FINAL JUDGMENT
〜アルテナ・ワールディーン〜

















10年前、アルテナ・ワールディーンはこの世に生を受けた。

アルテナを生み出した女性科学者は、アルテナを我が子のように可愛がっていた、その人が科学者だった事が非常に強く影響し、必然的にアルテナも科学が大好きな少女となった。

頬にそばかすをこしらえた、いつも笑顔をたやさない、誰よりも、何よりも優しい女性だった。

しかし、科学者はアルテナが第三次世界大戦に参加してから間もなく、過労死でその命を落とした。享年27歳。あまりにも早すぎる死だった。









アルテナを生み出してくれた科学者の死から数日後、どこからアルテナの存在を、アルテナの能力を嗅ぎつけたのか、見知らぬ兵士達が研究所に乗り込んできて、アルテナは身柄を拘束された。

後に分かったことだが、当時、世界にはハッキングを得意とする輩があちらこちらのシティに在住しており、そのハッカー達の中には、アルテナを生み出した科学者のコンピュータにハッキングしていたハッカーがいたのだ。

ハッカーは、アルテナの事を知り、所属するシティの軍に話を持ち込んだ。アルテナが持つ奇異にして特殊な能力が、自分達の戦いを有利にしてくれるとふんでの行動だったのだろう。

外見年齢は10歳ほど、生まれてから数日という、碌に戦闘経験も重ねていない状態で、アルテナは戦いに駆り出される事になった。

最も、戦闘用のデータはI−ブレイン内に記憶されており、戦闘行為を行うことに関しては何一つ問題はなかった。もしかしたら、アルテナを生み出した科学者も、こうなる事を見越して、アルテナのI−ブレインに戦闘用データを搭載してくれてたのかもしれない。

自分を生み出してくれた科学者を失った悲しみを胸に抱きながらも、アルテナには戦うしか道は無かったのだ。

科学者が死に際に残した遺言は『とにかく生きてね。何をしてでもいいから生きるのよ。決して死のうなんて思っちゃダメよ』というものだった。そしてアルテナは、血と戦いにまみれ、死と隣り合わせの戦場で、それを守り続けて生きてきた。

アルテナは暗殺者としての能力を有用に活用し、敵対するシティの部隊の兵士達を次々と壊滅させていった。尚、この頃のアルテナの服装は、今みたいなゴスロリ服ではなく、シティの標準的な戦闘服であった。

アルテナが所属していたシティは、最後の最後で内部から反逆者が出て滅ぼされた。

















帰る場所を失ったアルテナは、シティ・メルボルンに迷い込み、そこで細々と暮らしていった。

そして14歳のある日、雨宿りの為に慣れない建物の中に迷い込んでしまったことが、彼女の運命を変えることとなった。

(その時のアルテナとしては、ほんの少しの雨よけのつもりだったが、雨が思った以上に強かった上、建物の中には人の気配が無かったので、そのまま奥に入ってしまった)

建物の中の机の上で、一冊のノートが広げられているのを見つける。(因みにこれは『悪魔使い』の根幹を記した真昼のノートである)

『ちょっとだけ』と思ってのぞき見たところ、その内容のすごさに一気にのめりこんでしまう。その様子を、外から帰ってきた真昼に見られていた事に、アルテナは気づいていない。

その時から、自分もこんな魔法士を生み出してみたいと思うようになった。













15歳の頃、製作した偽造IDと共に、シティ・シンガポールへと移る事を決意。シティ・メルボルン跡地の居心地は悪くは無かったが、それでも、やはり、安定した生活が欲しかったからである。

しかしながら、その時に、不運にもフライヤーが事故を起こし、軍の捜索により、アルテナ以外の乗客は助かったが、アルテナだけが行方不明という扱いとなった。

そのとき、アルテナは『もう1つの賢人会議』の魔法士、クラウ・ソラス(この時のクラウは、死ぬ前のオリジナルのクラウ・ソラスである)によって助けられた。そこから、クラウとはすぐに仲良くなれた。そして『もう1つの賢人会議』の事を教えてもらったのだ。

そしてアルテナは『もう一つの賢人会議』で研究をする事となる。アルテナを生み出してくれた科学者の夢を叶える為にも、あのノートに書かれていた魔法士の製作のために。
















16歳の頃、クラウ・ソラスが死亡した。

その時に『記憶回帰計画』を行い、クラウの記憶や感情や能力を、ほぼ完璧な形でこの世に呼び戻す。目を覚ましたクラウは、アルテナの事を殆ど忘れていたが、それでも、目の前にクラウの姿があるだけで、アルテナにとっては、それだけでよかったと思えた。

これにより『ライフリバース計画』が成功する目処が付いたという事で、それからは『ライフリバース計画』の為に時間を費やす。また、『記憶回帰計画』や『ライフリバース計画』の進行状況具合に関しては、常に彼女専用の端末に記録していた。

その過程で、ヴォーレーン・イストリーが持ちかけてきた『狂いし君への厄災』や『殺戮者の起動』や『堕天使の呼び声』の話を聞いて、これを機会だと思い、ヴォーレーンの研究を手伝うと同時に、裏では着々と『ライフリバース計画』の準備を進めていた。

