マザーコアの交換を阻止しようとしたサクラとの戦いを痛みわけで終わらせた錬は、安全を確認した後に、帰りを待ってくれている筈のフィア(とルジュナ)の元へと真っ先に駆けつけた。
だが、その直後に、錬は、この場にいる筈の人物がいない事に気づく。
「――ルジュナさん、フィアは!?」
そう、錬がよく知る金髪の少女の姿がないのだ。
「…錬君、よく聞いて」
静かな声。ルジュナの表情は暗い。
それだけで錬は、何かがあったというのを即座に理解した。
続いて、ルジュナから、何があったのかを聞かされる。
マザーコアの交換が正常に終了したこと。その直後に、フィアが何者かにさらわれたという事。ルジュナが、何もできなかったという事―――。
ルジュナの話を聞き終えた錬は、マザーコア内部へと目を向ける。
マザーコアの交換は正常に終了した証拠に、部屋の中央には2つ並んだ生命維持層がある。1つは、過去10年間、このシティ・ニューデリーの市民の安穏な生活を支えていた魔法士―――アニルとルジュナの父親のもの。
そして、新しいほうのガラス層の中には、アニルの穏やかな顔。
もうどんな感情もなく、喜ぶことも悲しむこともせず、何かを嘆く事もない。
世界の行く末を憂うことも、人々の争いに心を痛めることもないその姿。
安堵のような、虚無のような、よく分からない感情が胸によぎった。
「……私を、責めないのですね」
「……ルジュナさんのせいじゃない。だって、相手は魔法士だったんでしょ?だったら、I−ブレインも何も持たないルジュナさんが、その人に反応できるわけがないよ」
「そういってくれると、少しは楽になりますね…錬君、君はこの後は、やはり……」
「もちろん、フィアをさらったっていうその人の後を追うよ。魔法士が税関を抜けるとは考えにくいから、まだ、このシティ・ニューデリーの内部にいるはずだ」
心の中では今すぐにでも駆け出したいところなのだが、その感情を理性を用いて押さえ込む。
(今焦ったって何にもならない。落ち着け、落ち着くんだ天樹錬……)
目を瞑り、必死に己に言い聞かせる。
「……ええ、あの子は………あ」
しまった、という顔をするルジュナ。だがもう遅い。その不自然な「あ」という言葉に気がつき、錬ははっとしてルジュナの方へと振り向いた。
「――まさか、ルジュナさん、フィアの正体を知っているの?正直に答えて!」
ルジュナは一瞬、息を詰まらせたが、すぐに、諦めたようにゆっくりと首を振り、静かに告げた。
「――――シティ・神戸のマザーコアでしょう。あの子が自分から兄さんと私にそう告げました……ですが、私は彼女をマザーコアにしようなどとは思いません」
しばしの沈黙の後、錬は口を開いた。
「……その台詞を聞いて安心したよ」
「信じてくれるのですか?」
「少なくとも、あなたは信じるに値する人だと僕は思ってるからね。それに、あなたは魔法士をマザーコアにすることに関しては、物凄く反対してたから、過ちを繰り返さないって思っているはずだ……それじゃあ、僕はそろそろフィアを助けにいくよ。それで、そいつは、一体どんな格好をしていたの?」
「本当に一瞬でしたので、私もほとんど確認できなかったのですが…青いフードを被っていたことだけは確かだったと思います。去っていった方角は……確か、北のほうだったかと……」
錬が指差した方向に対し、ルジュナが無言で頷いたのを確認した後に、錬はルジュナに背を向けて走り出した。
その顔には、今まで隠していた焦りの感情がありありと浮かんでいた。
(…どうして……フィアが!?いや、余計な事は考えるな僕……!)
