FINAL JUDGMENT
〜繋がりが明かされる時〜



















シティ・ニューデリーの一角において、1人の少年と1人の少女の戦いが繰り広げられていた。

少年の名前は天樹錬。少女の名前はアルテナ・ワールディーン。

片や、大切な人がマザーコアにされるのを防ぐ為に、アルテナと戦わなければならなくなった少年。

片や、自分の住む場所と家族の命に加え、大勢の人間の奪った少女に対し、身勝手かつ傲慢だと分かっていながらも、最後の審判を下す為に、フィアという、錬にとって大切な少女をマザーコアにさせるべく、天樹錬と戦う少女。

互いが、絶対にかみ合わない意見の元、ぶつかりあう戦い。

……無論、互いに、心の中にわだかまりがあった。

錬は、自分の行動に、目の前の女性の人生を狂わせてしまった部分があったのだと、目の前の女性の言っていることはある意味では正当なものなのだとわかっている。

アルテナは、フィアが死んでも、失ったシティ・神戸も、死んでしまった家族も帰ってこないと分かっている。だから、それよりは錬やフィアを許してあげるべきなのかという考えも少なからずある。

しかし、そのわだかまりがあったとしても、それでも、心の中では、優先すべき考えが、決意がある。

だからこそ、互いに譲れなかった。

だからこそ、互いに、負けるわけには行かないと思っていた。

そして、互いに、この戦いにおいて、自分の意思を100パーセント信じているわけでもない、複雑な思いが交錯した戦い。












【 + + + + + + + + + 】














(―――この子を気絶させれば終わるわ……だから!)

両手に握り締めた白銀のナイフを左右同時に構え、アルテナは地面を蹴る。狙いは錬の首の後ろ、すなわちうなじのあたりだ。そこに、ノイズメイカーを差し、錬のI−ブレインの機能を停止させて、後は当身かなにかで錬の意識を奪えば、錬が目を覚ます頃には、うまくいけば、フィアはすでに錬が取り返せない場所へと連れて行かれているはずだ。或いは、即、マザーコアにされているのかもしれない。

また、それとは別に、アルテナには、とても個人的な感情でだが、錬の命を奪いたくないという確かな意思があった。その理由は、アルテナ自身がよく分かっている。

この場でのアルテナの目的は、目の前の少年の意識を奪うことであり、命を奪う必要まではない。そもそも、フィアがマザーコアにされた時点で、アルテナの憎しみは消えるかもしれない。罪悪感だけは、一生ついてまわるかもしれないけど、それでも、アルテナはやろうと決めたのだ。

そもそも、目の前の少年は、世界でも最高峰の実力をもつ『悪魔使い』と呼ばれる第一級カテゴリの魔法士だ。そんな魔法士相手に、アルテナ1人で勝ちを拾えると思えるほどうぬぼれてなどいない。

必要なのは『相手を打ちのめした勝利』ではなく『相手に行動させない勝利』だ。

そも、魔法士戦闘とは、一般の人間が瞬きひとつする間という、まさに刹那の間に終わるものだ。基本は所謂『一撃必殺』であり、余程実力が拮抗している場合を除き、最初の行動で全てが決まる。読み勝てば勝利、読み負ければ敗北という、非常にシンプルかつ分かりやすいルールの元、魔法士戦闘の基本論理は成り立っている。

そして、特殊カテゴリの魔法士『暗殺者』であるアルテナならそれができるはずだと、心の中で強く思い、アルテナは行動している。無論、大きな不安もまた、同時に存在しているのだが、すでにここまで来てしまったのだ。今更、引き返せるわけもない。心で負けたらその時点でアウトだと言い聞かせ、アルテナは疾走し、少年との距離を縮める。

『暗殺者』―――それは、10年前、第三次世界大戦時に設立されたアルカナ・リヴァイヴァーという組織に生み出された、特殊系の魔法士。世界で只一人、アルテナだけがこのカテゴリにあたる。

言うなれば『自己領域』と『痛覚遮断』と『情報解体』を使えない騎士。つまり、使えるのは『身体能力制御』だけだ。だが、それでも、運動係数はよくて30倍、知覚係数は60倍が限度である。それ以上の速度を出した場合、アルテナへの体への負担が激しい為に、自動でリミッターがかかるようになっている。