そして、計画の最終段階になったその時に、 だけどある日、転機がおきる……ヴォーレーンが急な心臓発作で突然死する。

原因は不明―――だけど、急性の心臓発作は誰にでも起こりうる死の形。あくまでもあたしの推測だけど、ヴォーレーンは研究の疲労が心臓発作を誘発してしまい、そして死んでしまったのではないかと思う。

その後は、次々と『ライフリバース計画』の為の準備を着々と進めていった。

















3年前、アルテナが17歳の時。

『記憶回帰計画』『ライフリバース計画』の全てを終えて、自分のやった事に対する大きすぎる過ちに気づいたアルテナは『もう1つの賢人会議』に、自分の居場所がない事に、全てが終わったその時になって、初めてアルテナは気づいた。

自分が、魔法士達を、まるで実験動物のように扱っているのではないのか?と思うようになったその時には、全てが遅かった。

研究に没頭している最中は、自分のやっていることが間違いだと、冒涜だと気づかなかったという言い訳なんて、間違いなく通じない。全てを知ったら、回りにいる人は皆、怒るではすまない。怒られるより、もっと大変な事になるのは目に見えている。

だが、命を弄んだ罪を死で償って何の意味があるのか。生きて罪を償うのが当然だと考え、その罪を償える時が来るまで生きようと決める。

一度埋め込んだ『狂いし君への厄災』や『殺戮者の起動』や『堕天使の呼び声』などを取り出す事が出来るわけも無く、アルテナは迷った末に、『記憶回帰計画』や『ライフリバース計画』の全貌を、特殊なプロテクトで封印した。あのようなとんでもない計画をそのまま閲覧できる状態にしておくわけにはいかず、しかし、それらを全て削除してしまっては、確率としては非常に低いが、第2、第3のアルテナ・ワールディーンを生み出してしまいかねない。『前例』は、残しておかなくてはならないのだ。

謝る事も、償うことも、きっと出来ない―――そう考えたアルテナは、『もう1つの賢人会議』から、脱走も当然の形で姿を消した。怖かった。なにもかも、全てが怖かった。

たとえ、うまくいけば、あの実験の披検体達が、全員、一度死んでも『次の体』に、魂と記憶を受け継いで『転生』できるとわかっていても、それを見届けようなどとは思わなかった。

命をもてあそんだも等しい自分に、そんな事をできる権利なんてあるわけがない。

幸いにも、アルテナは『もう一つの賢人会議』に、着替え以外の私物は殆ど持ち込んでいなかった。だから、出て行く事に対し、それほど大掛かりな準備も必要なかった。











『もう1つの賢人会議』から去ること2ヶ月。

特にいきたいところも無く、さりとて、同じところにとどまる気にもなれず、世界中をめぐってのあてのない一人旅の果てに、アルテナは、アメリカ近辺に放置されていた、寂れた研究所にたどり着く。

吹き荒れる吹雪の中を、I−ブレインによる温度調整により切り抜けてきた。が、度重なる負荷により、I−ブレインが疲労しきっていた為、アルテナにとって、その場所までたどり着けたことはまさに幸運だった。

研究所の施設はまだ生きていた。それどころか、下手をすれば『もう1つの賢人会議』にも劣らぬ設備が整った研究所だった。生命維持層も培養槽も普通に機能する上に、機材もまだまだ磨耗しておらず、十分に稼働できる。こんなすばらしい条件の整った研究所がどうしてこうも放置されているのかを疑問に思ったが……その疑問はすぐに氷解する。

一番奥の部屋で、この研究所の持ち主らしき人物が、ベッドの上でただ静かに眠っていた。

あちこちがすすけ、汚れた、しわくちゃな白衣をまとった、濃い顎鬚の生えた中年男性。

否『眠っていた』という言い方はふさわしくないだろう。厳密には―――『永眠していた』だ。

まるで起立をしているかのようにまっすぐに伸びた背筋で、その人物は冷たく冷えた体で横たわっていた。ぴったりと閉じられたその瞳が開くことは、二度と無い。

その人物が息をしていないと理解した瞬間、一瞬、ひっ、という声が喉から出て、アルテナは青ざめた顔で一歩後ずさる。

傍らに鎮座している機械が、稼働音1つ立てずに沈黙していた。調べてみたところ、生命維持装置の類らしい。この極寒の地で生きていくためには、こういった類の装置の助けが無ければほぼ不可能であることは、誰もが知っている。

