FINAL JUDGMENT
〜『最終話』―――今日の向こうの明日へと、明日の向こうの未来へと〜
















「ふぅ、いくつかの不安要素はあったけれど、あらかた、僕の思い通りになったかな」

世界のどこかで、天樹真昼は、右腕で額を拭うようなしぐさをとり、一息ついた。

そう、真昼にとっては、この流れは全て計算どおり。

セラがシティ・ニューデリーのマザーコア賛成派に捕らえられるのも、その後、セラの身が無事な状態で『賢人会議』に戻ってくるのも、だ。

シティは、森羅を使用した時のディーの怖さを知っている。だから、シティ側の選択肢としては、ディーを真っ向勝負で撃破するのではなく、なんとかしてディーを懐柔しようと考えるはずだ。そうなれば、人質作戦という行動に出るのが普通である。

だから真昼は、敢えてセラにシティ・ニューデリーの会議前に単独行動を取らせた。それは、真昼には『こうなること』が分かっていたからである。

そして、物事は、全て、真昼の計算どおりに動いてくれた。その証拠に、セラは無事に帰ってきた。

加えて、サクラに由里を人質にとらせたのも、真昼の作戦のうちだ。

シティ側は、半年前の『賢人会議』の放送に由里を割り込ませたように、今回も、状況が不利になったら由里の姿を映し出す作戦で来ただろう。だが、その由里がこちらがわの人質に取られていれば、それが出来るわけもない。

最終的には、由里の出番は無かったようだが、これはこれでいい流れ。

一見すると無茶苦茶としかいいようのない作戦だが、それでも成功させるのが、この天樹真昼という男の凄いところである。

ここまでは、まずまずの出来。

だが、まだまだ安心は出来ない。『賢人会議』は、いまだその一歩を踏み出したばかりであり、足元すら固まっていない。これからやるべき事はまだまだたくさんある。

「さぁ、これからも、がんばらなくちゃね」

真昼は両腕を一回転させて、肩をリラックスさせる。

『賢人会議』の戦いは、まだまだ、始まったばかりなのだから―――。













【 + + + + + + + + + 】













「―――結局、この戦いでは、決着はつけれませんでしたか…」

雲が晴れた、青いツクリモノの空を見上げて、ハーディンは1人ごちる。

右肩に巻かれた包帯が、僅かに赤くにじんでいる。サクラとの戦いの中で、1人の人間の少女を助ける為に負った傷だ。

だが、後悔はしていない。ハーディンにとって、弱者を助けることは当然のこと。たとえあの場で、少女を助けずに、サクラに止めを刺していたら、今頃、ハーディンは、とても大きな後悔をしていた筈だ。

目の前に助けられる命があれば助ける。それが、魔法士をマザーコアとして命を奪うことに加担する立場の魔法士として、ハーディンの流儀。

「ですが『賢人会議』のいう事に、僅かながらですが、理があることが、今回の戦いで分かりました。
 『賢人会議』の意見、およびやり口は傲慢で卑劣で身勝手ですが、それでも、彼らのやり方には、確かな信念を感じました。
 ……まぁ『賢人会議』の事を、認めたわけではありませんがね。それに、サクラはこっちの手にあります。いざとなった時の最後の切り札として使えるででしょう…あまり好まれる手段ではありませんが」

黒髪ツインテールの少女の顔を思い出し、額に手を当て、ハーディンは小さく息を吐く。

―――ふと、とある考えが脳裏によぎる。

「しかし、もしも『賢人会議』が、シティを滅ぼさずにマザーコアを撤廃する術を取ったとしたら……僕には、彼らと戦う理由がなくなりますね……」

……そうなるのもいいかもしれない、と、ハーディンは思う。

あの黒髪ツインテールの少女とて、好んで人を殺めていたわけではないことを、あの戦いでハーディンは理解したからだ。

もっとも、だからといって『賢人会議』が、シティの何千万人もの人々を犠牲に、マザーコアとなる人々を救うような道を選んでいる限り、ハーディンと『賢人会議』は、永遠に敵対する立場にあるのだが。

