを。

















不幸は、幸せの二倍多い…ホメロス。



















「…!?」
 その時、ゼイネストは異変に気がついた。
 右手に、妙な塊を握っている感触と、どろどろしたものが手に付着している感覚。
 そして実際に見て実感。
 無意識下でペンを握りつぶしてしまい、手が黒く染まってしまっていることに気がつく。
 ぞくり。
 突如訪れる不安感。
 なにかを壊したくなるこの衝動。
 自我を失いそうになるこの衝動。
 まさか…。
 そんな…。
 馬鹿な!!!
「くっ…消え去れ!!」
 叫ぶと同時、右手を思いっきり壁にぶつける。力が強すぎたのか、ごきゃっ、という、骨が折れる鈍い音。
 だがそれと同時に、なにかを壊したくなる衝動は消えていった。
 慌てるな、自然に振舞えばいい。
 …この怪我は、あとでシャロンに治療してもらえばいい。
 そして、この事をノーテュエルだけは知っている。
 もちろん、このことはシャロンには言えない。『寝返りを打ってぶつけた』ということにでもしておこう。
 何故なら、本当のことなど言えるわけが無い。

















 
ゼイネストには、

















ノーテュエルの『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』よりも

















さらに凶悪なプログラムが埋め込まれている。
などとは。


















 脱力感に襲われ、崩れるように壁に寄りかかった。
「…あと、何日だろうな…」
 そして誰にともなく、独白した。
「俺が…俺でいられるのは…」


















―――【  彼 女 の 想 い  】―――
〜THE NORTYUEL&ZEINESUT&SHARON〜



















 ノーテュエルと作業中、シャロンには、一つの決定があった。
 これから起こす行動には、シャロンの全ての意思が込められている。
 もう我慢できない。もう耐えられない。
 ゼイネストのことを考えると、心の奥で、熱いものがこみ上げる。同時に頬が紅くなる。
 これが恋だと気づくのに、そうそう時間はかからなかった。
 が、ゼイネストとノーテュエルの前では、何とかそれを隠し通してきた。
 ずるい考え方かもしれないけど、ライバルは、少ないほうがいいから。
 戦闘能力が負けていても、恋愛勝負なら、私は負けたくない。
 だから、今日言う。
 ゼイネストと、二人きりになったときに。
 世間で言う、愛の告白というやつを。
 生まれて初めての、告白を。


















 シャロン・ベルセリウスは、ゼイネスト・サーバのことが好きだった。
 はじめて見たときから、好きだった。
 二年前、誕生してから一ヵ月後、その時はまだ生きていた父親…ヴォーレーン・イストリーに一つの部屋へと案内されて、そこで出会った二人の人間。
 金髪のお下げの少女。
 赤髪の少年。
 最初に、金髪の少女がずずいっ、と前に歩み出してきた。
 そしていきなり人の頭の上に手を置き、ゆっくりと手を動かした。
「わー、可愛い子ー。私もこんな顔で生まれたかったな――――」
 くすぐったさに、首をすくめてしまった。
「お前じゃギャップが大きすぎて無理だ!綺麗なバラには棘があるって言うが、お前じゃ棘どころか毒になりかねん。それもトラ河豚クラスのな」
 赤髪の少年の、容赦ない突っ込み。
 カッチ−ン!!少女の頭から、そんな音がした。
 気のせいか、少女の頭からは湯気が上がっている。そして顔も赤い。
 これがヤカンでかつお湯が入っていれば、カップ麺が作れそう。
 何となく、そんな事を思ってしまった。
「な、なんですって―――――!!!!よくも私を侮辱したな―――!!その罪、地獄で償え―――!!!」
「お前は冥府の番人か!!!…それにしても、随分とやかましい冥府の番人もいたものだ」
「死なす――――っ!!!!!」
 拳をぶんぶん振り回し、金髪のお下げの少女は、赤髪の少年を追いかける。「ぐわ――っ、助けろ!」などと叫びつつ、部屋中をぐるぐる回って逃げる赤髪の少年。
「…はあ、この二人は相変わらずか…」
 もう何も言うことは無い。とでも言いたげに、不精髭の三十台後半・ヴォーレーン・イストリーは顔をしかめた。
 で、シャロンの方はというと、いきなりの出来事に頭がついて行かず、ただただおろおろするのみだった。
 刹那、いきなり頭に痛みが走った。
 同時に「ごん」という鈍い音。
 こんな時に『痛覚遮断』など発動しているわけが無い。
 それでシャロンは、自分がぶたれたことを認識した…厳密には、金髪のお下げの少女の拳が偶然シャロンにヒットしただけなのだが。
 痛さに、目に涙が浮かぶ。
「ど、どうしよう…」
予期せぬ出来事に、さっきまでの威勢はどこへやらおろおろする 金髪のお下げの少女。
「馬鹿!!」
 赤髪の少年が、シャロンに駆け寄る。
 金髪のお下げの少女の拳がヒットした箇所を、壊れ物でも扱うかのように優しく撫でる。
そうすると、不思議と、痛みが退いていった。
「…あ、も、もう大丈夫なの」
「ほんと!?良かった―――!!」
 金髪のお下げの少女が、文字通り飛び跳ねて喜ぶ。が、そこをすぐさま赤髪の少年に頭を叩かれる。
「なんで叩くのよ――――っ!!」
「この娘の分だ」
 その時だった。
 少女の心臓が、どきりと高鳴ったのは。

















「最初に仕掛けたのはあんたでしょ―――っ!!!」
「お前が最初に失言漏らしたんじゃないか!!」
 そして二人のたわいもない喧嘩は、このあと十分ほど続いたのだった。


















 休憩室から、緋色の髪の少年が現れる。
「…ま、そろそろ来ると思ったけどな」
 ふう、と小さなため息一つ。あらかじめ準備していたかのように、ゼイネストは緋色の前髪を指でいじりながら、先ほどまでノーテュエルが座っていた席に腰掛ける。
 で、当のノーテュエルは休憩室にて、手ごろなところで雑魚寝を始めた。
 一応毛布はあったのだが、この気候にも耐えられるように進化した虫に食われてぼろぼろになっており、話にならなかった。それに、I−ブレインによる体温調節をすれば、もとより布団など必要ない。
 ゼイネストが座ると同時に、隣で小さく、シャロンがふー、と安堵の息をするのが聞こえた。
 同じ「ふー」でも、かなり意味が違う。
「さて、始めるか」
 言うと同時、ゼイネストはキーボードを打ち始める。
 その隣のシャロンは、どこか落ち着かない様子でゼイネストを見ていた。


