生命維持装置が記している最終記録は―――その前日。つまり、この生命維持装置は、つい昨日、その機能を停止したという事になる。

おそらくだが、この科学者は、研究に疲れて、装置の磨耗にも気づかず眠ってしまい、そのまま永眠してしまったのだろう、と、アルテナはそう結論付けた。

人がいたのなら、研究所がまだまだ稼働しているのも頷けた。















先ず最初に起こした行動は、研究者の遺体の埋葬だった。いくらなんでも、さすがに死体をそのまま放置するわけにはいかない。

なんとかして燃やせそうなものを探し、最後に一度だけ、その科学者が本当に死んでいるのかを確認してから、火を起こして遺体を焼却した。後には、小さな骨だけが残った。

研究所を出てからすぐ近くの地面に、ナイフを用いて穴を開け、そこに、埋葬した研究者の遺骨を埋める。

ちょうど近くに転がっていたぼろぼろの木切れを刺しこんで、簡素だけどお墓を作りおえた。











研究所に戻った後は、この研究者は何を研究していたのだろう、と思い、アルテナは研究所の中を物色する。

すると、すぐに、一冊のノートが目に入った。手垢のついた、相当使い込まれたと思われるノートだった。

ちょっとした後ろめたさを感じながらも『ちょっとだけならいいですよね?』と思い、ノートを手にとって開いてみた。研究者が書きなぐった汚い文字を何とか解読する。

結果、この研究者は、魔法士について研究していたようだ。それも、複数の能力を操れる魔法士の生成を目標として、だ。結果的には、まだスタートにすら至っておらず、構想の段階で挫折しかかっていたらしい。

志半ばにして倒れたと思うと、アルテナは、横たわる科学者に、悲哀に似た感情を覚えずにはいられなかった。

だが、その悲哀に似た感情も長くは続かず、いつしかアルテナは、ノートを読む事に夢中になっていた。

そして、そのノートに記載された一文―――『複数の能力を操る魔法士』という単語を読んだ瞬間、アルテナの頭の中に、何かがひらめいた……否、思い出された。

それは、昔、まだアルテナがシティ・メルボルンにいた事に、偶然にも覗き見たあるノートに載っていた、魔法士としての常識を覆すほどの能力を持った魔法士の原理と非常に似ていた。

確かそのノートには、こう書かれていたはずだ。

『すべての魔法士の雛形にして完成形の魔法士。本来書き換え不可能な基礎領域を書き換える事で、あらゆる能力を使用することが出来る。ただし、仮想的に能力を走らせるという性質上、悪魔使いの能力はオリジナルには及ばず、またコピー出来ないこともある。
 操作、並列、合成、創生という4つの性能を持つ事が出来るが、どんなI-ブレインを持ってしてもこの4つをすべて組み込む事が出来ない―――』

その記述は、当時のアルテナの、科学者としての好奇心を激しく刺激した。

ありえない、と同時に、すごい、と思ったことは、今でもまだ鮮明に記憶に残っている。

そして同時に、遥か昔に憧れ、焦がれ、惹かれた、昔の記憶の中に残っている研究を始める機会は今しかない、と思った。
















そしてアルテナは、研究を始めた。これだけの研究施設が整っているのだから、やらない理由もない。

この研究は、『記憶回帰計画』や『ライフリバース計画』などとは違い、誰も犠牲にならず、誰も切り裂かずにすむ実験だと分かっていたから、少しは、心が楽になった。

しかしながら、さすがのアルテナでも、0から魔法士を生み出そうというのは厳しすぎる。研究者のノートを読んでも、まだまだ序の口すらたどり着いていないのだから、

そこに『天樹錬』の情報が流れ込んできた。

当時、世界のごく一部でその名を知らしめていた『悪魔使い』。

もちろんアルテナは『悪魔使い』という単語に聞き覚えがあった。

―――会わなくてはならないと、思った。アルテナの研究を完全なものにするために、また、アルテナが遥か昔に憧れ、焦がれ、惹かれた『悪魔使い』

適当な依頼をお願いしてみたところ、天樹錬はその隙に、錬の髪の毛を一本拝借した。

―――そして、論の元となった少年が、後に、アルテナに悲劇を及ぼす要因になるなどという事は、この時はまだ、想像すらできなかった。













本物の『悪魔使い』である錬の髪の毛を手に入れても、アルテナには、研究の全てがうまくいくとは思えなかったが、それでも、やらないよりはやるべきだと自らを奮い立たせ、アルテナは研究を続けた。

錬の髪の毛の遺伝子をベースに、魔法士の生成に取り掛かった。昼夜を問わず、時にはご飯も食べずに、研究にいそしんだ。

―――そして、奇跡が起こった。

本来の『悪魔使い』よりも遥かに性能の高い魔法士の作成に成功してしまった。

オリジナルの『悪魔使い』に比べると疲労しやすいという弱点を持つものの、能力の再現率はオリジナルの『悪魔使い』を超えることができるという、言うなれば、真作を凌駕した贋作だ。

所持している能力は『並列』『操作』『創造』で構成されており、『合成』が無いので、二つの能力を組み合わせて新たな能力を作り出す事ができない事が判明したが、それでも十分に強いので、これでいいかな、と思った。

天樹錬の遺伝子を使ったから当然といえば当然なのだが、その少年は、天樹錬とそっくりな容貌を持って育った。

その少年の名前は、論理という単語からとって『論』と名づけた。

論の能力はカテゴリ的にはまさに『悪魔使い』のそれなのだが、しかし、魔法士としての名称をそのまま流用したくないと、二番煎じのようなことはやりたくないと、アルテナは考えた。

思考を重ねること数十分、アルテナは、1つの答えにたどり着く。

まるで手品師のように、数多の能力を使いこなし、かつ、成長するI−ブレインを持つものとして、ふさわしい名称があるではないか。

だから、名づけた―――『魔術師』と。














その後、数ヶ月の時を得て、論という魔法士の作成は、順調に進んだ。

『炎使い』や『騎士』の能力を使えるように、I−ブレインにデータを転送していく。一つ一つ、能力を転送するたびに、なんともいえない高揚感がアルテナを包み込む。それは、自分の大好きなものに打ち込む人間の姿そのものだ。