「いずれにせよ、今はこの傷を癒すのが先決ですか…」

「おーい、ハーディン」

背後より、声。ハーディンはこの声には、十分なほど聞き覚えがあった。

振り向いた先には、てっぺんがぎざぎざに尖った帽子を被った青年の姿。

「なんか沈んでんな。どうした?」

「―――フェイト。ちょっと、考えごとをしておりまして」

少し沈んだ表情で、ハーディンはぽつりと呟いた。

「……ん?」

フェイトが怪訝な表情でハーディンに問う。

「サクラに関してですが、貴方が言うような絶対的な『悪』だという事ではない、という事ですよ」

「どういうことだ?」

なおも怪訝な表情を崩さないフェイト。

「こう言っては何なのですが――サクラとの戦いの中、僕はサクラの心のうちを聞きました……どうやらサクラは、守りたかった1人の子がいて、その子がマザーコア披検体で、研究所の誰も彼もが、その子に死ねと言っていたのが、マザーコアになれといっていたのが、どうしても納得できなかったそうですよ。その話を聞くまで、『賢人会議』がただの我侭な独裁者だと思っていましたが……少し、違ったようでした」

「ほう」と呟いたフェイトは、少しの間だけ、顎に手を当てて考えた後に、口を開いた。

「……へぇ。そいつが本当なら、ほんのちびっとだけ『賢人会議』に対する見方も変わるな……んだが、おれにとっちゃ『賢人会議』が倒すべき相手だと、倒すべき『敵』だという事に関しちゃ、全く変わりはねぇ。そして、そいつはお前に関してもそうなんだろ、ハーディン」

「…サクラのやってきた事は、確かに許されることではありません。2億の罪も力も無いシティの人間全てを抹殺してでも魔法士の自由を勝ち取らんという、より悪い方法による魔法士の開放など、僕は絶対に認める心算はありません―――ですが考えて見ましょう、彼女にそれ以外の方法などあったでしょうか?」

「同情か?哀れみか?」

「そうかもしれません」

「ま、おれもエルの仇が討てて結構胸がすかっとしたからいいんだけどな」

「そういえばエルシータさんは、大丈夫なのですか?」

「ああ、もう4ヶ月もあれば退院できるらしいぜ」

「そうですか、それはよかったですね」

ツクリモノの空の下、2人の青年は笑顔を浮かべた。













【 + + + + + + + + + 】













「終わったみたいだぜ、ミリル」

放送元が映像端子を切ったのか、何も映さなくなったディスプレイを見て、白髪の少年―――ブリードが、安堵の息をついた。

シティ・ニューデリーにて起こった一連の事件は、『賢人会議』がシティ・ニューデリーから脱出し、全て終わりを告げたようだ。

「そうみたいだね、ブリード」

隣に座る銀髪の少女がブリードに同意する。

「ねぇ、ブリード」

「ん?」

「……結局、私達を襲った犯人は、誰だったのかな?」

「さて、そいつはわかんねぇけど……その犯人は、多分、俺達を本気でやる気じゃなかったんじゃねぇかな?」

「なんで分かるの?」

「殺すつもりなら、最初から殺ってるぜ。きっと。
 多分だけどよ、俺達が『賢人会議』に行っちまったら困る立場の人だったかもしんねぇな。ま、あくまで憶測だけどよ」

「どこにそんな人がいるのかなぁ?」

「さぁてな……ま、過ぎたことは忘れようぜ。それよりも、これからの事を考えようぜ」

「そうだね」

白髪の少年と、銀髪の少女は、向かい合って微笑みあった。













【 + + + + + + + + + 】













「……ふむ、なんとか収拾はついたのか……」

沈黙したディスプレイを前に、『もう1つの賢人会議』の一室において、シティ・ニューデリーの状況を見守る事に終始していた6人の姿。

その中の1人、やけに筋肉質な男―――エクイテスの声が、部屋に響いた。

「いや、これでよかったと思うぜ。もしも俺達が出て行ったら、ますます変な事になっちまったかもしれないだろ?俺達は、様々な形ではあるけれど『力』を持っちまってる。力は力を呼ぶっていうし、力を持つ者を世界は放っておいてくれないって言葉もある。だからこそ、俺達は表舞台に出るわけにはいかねぇんだ。また新たな戦いを生んでしまうかもしれねぇからな」

黒髪の男―――ラジエルトが、後頭部で両手を組んで、椅子の背もたれに体重をかけて、軽い口調でそう告げる。

「そうね。それには同意だわ。君子危きに近寄らず、余計な事に手を突っ込まなければ、要らないものを背負うこともないから」

長髪青髪の女性、クラウが、小さく息を吐いて、椅子に腰掛けながらそう口にした。

「……何はともあれ、シティ・ニューデリーの一騒動は、これで終わりを告げるという訳か。ところで、この後クラウとイントルーダーはどうするんだ?やっぱり、まだこれから、シャロンやノーテュエルやゼイネストを探すのか?」

青い髪の少年、レシュレイが疑問を口にする。

「ええ、そのつもりよレシュレイ。あなたの目撃情報どおりに、ノーテュエルやゼイネストが生きているとしたら、きっといつか、どこかで出会えると信じてるから。人間、何事も行動を起こさないと、始まらないものよ」