これだけを聞くと、今では『賢人会議』という組織に所属する『双剣使い』に似ているように思えるかもしれないが、アルテナの場合は、2本1対の白銀のナイフそれぞれに情報回路が組み込まれており、2本のナイフを用いることにより、ようやく最高速度である30倍の運動係数を引き出せる仕組みになっている。因みに、片方だけでは15倍ほどしか出せない。2本を同時に使用しての30倍という数値だ。

どうしてこんな面倒な仕組みになっているのかは―――『暗殺者』の特権としての能力として使用できる『存在透過エクステンスペネトレイション)』という能力の為に、デバイスの容量をかなり割いたから、と、アルテナをこの世に生み出した科学者は言っていた。

『存在透過』―――それは、自らの体内の熱量を、現実時間にしてほんの1秒だけ、生命稼動が維持できるぎりぎりまで下げて、高速で相手に接近する能力だ。

周りの熱量よりもアルテナ自身の熱量を圧倒的に小さくすれば、周りの熱量の大きさからアルテナの熱量を見えづらくする事が出来るという原理を用いている。

また、アルテナのI−ブレイン自体が非常に特殊なプログラムを組まれており、I−ブレインが稼動していても、よほどの近距離で無い限り、騎士の索敵などに引っかからないという特性を持つ。

さらに、第三次世界大戦の中アルテナは、必ず、同一シティに所属する他の魔法士達と団体を組んで行動していた。何故なら、他の魔法士と一緒に行動する事により、他の魔法士の熱量のおかげで、アルテナの熱量および存在が、敵方の魔法士にとって非常に感知しにくいものになるからだ。

さしずめ、木を隠すなら森の中の原理。他の魔法士が敵方の魔法士と交戦し、敵方の魔法士が、目の前の味方の魔法士に意識を集中させている間に、隙をついたアルテナが敵方の魔法士を絶命させ、一瞬の隙の間にはすぐさま別の魔法士の位置へと移動している為に、敵方の他の魔法士にとっては『相手の攻撃で味方が倒された』という風に見える。

言うなれば、多数の味方の陰に隠れての不意打ちだ。まさに暗殺者の名に恥じない戦法である。

10年前、生きる為には仕方がないとはいえ、そうやって、アルテナは多くの命を奪ってきた。綺麗も汚いも何もなく、ただ、勝利することだけを求められた現実を前に、アルテナは戦ってきた。

血でぬれる服、血でぬれる武器、血でぬれる死体、赤く染まりあがる世界。常識で考えれば異常と呼べる世界が、あの時代では正常ともいえた。

ともすれば発狂しそうになるのを必死でこらえて、命を1つ奪うたびに、心が強く軋むのにも必死で耐えて、1日1日を必死で生きてきた、文字通りの生死を隣りあわせとした戦場だった。

殺したくなんてない、でも、殺さなければ殺される。ただそれだけしかなかった世界。

アルテナが殺さずに済んだのは、10年前の第三次世界大戦では、I−ブレインの記憶をフル稼働しても、1人だけしかいなかった。

―――だからこそ、この戦いにおいては、アルテナ自身の手で命を奪うまでの事はしなくてもいいのだ思うと、少しは気が楽になった。














錬との距離は、戦闘開始前から既に縮まっていた。

魔法士同士の対決であれば、両者が疾走を開始した時点で、現実時間にして1秒たりとも必要とせずに勝負が決まる。

(『存在透過』発動)

I−ブレインが抑揚のない声で告げる。

一瞬だけ、目の前がゆらぐ。これは、『存在透過』の発動による、体内の熱量の低下によるリスク。

人間は、体温が極端に下がると、極度の寒冷状態により、低体温症と呼ばれる症状が発生することがある。

だからこそ『存在透過』により、自らの体内の熱量を、ほんの数秒だけしか下げられない。あまりにも長い間、低温状態が続いてしまっては、生命活動に多大な影響が出てしまい、最悪、死に至るケースも存在する。

そして、この場には、フライヤー発着場ゆえに、周囲には、ごうんごうんと音をたて、絶えず稼働し続ける機械がある。当然ながら、それらが発する熱量は、かなり大きなものとなる事は容易に想像できる。