「さて、この辺でいいかしら」
フィアが名前すら知らない、その人物は、両腕で抱えていたフィアを地面に下ろした。何の変哲もないコンクリートの大地に足がつく感覚を確かに感じる。
脳内からは何の反応も返ってこない。うなじにささった黒い小さな物体―――ノイズメイカーが、I−ブレインの稼働を阻害しているからだ。
無論、フィアとて、名も知らぬ女性に連れられている間、何の反撃も講じなかったわけではない。連れ去られたと認識した直後、フィアの最大の武器である『同調能力』で反撃を試みたのだ。
(『同調能力』発動)
体が小さく揺れる中、大きく深く息を吸い込み、フィアは天使の翼を広げる。
闇色の空気を光で満たし、心の内に世界を取り込む。効果範囲を2メートルに設定。対象空間内の全存在情報をI−ブレインの記憶領域に転写。物質、空間、生物、無生物―――光の翼が空間を駆けていき、届く限りの全てを情報として脳内に再構築し、対象と自分の間に『完全なリンク』を確立する。
(『空間の同調支配』に成功)
たとえマイナス50度の凍えた大気も、秒速30メートルの突風があっても、フィアが望めば、それは春のそよ風へとその姿を変える。
数値演算によって動作を細かく定義された普通の魔法士の能力とは違い、全てを感覚のレベルで処理する『同調能力』のI−ブレインは複雑な命令を必要としない。大気運動の制御も重力の書き換えも、フィアにとっては指を動かすのと同じくらい簡単なこと。意のままにならないものは何一つ存在せず、あらゆる定義が五感の定義で認識できる。
ただし、あらゆる情報構造体を意のままにする同調能力も、決して万能というわけではない。人間や人工知能などの『高速で思考する物体』を取り込むには、それなりの脳内容量を必要とする。
通常の空間や無生物の存在情報ならほぼ無尽蔵に制御できるが、人間が相手ならたとえそれが魔法が使えない一般人でもせいぜい20人が限度。その上、特殊なデバイスを使ってあらかじめ目標物を設定しておかないと、能力の効果範囲は自分を中心にした球状に広がってしまう。当然、敵だけを選んで支配するなんて器用なことも出来ない。
とどのつまり、人の密集地帯に対し下手にI−ブレインを起動すると、『同調能力』は周囲の人を無差別に取り込み、勝手に容量不足による機能停止を引き起こしてしまう。最も、この場合、取り込む相手は目の前の女性1人だけなのだから、この事を気にする必要はない。
『フィアの力は物凄く強いけど、同じくらい物凄く不器用だから気をつけてね』
そういって、黒髪の少年はいつもフィアの事を心配してくれる少年のもとへと帰る為の、フィアにとっての『戦い』。
そして、フィアは天使の翼の力を解放し、目の前の女性の精神を自分の支配下に―――置く事が出来なかった。
(そんな…事って)
ありえない、という顔で、フィアの顔に怯えが浮かぶ。
周囲の情報は確かにそこに人間がいることを示しているのに、いくら探っても何も見つからない。
論理構造の破綻にI−ブレインがエラーを起こし、同調支配が弱まる。
目の前の女性の精神に入れない。それどころか『同調能力』は、目の前の女性の存在を存在として認識してくれない。以前に数回ほどあった現象が、ここでも起こっている。
「……その天使の羽は『同調能力』の発動の証でしょう?残念だけど、あたしに『同調能力』は効かないわ。あたしのうなじのあたりを見てもらえばその理由は一目瞭然よ」
「えっ!?」
名も知らぬ女性が、疾走しながらフィアへと語りかけてきた。
『同調能力』を使っているという心のうちを見透かされ、フィアは、はっ、と顔を上げる。
目の前の女性は、長い水色の髪の毛を左手でまくしあげている。そのうなじに、小さな、黒い何かが差し込まれているのを確認した。
「―――どう?これで分かったでしょう?これね、対『天使』用の特殊デバイスなの。シティ・ニューデリーの昨日の戦闘記録にハッキングしたところ『同調能力』が使用されたって記録がかろうじて残っていたから、それを確認したうえで、あたしは対策を練ったの。そして、この場で援軍を呼ばれても厄介だから……ちょっとチクってするけど、我慢してね」
今まで髪をかきあげていた左手を下ろし、マントの中をさぐって、その手に黒い小さな端子を掴んだ女性は、疾走を続けながらも、フィアの首元へと手を伸ばした。
「痛っ」
うなじに、ちくんとした感覚。それと同時に、I−ブレインの反応が一切返ってこなくなる。
うなじに刺されたのがノイズメイカーだと、一瞬で判断した。
すなわちこれは、もとよりノイズメイカーの支配下では一切の能力が使えないフィアの反撃手段が完全に封じられた事を意味する。
目の前の女性の準備のよさに、フィアはただ、どうしようどうしようと考えるしかなかった。
そもそも、おかしいのだ。『天使』がシティにとっての動力源となるなら、なんとしてもその力を手に入れたいと思うはず。ならば、例え大量の軍の人間を動かしてでもフィアを確保しに来るはずだ。
しかし目の前の女性は、たった一人でここまできた。それはつまり、フィアの能力の事を全て知っていて、予測できる限りのあらゆる事に対して対策を練れていたからではないのだろうか。
(―――この人は、一体…どんな人なのですか?)