「ああ、確かにその通りだ」

「私達も手伝えないですか?」

桃色の髪の少女、セリシアの声。その顔には、以前のような影はない。

「ありがとう、でも、私達だけで頑張るわ。あなたたちにも自分の生活があるのでしょう?」

「そうですか…わかりました。確かに、私達にも私達の都合がありますものね」

「さて、それじゃ――エクイテスの復活祝いとやらを、この場にいる6人で行うとするか?んで、それが終わったら、俺達は一旦帰る事にするわ。ちと家を開けすぎた。それに、エクイテスが帰ってきたなら、エクイテスの部屋も作ってやらなくちゃな」

椅子から立ち上がったラジエルトの声は、やや陽気を帯びていた。

「ああ、帰れる家があるなら帰ったほうがいいだろう。だがそのうち、お前達の家に俺達も招待してくれるとありがたいのだがな。もちろんその時は、再会したシャロン達も一緒だ」

「ああ、いつでも大歓迎だ」

ラジエルトとイントルーダーは、互いに親指を立てて、合意の意を示した。













【 + + + + + + + + + 】













「んでさ、ゼイネスト、これからどうするの?」

シティ・メルボルンの空の下、金髪の少女が、隣の赤い髪の少年に問うた。

「シャロンのところで行くに決まっている。あの放送を見る限り」

赤い髪の少年がいう『あの放送』とは、つい先日、全国に放送された、茶髪のポニーテール少女による、シティ・ニューデリーの放送の事である。その少女は、シティ・ニューデリーの中央塔の中、人質に取られた人々を助けた事を、凛とした姿で告げたのだ。

あの放送で、赤い髪の少年―――ゼイネストと、金髪の少女―――ノーテュエルは悟ったのだ。シャロンが、自分達の助けが無くても、生きていて、そして、強くなっていっているという事を。

「やっぱりそうよね。うん。早く行って、私達の元気な姿をみせてあげなくちゃ。きっとびっくりするよね、シャロン。だって、目の前で死んだ筈の私達がさ、無事な姿で現れるんだから」

「ゾンビ扱いされなければいいけどな」

「あー、ちょっと否定できないかも。一回死んだもんね。私達」

「そこは否定してくれ」

ゼイネストが肩をすくめる。

ノーテュエルは相変わらず、あははー、と笑っている。

「まぁ、そんな事はどうでもいいとしてさ…先ずは、シティ・ニューデリーに行きましょ。偽装IDは……まぁ、心配しなくてもいいわよね。だって、この偽装ID、世界の7つの全てのシティで使えるんだもの」

「その通り。こういう時だけ『もう1つの賢人会議』の科学力に感謝だな」

「そうそう」

銀色のIDカードを手に、少年と少女は微笑みあう。

「シティ・ニューデリーはこっちの方向だったな」

「まずは移動用の高速運用船に乗るのよね」

「そりゃ、ニューデリーとメルボルンは海で隔てられているからな。そうするしかないだろ」

少年と少女は、他愛もない会話を繰り広げながら、ゆっくりと歩んでいった。













【 + + + + + + + + + 】













天樹由里は、もぬけの殻に等しい状態になった、シティ・ニューデリーのマザーコア反対派の建物より、ゲイヴォルグを携えて脱出する事に成功した。

『賢人会議』の面子が既にシティ・ニューデリーの外へと脱出し、行方を眩ました今、シティ・ニューデリーのマザーコア反対派の建物の内部に、人がいるわけがなかった。だからこそ、由里は、容易く脱出できたわけである。

とりあえず外に出たものの、当然ながら、知っている人物は誰も居ない。

「由里さん!」

茶髪の少女が由里に駆け寄る。

由里にとっては後で知ったことだが、茶髪の少女―――シャロンは、怪我人の治療を一通り終えたものの、他に動けない状態でいる患者がいないかどうかを探しているさなかに、論及びヒナと再会を果たしたらしい。