アルテナは最初からそれを狙っていた。高温で稼働し続ける機械があれば、アルテナの『存在透過』の使用条件にはこれ以上ないほどふさわしい。

狙いを誤らない為、アルテナは、目の前の少年の動きに意識を集中させている。

しかし、そこでかすかに気になることがあった。何の心算か、錬は目を閉じて、四肢をぶらりとだらしなく下げて無の構えを取っているのだ。

錬は動かない。動こうともしない。

その態度にかすかな違和感を覚えたが、アルテナにはそんな事を気にしている余裕はなかった。迷いは人の判断を鈍らせる。迷うくらいなら、行動するべきだと自分に言い聞かせる。

周囲の高温にまぎれ、4ナノセカントの時間をおいて、アルテナの姿は錬の背中に出現する。

(―――これで、終わりっ)

アルテナは、白銀の刀身のナイフを握り締める手に力を込める。

同時に、ポケットからノイズメイカーを取り出す。一度着用させれば、外部から取り除かない限り、絶対に外せない強力なタイプだ。主な用途としては、シティの捕虜への尋問に使われると聞いたこともある。

(あたしの、勝ちよ)

ナイフを握りながらもノイズメイカーを右手の指の間に挟み、無防備な錬のうなじ目掛けて、全力でその右手を振り下ろし―――、

















―――ガキィン、という鋭い音と共に、アルテナが振り下ろしたナイフが、いつの間にかこちらへと振り向いていた錬のナイフに受け止められていた。


















(嘘っ!?仕留められなかったのっ!?)

―――I−ブレインによる脳内シミュレートでは、アルテナの勝利は揺るがないはずだった。

だからこそ、アルテナは、目の前の現実を現実と認識するのに、少しの時間を必要とした。

予測していた『勝利』している筈の自分の姿はそこにはない。それすなわち、錬を一撃で仕留めることが出来なかったということだ。

(どうしてっ!?完全だったはずなのにっ!?)

理解できない現実が、今、目の前にある事に、ようやく気づいた瞬間、アルテナは目を見開く。その顔は、驚きに染まっていた。

そう思った次の瞬間には、錬が動く。空いている方の左手を、振り払うように薙いだ。

一瞬の間をおいて、アルテナの目の前に、今まで存在すら確立されていなかった数本の氷の槍が出現し、アルテナ目掛けて襲い掛かってくる。

刹那の間、どうしようかと悩んだ末に、氷の槍がアルテナを貫かんと襲い掛かってきたので、2本のナイフで応戦する。

2本のナイフが嵐のように乱舞する。アルテナのナイフが持つ純粋な破壊力によって無数の破砕音が響き渡り、全ての氷の槍を、小さな氷の粒程度まで砕く。

地面に落ちた氷の欠片は、周囲の熱量に負けてか、現実時間にして3秒を待たずしてすぐに空気へと霧散した。

ひとまずの危機を回避し、アルテナは小さく息を吐く。

錬からは、それ以上の追撃は来ない。

だが、それよりもアルテナの心の中には、もっと違う不安がよぎっていた。

それは、どうして、初見の筈の天樹錬が『存在透過』を使用しての不意打ちを見抜けたのか、というところに集約されていた。

冷や汗が一筋、頬を伝う。

現在、錬は動かない。ただ、その瞳には、確かな『戦いの意思』がある事が、5メートルほど距離を離したここにいても理解できた。

『存在透過』による不意打ちを破られた今、アルテナにはどうやって次の手を打つべきなのかが分からない。何故なら、アルテナは、今までの人生における戦いにおいて、たった一度の例外を除き、戦ってきた相手を一撃で葬ってきたからだ。

『身体能力制御』と『運動能力制御』はかろうじて使えるが、それだけで目の前の少年から戦闘の意思を奪うことは出来ないだろう。

故に、アルテナは動かない。こういった状況下において、うかつな対応は死を招くと分かっているからだ。

錬の対応を見てから行動するという、完全な後手にまわってしまったことを痛感しながらも、次にどうなるのかを待つしか、アルテナには出来なくなったという訳だ。

だが、この状況が悪いとは思わない。寧ろ、時間稼ぎとしてはプラスの方向へと傾いている。

現在、アルテナがいる場所は、フライヤーの発着場の入り口。錬に『存在透過』による不意打ちが通じなくて、逆に氷の槍によるカウンターを貰い、その氷の槍を破砕しながらも、アルテナは、戦闘開始と同じ位置まで戻ってきていたのだ。

(さあ、どう来るの、天樹錬……そう、あの子オリジナルであるあなたは!!)