フィアの疑問に、答えてくれるような存在は、何1つ、誰1人としてその場にはいなかった。
シティ・ニューデリーの町の隅、殆ど人気のない場所で、フィアは名も知らない女性と2人っきりになっていた。
その女性は、全身をフードとマントで覆っており、ぱっと見ただけでは性別も分からない。だが、その声や喋り方が間違いなく女性のそれであったことから、フィアは目の前の人物を女性と判断した。
2人しかいない理由はすぐに分かった。何故なら、今現在、シティ・ニューデリーの至るところでは、シティ・ニューデリーのマザーコア賛成派と反対派との間で抗争が起こっており、人が密集している以上、人がいない場所というものがどうしても出来る。目の前の女性は、それを狙って、フィアをここまで連れてきたのだろう。
そして、フィアをここまで無理やり連れてきた目の前の女性は、現在、フィアと対峙する形で立っている。
最も、目の前の女性が魔法士だという事は、最初に見せた、ありえない速度での高速移動の件で既に予測がついている。魔法士でなければ、生身の体で、あそこまでのスピードを出せる訳がない。それに、息1つ切れた様子も見せない。
「―――さて、単刀直入に聞かせてもらうわ……『天使』ってことは、あなた、シティ・神戸のマザーコアでしょう?」
「っ!」
どきっ、と心臓が高鳴り、エメラルドグリーンの瞳が大きく見開かれる。
フィアはいやいやをするように首を振りながら後ずさりする。だが、その背中がビルの壁にぶつかる。これ以上の後退は出来ない。
さらに、この地形、周囲をビルに囲まれており、目の前の女性が立ち尽くしている、人1人が通れそうな箇所以外、もう逃げ道は無い。
(この人は、私の事に気づいてる……)
だが、おとなしくそれを認めてしまっては、目の前の女性の思いどおりになってしまうと判断したフィアは、一瞬、思考をめぐらせた後に、つきたくない嘘をつくことにした。
「そ、そんなことな……」
「嘘はよくないわね」
少し小さな声で口に出したフィアの反論は、女性がぴしゃりと告げた一言で完全に否定された。
何を言っても斬捨てられるという事が、一瞬で理解できた。
(やっぱり駄目ですか!?……錬さん……)
瞳をぎゅっと瞑ると、脳内に、黒髪の少年の姿が映し出された。
彼がいないことがここまで心細くなるのは、本当に久しぶりの感覚だった。
「そして、こうなった以上、あたしが何を目的として貴女をここまで連れてきたかはもう分かりきっているわよね………当然だけど、あなたをシティ・モスクワのマザーコアにする為よ」
目の前の女性は、何の感情も感じさせない静かな声でそう告げる。
それは、フィアが頭の中で予想していた言葉だった。女性は最初から、フィアがシティ・神戸のマザーコアだという事を知っていたのだ。ならば、フィアをここまで連れてきた理由も、自ずと理解できた。
「……どうして、ですか?貴女も、シティの多くの人々を助ける為に、私をマザーコアにするんですか?それとも、シティに守りたい家族でもいるのですか?そして、そのシティはどこなんですか?」
顔を俯かせながら、フィアは、声を搾り出すように口を開く。その中には、つい今しがた心の中に浮かんだ『疑問』も混じっていた。
「残念だけどどっちもはずれ。あたしは、シティの多くの人が助かる為ならとか、そういう単純な考えから貴女をマザーコアにしようとは思わない。そして、シティに助けたい人はもういない……ううん、それ以前に、その、守りたい家族がいたシティすら、もうこの世には存在しないわ―――そう、あなたのせいでっ、シティ・神戸は滅んだから!」
最後に、声を張り上げて、女性が叫んだ。
女性の放った言葉で、フィアは、どうしてこの女性が自分を狙ってきたのかという『答え』を理解した。
シティが存在しない………その言葉に、他ならぬフィアが関わっているであろう事件は、今まで生きてきた人生の中でも、たった一つしかない―――シティ・神戸だ。目の前の女性がシティ・神戸の事を口にした事が、さらなる裏づけとなる。
「……シティ・神戸……じゃあ、あなたは、まさか」
「……そう、その通りよ。あたしは……あたしはアルテナ・ワールディーン。シティ・神戸に在住していた魔法士なの。
シティ・神戸で、僅か1年間だけ、幸せな時を過ごしていたわ。だけど、そのたった1年の幸せは、貴女がマザーコアとしての役目を果たさなかったせいで、全部崩壊してしまった!