 作業開始からさらに二十分が経過。
 目の前のディスプレイには、求めていた情報が映し出されている。しかし、その先にはさらにパスワード入力が必要なようだ。
 ようやく作業全体の折り返し地点。
 そろそろいい頃合だろう。
 誰にも分からないように、シャロンはこくんと、しかし力強く頷いた。
「…あの、ゼイネスト…聞いて欲しいことがあるの」
 手をもじもじさせながら、シャロンはおずおずと切り出した。
「…何だ?」
 いつもと様子の違うシャロンを前に、ゼイネストは黙り込む。
 我知らずのうちに、頬が赤くなり、言葉の語尾が上ずり、上目がちになってしまう。
 心臓はどくどくと激しく鼓動を打ち、体全体の体温が上がっていく。
 口ははくはくと動くだけで、なかなか言葉が出てこない。
 ゼイネストは、何か自分が悪い事をしたのかもしれないという、無実の罪悪感を纏ったような顔をしている。
 だが、なけなしの勇気を振り絞り、シャロンはついにその言葉を言い切った。

















「こんなときに…
こんな事言うのは場違いかもしれない…。
 だけど、もう我慢できないから言います…」

















再び流れる長い沈黙の後、
再びシャロンは口を開いた。

















「私、ゼイネストのことが大好きなの!!!
 初めて会った時から好きだった!!!
だから…仲間じゃなくて、ひとりの『私』として
私を見て欲しい!!!
…付き合って…ください。ゼイネスト…」

















 時が、止まった。


















 ――――先ほどの何の変哲も無い空気が、一瞬のうちに非常に重苦しい空気に移り変わってたっぷり一分の時が経過。中先に口を開いたのはゼイネストだった。
「…少し、考えさせてくれないか」
 口を衝いて出たのは、それだけの言葉。
「!!」
 その答えに息を飲み込み、胸に手をおいてその場に立ち尽くすシャロン。この後どういった行動を取ればいいのか分からず、ただただ立ち尽くすしか、今の彼女にはなかった。
 そしてゼイネストは、一人で作業を続けていく。
 それはまるで、現実逃避のように。

















 それからしばらくして、ノーテュエルが戻ってきた。
 その間、ゼイネストとシャロンの二人は、一言も口を聞けなかった。
「やっぱりここの設備は高レベルね。前の場所…えーと、スイス付近の研究所だったっけ?あそこはもう設備が老朽化してたから、このブラックボックスの中身を見れなかったのよね―――――!!!ああもうめんどかった――」
 最初に少しだけ作業をし、後はゼイネストとシャロンにまかせっきりだったノーテュエルは、うーん、と背伸びをして、いかにも自分は頑張りました。といった口調で口走った。I−ブレインの過去ログからは「あなたは殆ど作業して無いでしょ」という鋭すぎる指摘が来たが、あえて無視する。
 …ちなみに、額にかかれた「肉」の文字は、既に拭き取られた後だった。 「う〜ん」という声と共に、目を覚ましたノーテュエルが最初に向かった場所は洗面所。
 で、真っ先に、洗面所に設置されている自らの姿を映すもの…すなわち鏡…が目に入り、
 ―――ゼイネストォォォォォォォ!!!
 ―――鬼神咆哮ノーテュエル。
 額の「肉」の文字を素早く拭い去ったノーテュエルは、シャロンたちのいる部屋へと光速度の九十パーセントの速度で向かう。
 …が、着いたころには二人が作業を終わらしたところだったので、先にそっちのほうで喜びの感情が膨れ上がってしまい、先ほどの怒りはどこかへと霧散してしまった。
「…ノーテュエル、某掲示板じゃないけど、自作自演はかっこ悪いなの」
 ぐさり。ため息がちにその言葉を口に出したシャロンのセリフが、ノーテュエルの心に突き刺さり、ノーテュエルは笑顔を引きつらせ「あ。あはははは―――、何のことかな―――」と、笑ってごまかした。
 だが、シャロンの様子がおかしいことに、ノーテュエルはすぐに感づいた。
「ゼイネスト…あんた、シャロンに何したの?」
「な、何も…」
「嘘」
 ずずぃ、と詰め寄るノーテュエル。その瞳が本気で怒っている。いつもはおてんばであちこちにトラブルを振りまくノーテュエルも、こういう時にはもの凄く真面目になる。それこそ、普段一緒にいる他の二人が驚くほどに、だ。
「ゼ、ゼイネストは、何もしてない…」
「シャロン、正直に言いなさい。私が寝ている間にゼイネストに何されたの?事と次第じゃただじゃおかないわよ」
「だ、だから…」
「ゼイネスト…まさかあんた、シャロンの告白をフッたんじゃないでしょうね…」
 シャロンの弁解を無視して、ぎろり、と、鬼神の如き表情でノーテュエルはゼイネストを睨んだ。
「断じて違う!!!」
 ゼイネストは全力で、それも真面目な顔で否定した。
「…その眼だと…嘘は言っていないみたいね…まあいいわ、今のところはそれで済ましておいてあげる…だけど、もし違ったら…斬る!!!」
 立派な、シャロンの姉貴分としての少女が、そこにいた。


















 先ほどのシャロンからの告白。
 その様子から、彼女が本気なんだということは、すぐさま理解できた。
 だが、と思う。
 こんな自分が、彼女と共に歩んでいく資格など在るのだろうか。
 いつ暴走するか分からない、不安定な自分。
 シャロンのことは、純粋に好きだ。
 友達としてではなく、一人の少女として。
 だが、自分のそばにいては、彼女を傷つけてしまうだろう。
 この力は、シャロンの力をもってしても、止められないだろうから。


















忌わしきその力の名前は、
殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク
















ノーテュエルの、
狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』の、 プロトタイプと言える能力。


















 心の中では、二つの答え。
 シャロンが好きだから、好きだと答える。
 シャロンを巻き込みたくないから、今はまだ友達のままでいて欲しい。と答える。

 














 
だが本心は、

 






前者の答えを言いたくてうずうずしている。

 






