FINAL JUDGMENT
〜ネームレス〜


















―――数多の戦いの爪痕を残した戦いは、『賢人会議』がシティ・ニューデリーより撤退した事により、そして、サクラの敗北を持って終わりを告げた。

『賢人会議』は、シティ・ニューデリーにおいて、A級クラスの魔法士48名を味方につける事に成功したようだ。

もっとも、その48名は、そう遠くない将来、シティに対して反旗を翻す可能性のあった魔法士でもあったらしい。

これらの事から考えるに、『賢人会議』の補佐、天樹真昼が、今回の戦いにおいて『賢人会議』に48人の魔法士を組み入れた本当の目的とは―――。














「……仮に答えを考えたところで、あの人が僕らに正しい答えを教えてくれる事はないと思いますけど……」

2本の騎士剣を携えた銀髪の少年が、ため息を1つついた。

現在地はシティ・ニューデリーより少し離れた大地。I−ブレインによる体温調整により、吹きすさぶ吹雪を目の前にしても、凍える心配は何処にもない。

「ディー君!お待たせしました!」

凍りつきそうなまでに白い息を吐きつつ、ディーは声のしたほうへとふりむいた。

そこには、金髪ポニーテールの少女が、はーはーと息を切らせて、僅かに紅潮した顔で、ディーの事を見上げていた。

「セラ!?よかった、無事だったんだね!でも、どうしてここに!?」

「はい、わたしが1人きりで、シティ・ニューデリークレアさんが、わたしの事逃がしてくれたんです。それで、わたし、その後、いろいろあって……でも、ようやく戻ってこれました!」

セラの表情は笑顔そのもの。クレアと何かあったらしいが、今のディーには詳しい事情を聞く気にはなれなかった。ディーの胸中には、先日の記憶があったからだ。

嘗ては共に暮らしていた姉に「さよなら」とだけ告げてから、ディーはクレアと会っていない。或いは、無意識の内に、クレアの姿を無視していた。シティ・ニューデリーの会議塔内部において、乱入を果たしたディーは、クレアの姿を一瞬だけ見つけたのだが、すぐに目を伏せ、クレアの姿を視界から意図的に外したのだ。

無論、クレアの事が気にならない訳がない。だが、今のディーの立場、そして放ってしまった台詞から、どうしても、クレアの事に触れるのには、ディーの心の中では大きな抵抗が会った。

ディーがクレアの事に触れるようになるためには、もうしばらくの時間が必要だと、ディーは己の心の中でそう理解する。

「……ディー君?」

ひたすらに沈黙を続けるディーを心配したのか、セラが心配そうな声をかけてくる。

「ああ、大丈夫だよセラ。なんでもないから気にしないで」

セラを安心させる為に、無理に笑顔を作り上げて、ディーは優しい声でセラに答えを返した。













……ディーが詳しい話をセラから聞き、フェイトと名乗る謎の魔法士に傷つけられたものの、目が覚めたら傷が全て治っていて、その後に部屋に訪れたクレアがセラをこっそりと逃がし、シティ・ニューデリーから離反したクレアとセラが本気で戦った事を知ったのは、それから数日後の事であった。

また、この二人が、サクラがしばし戻ってこないという真実を知るのは、後の話である―――。

















【 + + + + + + + + + 】



















現在地は、シティ・ニューデリーのマザーコア反対派の建物内部の207号室。

外からの音が遮断された部屋で、由里は椅子に腰掛け、静かに思考に耽っている。

敵の本拠地に居るというのに、自分は何をしているのだろうかと何度か思ったが、やがて、そう考えるのを諦めた。

それ以外にやることがない、というのが大きな理由のひとつである。由里が唯一使用できる武器である『ゲイヴォルグ』は『賢人会議』に取られてしまったし、由里のうなじにはノイズメイカーが着けられていて、魔法士としての能力を何1つ使用する事が出来ない。

これでは、ただ、他の味方の助けを待つばかり。

どれくらい考えただろうか。小さく、かちゃり、と音がしたのが、耳に入った。

「…なに?今の音」

何かのしかけのスイッチがはいってしまったのだろうか?

反射的に立ち上がった由里は、自分のおかれている状況の事もすっかり忘れ、由里は扉に手をかけてそのまま軽くひいた。

すると、引き戸は、何の抵抗も無く、するっと横にスライドし、廊下への道を映し出した。

「―――え?これ、どういう事?」

由里は、今、自分がどういう状況にあるのかわからなかった。

サクラとの戦いに敗北を喫し、真昼に説教(指摘といった方が正しいのかもしれない)をもらい、その後、207号室に軟禁されたものの、そのまま放置され、気がついたら戦いは終わっていたという事に気がついたのは、それから5分ほど経過した後の事だった。