あたしは、ただあなたが死ねばいいだなんて思ってない。だけど、その為に、あたしの家族は……お父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも死んでしまった!シティ・神戸の崩壊時に、逃げ切れなくて、崩壊したシティ・神戸の建物の下敷きになって、みんな……みんな……みんな!!!」
アルテナと名乗った女性が、涙声で叫ぶ。フィアはその内容に、ただただ黙り続けることしか出来なかった。たとえ『同調能力』が使えなくても、アルテナが非常に、それこそ、身を引き裂かれるような辛い思いをしたというのは、シティ・神戸の崩壊に関わってしまったフィアには、痛いほど理解できた。
―――フィアは、いつか、こんな時が来るのではないかと思っていた。
シティ・神戸の犠牲者が、自分の前に、住む場所と、大切な家族を失ったという真実を引っさげて現れるのではないのか、と。
そして、その時になったら、フィアはどうやって答えればいいのか―――その『答え』は、いまだに見つかっていない。
だから、フィアには、例え、目の前の女性が自分の命を奪いに来たと分かっていても、その話を、その理由を、その感情を、決して無視することなど出来なかった。
「ひっく、うぅ……あたしが手に入れた幸せは、この血で汚れすぎた手でも幸せになることは出来るんだって……思えて嬉しかったのに……あ、ごめんなさい。貴女は何も知らないのに、こんな事言われても分からないよね」
小さく嗚咽を漏らしながら、アルテナは告げる。だが、途中で、何かに気づいたように、女性は先ほどとは違い、大人しい口調になった。
「突然だけど、あたしね、科学者の娘だったの。マザーコアになる子供達を救う為に、とある計画に着手したこともあったの。でも、ある日を境に、あたしはその研究が間違っていたって事を知ったわ。だけど、その頃には、あたしは何人もの人を手にかけていたわ―――そんなあたしが、貴女に対して、マザーコアになるように行動するのは、本当に正しいのかって今でも思ってる」
一呼吸おいた後に、アルテナは続ける。
「……でもね、それでも、あたしは貴女を許せないの。
貴女が自分の使命を全うしていれば、あたしの、義理のお父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも死なずにすんだのに!
勿論、これは理屈でもなんでもない、ただの、あたしの我侭だって分かってるわ。でも、それでも、どうしても、あたしの理性が、貴女を許すなって告げているの。あたしから大切なものを奪った貴女をっ!」
アルテナの口調が、だんだんと怖いものになっていくのを、フィアはその身にまざまざと感じる。心の中では、恐怖という感情と、錬に対する『助けて』という感情とがだんだんと大きくなっていく。
だけど、アルテナの感情が、分からないわけでもなかった。もしもフィアが、普通の生活を送っていただけなのに、ある日突然いきなり家族を奪われたとして、その犯人が分かったとしたら―――そう考えてもおかしくないと分かっていたからだ。
「だからあたしは行動を起こしたわ。普段はシティ・神戸跡地付近のプラントに身を潜めて、時折、ツテのある端末から世界中の情報網を調べて、とあるルートから、シティ・神戸の崩壊に、『悪魔使い』と『天使』が関わっていたって知ったわ。その名前は『天樹錬』と『フィア』だって事も知っているわ。そしてあたしは、シティ・ニューデリーに、そんな名前の人物が移動を開始しているっていう情報も、ハッキングの末に発見した。だからここまで来たの。最も、目的は貴女だけだったけど」
「……私だけ?どうして、私だけ狙ったんですか」
そう告げるフィアの体中を、悪寒が走っている。答えなんて99%予測出来たけど、それでも、フィアはそれを口にせずに入られなかった。
「貴女は、守るべき命を守れなかったから、よ。だから、償わせる事にしたの。だって、貴女を殺しても、お父さんもお母さんもおにいちゃんもお姉ちゃんも帰ってこないって分かってる。だったら、亡くなってしまった皆に対して、償うのが道理じゃないの?」
――フィアが1番恐れていた答えを、アルテナは堂々と言ってのけた。
アルテナの発言は当たっている。結果的にとはいえ、フィアが数多くの命を奪ってしまった事は事実だからだ。
「さて、もう分かったですよね?あたしが、貴女を狙った理由。そして、ここまできたとなると―――後はもうこれしかないでしょう?」
「え―――?やっ――――」
アルテナがフィアの視界から姿を消したと思った次の瞬間には、フィアは両手を無理矢理後ろに回され、いつの間にかアルテナが手にしていた強化ゴム製の縄で縛られた。
「あっ」
続いて、同じくして強化製のゴムより両足の自由が無くなった。
最後に、口にもタオルが巻かれ、助けも呼べなくなった。
「ん――――!!!んん―――――!!!」