 そして気づく。








自分は、本当にシャロンの事が好きなんだな。と。


















(パスワード照合…正解。文書を表示します)
 正解のパスワードを入力して、ここでの作業は終わり。
 一気にうるさくなる機械音。コンピュータがデータを読み出しているのだろう。
「…んじゃ、一仕事終ったし、文章読み出しが終わるまでパーッとやるか!!!」
 場の空気を換えるべく、そして心の迷いを打ち消すべく、ゼイネストが、仕事が終った開放感から上昇気味のテンションでその言葉を言い終わった瞬間、
「!!!」
 ゼイネストのひざが一瞬がくりといったことに、ノーテュエルとシャロンは気づかなかった。
 そしてゼイネストの内より来たるは覚えのある感覚…というより、今まで何度も経験してきた感覚。
 『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』が、ゼイネストの脳内でゆっくりとプログラムを覚醒。
 そして、ゼイネストに襲い掛かる、今まで何度も経験し、かつ、嫌悪してきた能力。
 心の底から湧き上がるのは、大地の鼓動などではなく、純粋なる殺戮衝動。
 一度発動してしまえば、シャロンの『治癒の天使ラーズエンジェル)』が効かない、呪われたチカラ。
(何故、こんな時に…)
 天の上であざ笑っている、カミサマとやらを殺したくなる。
 どうして、こんな風に自分を生んだのか。
 俺の結末など、決まっているのか。
 俺達がもう少し頑張っていれば、別の道を選ぶことが出来たのだろうか?
 こんな力に悩まされずに、普通の魔法士として生きることが出来たのだろうか?それとも、答えはあらかじめ決まっていて、俺達はただそこに向かっていただけなのだろうか?
 そして、何より、
 …そんなもの、今更考えて何になる!!今は、二人を殺さないようにしないと――――!!!
 その言葉を最後に、ゼイネストの意識が一時的に真っ白に飛んだ。


















 
(『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』強制起動)


















無慈悲に告げられた、それはまさに、


















 『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』が、発動した証だった。
 


















―――【  誰 か 嘘 だ と 言 っ て  】―――
〜THE NORTYUEL&ZEINESUT(DESTROYER)&SHARON〜


















「!!」
 喜びの中、背後に感じる殺気。
 危険を察知し、ほとんど勘でシャロンは真横に飛びのく。
 つい先ほどまでシャロンがいた場所の空気を、ゼイネストの騎士剣『天王百七十二式』が切り裂いた。
「ゼイネスト!?どうして!?」
「ちょっと、何してんのよゼイネスト!!!」
 全くの予測不能な攻撃。
 そして、来るはずが無いと思っていた攻撃。
 仲間だったから、信じていたから、そして何より、つい先ほど告白した相手に切りつけられたことが、シャロンをかなり動揺させた。
 シャロンの瞳から、涙が流れる
「…っ!!離れるんだ…シャロン!!」
 ゼイネストはいかにも苦しそうに、右手で顔を押さえている。騎士剣『天王百七十二式』の柄を握ったその左手はぶるぶると震えており、まるで、腕が勝手に動くのを抑えているような――――。
「…ゼイネスト、あんた、まさか…」
 声が震えるのを、抑えることが出来ない。
 ノーテュエルの口調は、まるでこのことが起きるのをあらかじめ予測していたかのような言い方だった。












 迫り来る刃。
 ゼイネストによって放たれたそれらは狙いを間違うことなく、二人の少女に襲い掛かる。
「なんで…ゼイネストがこんなことにっ!!」
 突然の状況について行けず、シャロンは剣閃を避けつつ、混乱した叫びを上げる。
 その隣では、ノーテュエルがこれ以上無いほどの真面目な顔をしている。
 そして、何かを決意したかのような表情。
 続けて、叫ぶ。
「・・・シャロン!!今から簡単に理由を説明するわ!!だから何とか避けきってて!!…おっとっと!」
 ゼイネストの横薙ぎの一撃を回避。
 続けざまに放たれた第二撃・第三撃を続けざまに回避。
「ぐ…がぁぁぁぁぁあああ!!!!」
 後に響いたのは、ゼイネストの悲痛な叫び声。













 そしてノーテュエルは、ゼイネストの剣閃を避けつつも、説明を開始した。
 ノーテュエルの説明を簡略化すると、以下のようになった。
 …シャロンには、到底信じられない内容だった…。















 まず疑いようの無い真実として、シャロンとゼイネストの二人には『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』は仕組まれていなかった。
 そう『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』なら。
 だからといって、それ以外の可能性が無いとは言い切れないだろうか?
 例えていうならば、ヴォーレーン・イストリーが『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』以外の何らかのプログラムを極秘に開発しており、それを極秘で自分の作った魔法士に埋め込んだ、あるいは 能力書き込みプログラムの手違いで『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』以外の何らかのプログラムを埋め込んでしまったとなれば…大幅に話が違って来る!!!!!
















 ゼイネストの抑えられない何かの正体。
 生前のヴォーレーン・イストリーが言っていた、最高傑作の中の一つの話。
 『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』の原点とも呼べる『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』。
 目に写るもの全てが憎くなり、殺さずにはいられなくなるという、世界で最も危険な能力の一つ。
 ヴォーレーン・イストリーは、この能力を誰にも埋め込んではいないはずだと言っていた。
 しかし、あれは嘘だったのだ。
 ときおり、ゼイネストは、何となく人を殺したくなったときがあった。その時はまだ実行には至らなかった。しかし、その衝動は日に日に強くなっていき、身を焦がさんばかりの殺戮衝動に耐えられなくなった。
 だが、シャロンが来た途端、あれほど強かった殺戮衝動が、一気に引いていった。
 最初は何故だか分からなかった。
 分からないうちに、ヴォーレーン・イストリーは死んだ。…否、殺された。
 そして今なら、ヴォーレーン・イストリーがシャロンを生み出した理由も説明がつく。
 『治癒の天使ラーズエンジェル)』には、自己治癒能力の促進のほかに、『悪性ウイルスなどの発病を抑制する働き』も併せ持つ。
 だが、完全に発病してしまえば、防げない――――。
 そして、完全に発病してからでも間に合う能力を作る前に、ヴォーレーン・イストリーは殺された。
 つまり、ヴォーレーン・イストリーがシャロンを生み出した本当の理由は…。

















「シャロン!!これが全ての真実よ!!」
 全てを語り終え、荒い息でノーテュエルは叫ぶ。やはり、攻撃回避と説明の両方は、下手な戦闘より大変な作業だった。
 さらに足元を救うかのような一撃。だが、ノーテュエルは跳躍して回避に成功する。
「私は…」全てを悟った顔で、シャロンは言った。
 その声は、細く、弱々しかった。
「ゼイネストのブレーカーだったのね。そして、ノーテュエルは最初からそのことを知っていたのね」
 ノーテュエルは、ただ小さく頷いた。
 シャロンの瞳から、一筋の涙。彼女が受けたショックは、かなり大きかった。
 今度は上段から剣。これも回避。
 先日のシティ・モスクワでの戦いで、『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』状態のノーテュエルと、素面状態のゼイネストが対峙したとき、ゼイネストは確かにこういった。
『お前と戦うのって、これで何度目だろうな』
 今考えるとあれはノーテュエルの『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』のことだけではなく、ゼイネストの『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』のことも含まれていたのだろう。
 今の世の中でゼイネストとまともに渡り合える相手が早々いるはずはない。シャロンが知っている中でゼイネストに敵うものがいるとすれば、ノーテュエルくらいしかいないだろう。そして二人は影で手合わせすることによって、ゼイネストは『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』を、ノーテュエルは『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』により引き起こされる殺戮衝動をおさえこんでいたのだ。

