仕上げとして、アルテナは、論に、1つのプレゼントを贈った。

それは、世界でただ1人、自分だけが保持している筈の能力。

しかし、論のI−ブレインの都合上、どうしても、アルテナが持っている能力を、そのまま受け継がせることは不可能だった。

アルテナは、思考錯誤した。数時間ほど考えて、ようやく能力の方向性が決まったアルテナは、技術力と知識の限界に挑み、数週間後に、1つの能力を作り上げる事に成功する。

それは、『使用者にとって望みどおりの空間を生成する能力』である『自己領域』を使用し、論自身の熱量をぎりぎりまで下げて、高速で相手に接近し、次の瞬間には、論という魔法士を構成する肉体を一瞬の間だけ原子分解して、一瞬が経過した後に再び肉体を再構築する。故に、相手からすれば、論が何も無い空間から現れたように見える能力だ。

アルテナの『存在透過』と同じ原理で、周りの熱量よりも論自身の熱量を圧倒的に小さくすれば、周りの熱量の大きさから論の熱量を見えなくする事が出来る。これにより、相手は視覚面での論の姿を感知しにくくなる。
さらに、相手が論より大きなな熱量を持つ攻撃を振り回していれば、その攻撃で発生する熱量のお陰で十二分なカモフラージュを行えるという利点もある。

『自己領域』と違い、相手の近くに居ても相手を巻き込まなくて済むが、熟練した相手には熱量の僅かな動きだけで見切られるのが難点のようだ。

また、騎士刀に適用する事により、一時的に騎士刀を見えなくする事が可能であることが判明した。(この点に関しては、原子分解の原理の部分のみを使用する事で解決している)

最も、再構築時に攻撃反応がばれるために、わざと丸腰であるように見せかけるくらいしか使い道はないと思った。そういった理由から、そのような注意書きをI−ブレインに記録させなきゃと思った。

アルテナはその能力を『極限粒子移動サタンディストーション)』と名づけた。













論を生み出し終えた時、さらに、アルテナは考えた。

―――折角だから、この子に妹を作ってあげよう。

兄妹2人で仲良く助け合って生きてほしい。そんな願いを込めて、アルテナは、二人目の『魔術師』の作成に取り掛かった。

生命維持層の中、目を瞑り続ける少年の顔を眺めながら。















そう決意した数日後、偶然か必然か、アルテナは『もう一人の悪魔使い』サクラと出会う事になる。

因みに、論にとっての『妹』を生み出す為の研究は微塵も進んでおらず、頭を悩ませてうんうんと唸るという行為をずっと繰り返すという、停滞の真っ只中だった。

サクラとのファーストコンタクトは、かなり特異なものだった。

時間帯は夜。その日の研究を進めるべきところまで進めたアルテナが研究所の窓の外に目を向けると、一瞬だけ、黒い何かがよぎった。

もしかしたら泥棒か何かの類かもしれないと思ったアルテナは、2本の、白銀の刀身を持つナイフを構え、すぐに外へと向かった。

雪の上に、一人の少女が倒れていた。体中に大小さまざまな傷を負っている。ただ事ではないのは一瞬で分かったが、それでもアルテナは、目の前に横たわるこの少女を放っておくことはできなかった。

少女の黒髪を見た時、アルテナは「何か」を感じた。外見などは全然似てないが、『全体にまとう雰囲気』が、天樹錬と非常によく似ていると思った。勿論、あくまでもアルテナの勘でしかなかったけれど。

だが、万が一の事を考えてに、少女が気絶しているうちに、少女の髪の毛を一本拝借しておいた。そして、この行動が、後に、1人の魔法士の少女を生み出すための決め手となった。

とりあえず、このまま放置しておいてしまっては凍死確定なので、少女を研究所の中へと運び込むことからはじめた。

ベッドに寝かせた黒髪の少女の体をゆさゆさとゆする。

少女は目を覚ましたと思った瞬間、ばっ、と跳ね上がり、鋭い視線で、腰に装備していたナイフを構え、ナイフの先をアルテナへと向けた。

「うーん、普通はそうなるわよね……でも、これだけはいえるわ。あたしは、あなたにはなにもしない」

何、という返事をする黒髪の少女。今のアルテナの台詞だけではまだまだ信用が足りなかったようで、少女はナイフを下ろさない。

「怪我している子を放っておけなかった……信じてもらえないかな?」

偽りなき本心からの言葉。空間に走っていた緊張が、少し溶けた。黒い少女の瞳から殺気が消える。

「……いまどき、貴女のような人間がいるのだな」

「ほめ言葉として受け取っておくわ。何も言わなくていいわ。さ、どうぞ」

問いただす事もせず、暖かいスープと、小さめのフランスパンを差し出す。

見ず知らずの少女に優しくしてしまった理由。それは、怪我している子を放っておけなかったというのももちろんある。それに加えて、今、居場所を失い、この研究所で一人ぼっちだった自分の事が、目の前の少女と重なったからだった―――もちろん、アルテナの勝手な思い込みかもしれないという事は、十分承知している上での行動である。