『助けて!』と叫ぶも、思い通りの声が出ない。そして、以前にもこんなことがあった気がする。確か、ブリードという少年と初めてであった時の事だった筈だ。
自分にはそういう運命でもあるのかと、ほんの一瞬だけ思った時には、再び、フィアの体はアルテナの腕の中に抱えられ、フィアは腕一本自由に動かせないまま、ただ、ジェットコースターのように過ぎていく景色を、だんだんと大きくなる絶望と共に眺めていることしか出来なかった。
その後は、あっという間だった。
アルテナは再びフィアを担ぎ上げて、あらかじめ決めていたルートを疾走する。どのルートを通れば人に会わずに済むかを全て計算した上でルートを割り出しているので、当然ながら誰にも出会う事はない。
たどり着いた先は、税関から少しはなれた、フライヤー発着場。
その後、あらかじめ手配してあった小型のフライヤーの操縦士に、フィアを受け渡した。小型フライヤーの行き先はシティ・モスクワとなっている。
アルテナは昨日のうちに、この小型フライヤーの女性操縦士に交渉を行っていた。条件は『どこかから逃亡した一体のマザーコア候補の譲与』で、要求は『その子を間違いなくシティ・モスクワに届けること』だった。
やせた顔の小型フライヤーの操縦士は、数分ほど考えていたようだが、やがて、それを受諾した。どうやら、小型フライヤーの操縦士にとっても、マザーコア被検体を差し出せば、少しは出世の為の鍵として役立ちそうだという考えがあったらしい。
そして今、アルテナは、フィアをフライヤーの助手席に乗せた。
両手両足を拘束され、口も防がれてしまったエメラルドグリーンの少女の瞳には、今にもあふれそうなほどの涙が浮かんでいた。
『やっぱりかわいそうかな…』と思ったが、アルテナは横に首を振り、その感情を打ち消した。
「泣いても意味ないわよ。貴女の運命は、もう決まっているんだから……えっと、搬送の準備は出来ているの?」
「すみませんが、もう少しばかり時間がかかります」
機械的な発言で、女性操縦士が頭を下げる。
女性でありながらも、まさに軍人気骨な方、と、アルテナはどうでもいい事を考えた。
「早くしてね。もしかしなくても、この子を取り返そうとして追っ手がやってくるはず。だから、あなたは少しでも早く、ここから脱出して。シティ・モスクワに入ってしまえば、追っ手も中々手を出せなくなるはずよ。そしてあたしは、これから来るはずのその追っ手をここで食い止めるわ。そして、その追っ手は、とても強いわ」
「ええ、そちらも気をつけてください……しかし、何故あなたはこのような事を……いいえ、余計な詮索はやめておいた方が懸命でしょうね。では」
軽く会釈をし、女性操縦士は身を翻してフライヤーの操縦席へと腰掛け、フライヤーの調整をはじめた。
「……やっと、ここまで来たのね」
むー、むー、ともがきながら、なんとかしてここから逃げ出そうとするフィアを両手で押さえながら、アルテナは小さくため息をついた。
今のアルテナの心の中では、胸のうちに宿る複雑な感情―――怒りと後悔と悲しみと絶望と狂気が交錯している。
怒りは――突然襲い掛かってきた不幸、『家族』との別れを受け入れた時に爆発した感情。
家族を奪ったものに対し、アルテナは、それまでの人生で一度も味わったことのなかった悲しみを知った。頬を伝う涙は熱く、張り裂けそうな胸には、熱く燃える憎しみの炎がたぎっていた。
後悔は――実験の為に、数多くの子供達を切り裂いてきたことや、マザーコアにされる魔法士達の未来の為と題して行動した、その果てに気づいた遅すぎる後悔。『狂いし君への災厄』を初めとする様々な能力を埋め込まれた魔法士は、その殆どが死に至り、そして今頃は、生前と同じ姿でこの世に帰ってきているはずだ。だけど、それでも、アルテナの心の中には、ずきりという痛みが走る。
「……う」
うつむき、胸を両手で押さえて、足をうずくませる。分かっている。この痛みの正体なんて分かってる――襲い来る罪悪感がなす、罪の痛みだ。命を救うはずが、命への冒涜に等しき事をしていた事に気づいた時から、ずっと、心の中に残り続ける痛み。
悲しみは――迷走と後悔の果てにようやく手に入れた家族を失なった時。あの時ほど、アルテナは泣き、慟哭した事は無かっただろう。
絶望は――目の前で、家族が建物の下に押しつぶされた時。もう、家族は帰ってこないのだと知った時。もう、誰にも、アルテナに声をかけてくれないのだと思った時。そして、本当の意味で、アルテナがひとりっきりになったことを理解したとき。
狂気は――マザーコアとなる少女が、マザーコアになる事を放棄したことを知った時に湧き上がった感情。
マザーコアとなる少女が己の役目を放棄し、自らの生を望み、その大小として、アルテナの『家族』を初めとする、数多くの人々の命が失われた。
言いたい事が、様々な感情がごっちゃごちゃになってしまった、アルテナの心。
俯いたまま、アルテナは誰にともなく独白する。
(―――でも、本当に、あたしはこれで正しいのかな?)