 騎士剣『天王百七十二式』を振り回しつつ、ゼイネストが叫んだ。
 その顔は、シャロンが今まで見たことが無いような、悲壮感だだよう顔。
「俺の中の『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』は、もう止められない!!シャロンの『治癒の天使ラーズエンジェル)』をもってしても、もう歯止めが利かないんだ!このままでは俺はお前達を殺してしまう!!!…だから頼む!!!!……俺を殺してくれ!!この止められない何かを抑えられぬ俺の魂、終わりにしてくれ!!」
「!!」
「…」
 シャロンはその場にがっくりとうなだれ、ノーテュエルは下唇をかんだ。
 だが、シャロンと違い、ノーテュエルの復帰は早かった。
「いいわ」ぞっとするほど表情のない顔で、ノーテュエルが立ち上がった。
「ゼイネスト、全てを終わりにしてあげる」
「だめえ!!!」
 涙目のシャロンが、両手を大の字に広げノーテュエルの前に立ちふさがる。
「シャロン、そこをどいて!!」
「いやぁ!!」
「いいから退いて!!早くしないと!」
「絶対に退かない!!」
「だけど!!」
「私の前で、ゼイネストは殺させない!!!」
「それは分かってる!!分かってるけど今は状況が状きょ…」
 それを言った刹那、


















(『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』、本体の自己制御権を完全に剥奪。以下、『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』が全ての支持をとります)


















 ゼイネストの脳内で告げられる、死の宣告。
「ぐっ…が…あああああっ!!!」
 突如上がる、まるで野獣のような咆哮。
「!!!!」
 シャロンとノーテュエルが、同時にゼイネストの方を振り向く。
 ゼイネストの瞳が、金色に変色していた。
 そして今、ゼイネスト・サーバの頭の中には
 殺戮衝動のみが、在中していた。



















「逃げなさい!シャロン!!」
 前振りなしで神速で放たれたゼイネストの騎士剣『天王百七十二式』による一撃をかろうじて真剣白羽取りしたノーテュエルは、光速度の五十パーセントの速度で右足を振り上げ、ゼイネストの顎を穿つ。
「ぐっ!!」
 顎への一撃は予想以上に効いたらしく、ゼイネストが一瞬よろける。その隙を逃さずにノーテュエルが加速。その間にも、ノーテュエルは自分のI−ブレインの正常起動を確認する。
 普段の戦闘中であれば、ゼイネストが常に展開するはずの『魔法士拘束デバイス自己発生型ウリエル』が来ない。
殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』中は他のI−ブレイン能力を起動することが出来ない。それは、この二年間でよく分かっている。
 『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』は、I−ブレイン内の他の能力を起動できない代わりに、一度に様々な恩恵を使用者に与える。『身体能力制御』『痛覚遮断』はもちろんのこと、騎士剣『天王百七十二式』まで同時に展開できる。が、やはり『無限大の脳内容量を持つ魔法士型インフィニティタイプ』といえども、『魔法士拘束デバイス自己発生型ウリエル』まで並列処理するのは、脳に相当な負担が掛かるのだろう。今はそれが救いなのだが。
 しかし、それでも辛いことに変わりは無い。『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』による速度上昇率はゼイネストの既存のI−ブレイン能力による速度よりも速くなっている。その速度はおそらく…通常の七十二倍。
 ゼイネストの騎士剣『天王百七十二式』が閃く。
 切り下ろし、横薙ぎ、切り上げ、突き…ありとあらゆる剣術スキルとテクニックを披露し、ゼイネストはノーテュエルに斬りかかってくる。部屋の隅、ノーテュエルの向こうで震えているシャロンに向かっていかないのは、まずは目の前の倒すべき存在であるノーテュエルを優先しているせいだろう。
 そして今。ゼイネストは本気で、ノーテュエルを殺しにかかってきている。
 …まあ、負ける気は一パーセントも無いからね。
 心の中で苦笑する。そう、何も今始まったことでもない。ゼイネストとの戦い…いや、むしろ『殺し合い』なら『いつものこと』。生まれたときから、ゼイネストの、そして、まだ『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター)が消えていなかった頃のノーテュエルの殺戮衝動を抑えるために、シャロンのいないところで、お互いが本気で戦っていた。
 切り傷、擦り傷は言うに及ばす、もっと大きな、かつ致命傷に近い攻撃を叩き込んだことも、叩き込まれたこともあった。楽な戦いなんて無かった。それでも、お互い命を落とさずに済んだ。
 そして、ノーテュエルには強くなる必要があった。ゼイネストを抑えるため、シャロンを守るため。ゼイネストは『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』発動時は、正気の頃の経験など生かさずに、ただただ殺戮衝動のまま行動するため、経験を積めば積むほど、素の状態のノーテュエル対『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』発動時のゼイネストと比べれば、ノーテュエルだけが強くなっていっていることになる。
 生誕してから三年、『賢人会議』に生まれた時から、ノーテュエルは数え切れないほどの魔法士と戦ってきた。
 騎士や人形使いはいうに及ばず、もっと特異な、信じられない能力を持つ連中も大勢いた。ノーテュエルの元のポテンシャルを生かしても、殆どの戦いは苦しかった。
 灼熱の炎で相手を攻撃する『炎舞大炎上ミカエル)』、周囲のノイズメーカーを破壊する『ノイズメイカー殺しラグエル』により、自分のフィールドを作って戦う―――。それが、ノーテュエルのバトルスタイル。
 だが、周囲にノイズメーカーと同じ状態を振りまく能力も、ゼイネストのそれに相反する打消し能力により、お互いの能力は意味を成さなかった。よって、お互いに残された選択肢は、正真正銘の実力勝負のみ。
 そう、今も昔も、それは変わらない―――。
 「…そうね。だからあんたは変わらないのよ!!」
 懐より取り出した、論理構造の書かれたナイフを両手に、ノーテュエルはゼイネストの横薙ぎを打ち払う。
 「ちぃ!!」
 跳躍し、距離をとるゼイネスト。横薙ぎの一撃を防がれたことにより、様子見をするモードに入ったらしく、すぐには仕掛けてこない。
 だが、ゼイネストがその場にとどまっていたのは、現実時間にしておよそ三秒ほど。
 先に動いたのはゼイネスト。騎士剣『天王百七十二式』を横に構え、ノーテュエルの心臓目掛け突きを放つ。
 「っ!!」
 ノーテュエルはナイフの峰でその一撃を回避。
 その間にも、ゼイネストはさらに行動を開始。獲物の数は二対一だが、リーチの差ではゼイネストの方が上。すかさず第二撃を繰り出すが、ノーテュエルはさらに回避する。
 いつ終るとも知れぬ、果て無き戦い。
 終るためのパターンは三つ。
 ノーテュエルが負けるか、
 ゼイネストが負けるか、
 そして、両者とも負けるか―――――。




