シャロンは、過去に論やヒナとは面識があったとのことだ。

「あ―――」

「君は……」

「えっと、確かこの人って」

「はい、論さん、ヒナさん、この方が由里さんです。『もう1つの賢人会議』で意識を失っていた私を助けてくれたんです」

由里、黒髪の少年、エメラルドグリーンの髪の少女の、四者四様の反応。

「天樹由里……って事は、やっぱり、そういうこと、なのか?」

「で、でも、日本で天樹って苗字は結構ありふれているから……」

論の意見に対し反論するヒナ。

「ええっと、突然でもうしわけないんですけど、あなた『天樹論』は…『魔術師』って呼ばれる魔法士ですよね?」

「―――っ!」

初対面であるはずなのに、本名と、己がもつ魔法士としてのカテゴリを一発で当てられはっ、と息を呑む論。

「……何故、分かる」

誤魔化しても無駄だと一瞬で悟り、論は、目の前の少女が、どうして自分の魔法士としてのカテゴリを知っているのかを聞き返す。

「だって、私も『魔術師』だからよ―――お兄ちゃん」

黒髪の少女は、少しだけ顔を赤くして、そう告げた。

「………何?」

「……え?」

「………由里さん?」

黒髪の少女のあまりにも唐突極まりない発言に、論、ヒナ、シャロンの3人の目が点になる。気まずい空気が空間を支配した。

「……えーと、唐突すぎたかな?」

しばらく経過して、黒髪の少女もさすがに唐突過ぎた事に気がついたようだ。

「それじゃ、詳しく話していくね。私が、どうして、天樹論、あなたの事を『お兄ちゃん』って呼んだのか―――」

そして、黒髪の少女は、自分の生い立ちを話し始めた―――。

彼女が、れっきとした論の妹であること。

『魔術師』としてのカテゴリに分類される魔法士であること。

今まで、どういった人生を歩んできたかの、その全てを―――。













【 + + + + + + + + + 】













「…つまりアルテナは、天樹論と天樹由里、2人の魔法士を作ったと、そういうわけなのだな?」

「ええ、その通りです……疑わないのですか?」

「疑ったところでどうなる。それに、アルテナとて、そのような事で嘘をついても仕方がないだろう」

「確かに、その通りなのですけどね」

えへへ、と、アルテナは、ちょっと困ったような顔をした。








デスヴィンは、アルテナから、今まで聞いた事のない真実の一部を聞いた。

あまりにも唐突過ぎる話だが、どうやらアルテナは、天樹論と天樹由里、2人の魔法士をこの世に生み出した魔法士だったとのことだ。

はっきりいって、あまりにも接点が無さ過ぎて、結びつけるのに時間がかかった。だが、アルテナがこんなことで嘘をついたところで何の意味もないだろう。

これ以上はもうしばらくしてから話すと、アルテナが言っている以上、追求はしないことにした。

この後に控えているのは、きっと、今の話よりも、遥かに暗いであろう過去。

だが、今はそれを気にする必要はない。今気にするべきなのは、目の前の現実だ。

アルテナはこれから、自分が生み出した魔法士に会いに行くという。

やはり、生みの親として、会いに行くべきなのだという

過去の事ばかり気にしていては先へ進めないという結論から、アルテナは、まず、そこから一歩を踏み出すことにしたのだ。

「デスヴィンさん…不思議よね…足が震えて進まないの」

アルテナの肩が、否、アルテナの体全体が小さく震えている。

やはり、恐れという感情があるのだろう。無理もない。天樹論と天樹由里にとって見知らぬ人間であるアルテナが、いきなり目の前に現れて『あたしはあなた達を生みだした親よ』と告げなくてはならないのだ。一度で信じてもらえるとは到底思えない。寧ろそれどころか、この人は何を言っているのだと思われたり、頭がどこかおかしい人なのではないのかと思われる可能性のほうが遥かに高いはずだ。

しかしそれでも、このまま事実を告げないままなのは嫌だという気持ちがアルテナにあるのなら、例えどう思われようが言うべきなのだろう。

「だが、それでも行くしかあるまい。あの子達は、アルテナが作った魔法士なのだろう。そしてアルテナは、あの子達の前に姿を現して告げたいのだろう。アルテナが、あの子達を作った魔法士なのだと」

「……」

アルテナは無言のまま、頷く。

「心配するな、俺も一緒についていく」

「……はい、そうでしたね」

デスヴィンのその言葉が助けとなったのか、アルテナの震えが、少しだけ収まる。

「早くしなくては、あの子達はどこかへ行ってしまうぞ」

「―――はい」

アルテナが一歩を踏み出す。

目標は、少し遠くに居る、黒髪の少年と、黒髪の少女と、エメラルドグリーンの髪の少女と、茶髪のポニーテールの髪の少女の4人組み。

因みに、デスヴィンは、その4人の名前を全て知っている。言うまでも無く、この一連の騒動の中で知り合ったからだ。

そのまま歩みを進め、アルテナは、4人へと、一歩一歩、着実に歩みを進めて近づいていく。

その後ろを、デスヴィンはゆっくりとついていく。

どれほど時間が経っただろうか。脳内時計は「1分」を告げていたが、デスヴィンにとっては、その時間は、何分にも何十分にも感じられた。当人ではないデスヴィンでさえこう感じたのだ。当人であるアルテナにとっては、この1分は、非常に長い時間に感じただろう。