かつての経験がここで活きた事に、錬は安堵の息をつかざるを得なかった。

無論、急いでアルテナを退かせなければ、フィアを助けるのが遅くなってしまい、最悪のケースになってしまうという危惧もまた、心の中で渦を巻いている。

だが、錬は焦らない。焦ってしまってはアルテナの思うつぼだと判断している。

これほどまでに大変で、刻一刻を争う事態だというのに、今の錬は、心が研ぎ澄まされたかのように鋭い感覚をもって、戦いに挑めている。

そうしなければなにもできない。フィアを救うこと、アルテナを殺さずに退けること。その両方を同時に成し遂げなくてはならないと分かっているからだ。

アルテナの話が本当ならば、アルテナの家族を奪うことに関与してしまったのは、他ならぬ自分とフィア、そして、今は故人である七瀬静江。だから錬には、アルテナを殺すことが出来ない。そんな事をしてしまえば―――。

I−ブレインの索敵制度を上昇させ、目を瞑り、周囲の気配の変化に、意識を完全に集中させる。

その中に一点、かすかな、本当にかすかな、よほど注意しなければ感知できない熱量がいきなり具現化する感覚を確かに感じた。

迷う事無く、錬は自分のナイフをひゅん、と背面へと振りかざす。

キィン!という鋭い音と共に、錬のナイフとアルテナのナイフとがぶつかりあった。

そう、錬はこの能力に見覚えがあった。だから、錬はその時と同じ対応をとったのだ。そして今回、その読みが的中した。

アルテナの熱量が異常なまでに低下した時に『まさか』と思ったが故の行動だったのだが、結果的に読みは的中したわけであった。

錬の人生の中で、とある理由から対峙した、ただ1人の少年だけが使用してきた能力。

彼自身の熱量をぎりぎりまで下げて、高速で自分に接近し、次の瞬間には、彼という魔法士を構成する肉体を一瞬の間だけ原子分解して、一瞬が経過した後に再び肉体を再構築する。

故に、嘗ての戦いでは、錬からすれば、論が何も無い空間から現れたように見えた。

周りの熱量よりも彼自身の熱量を圧倒的に小さくすれば、周りの熱量の大きさから論の熱量を見えなくする事が出来る。これにより、こちらからは視覚面での彼の姿を感知しにくくなる。

さらに、相手が錬より大きな熱量を持つ攻撃を振り回していれば、その攻撃で発生する熱量のお陰で十二分なカモフラージュを行えるという能力。

『自己領域』と違い、相手の近くに居ても相手を巻き込まなくて済む能力であるが故に、下手をすれば接近に気づくことができずに絶命に追い込まれる可能性も十分にあった。

その相手の名前は、自分と同じ姿で生み出されたがために、世界中の賞金稼ぎから追われ続け、狙われ続け、そして、そいつらを撃退してきた『錬と同じ姿をした』少年―――天樹論

論の能力の正体は、論自身の体を構成する皮膚などの元素配列を分子レベルにまで変換して移動した後に再度実体化して攻撃するというものだった。

通常、生命活動を続ける以上、常に熱量というものを纏う。だから、熱量を完全に消しての行動など、生物学的にも物理学的にも出来るわけがない。たとえ物理法則すら読み解くI−ブレインを持ち、慣性の法則すら無視する魔法士だとしてもだ。

だが、論は熱量を破棄したわけではなかった。

熱量は確かにある。但し、それは非常に微弱な形で、だ。

周りの熱量よりも論自身の熱量を圧倒的に小さくすれば、周りの熱量の大きさから論の熱量を見えなくする事が出来る。これにより、少なくとも視覚面で論の姿を感知する事は出来なくなる。