……フィアにあれだけの事を言ったあとに、こんな事を思ってしまう自分を、アルテナは不思議に思う。
アルテナとて分かっている。フィアが死んだところで、誰も帰ってこないのだと。優しかった家族の命は永遠に失われ、もう、この世にいない。そして、フィアもまた1人の命持つ少女であり、その命を守りたかったが為に生きたいと思って行動したのだと。それに『もし』自分がフィアと同じ立場にあったなら、きっとフィアと同じような行動をとった筈だ。
だが、それでも、シティ・神戸の1000万人の人々を犠牲にして生き延びたフィアが、そのまま、何の償いも、何の咎めもなく生き続けていられる事に関しては、心の中より黒い感情がわきあがってくるのを抑えることが出来なかった。
そうであれば、どうして、アルテナのお父さんやお母さんやお兄ちゃんやお姉ちゃんは死んだのか。
フィアが死ねばそれで全てが済むわけではなく、さりとて、フィアが生きていても、憎しみがわいてくるのを抑えきれない。断ち切ることの出来ない思考のループだ。
(……ううん、それよりも、今は、この後に来るってわかってる事に対して対処しなくちゃ!あの子は来る…間違いなく来るから!)
頭をぶんぶんと左右に振って思考を振り払い、ぱんぱん、と、両手で軽く頬を叩いて、アルテナは気合を入れる。何故なら、まだ終わっていないからだ。
アルテナには、この後に訪れるであろう事態も、既に予測が出来ている。
―――その直後、狙い済ましたかのように、背後の方から何者かの気配を感じた。
(来た……)
アルテナは立ち上がり、全身を覆うフードとマントを脱いだ。このフードとマントを着用したままでは、動きにくくてかなわない。ましてや、相手は、アルテナが本気を出さなければ勝てないような人物だ。
その下には、つい今しがたまで装着していた、青一色の地味なマントとはうってかわって、白を基調としたゴスロリ服が姿を現した。
まるで、蛹からかえった蝶の如く、容貌を変化させたアルテナを見て、女性操縦士がほぅ、と息を漏らすのが確かに聞こえた。
「……出発の準備はできてますか?」
「今すぐにでも」
「なら今すぐ出発して!あたしは、あの子を止めるわ!だから貴女は、この子を、シティ・モスクワまで運んで!」
「了解しました」
抑揚のない声で女性操縦士が返事をし着席。フライヤーが稼働音を上げて動き出す。それと同時に、アルテナはフライヤーから飛び降りて、すたっと地面に着地し、既にアルテナの目の前まで駆けつけてきていた、黒髪の少年と対峙する。
「――フィアを、返せ!」
いきり立つ表情で、ナイフを構えた黒髪の少年がアルテナをにらみつけてきた。
アルテナにはこの少年の名前が分かっている。天樹錬―――シティ・神戸の崩壊に関わった中心人物の1人にして、アルテナにとっては最も憎い相手の1人。
「…何のことかしら?フィアって誰?そしてあなたは誰?それに、初対面の人間に対して刃物を向けるなんて……傍からみたら、間違いなく誤解される構図だって分かってるの?」
だが、アルテナはわざととぼけたふりをして応対する。
「とぼけるな!!金髪の女の子―――フィアの姿を見た人がいたんだ!その人はフィアの事を知っている人だったから、フィアの姿を見間違えるわけがない!つまり、あなたがフィアをさらった犯人ってことは、もう分かっているんだ!」
「あ、見られてたのね。あなたが来るのが意外と早かったのは、正直、予想外だったの。でもね…あなたをフィアちゃんの元へと行かせる訳にはいかないわ!あの子には成すべき使命があるから!―――そう、救えなかったシティ・神戸の住民達の代わりに、別なシティの人々を救ってもらうんだから!」
「フィアを無理矢理マザーコアにさせる事が、フィアのなすべき使命だって言うの!?フィアはフィアだ!フィアは一人の人間として生きて言っていいはずなんだから、そんなのおかしいよ!あなたなんかにはわからないだろうけどねっ!」
『あなたなんかにはわからないだろうけどね』――錬のその発言を耳にした瞬間、アルテナの顔色に、僅かながら怒りの色が浮かぶ。
「……分かる?何が分かるというのかしら?初めて会ったばかりの相手に、随分な言い方なのね―――ところで聞くんだけど、錬君、君はもし、目の前にシティ・神戸の生き残りの人間がいたらどうするの?」
「……え?」
一瞬、錬は口を開けて唖然とした。