「……この扉、私を軟禁していたはずだったんですっ」

自分が、つい今しがら開いた扉を見据える。由里は不可解な思いを隠しきれない。

何がなんだか分からなかった。

今まで閉じていたはずの扉が何時開いたのか、そして、どうして開く必要があったのか。

周囲には誰一人として人間の気配を感じない。もしかしたらこの建物はもう既に無人のものとなってしまっているのではという不安が由里を襲う。

「えーと、ゲイヴォルグはどこにあるの…?」

不安を少しでも解消する為に、由里は自分の相棒を探すこととした。

この広い建物の中のどこにあるかなんて見当もつかず、下手をすれば、一日中を費やしても蜜からないのではないのかもしれないという、先ほどとは別の不安が由里の心の中に、だんだんと、すこしずつ、黒い色を持って侵食してくる。

(もし、見つからなかったら……)

……と思っていた矢先に、あっさりと見つかった。

「……あ、あった」

何のつもりか分からないが、由里の相棒である『ゲイヴォルグ』は、由里に見つけてくださいといわんばかりに、由里が軟禁されていた207号室のすぐ近くの壁に、壁飾りのように立てかけられていたのだ。

「……よ、よかったぁ。これがないと私、なんにもできないですっ」

世界に1つしかない自分の相棒を取り戻し、由里は安堵の息を吐く。幾度と無く触れてきたこの手触りの感覚は、その槍が、偽者でもなんでもない、本物の。

「…って、ん?」

ゲイヴォルグの柄の中ほどに、紙製のリボンを見つける。由里はゲイヴォルグにこんなものを付けた記憶はない。

「なんですか?これ」

危険な罠かもしれない、と思ったが、それよりも好奇心の方が勝ってしまった。由里は、ゆっくりと、紙製のリボンを解く。

すると、紙製のリボンの中から、小さな黒い塊がするりと落っこちて、こつん、と地面に転がった。

黒い塊を、おそるおそる手にとって、廊下の光を頼りに、じぃっと見つめてみる。

「これ、まさか…そんなわけないですよね」

駄目元で、由里はその黒い塊を、今、由里のうなじにはめられているノイズメイカーへとあてがってみた。もちろん、こんな事でノイズメイカーが外れるとは思っていない。そもそも『賢人会議』は由里とは敵対する立場にあるはずだ。敵が塩を送ってくるなどという真似は考えにくい……だが、それでもいちおう、由里は、試せることは全て試してみる事にした。

―――かちゃり、と音がして、I−ブレインの機能が回復した。

(I−ブレイン・復帰)

脳内で、抑揚のない声が復帰を告げる。

「……え?嘘でしょ」

ますますもって、現実が信じられなくなる由里。

一体全体、『賢人会議』はどういう理由で私を軟禁したのだろうかという疑問が、ここにきてより色濃くなった。

由里を軟禁するかと思いきや、由里が軟禁から逃げ出せるような状況を用意してあるという矛盾。

『賢人会議』の本当の目的が読めずに、由里の脳内に困惑が生まれる。

あたふたしてしまった脳で、何か情報になりそうなものはないかと、由里はあちらこちらを探し回った。

そして、1つの答えにたどり着く。

先ほど、ゲイヴォルグに巻きつけてあった紙製のリボンに、黒い小さな字により、文字の羅列が穿たれていた。

「……あ、文が、書いてあるですっ。えーとっ……」

由里はその文章を、小さく、口に出して読んだ。










『由里―――君とはまた、別の機会に話したいと思う。君は、一度落ち着いて、自分のやってきた事を、自分の考えを、よく振り返ってみるといいかもしれない。
 僕らのしている事は、君には理解できないかもしれないけど……でも、ただのシティへの虐殺行為じゃない。それだけは確かだよ。
 あの時、君は色々喋ったけれど、結局は、100を行かして1を殺すっていう、世界の摂理にはまったままなんだ。そこから無理に抜け出してとはいわないけど、今、世界がそういう状況にあるんだってことをわかってほしい。サクラへの憎しみからそれが見えなくなってしまっているかもしれないけれど。
 ノイズメイカーの解除端末を同封しておいたから、それで君のうなじにかかっているノイズメイカーを解除して。そうすれば、君はもう自由に動けるはずだ。その屋敷から出るなり、助けを求めるなり、好きにすればいい。
 そして、願わくば、君が、考えて、考え抜いた上で、サクラの事を、少しでも理解してくれるように。


                                                                     天樹真昼』










「…………」

由里の脳裏に、眼鏡をかけた、優しそうな顔をした青年の姿が浮かんだ。

「よく、分からない……私に対して、何を求めているの?」

頭の中に混乱が渦巻いて、由里は頭を抱えて、地面へ伏す。

影のさす地面を見つめて、暗い視界の中、由里は呆然と考える。

だが、青年が何をさせたいのか、それがなかなか理解できない由里の頭では、いくら思考を重ねようとも、答えが出てこなかった。

サクラの事を理解しろ、と書かれていた。

育ての両親を殺された時から、由里にとってサクラは憎むべき怨敵であった。

だが、実際にサクラにあってみて、サクラが、己の私利私欲で『賢人会議』として行動してきたわけではないのだという事を理解した。

それでも、サクラが由里の義理の両親を殺したことは事実であるから、由里は一生、サクラの事を許さない……こればかりは、変えようのない信念として、由里の心の底に確固たる形で張り付いている。