 「やめて…ノーテュエル…止まって…ゼイネスト」
 判断一つ間違うだけで死にいざなう戦場の中、
 シャロンだけが、部屋の隅で嗚咽を漏らしていた。
 どうして。
 どうして二人が、戦わなければいけないのか。
 そして、何も出来ない私が、一番歯がゆい。
 何も無い私が、一番悔しい。
 だた、見るだけしか出来ないのだから。

 だから、祈るしかない。
 二人が、生きていてくれることを。
 祈りは天に届かず、希望は楽園に弾かれて、願いは空しく打ち壊されるものだとしても。




















 ノーテュエルは気づいていた。
 『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』時には、ゼイネストは己の力のみで目の前の相手を倒すことにのみ専念する。そこに、かつてノーテュエルが使えた『暴走』との決定的な違いがある。
 それは、防御の事を考えているか否か。である。
 『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』中、ノーテュエルは『絶対防御障壁ヴァリアントガード)』…とどのつまり『馬鹿でかい質量の情報防御能力』により、絶対防御障壁を作り上げた。
 絶対防御障壁を作り上げた理由はただ一つ。邪魔をされないように、自らの行為を阻害する要因を打ち消すために。
 だが、今のゼイネストにはそれが無い。『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』時に文字通り『目の前の相手を倒す』ことにのみ集中するゼイネストは、守りのことなど一切考えない。いくら傷を負おうが、肉体が行動可能である限りは、たとえ腕がもげても執念深く相手を追う。
 それはずなわち、単純な白兵戦には強いが、知略には弱いということ。
「ふっ!!」
 適当な壁に対し、右フックを一発入れる。それにより壁が崩れ、壁の向こうの土砂が崩れ砂埃が巻き起こり、後には壁だったもの…残骸が存在する。
 ここは地下。なら、壁を隔てた向こう側には、土―――土砂があるのは必然。
「そりゃ!」
「てい!」
「はあぁっ!!」
 続けざまに掛け声。一撃ごとに壁と土砂が崩れ去り、残骸は増え、砂埃はさらに増加する。
「そんな壁など!!」
 容赦なく、ゼイネストは壁と土砂の残骸を破壊。
 崩壊と同時に、さらに砂煙を出す残骸と土砂。そのせいで、ゼイネストは一時的に視界の悪さのせいでノーテュエルの位置を見失う。
 だが、それがノーテュエルの狙い。
 魔法士同士の戦いでは、一瞬の隙が命取りになる。
 そして今のゼイネストには、目の前の物を壊すことしか頭に無い。
 立ち込める煙。ふさがる視界。
 いくら『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』とはいえども、悪い視界を照らすライトを目から出すなどということは出来るはずがない。
「!!」  直感により、悪すぎる視界の中で気配を察知するゼイネスト。
 視界の悪さの中、ゼイネストの背後から襲い掛かる、必殺の一撃。
 刃渡り三十センチのナイフを、両手に合計八本装備したノーテュエルが特攻してくる。
「もう…終わりにしましょう…決着をつけるわよ!!!ゼイネスト!!!!!!!」
「…やってくれたな!ノォォォォテュェェェェェル!!」
 ノーテュエルの叫び。
 ゼイネストの咆哮。
 それが、決着の合図。
 両者が、両者のもてる最大の一撃を放つ。


















 ノーテュエルは刃渡り三十センチのナイフを、両手に合計八本装備。さらに、『炎舞大炎上ミカエル)』を並列処理し、八本のナイフ全てに炎を纏わせて、両手をクロスさせて相手を切り裂く最終奥義・『煉獄の十字架クロス・オブ・ヴァーミリオン)』。一つのナイフにでも切り裂かれれば、灼熱の暑さとナイフの切りつけダメージが両方入るという、まさしく煉獄の名に相応しい、ノーテュエルの最終奥義。
 ゼイネストは騎士剣『天王百七十二式』による最終奥義・『魔方陣斬りマテリアルオンクルセイド)』を発動する。皮肉にも『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』中のみ使える奥義。剣撃により最初に丸を描いた後、五亡星を描くかのように剣を振り回し相手をずたずたに切り裂く。物理法則をかなり無視した動きであるにもかかわらず、全ての工程が終るまで一秒掛からない、文字通り、ゼイネストの最終奥義。
 二人の最終奥義がぶつかりあい――――。


















 ゼイネストは八本のナイフの内六本を回避できたが、残りの二本を回避しきれなかった。
 ノーテュエルは初段の丸型に斬りつける攻撃を喰らったが、五亡星部分はコンマ一ミリの差で回避した。
 シャロンは見た。
 そして、鮮血が、二人の体の同じ箇所から、同時に散った。
 心臓と、脳から。



