「もしかして、頭に血が上っていて、あたしがさっき言った事を聞いてなかったの?」
「…シティ・神戸?まさか、あんたは……」
……どうやら本当に聞いてなかったらしい。錬という人物が、フィアの事となると頭がいっぱいになるという前情報は、どうやら本当だったと改めて確信する。同時に、心の中だけでため息をついた。
「そう、あたしの名前はアルテナ・ワールディーン……あなたが見捨てた、シティ・神戸の人間よ―――天樹錬君」
アルテナにとって、自分でも驚くほどの静かな声。
「…どうして、僕の名前を……え、待って……まさか、あんた」
錬の顔色が、かすかに青くなる。
「…………思い出した!数年前に、僕に依頼を申し込んだ人じゃないか!」
「あ、覚えててくれたのね……最も、こんな形で再会する事になるなんて、あの時は思ってもいなかったけど」
そう、アルテナが錬の事を知っていたのは、こういう訳である。
アルテナは3年ほど前、とある目的から、1人の少年に依頼をした。それは、当時の時点で既に世界に名を馳せていた『悪魔使い』と呼ばれる少年だった。
その依頼は、とある研究サンプルの奪取という、どこからでも依頼されそうなありふれたもの。
しかし、アルテナにとっては、とある研究サンプルの奪取という依頼など、どうでもよかった。アルテナにとってそれよりも遥かに重要なものは、もっと別のところにあったからだ。
その依頼において、アルテナは、当時のアルテナにとって、最も必要なものを手に入れる事に成功した。
「さぁ、答えて頂戴。シティ・神戸の生き残りの人間を目の前にしたら、君はどうするの?」
「それは…」
錬が浮かべたのは、困惑の表情。
「犠牲になったシティ・神戸の人達の為に、絶対に償ってみせる……」
喉の奥から、絞り出すような声。
「じゃあ、あたしの邪魔をしないで。フィアちゃんはシティ・モスクワに差し出すわ。
だって、シティ・神戸の人々に償うんでしょ?だったら、フィアちゃんの命を持ってして償わせてもいいんじゃないの?もうなくなってしまったシティ・神戸を復旧させるのはもう無理だけど、だったら、今あるシティの人々の為にその命を使わせるのもいいんじゃないの?」
「―――なっ!」
錬がはじかれたように目を見開いた。
「なんだよそれっ!僕はそんな事絶対に許さないっ!フィアは殺させない!絶対に殺させないんだっ!」
自分の顔に、失望の色が浮かぶのを、アルテナは自分で理解した。
「……やっぱりそうなのね。どのような問いをぶつけられても、錬君には絶対に曲げる事の無い答えがある。犠牲になったシティ・神戸の人達の為に、絶対に償ってみせるって言っておきながら、その傍ら、シティ・神崩壊を招いたであろうフィアちゃんが死ぬ事を頑として望まない。
―――いざ、犠牲になったシティ・神戸の人間を目の前にしたら、結局はそうなるじゃない!あなたは、フィアちゃんが生きる事ができて、それと同時にシティ・神戸の人々にも償うという……そんな都合のいい事が本当に出来ると思ってるのッ!?」
ぎり、と、歯噛みして、アルテナは叫んだ。
目つきが鋭くなるのが、自分でも分かる。
シティ・神戸の人々に償いたいと口では言っておきながら、その元凶であるフィアだけは失いたくないという、天樹錬という人物の手前勝手な我侭に、怒りがこみ上げる。
「そもそも、シティ・神戸の人達が犠牲になったのは、そのフィアという子がマザーコアとしての義務と責任を全うしなかった事にあるじゃない!本当にシティ・神戸の人達に対して償うとするならば、それくらいの事は―――」
「それくらい!?そんな言葉で断言されるほどフィアの命は軽くない!フィアだってずっと悩んでたんだ!死にたくなくて、でも、いっぱいの人々を犠牲にしてしまって、そんな人々が全ていなくなってしまってくれればどれだけいいかって思っていて、だけど、それは絶対によくないことだってのも分かっていて……色々な考えが交錯してどうしていいかわからなくて、ずっと、ずっと考えていたんだ!」
錬もまた、アルテナに負けじと反撃する。
「悩むだけなら誰だって出来るわ。でもそれは、結局はただの時間稼ぎ、結論の先延ばしでしかないわ!あたしには、この先、フィアちゃんを狙う人が誰もいなくなるまでのうのうと生き延びるつもりにも見えるのよ!あたしは許さない、そんな事絶対に許さない!あの子だけが幸せ……とはいえないだろうけれど、それでも生きることが出来る世界なんて、あたしは認めない!