さらに、強大な熱量を持つ攻撃があれば、その効果はさらに高まる。

あの時はミリルという少女の風…『無限の息吹インペリアル・ブレス)』などといった攻撃があったため、その熱量が相当なものとなっていたのも覚えている。

故に、論の熱量を『無限の息吹インペリアル・ブレス)』の熱量以下に設定すれば、熱量で論の気配を悟られる事がない。『無限の息吹インペリアル・ブレス)』の熱量が大きすぎて、論の熱量が隠れる形になったのだ。

後は、論自身の体を構成する皮膚などの元素配列を分子レベルにまで変換して論の姿を消せば、錬達にとっては、論が完全に消えたかのように認識させられた記憶は、いまだに脳に残っている。

その能力の名を、論は『極限粒子移動サタンディストーション)』と呼んでいた。

あの時気づくことが出来たのは、本当に幸いだといっていい。

加えて、以前の戦いの経験からこの技の前に『短期未来予測デーモンラプラス)』はその役目を果たしにくいことも知っている。だから今回は安易に『ラプラス』を使わなかった。積みに積み重ねた勘と経験における判断は、時においてなによりも正しいものとなる。

あの時の経験があったからこそ、今、錬はこの場において、錬はアルテナの動を先読みして攻撃を防ぐことができたのだ。

そして今、アルテナは、これに似た、というよりはほぼ同じ能力を使ってきた事が、この場で明らかになった。

その後は『氷槍』を発動し、アルテナとの距離を離した。もちろん『氷槍』に関しては、生成する本数はかなり少なめにしておいた。そして、錬は、アルテナの腕や足を狙って『氷槍』を飛ばした。万が一、アルテナが『氷槍』による攻撃を防げなかったとしても、致命傷を防ぐ為の箇所を選択したという訳だ。

アルテナとの距離が離れ、次にどうするべきなのか、どうすればアルテナを傷つけずに戦闘能力を奪うことが出来るのかと、I−ブレインの演算機能に『次にどうするべきか』を一任する。

(……でも、今の能力……もしかしてこの人は、論と何か関係があるの?)

それとほぼ同時に、錬の脳裏に浮かんだのは、そんな考えだった。

常識的に考えても『ディストーション』のような、常識を逸脱した能力を使える魔法士が、そこんじょいらにポコポコ存在する訳がない。可能性としてありうるのは、目の前の少女が、論の関係者なのではないのだろうかという考えだが、それはあまりにも単純すぎる。

(でも、気になる……どうしてか、気になるんだ)

「……どうしてあんたが、論の能力にそっくりな能力を使えるんだ!?」

心の声が口を突き動かしてしまったのか、錬は、気づかぬうちに、それを口に出していた。

……口に出してから、やってしまった、と思った。天を仰ぎたくなったが、さすがに戦闘中にそのような行為は自重する。

しかし、そんな事をしても、特に影響はないだろう、と錬はすぐに考えを切り替える。殆どの場合が『論って誰?』『こいつは何を言っているの』と思ってくれるはずだからだ……もっとも、いざそう言われたら、精神的に結構なダメージを受けるのは避けられないところではあるのだが。

――――しかし次の瞬間、錬が予測だにしなかった光景がそこにあった。















「……え?今『ろん』って言った!?じゃああなた、論に会ったのっ!?教えてっ!あの子は今、何処にいるの!?」













――――アルテナの反応が、目に見えて激変した。

まるで懇願するような表情で、アルテナが錬に問うてきた。

一瞬、予期せぬ流れに、I−ブレインの演算機能に一任した『次にどうするべきかという選択肢の決定』すら止まってしまうかと思った。

自分が脳内で思ったことが、そのまま的中するという、偶然にしてはあまりにも出来すぎた事態。いくらなんでも、この流れは予測できなかった。

だがそれも一瞬の事、錬は頭を振り、思考をクリアにし、その状態で口を開く。

「……先に言っておくと、その『論』って子は『天樹論』でいいんだよね」

はっ、と、はじかれるように顔を上げたアルテナの顔が青ざめていく。それはまさに『図星』だという事を体現している事に他ならない。

「―――その通りよ。それでいて、黒い服に身を包んでいて、日本刀を所持していなかった?」

「まさにその通りだね。僕はつい数ヶ月前、その条件と一致する人物と出会ったんだから……だから、教えてほしいことがあるんだ。あなたが今使ってきた能力は、その論って人が使ってきた能力に物凄く似ている。そしてあなたは、論っていう魔法士を知っている……僕には、それが偶然だとは思えないんだ。ねぇ、これってどういうことなの?」