そして、アルテナは、ついに4人のもとへとたどり着く。

「……あなたは?デスヴィンが近くに居るという事は、デスヴィンの知り合いか?」

突然近づいてきたアルテナに対して、最初に反応したのは論だった。

「初めまして。天樹論、天樹由里、ヒナ・シュテルン、シャロン・ベルセリウス。あたしはアルテナ」

刹那、論、由里、ヒナ、シャロンと呼ばれた4人の顔が驚きに染まる。

デスヴィンとしても、どうしてアルテナが、論や由里だけではなく、ヒナやシャロンの名前まで知っているのかは分からないが、これからの話でアルテナが訳を話してくれると信じているから、この場では追求しなかった。

「……何故、オレ達の名前を知っている?」

「ええ!?私の名前を知ってるの!?でも私、あなたに会うのは初めてなのに!?」

「わたしの事も知ってる!?どうして!?」

「いきなり来て人の名前を当てるなんて、一体何者なの!?」

四者四様の驚きの言葉。どうでもいいが、内容的には4人とも似通っている。

アルテナはゆっくりと息を吸い、心を落ち着かせてから、口を開いた。

「どうしてあなた達の名前を知っているかは、後で話すわ―――唐突で信じられないかもしれないけど、よく聞いてね。これから告げることは、とても、とても大事なことなの」

アルテナのその言葉に何かただならぬものを感じたのか、論も由里もヒナも、黙り込んでしまった。

そして、アルテナは、次の言葉を続けた。それは、今まで言いたくても言えなかった言葉。

「天樹論、天樹由里……あたしは、あなた達の―――」













【 + + + + + + + + + 】













―――この世界には、様々な人間がいる。

彼らは、彼女らは、与えられた環境で、複雑で紆余曲折のある人生を送っていく。

1人1人が、この世界に、確かに足跡を刻みながら、生きていく。














マザーコアの事を知っていて、マザーコアを撤廃すべく行動を開始する『賢人会議』。

コアの事実を知り、本格的に、マザーコア撤廃の為の術を取らなくてはならないと分かっていながらも、それでも、何千万人もの市民を守る為に、マザーコアに頼らなくてはならない、シティの人間達。

だが、シティの中にも、少なからず、マザーコアというシステムを快く思わず、マザーコア撤廃の為に頑張っている者もいる。

偶然か、それとも必然か、世界は今、マザーコアの事を、本当の意味で理解していく段階へと入っている。

―――マザーコアというシステムが、この世界の人類の歴史からなくなるのも、そう遠くない日の事なのかもしれない。
















――― FIN ―――



















[作者コメント]


長く続いたFINAL JUDGMENTも、これで正真正銘の完結でございます。

最後まで面白かったと思った方、もうちょっと表現方法を工夫したらいいのではないのかと思った方、なんか色々とありえない方向に進んでんじゃないのかと思った方など、本作において、様々な方が、様々な感想を持ったと思います。

それでも、何か少しでも、読者の皆様の心に残るものがあれば、未熟な書き手としては幸いです。







本家キャラとの絡みを増やした事により、DTRよりはマシになったかと思いますが、それでもやはり、オリキャラよりの話になってしまった事は否めないところがありました。

DTRの流れからすると仕方のないことなのかもしれませんが(DTRの段階でかなりオリキャラよりの話でしたし)、それでも、私なりに考えて、やるだけやった結果、こうなりました。しかしあっちこっちに未熟という言葉がよく似合うお話だと我ながら思っております。

また、本作のラストは、これから始まる物語、といった感じで終わっている感もありますが、それは、この物語に、『この後』を、読者の皆様が考えられるような余地を残したかったからです。

この後の物語を、読者の方々の脳内で保管していただければ幸いです。







本作は、世界に青空を取り戻すとか、そういうどでかい話を書きたいわけではなかったので、このような展開になりました。

なんといいますか、そういうのって、きっと柄じゃないんだと自分で思ってるんです。

あくまでも、局地での物語を書くとか、小規模な(その割には話が異常に長いが)物語を書くとか、そういうのが性にあってるんじゃないかなぁ、と。





そして、私のWB二次作品は、このFINAL JUDGMENTで終わりを告げます。

それでは、紳士淑女の皆様、ごきげんよう―――。



<作者様サイト>
Moonlight butterfly


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