「……」

少女はパンをぶっきらぼうに受け取り、はむ、と一口含む。

「あなた、名前は?」

「……聞かれたのなら答えよう。サクラだ」

もふもふとフランスパンを頬張りながら、ものすごくぶっきらぼうに、その少女は告げた。













既に日付が変わっていたので、一晩泊めてあげる事にした。

サクラと名乗った少女は『別にそこまでしなくていい』と、最後まで反論し続けたが、結局根負けしたのか、一晩だけなら、という条件で泊まっていく事となった。

その理由は、アルテナには、サクラが悪い子には見えなかったからという、たったそれだけのこと。

もちろん、万が一の事を考えて、寝る前には、対ノイズメイカー用のデバイスも展開しておいたし、防衛用のブザー式の危険感知装置に電源を入れておいた。

さらに、自分の研究結果を見られないようにするために、研究棟の入り口の扉には512ケタのパスワードをかけておいた。

結果的にはその心配は杞憂で終わる。サクラは、翌朝には、逃げるように出ていってしまったからだ。

入り口の扉にはパスワードつきロックがかかっているのだが、どうやってパスワードを解析したのか、サクラは入り口の扉の鍵のパスワードを見事に解読し、早朝、アルテナが眠っている内に、出て行ってしまったのだった。なお、研究棟のパスワードについては、こちらも念入りにチェックしてみたものの、解除された痕跡は欠片も見当たらなかった。

もっと話をしてみたかったと密かに思っていたアルテナにとっては、少し残念な気持ちだった。















再び1人ぼっちになってしまったが、いちいちそんなことでめげてはいられず、アルテナはすぐに研究を再開した。

早速サクラの髪の毛を調べたところ―――アルテナは、この世には本当にすごい偶然と言うものもあるのだと思わずにはいられなかった。髪の毛の遺伝子が、天樹錬のそれと一致したのだ。つまり、錬とサクラは、どちらかが同じ遺伝子を用いて生み出された魔法士だという事になる。

ここでアルテナは、これを、論に妹を作ってあげるための、またとないチャンスととらえた。同じ遺伝子なら、魔法士であっても兄妹を作るのは容易い。

……最も、サクラと錬、どっちが先に生まれたのか知るわけが無い為、兄妹なのか姉弟なのかどちらなのかは分からない。しかし論と由里の場合は、論が先に生み出されたため、論が兄となった。

美しい女性の事を例える諺として『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』があったのを、ふと思い出した。

『芍薬』は名前としてはしっくりこない。『牡丹』は女の子の名前としては考えられるが、ちょっと違う気がした。

助けた少女が『サクラ』―――すなわち『桜』という事も考えた結果―――『百合』からとって『由里』と名づける事にした。













次は、由里の能力を考える番だった。

『悪魔使い』の弱点である『能力の強さが本家に絶対に及ばない』という弱点を解消するにはどうしたらいいかというのをテーマに、アルテナは、由里の能力を作り上げた。

試行錯誤の末、由里のI−ブレインは、外部から能力を使用する為のデバイス―――ゲイヴォルグという槍の補助を得ることにより、オリジナルの90%ほどまで能力を再現可能とするようにプログラムした。

そのI−ブレインは非常に特殊な構造をしている。分かりやすい言葉を使うならば『能力を動かすためのハードウェア』と『最低限の能力の基礎となるソフトウェア』は存在するのだが、その代償として『ソフトウェアの機能を向上させる制御プログラム』と『ソフトウェアの起動に必須なプログラム』が入っていないという事になる。そして、後者二つの要素については『ゲイヴォルグ』の力を借りて実行するしかない。

とどのつまり、ゲイヴォルグを奪われてしまうと、外部から能力を使用するためのデバイスが無い為に、何の力も発揮することが出来ないという、致命的な弱点を抱える魔法士になったわけである。

因みに、論と由里、2人の魔法士の生命維持層は、別々の部屋に置いておいた。

いくら兄妹として生み出されたとはいえ、同じ部屋で成長させるのにはちょっとだけ抵抗があった。外見年齢が14〜15歳となれば、そういった年頃に相応しい、それ相応の知識も与えなくてはならない。それに、そう考えると、やっぱり、隔離して育てるべきだという考えに至ったからだった。