……この時点で、錬の脳内には『とある予測』が浮かんでいた。

―――そして、次の瞬間、その『とある予測』は、ものの見事に的中することとなる。

「―――だって、論は、天樹論は……」

泣きそうな声で、アルテナは告げた。


















「……あたしが生み出した魔法士だから。今から3年くらい前に、あなたに依頼を申し込んだ時に、あなたの髪の毛を一本、こっそり頂いたの。そして、その髪の毛を元にして生み出したのが、論なのよ―――」


















―――そしてアルテナは、錬に、全てを話し始めた。






















<To Be Contied………>















―【 キャラトーク 】―









ノーテュエル
「…………ねぇゼイネスト」

ゼイネスト
「なんだ?言いたい事は大方想像がつくが」

ノーテュエル
「これ、どういうことよ…なんで、私達に『狂いし君への厄災』や『殺戮者の起動』を埋め込んだ張本人であるアルテナが、論を作ったって事になってるわけ?」

ゼイネスト
「考えてみろ、アルテナにはあれだけの科学力があったんだ。そう…『記憶回帰計画』や『ライフリバース計画』を考案し、実行するほどのな。なら、魔法士を、それも、論ほどの化け物クラスを生み出せるのも納得がいく」

ヒナ
「ば、化け物ってなんですかっ!論は化け物なんかじゃないです!」

ゼイネスト
「おわっ!何時の間に!?ま、まぁ、気を悪くしたんなら謝るが……」

ノーテュエル
「論を化け物よわばりしたせいね…うーん、それにしても、論の悪口に反応してここまでこれるなんて……愛のなせる技だわ」

ヒナ
「あ、愛…それって、わたしの、論への……」(顔真っ赤)

ノーテュエル
「あ、照れてる。やっぱりそういう台詞には弱いのね。それにしても……可愛い〜♪」

ゼイネスト
「くれぐれも手は出すなよ」

ノーテュエル
「出すか―――ッ!私にそっちのケはないわよっ!」









ヒナ
「アルテナさんの能力……論の『ディストーション』とほとんど一緒でびっくりしたです」

ノーテュエル
「私もそれにはびっくりしたなぁ」

ヒナ
「でも、アルテナさんが論を生み出したっていうのなら、殆ど一緒の能力を使えることに対しても納得できます」

ゼイネスト
「しかしなんだな。こうしてみるとアルテナは、『記憶回帰計画』や『ライフリバース計画』に関わっていただけじゃなく、論の……そして、おそらくだが、由里の作成にも関わっていた…そういう事なのか?」

ノーテュエル
「最初に登場した時は、ただのゴスロリ服着ただけのキャラかなって思っていたけど、ふたを開けてみたら全然違う要素が入り混じっていたわよね。ただのゴスロリ服女性どころか、ある意味物語の中心にいるキャラじゃない」

ゼイネスト
「そして、次の話では、アルテナがどのような人生を歩んできたかが明かされるわけだ。ここまで来てようやく全貌が明かされてきたな」

ノーテュエル
「ん、そうみたいよね。じゃあ、そろそろ次回予告かな。ヒナヒナ、お願いー」

ヒナ
「…一応言っておきますと、そう呼ばれるのは嫌いじゃないです。はい。
 では、次のお話は…『アルテナ・ワールディーン』です」


























[作者コメント]

論の製作者がようやく明らかになったお話でした。

唐突とか言われるかもしれませんが……一応、あちこちに伏線は張り巡らせておいたので、作者的にはそれほど唐突でもなかったり。

まぁ、この後で一気に伏線を回収しまくる予定ですから、それこそ唐突といわれかねませんがw



詳しい話は、次のお話で全て明かします。

1人の少女の物語を、どうぞごらんあれ。










<作者様サイト>
Moonlight butterfly


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