そして、分からなくなった。

サクラは『悪』ではなかった。

しかし由里にとっては『敵』であることにはなんらかわりなかった。

(私は、サクラに、どうすればいいんだろう………)

由里はそうやって、ずっと、悩み続けた。






















<To Be Contied………>















―【 キャラトーク 】―









ノーテュエル
「……なんか平穏ねぇ。これほんとにラストなの?」

ゼイネスト
「正真正銘のラストだ。しかも次の話が最終回だ」

ノーテュエル
「また随分と思い切ったラストねー。ってか、あんだけ引っ張っておいてあっさりすぎない?ハーディンとサクラの決着のつきかたとかが、セラ関連のエピソードとか、フェイトの扱いとか、今回の由里のエピソードとか」

ゼイネスト
「魔法士戦闘とはそんなものではないのか?DTRの後半の連続バトルとか、その辺が異常に長すぎただけであって。そもそも、FJは戦闘がメインの話ではないと最初の方で作者が言っていただろう。だから、これくらい簡潔に決着…ではないな、結果的には引き分けだったのだから。訂正しよう。簡潔にケリがついた……と。
 そして、セラのエピソードについてだが……正直、かなり省いた感が否めないな。まぁ、WB六巻(下)を読んでこの展開にしたとは言っていたがな。最終的にクレアとセラは和解する。ならば、森羅ディーに対する人質にされたセラをクレアが逃がすくらい、わけない筈だ。なんだかんだ言っても、例え敵対していても、クレアにとっては大事な弟で、その弟の状況が悪くなるような行動はしないはずだろう。
 フェイトは『電磁力学制御』を扱える魔法士を、ひいては『光使い』に対し有利な魔法士を登場させたかったから、ああいった能力にしたらしい……決まるまでは、かなり難解だったらしいがな。ついでにいうと、フェイトは電磁力学制御……つまり、電磁場を扱える能力者だが、そのせいで心臓を患っている。だから、長時間の戦闘もできない。故に、サクラとの戦いではああいった役目にされたという説もある。さらに言うと、フェイトは『マザーコアとかそんなもんは一切関係ない。フェイトは、フェイト自身と、フェイトにとって大切な女の子が生きられれば、誰がマザーコアになろうが、誰が死のうが構いはしない』というコンセプトのキャラとして作られた、と。
 由里に関しては、由里は『賢人会議』には絶対に入らない、しかし、サクラとの決着をつけさせるわけにもいかない。オリキャラの立場を出るわけにはいかないというわけで、こういう流れになったようだ。一時期はサクラに向かって『あなたは絶対に私が倒す!』と叫び、サクラがそれに答えるように『面白い!いつでもいい!私を殺しに来い!天樹由里!』と返すシーンもあったそうだが、最終的に没になったそうだ」

ノーテュエル
「………見事に説明しきったわね。でも、そう考えると納得するわ。あと、長文お疲れ様」

ゼイネスト
「うお、一気に喋ったら喉が渇いた…ごくごく(水を飲む)」

ノーテュエル
「でもさ、このキャラトーク、キャラトークっていうより『裏話コーナー』って感じもしたわよねぇ……」

ゼイネスト
「確かに、途中から『裏話コーナー』になりつつあったよな」

ノーテュエル
「いえてる。  ……ところでさ、さっきも言ったけど、内容的には全然ラストっぽくないけど、次で最後なのよね。いうなればあれかしら?『私達はようやく上り始めたのだわ、この長い長いWB坂を…』」

ゼイネスト
「ほい、ストーップ」










ノーテュエル
「色々な人から色々な意見を貰いながら、ここまで進んできた『FINAL JUDGMENT』でしたが、この長い長い物語も、次回で最終回を迎えます!さて、どんなラストになるのか、あんまり期待しないで待っててね!」

ゼイネスト
「因みに、個々だけの話、途中までは『FINAL JUDGMENT』のスペルを『FINAL JUGEMENT』と誤認識していたせいで、タイトルのスペルすら間違っていたという素敵なエピソードがあったが、作者がWB同盟の管理人を請け負った直後に全て修正したらしい。今ではその面影を見ることすら出来ないという常態だ」

ノーテュエル
「うわ、最強の裏話ねそれ」

ゼイネスト
「さて、裏話はここまでだ。次回、最終回『今日の向こうの明日へと、明日の向こうの未来へと』で、また会えれば光栄です」


























[作者コメント]


……原作ファン、およびセラファンの方ごめんなさい。

本作におけるセラの扱いがかなり酷いものになってしまったことは認めます。

作者が何も考えていない証拠ですね;;





由里のエピソードについてですが、由里は最初からサクラに勝てないキャラとして、物語中で動くというのは過去に明かした気がします。

そして、今回のエピソードの件ですが……要するに『賢人会議』は、由里を殺しはしないで、由里に『もっと違う答えを見つけてほしい』という願いを込めた、そういう流れにいたしました。というか真昼ならそうするはずだと思います。






さて、このような流れですが、次回で最終回となります。

このような駄文ではございますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。








<作者様サイト>
Moonlight butterfly


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