だが、論と由里という2人の魔法士を完成させたアルテナは、論と由里が目覚めるのを目前に、論の前から姿を消す。

その理由には、やはり『もう1つの賢人会議』時代の、気づかなかったとはいえ、命を弄んでしまっていたという事実があったからだった。

あれから1年経っていたとはいえ、アルテナの心には、まだ、その傷跡が深く残っていた。

怖かった。とにかく怖かった。

あれだけの事をやってしまったアルテナが、堂々と、自分の生み出した魔法士である論と由里の前にいる事が出来るのか。その答えは常に『いいえ』であり、

常に罪の意識に苛まれる日々。震えながら、頭を抱えて、泣いた日もあったほどだった。

その恐怖心がアルテナを突き動かし、論と由里の元から離れる事を決意させてしまった。

無論、自分が生み出した、可愛くて可愛くてたまらない2人の魔法士と離れたくないという気持ちもまた強かった。

だけど、アルテナには、罪を重ねすぎたから、論や由里と一緒にいられる訳がないと、そう思ってしまった。

そしてある日、アルテナは………何度も何度も後戻りしたくなりながらも、涙をこらえて、逃げるように研究所を離れた。













研究所から逃げるようにして去った後も、勿論、論や由里に会いに生きたいと思ったときは何度もあった。

だが、あれほどまでに命を弄んだアルテナが、そして、一度は論と由里の堂々と論と由里の目の前に姿を現していいのかと考えると――そんなことは、どうしても出来なかった。

もちろん、『記憶回帰計画』や『ライフリバース計画』は、論や由里の事には殆ど関係がないと分かっている。

でも、それでも、割り切れないものがあった。

それほどまで、アルテナが犯した罪は、ただ、重く、ずっしりと、心を押しつぶさんとせんばかりにのしかかっていた。












偽造パスを用いて入国し、シティ・神戸の住民データにハッキングをし、偽りの住民権を手に入れる。

仮にも『記憶回帰計画』や『ライフリバース計画』を考案、実行し、さらに、2人の魔法士を生み出したアルテナだ。偽造パスの作成や、重要なデータへのハッキングなど朝飯前。赤子の手をひねるかのように容易い事である。

そこでアルテナは、1人きりで生活を始めた。

今までの全てから逃げてもどうにもならないと分かっていたが、それでも、アルテナは、逃げたくてたまらなかったのだ。

『もう1つの賢人会議』での事を全てを忘れ、何の罪も持たない普通の少女として過ごせたらどれだけいいかと思うこともあった。

だけど、アルテナがこれまでやってきたことの全てを忘れるつもりは欠片もない、罪も痛みも、隠し通しながら背負っていくと、そう決めた。

シティ・神戸内部には、幸運にもいくつかの空き家があった。その中の1つに、アルテナは住む事を決意した。最近来たばかりの入居者と偽り、周囲に挨拶をしておいた。何時の世も、ご近所との関係は保っておくものである。

それから数ヶ月間、シティ・神戸で普通の人間として生活していると、アルテナは近所の人間…後に義理の母親となる人物から声をかけられる。その人は、初めて挨拶した時に、アルテナが一人暮らしをしているのを心配に思っていた人物だった。さらにいうなら、アルテナがシティ・神戸に来てから、一番最初に仲良くなった人物だった。

『1人暮らしは大変でしょうし、一緒に住みませんか?もちろん、貴女の部屋も準備してあるから大丈夫』という誘いを受けた。

どうやら、今のシティ・神戸で1人暮らしをしているのは、この近辺ではアルテナだけだったらしい。そこで、同じシティに住む身として、1人暮らしをさせるよりは、一緒に住んだ方が、エネルギーの節約にもなっていいし、アルテナも寂しくなくていいのではないか?という考えから申し出てきたらしい。

勿論、最初はどうしていいか物凄く迷った。だけど、1人ぼっちで寂しかったのは事実であったし、折角の申し出を無下にするのも気が引けた。

そこまで考えて、アルテナは首を縦に振って答えた。この時。アルテナは家族を得たのだった。

後に知ったことだが、この家族、元々は孤児院を経営しており、困っている人や1人ぼっちの人がいると放っておけない性質だったようだ。1人暮らしのアルテナを放っておけなかったのも、そこにあったようである。

家族構成は、みんなアルテナより年上の4人。

痩せ型で、でも温和な表情を浮かべた父親。

如何にも主婦をやってますという感じの、うでっぷしが強そうな母親。

いつも楽しい事を考えている、ひょうきん者の兄。

常に、あらあらうふふと微笑む姉。

それが、アルテナを迎えてくれた『家族』だった。













アルテナが『家族』と出会ってから数ヶ月が経ったある日の事だった。

「アルテナ〜。ちょっと来て〜」

「はーい」

その日、ご飯を作る当番だったアルテナは、一旦お鍋の火を止めて、ぱたぱた、とスリッパの音を響かせながら、母の元へと走っていく。I−ブレインから『身体能力制御』が使えればいいのだが、生憎と、家族にはアルテナが魔法士であることは明かしていない。

家族を信じられない訳ではないが、それでも、I−ブレインの事を口にするのは、どうしてもためらわれた。家族には、自分は普通の人間の少女だと、そう思っていてほしかったからである。

「―――ねぇ?こういうのどうかな?」

アルテナの目線の先では、母が、一着の服を手に持って、微笑んでいた。

白を基調とした、所謂ゴスロリ服といわれる類の洋服。基本的にこの手の服は黒や赤がメインカラーとなるケースが多いという話なら聞いたことがあったので、。白を基調としたのは珍しい、と、アルテナはどうでもいい事を考えた。

「お母さんが着るの?」

「いやだねぇこの子は。なんの冗談だい?着るのはあなたよ」

……アルテナがその言葉を理解するのに、現実時間にして3秒の時を必要とした。

「え、ええっ!?あ、あたしが?」

「そう、この服は、アルテナちゃんの為に作ったのよ。ウチね、洋服のデザイナーになりたいって夢があったんだけど、結局叶わなかったのよね〜。だから、さ、家族に着せてみたいって気持ちがあるのよ。巳亞(みあ)の服のデザイン、ウチが考えたのよ」