―――【  悲 し み の 果 て に  】―――
〜THE NORTYUEL&ZEINESUT&SHARON〜




















 全てが、終った。
 ノーテュエルとゼイネストの額と胸には、それぞれ紅い筋が一つ。
 I−ブレインと心臓の貫通。人間にとっても、そして魔法士にとっても致命的な一撃。
「…ありがとうな、ノーテュエル。良かった…シャロンだけでも殺さずにすんでさ…」
「…何言ってんのよ。…たく、ついてないわ。最後の最後で、あんたの間抜けな一撃喰らっちゃったんだから」
 死が目前に迫っているにもかかわらず、二人の魔法士はうれしそうに語り合う。
「何で…なんで止まらないの!!なんで…傷口がふさがらないの……」
 天使の翼を精一杯に広げ、『治癒の天使ラーズエンジェル)』で二人の脳の穴を埋めようとするシャロン。だが、何故か傷は一向にふさがる気配はない。まるで、傷自身が修復を拒んでいるかのように。
 いや、この場合、二人の体の組織が壊れていくほうが早いため、『治癒の天使ラーズエンジェル)』による回復が間に合っていないというのが正しいのだろう。
 そしてその間にも、二人は刻一刻と、死に近づいていっている。
「無理だ。『治癒の天使ラーズエンジェル)』は生きている者にしか効果が無い…確かに心臓くらいなら治せるだろうが、I−ブレインはそうはいかない。I−ブレインはれっきとした『機械』なんだから…I−ブレインをやられた以上、I−ブレインを使っての心臓の修復は出来ない。そしてこの出血だ…治癒能力もすさまじく下がってる…もう手遅れだ…」
「もういいの、私達は殺しすぎたわ…。これはきっと、その報いなのよ」
「そんなことない!!だって私達、戦うために生まれてきたんだから、相手を倒すのは、当然のことだから…だから、そんな、そんなことで…」
 ゼイネストの左手が、シャロンのやわらかく白い頬に触れる。
「…お前に人殺しの能力が備わってなくて、本当に…良かった…。シャロン、前線はちっともいいことなんか無かったぜ…一歩間違えればその場に即席の死体が一丁上がる…即座にジ・エンドだ…ほんと、心臓に悪かったぜ」
「何で今…そんなことが言えるのよぉ……」
 自分が死ぬって時に、この人は何を言い出すのだろうか。
 もっと他に言うべきことがあるはずなのに。
 あの時の告白の返事、まだ聞いていないのに。
「…よく聞けシャロン…最後に言っておきたいことがある・・・・俺の脳内に『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』は、本当なら入っていないはずだったんだ…」
「そんなの分かってる!それは、お父さんの…!!!」
「違うんだ!!」
 消えかかった命のともし火を奮い立たせ、ゼイネストは叫ぶ。
「俺にあのプログラムを付け足したのは、他ならぬ『賢人会議Seer's Guild)』だったんだ!!!そして、父さんはその罪を着せられて殺されたんだ!!だから俺達は『賢人会議Seer's Guild)』を脱走した。そして…」
「分かったからしゃべらないで!!!」
普段のシャロンからは想像もつかない声で、彼女は叫んだ。その様子に、一瞬ではあるが、ゼイネストとノーテュエルはびくっとしてしまった。
「『賢人会議』を倒すための魔法士を探した…そうなんでしょ」
「…ビンゴ」
 ノーテュエルが親指を立て、ぐっ、とガッツポーズする。こんな状況下においてもそういった『彼女らしさ』を忘れない。ノーテュエルとは、そういう人物だ。
「ああ、そうそう…死ぬ前に話しておくわ…実はね、ゼイネストが生まれる前に、アースバルドっていう、ゼイネストみたいに紅い髪のやつがいたの」
「…何!?」
 ゼイネストが怪訝な顔をする。
 こんな時に何を言い出すのだこいつは、とでも言わんばかりに。
「そいつ…ううん、彼は、ゼイネストにすっごく似てた。そして、私はアースバルドが好きだった…だけど、アースバルドは私を残して死んだ…で、父さんはアースバルドの変わりにゼイネスト、貴方を作ったのよ。
 …だけど、いくら外面が似ていても、やっぱりアースバルドはアースバルド、ゼイネストはゼイネストだわ…だからシャロン、安心しなさい。私は、ゼイネストの事なんか好きでもなんでもない…私が好きな人は…もうこの世にいないんだから…」
 二人とも、何も言えなかった。
 何も言えないまま、シャロンは何気なくディスプレイに眼をやって、
 心臓が止まるかと思うほどに驚いた。
「ゼイネスト!!ノーテュエル!!あれ!!!」
 だから、思わず叫んでいた。
 だから、二人はディスプレイを見た。
 その刹那、時が止まったかのように見えた。
 そこにあったのは、『賢人会議Seer's Guild)』の真実。おそらく、かなり前に入れたパスワードを入力してからのデータ読み出しに時間がかかったのだろう。
「嘘…何これ」
「馬鹿な…」
「こんなの…」
 当然の事ながら、三人とも驚きを隠せない。
 だが、ここにあることが事実なら、全てに納得がいく。
「あははははっ…傑作ね…まさかこんな簡単な事だったなんて…。
 どうして…どうして気がつかなかったんだろう…馬鹿みたい…」
 ノーテュエルは、笑っていた。
 もうじき死が訪れる人間とは思えぬ笑顔で笑っていた。
 それのせいで、シャロンとゼイネストも笑う。
 笑いたくなくても、無理矢理笑顔を作る。
 ノーテュエルの気遣いを無駄にしないためにも。
 やがて笑い終えたノーテュエルは、ふ、と、何かを悟った顔をして、
「…これでもう話せることなんて、この世に残した謎なんて無いわ。…ふふ、もうすぐ死神が来るわね…ゼイネスト、私は先に行くわ…だから、片付けるべき事は片付けておいてね…」
「だめっ!!諦めないで!!」
「諦めるんじゃない!!!」
「…あななたちとの旅、すっごく楽しかった…こんな、人殺ししか脳の無い私が…普通の女の子として過ごせたんだもの…シャロンは本当の妹みたいですっごく可愛かったし…ゼイネストとの喧嘩もまるで兄弟喧嘩みたいで…楽しかった」
「そんなこと…そんなこと言わないで…」
「…ごめん、シャロン…私、もう無理みたい。…冥府で待ってるわよ。ゼイネスト」
「…くっそおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 天を仰ぎ、『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』に勝てなかった自分を責めるかのように咆哮をあげるゼイネスト。
「…私だって、『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』に勝ててなかったもん。お互い様でしょ…あはは…は…」
 ノーテュエルは、綺麗だった。
 迫り来る死の恐怖を押し隠し、毅然と顔を上げたその姿は、
 本当に、綺麗だった。
「…………!!!」
 何かいいたいのに、全く声にならない。
 口から出るのは嗚咽のみ。
 そんなシャロンを見て、最後の力を振り絞り、ノーテュエルは震える手を動かした。
 その手でゆっくりとシャロンの頬を撫で、
「ほらシャロン…そんなに泣かないの…あなたは笑ってる方が似合うから…いい…人の死ってのは、悲しむためだけにあるものじゃないの…その悲しみを乗り越えて次のステップに進むための試練でもあるんだって私は…思う…だって、親しい人の死には…いつか必ず直面しなくちゃならないから…あなたには、それが早い段階で来ただけだって思わなくちゃ…いけないんだから……だから」
 泣かないで、という形に唇が動いて、
 ノーテュエルの瞳から一筋の涙が零れて、
 それが最後だった。
 頬を撫でる手が、滑り落ちた。
「………ノーテュエル……?」
 答えは、返ってこない。
 返ってくるはずが、なかった。
 ノーテュエルは死んだ。
 安らかな笑顔で。
 そして今から、後を追うかのようにゼイネストも死んでしまう。先ほどから全力で展開している『治癒の天使ラーズエンジェル)』の力をもってしても、ゼイネストの症状は全く改善されない。
 自分が憎い。
 役立たずな自分が憎い。
 いつも守ってばかりで、そのくせ仲間の危機には助けられない。
 こんな役立たずな私ならば、いっそ…。
 ノーテュエルが握っていたナイフを握る。
 皆のところに、先に…。
 I−ブレイン目掛けて、ナイフを突き刺す。
 何のためらいも無く、筋肉を解き放つ。
 肉と骨を貫く鋭い感触があって。
 I−ブレインには、何一つ損傷が無かった。
 かわりに目の前には、血にぬれたゼイネストの手。
 シャロンの持つナイフは、ゼイネストの手を刺し貫いていた。
 驚いたシャロンは、すぐさまナイフを引き抜く。
 刹那、
「馬鹿!!」
 ぱあんっ、という音。
 頬に走る衝撃。
 その痛みから二秒後に、シャロンは自分の頬がぶたれたのを認識した。
「こんなところで終るのかよ!!勝手に終るなよ!!ノーテュエルは最後に何て言っていた!!お前にはまだやれることがあるだろう!!」
「…だって!!だって!!!私一人が残ってどうなるって言うの!?ノーテュエルもゼイネストもいない世界で、私にどうしろって言うの!!」
 目から流れ出る涙を拭いもせずに、シャロンはわめき散らす。
「お前は一人じゃない!!」
 死を目前にした人間とは思えぬ声で、最後の力を振り絞ってゼイネストは叫んだ。
「仲間ならいるじゃないか!!錬やフィアとかブリードとか!!!!『魔法士』なら、『仲間』なら一杯いる!!!俺は…ここから先には行けそうに無い!!だから…泣き虫で引っ込み思案で胸だけは一人前で、それでも大好きなお前の事を見てやれないのは、俺だって非常に残念なんだ…」
 その言葉の中にあった大切な言葉を一瞬で理解し、シャロンは聞き返した。
「ゼイネスト…今、なんて…!?」
「…ああ…あの時の返事だ…」

