巳亞とは、常に、あらあらうふふと微笑む、アルテナにとっては義理の姉にあたる女性の事である。今は仕事中で外出しているが、そろそろ帰ってくる頃合だ。

「そうだったの…」

「それでさ……早速着てみてくれない?サイズあわせとかしてみたいから」

「うーん、もうちょっとでご飯が出来るから、その後にお願いできます?」

「あ、そういえばそうだったわね。ウチうっかりしてたわ。じゃあ、また後でね」













夕食を終えたアルテナは、早速、母親が作ってくれた服に袖を通す。

上質のシルクの肌触りがとても気持ちいい。着ていて、欠片ほどの不快感も及ぼさない。糸のほつれも何も無い。この出来なら、しかるべき大会や、しかるべき場所に出品すれば、前者はまず上位にくい込むだろうし、後者では高値で競り合いが起こるであろうという事は、その手の知識に疎いアルテナでも十分に分かった。

「どう?サイズきつくない?」

「ううん、ぴったりよ」

実際その通りなのである。

「んっふふ〜。嘗てはその道を目指した人間をなめないで貰いたいわね〜。そうね〜。アルテナちゃんのスリーサイズは、ウチの目視鑑定によると…89/56/87!!普段のお洋服による補正がないから分かりやすくていいわ〜」

「なっ、ななっ……」

……実はアルテナには、嘗て、自分のスリーサイズというものが気になったことがあり、密かに計った事があった。

そして今、母親が告げた数値は、アルテナの測定数値とドンピシャで一致していた。

「はは〜ん、その目を見ると大当たりのようね〜。もしかして自分で図ったことがあったとか?」

「…うー、実はあるのよ」

流石は人生の先輩だけあって、全てを見透かされていると悟る。この人には敵わないなと、アルテナは素直に認めた。

「あっはは、アルテナちゃんて本当に分かりやすい子ねぇ。でも、だからこそ、いい子だと思うわよ。きっと、いいお嫁さんになれるんじゃない?」

「そうですか?」

「あるって、ウチが保障するよ。ところで、この服についてアルテナちゃんはどう思うの?ウチはとっても似合っていると思うんだけど…嬉しくない?」

「そ、そんな事ないよ!とっても嬉しいよ!お母さん!」

「おや!嬉しいこといってくれるじゃないのこの子はもう〜!」

アルテナと母親が、同時に笑い出す。

それは、アルテナにとって、久しぶりに表に出した、心からの笑顔だった。

胸の中では、嬉しい嬉しいという感情が踊っている。

大切な家族から貰ったこの服だけは何があっても手放さないと、アルテナは心に決めた。



















―――そして、その人達との幸せな暮らしは、ある日、突然失われた。

シティ・神戸が崩壊したその日、アルテナは1人、買い物に行っていた。その為、一旦家族と離れていた。

『私は―――マザーシステムを暴走させる』という、シティ・神戸崩壊の放送を聴き、アルテナは自宅へとむかった。

シティ市民は高揚状態に陥っており、誰もが、自分だけでも助かろうと、避難用エレベーターへと向かっていた。

アルテナは、避難用エレベーターへと向かう人々の波の中に、家族の姿を見つけた。

その真上に、避難用エレベーターへと向かう人々の波めがけて落ちていく、巨大な瓦礫の存在を目視で確認する。

心の中に焦りが生じた。家族を助けなくてはという思いから、アルテナは即座に行動を開始した。

I−ブレインを起動させ『身体能力制御』を発動し、アルテナのI−ブレインのスペックで使用できる最大の速度を用いて、家族の救出へと向かった。

現実時間にして3秒、いや2秒もしないうちに人々の波に激突するであろう、巨大な瓦礫との時間との戦い。

―――だが、現実は非常だった。

如何に『身体能力制御』といえども、家族の前に立ちはだかる人の波の隙間を完全に避けきる事はできなかった。

『存在透過』も併用したが、それでも、人々の波の隙間を完全に避けきる事はできない。そもそも『存在透過』は、あくまでもアルテナの熱量を下げる能力であり、アルテナという人間を構築する、体の体積はそのまま残る。とどのつまり『自己領域』のような、人々の波の隙間をくぐって移動できるような能力ではないのだ。

そして、コンマ3秒の差が、全ての運命を分けた。

アルテナの目の前で、巨大な瓦礫につぶされる家族の姿。

その光景を目の当たりにしたアルテナの口から何か言葉が出たが、人々の喧騒と驚きの声の波にかき消された。

アルテナの瞳から涙が零れ落ちる。同時に、心の中を、全てが終わったという虚無感が襲い掛かった。

自分の力では、家族を助けられなかったという現実を認識するのに、現実時間にして2秒の時を要した。

アルテナは、家族4人に対して、別れの言葉すら言う事が出来なかったのだ。

燃え上がる炎の中、涙でかすむ景色を前に、届くはずのない右手を伸ばして、喉の置くから搾り出すような声で家族の名前を叫んでも、その叫びは、誰にも届かなかった―――。
















シティ・神戸崩壊後は、数かに生き残ったシティ・神戸の住民達と共にシティ・神戸跡地付近のプラントに住む事にした。

たった1年とはいえ、家族と一緒に育ったシティ・神戸を離れる気には、どうしてもなれなかった。

それからシティ・神戸まで戻ったことがあったのは、たった一度だけ。瓦礫につぶされた家族の亡骸を取り出し、埋葬し、そしてお墓を作る為の時だった。

決して幸いとはいえないが、アルテナの家族に襲い掛かった瓦礫は、それほど大きなタイプではなく、しかも、あちらこちらに亀裂が走っていた為、アルテナの2本の白銀のナイフを用いた結果、1時間ほどで、物言わぬ屍となってしまった家族と再会できた。

全身が乾ききった血で真っ赤に染まり、腕や足など体のあちこちが欠損していた、生前の頃とは変わりきってしまった4人の体。

4人とも、胴体切断まで至っていなかったのは、本当によかった。

「―――痛かったよね。苦しかったよね……」

家族の亡骸を抱きかかえ、嗚咽と共にアルテナは涙を流す。

「なんで、こんな事になっちゃったのかな?どうしてみんな、あたしを置いていっちゃったの?」

心の中で湧き上がってくる感情を、堪えることなんてできなかった。

「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん―――会いたいよ」

もちろんそれは、今この場において、もう二度と叶わぬ願いだと分かっていた。けれど、それでも、アルテナは、その言葉を口に出さずにはいられなかった。

胸のうちを埋め尽くす悲しみという感情に身を任せ、服が汚れるのも構わず、アルテナは、家族の亡骸にすがって泣き続けた。














―――それが、アルテナという少女が歩んできた道だった。






















<To Be Contied………>















―【 キャラトーク 】―









ノーテュエル
「…これが、アルテナの歩んできた人生だったのね」

ゼイネスト
「ああ…中々に複雑な人生を歩んできたようだな。

ゼイネスト
「因みに、なるべくシンプルに読者に分かりやすく説明しようと思ったらこうなったらしい。ただでさえ、本作は厄介な専門用語や表現が非常に多いからな。」

ノーテュエル
「かえって飛ばしすぎな気もしないでもないけど……その辺は大丈夫かな?」

ゼイネスト
「大丈夫だと思っておくべきだ」

ノーテュエル
「いえてる」






「それにしても……アルテナ…いや、この場合は……母さん、というべきなんだろうな。本編ではまだ再会を果たしていないが……。母さんの心の中は、とても複雑なんだろうな……」

ヒナ
「論……」


「オレに、いや、厳密にはオレと由里に会いたくて、でも、母さんは大変な罪を犯したから、オレ達の前に姿を見せることが出来ないって……そんなの悲しすぎるよ母さん。自分が生み出した魔法士に会えないなんて…。オレは、きっと、そんな事気にしないのに……」

ヒナ
「会いたいのに、会えないんです…でもこれは、アルテナさんが自分の罪を省みての結論だから……全ては、アルテナさんが自分で決めるしかないんだと思います……誰か、アルテナさんに、論や由里さんに会いにいくように言ってくださる方がいればいいのですけど……」


「そして、シティ・神戸でやっと手に入れた平穏は、シティ・神戸の崩壊によって全てが壊されてしまった……」

ゼイネスト
「まさに波乱万丈の人生だな……生まれてすぐに生み出してくれた科学者を亡くして、すぐに第三次世界大戦に参加させられて、その後も、色々と苦しい思いをして……正直『ライフリバース計画』の事実を知った時は、俺はアルテナに対して怒りを覚えたが……これでは、どうやって怒りをぶつけたらいいかわからない!誰かアルテナを救ってくれるやつはいないのかって思ってしまう……」

ノーテュエル
「アルテナって本当は、とてもかわいそうな人なのかもしれないね」











「それで、次回は……『そろいつつある役者と手筈』か…」

ヒナ
「厳密に言いますと、ハーディンさんのお話ですね」

ゼイネスト
「ハーディンとサクラ、この二人の戦いの結末はどうなるんだ…!?」

ノーテュエル
「『誰かを救いたい』っていう思いは同じなのに、シティと『賢人会議』っていう『縛り』のせいで、ハーディンもアルテナも戦わなくちゃいけないのよね……でもさ、もし、シティと『賢人会議』っていう『縛り』がなかったら、きっと、この2人は…」


「イルと同じだな。シティと『賢人会議』などというわだかまりさえなけえば、分かり合えるはずの2人なんだから……」

ヒナ
「ではでは、今回はこの辺で」

ゼイネスト
「だんだんと伏線が回収されてきたこの物語の結末まで、お付き合いいただければ幸いだな」


























[作者コメント]

以上、アルテナの過去の全てが明かされたお話でした。

かなり一気にまくしたてた感は否めないかもしれませんが、これをゆっくりと説明していると何時まで経っても終わらないので^^;

ゴスロリ服を着ている理由は、母のプレゼントだからという事は、かなり前の話で明かされており、今回の話で裏づけをすることができました。

…正直、結構無理があるかもしれませんが、私の脳ではこれが限度でした(苦笑)。

いや、でも実際、家族からのプレゼントって大事にするのじゃないかって思うんですよ。

それが、今ではいない人が作ってくれたものであれば、特に。




それでは、また次回に。












<作者様サイト>
Moonlight butterfly


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