「大好きだ…シャロン」


















 涙に濡れたシャロンの顔を、ゼイネストはまっすぐに見つめた。
「…だから笑ってくれ、泣かないでくれ…これが俺からの、最後のプレゼントだ」
 懐から取り出したのは、綺麗に飾ったガラスの蝶のペンダント。
「もっといい形で…渡したかったんだけどな…」
「ううん…うれしい」
 ガラスの蝶のペンダントを早速首にかけるシャロン。
「ど、どうかな…」
「似合うよ」
 その言葉と共に、ゼイネストの顔がゆっくりと近づいてくる。
 唇が、触れ合った。
 シャロンは目を閉じ、それを受け入れた。
 色々な思い出が、心の中を駆け巡っていく。
 こんな時なのに、もっと他にいい思い出がいくらでもあるはずなのに。
 心に浮かんだのは、かつてのたわいもない漫才。

















 ―――俺の墓標に名はいらぬ!!死ぬならば戦いの
…いででっ!!
 ―――こんな時に、何冗談言ってるの!!!

















 ゼイネストは唇を離し、シャロンの頭を撫でた。
 自分を抱きしめる、小さな腕。
 年相応のやわらかさを持った、その体。
 涙で濡れた、大きな瞳。
 ああ愛しいな、と思った。
 自分は幸せだな、と思った。
 こんなに愛しい娘が、自分のために泣いてくれるのだから。
「シャロン……生きて…く…」
 その手がシャロンに届く前に、全ての力を失い、万有引力の法則に従い、地面へと落ちて横たわった。
 同時に、ゼイネストの体からも、全ての力が抜けた。ゼイネストはそのまま、シャロンにもたれかかる形になる。
 その体は、もう、冷たかった――――。

















 
ゼイネストという一つの命が、








消えた証だった―――。















 時が、止まった。
 シャロンの心も止まった。
 頭の中が空っぽで、何一つまともなことが考えられなかった。視界に移る全てが、ひどく曖昧に見える。
 何もかもが、夢の中の出来事みたいな感覚。

















「う…」
 たっぷり三十秒の時間をかけて、時が再び動き出す。
 見る見るうちに、ゆがむ視界。こぼれる涙。
「どうして…どうしてなのっ!!どうして私達、こんな…こんな目にあわなくちゃいけないの……!!私達だって一生懸命生きてるのに!!なんで…なんでなのぉっ!!!」
 もう、限界だった。
 シャロンは泣き出した。大切な人の遺体に顔をうずくませ、肩を震わせ、声を張り上げてシャロンは泣いた。体中の水分全てを流しつくしてしまうそうな勢いで、涙は後から後からとめどなく溢れてきた。息がつまって呼吸困難に陥りそうになりながらも、ひたすら泣き続けた。
 いつまでも、いつまでも。




















―――【  天 使 は 羽 ば た く  】―――
〜THE SHARON〜





















 シャロンは動かない。
 二人の亡骸を見つめて動かない。
 その視界の隅に、動くものを発見した。
 先ほどの戦いの影響か、隅っこに置いてあった本棚の上からひらひらと舞う、一枚の紙。
 シャロンは呆けた様子で何気なくその紙をとり、それに書いてあった内容に驚愕した。

















『その天才的な知識を生かして、死者すら呼び戻す秘術を研究している世界最高峰の科学者、ラジエルト・オーヴェナ…捕獲失敗………二人の……により…』















 最後の方は破けていて、何が書いてあるのかまでは、完全には分からなかった。
 研究所の中の電灯が、シャロンと、シャロンの持つ一切れの紙切れと、シャロンのかけがえの無い大切な二人をまっすぐに照らした。










 電灯に照らされて、シャロンは身じろぎ一つしない。
 絶望の中に、希望を見出せたから。
 この紙に書いていることが本当なら、二人を連れ戻すことも可能かもしれない。
 嘘かもしれない。
 だけど信じたい。
 信じなきゃ、私はきっと、壊れちゃうから。
 悲しみに負けて、狂っちゃうかもしれないから。私はそんなに強くないから。
 だから待ってて。
 私が、助けてあげるから。
 私達は、生まれたときから三人で、いつも一緒だったから。
 また三人で、一緒に過ごしたいから。
 今度は、『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』も、『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』もない体を持たせてあげるから。
 死への冒涜だってことは、百も承知している。
 だけどそれ以上に、ゼイネストを愛しているから。ノーテュエルが好きだから。











 涙が止まらない。
 それでも、何度も何度も、自分に言い聞かせた。











 ああ。
 私はここにいるよ。ねえ、神様。
 人生の波紋に乗り、揺れながら…。
 神よ。私は、あなたを許さない。
 こんな酷な運命を私達に押し付けてくれた、彼方を。











 綺麗に飾った、ゼイネストからのプレゼント。
 ガラスの蝶のペンダント。
 何も無い私。
 私という翼が羽ばたけたのは、
 いつもいつも
 あなたたちがいてくれたから。











 さよなら。
 物言わぬ者たちよ。
 きっと、ずっと、そうなのでしょう。
 ゼイネスト、ノーテュエル。











 …だけど。
 私、行ってくるね。
 だけど、これは永遠の別れじゃないなの。
 きっとまた、会えるから―――――。











 少女は旅の人。
 彼女の道連れは二つ。
 あらゆる傷を治す、癒しの能力。
 そして、大切な人の形見としての、二人の髪の毛を数本ずつ。










シャロンの旅は、



シャロンの戦いは、



未だ始まったばかりだった。












―――【  そ し て 動 き 出 す 者 達 】―――
〜THE SHUBEEL&EKUITES〜


















「なあ」
 橙色の長髪男が、水色ポニーテールの少女に話しかける。
「何?」
 水色ポニーテールの少女は、タオルで汗を拭きながら振り替える。先ほど行ったとある運動のせいで、水色ポニーテールの少女…シュベールは汗だくだった。
「俺はそろそろ行動を起こす」
「成程。頃合だしね」
 それだけで成り立つ会話。
 お互いの事を良く知っているからこそ成り立つ会話。
「ワイスは舞台から脱落した…まあ、遅かれ早かれあたしが手を下そうと思っていたけどね」
「正論だな…さて、俺もこれから、あいつを殺しに行くか」
「がんばってらっしゃいな、エクイテス
「分かった…ああ、そろそろだったかな」
「ん?ああ、そろそろゼイネストが暴走する時期だわね」
「もう死んでるかもな」
「どうだか…それよりも、イントルーダーの方が気になるわね…あいつはクラウ・ソラスに任せておくけど…まあ、あの人の手に負える相手じゃないかもしれないけどね」
「ヒナはどうだ?」
「分かりきった質問ね…いい声で泣いてくれたに決まってるじゃない。もう許してって…次はうまくやるって、何度も泣き叫んでた…まあ、手加減はしなかったけど」
「サド女め…それに、その鞭が血を欲しているのが見ていて分かる」
「あら、いいほめ言葉だわ」
「まあいい…んじゃ、俺は今度こそ本当に行くぜ…老獪とは厄介な事だな」
「その次には?」
「決まっている」













「サクラを殺しに行く」

















 そう言って、エクイテスはその姿を闇の中に消した。

















―――【  逃 れ ら れ な い 運 命 】―――
〜THE SHUBEEL&HINA〜















「…はぁ…はぁ…あぐっ!!!」
 ずきん、と、背中が激しく痛んだ。
 やっと地獄から開放されて、息が荒くなる。
 ずきり、と、再び背中が激しく痛んだ。
「ぎっ…!!」
 両手で肩を抱えて、歯を食いしばってソレに耐える。
 彼女―――ヒナ・シュテルンのその背中には、痛々しい傷跡が大小様々な形で残っている。もちろん、皮膚はとっくに破けて血が流れている。
 ここは確か、捕虜拷問室。
 何故こんなところに、わたしはいるのか。
 その理由なんて、簡単。
 わたしは、全て殺せなかった。
 シティ・ニュデリー付近の人間達の全滅。それが、わたしの任務だった。
 だけど、全滅なんて出来なかった。
 襲い掛かってくるものは全て一撃の元に血の海に沈めた。
 だけど、襲い掛かってこない人間を殺すことが、どうして出来ようか。
 結果、戦意を喪失した人達は生きて帰れた。
 その代わり、わたしには罰が待っていた。
 具体的に言うと、鞭で打たれた。
 許してくださいと泣き叫んでも、
 今度は頑張るって言っても、
 お願いだからもうやめて、と言っても、何も変わらなかった。
 罰という名の、拷問。
 シュベールの持つ鞭で。シュベールがマイ・ウェポンと口語する武器で。
 わたしを痛めつけている最中のシュベールは、まさに気分を高揚させている人間という比喩がぴったりだと思う。強いていうならサディストという表現がぴったりだとも思う。
 …具体的にはどのような仕打ちを受けたかの詳細は、思い出すのも嫌なので割合する。(十五禁に引っかかりそうな内容だし)






















 誰か、教えて。
 わたしはいつになったら、この地獄から解放されるの…?
 そして、あの人にいつ再会できるの?
 黒髪の、見ず知らずのわたしに対しても優しかった少年に。
 座りこんだまま、ヒナは顔を上げて、天に向かって泣き出した。
 瞳に溜まった涙が、頬を伝って流れ落ちた。
 そしてヒナは、あの優しい少年の名前を呟いていた。














「――――――――――ろん…」















―――【  続 く 】―――


















―――――【 お ま け 】―――――



















※1 リバーサル
格闘ゲームで、起き上がりと同時に出始めに無敵時間のある必殺技を出すこと。ほとんどの格闘ゲームでは、起き上がった瞬間は無敵なため、こうすると無敵→無敵という時間が続くので、相手からの攻撃(起き攻め)に対し切り返すのに使われる。
特に、攻撃側が主導権を握れる『GGXX』などでは、守勢に回ったときにこのテクニックは必須となる。が、うまい相手には先読みされてガードされることも…。
リバサと略されることもある。

主な使い方
・『 』投げ。
・『 』ヴォルカニックヴァイパー。
・カイがスタンエッジ・チャージアタックで起き攻め。→ソル側が『 』グランドヴァイパー。
 →カイ側がスタンエッジ・チャージアタックをフォースロマンキャンセルしたため、『 』グランドヴァイパーがガードされた!!!
 →カイ側が一撃必殺準備→ソルが無防備に着地→ライジングフォースでソル死亡。
(グランドヴァイパーガード後はソル側がロマンキャンセルしない限り、カイ・ジャム・ジャスティスなどの一撃が確定する)



















―――――【 キ ャ ラ ト ー ク 短 縮 版 】―――――

エクイテス
「ついに俺が登場したな…これで、メインキャストは全員なんだろ」
シュベール
「そうなるわね…ちなみに、ワイスが死んでも悲しむやつはあまりいないみたいね」
エクイテス
「まあ、所詮ヤツはレシュレイの引き立て役でしかなかったからな」
シュベール
「で、次に出てくるのは…確かレシュレイの過去話のはずね」
エクイテス
「ああ、セリシアがどうしてあそこまでレシュレイを慕うのか、それが分かる話だってことだ…で、もう一つが、クラウ・ソラスの出生の秘密…だったかな」
シュベール
「…あーあ、何だか眠くなってきちゃった…今回はここで区切りましょう。どうせ言う事も無いんだし」
エクイテス
「同感…つーわけで、後はいつもどおり、作者に区切ってもらおうぜ」














<作者様コメント>
志半ばで倒れた二つの命。
一人ぼっちの少女は歩み出す。
親しい人の死を背負い、この醜くも美しい世界へと。


そして次からは、いよいよ物語りも佳境に向かっていきます。
次々とめぐり合う仲間達。
そして『賢人会議Seer's Guild)』の正体は一体!?

次回、『DESTINY TIME RIMIX〜離反〜』乞うご期待。

<作者様サイト>
なし

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