――そして、正直、あたしがなんと言おうとも、錬君が決意を曲げるわけが無い事なんて分かってたわ。最後の最後で心が…動く訳もないって思ってたわ―――でも、これはこれでいいわ……」
「どういう意味さ!」
「…現に君は、こうやって、あたしと言い合って、時間を浪費してくれたじゃない」
「あっ!」
しまった、とばかりに、錬が目を見開く。だが、その頃には既に、フィアを乗せたフライヤーは離陸体勢に入っており、税関を通り抜けんと飛行している。
「さあ、最後の審判は飛び立ったわ……あたしの役目は、ここで錬君を食い止めること……邪魔なんてさせない。シティ・モスクワの機能が回復すれば、もっともっと多くの人々がシティ・モスクワに移住することが出来る。シティ・神戸跡地付近のプラントのみんなも、シティ・モスクワに助けてもらえるかもしれない。恭子さんを初めとする、あそこに住む人々が、少しでもいい環境で生きられるようにする為に、あたしは戦う!」
両手をフリフリドレスの裏に回し、アルテナは自分の『獲物』を手にする。
(―――二度と手にすることはないと思っていたんだけど……もう一度、力を貸してね)
フリフリドレスの中から取り出されたのは―――少しだけ派手な装飾のなされた、白銀色の2本の短剣。
2対1組の
「…絶対、通さない!」
2対1組の暗殺剣を、両手を交えるポーズで構える。
「―――通してもらうよ、力づくで!」
それが戦いの合図となった。
2人の魔法士は、同時に地を蹴った。
戦闘開始のコンマ3秒前、アルテナの脳裏に浮かぶのは、シティ・神戸のあの惨状で、死んでいった家族の姿だった。
そも、アルテナが『家族』と出会うまでの流れは、かなり複雑だった。
元々は第三次世界大戦に投入された魔法士だったアルテナだったが、アルテナが所属していたシティは、最後の最後で内部から反逆者が出て滅ぼされた。
帰る場所を失ったアルテナは、シティ・メルボルン跡地に迷い込み、そこで細々と暮らしていった。
そして14歳のある日、雨宿りの為に慣れない建物の中に迷い込んでしまったことが、彼女の運命を変えることとなった。
その時のアルテナとしては、ほんの少しの雨よけのつもりだったが、雨が思った以上に強かった上、建物の中には人の気配が無かったので、そのまま奥に入ってしまったのだ。
建物の中の机の上で、一冊のノートが広げられているのを見つけた。そのノートには、こう書かれていた。
『すべての魔法士の雛形にして完成形の魔法士。本来書き換え不可能な基礎領域を書き換える事で、あらゆる能力を使用することが出来る。ただし、仮想的に能力を走らせるという性質上、悪魔使いの能力はオリジナルには及ばず、またコピー出来ないこともある。
操作、並列、合成、創生という4つの性能を持つ事が出来るが、どんなI-ブレインを持ってしてもこの4つをすべて組み込む事が出来ない―――』と。
アルテナはその内容を全てI−ブレインに記憶した。その内容が、アルテナの興味を惹いてやまない内容だったからだ。
アルテナをこの世に生み出した科学者は、当然ながら大の科学好きだったため、アルテナもまた、生まれてから科学と関わってきた。その為、今のアルテナは、下手な科学者を遥かに凌駕する科学技術を保持している。そうでなければ、普通は1時間かかるプラントの修理を10分で終えるなどというう荒業が出来るわけがない。
そのノートに書かれた魔法士を再現、及び進化した魔法士を作り上げるという目的の為に、3年前から、アルテナはその研究を始めた。
だが、その魔法士が完成したと同時に、とある思いからアルテナは姿を消した。その後は、シティ・神戸へと向かい、シティ・神戸へ偽造IDを用いて入り、一人暮らしをはじめた。
数ヶ月間、シティ・神戸でいつもどおりに生活していると、アルテナは見知らぬ人に声をかけられる。その人は、アルテナが一人暮らしをしているのを心配に思っていた人物だった。アルテナがシティ・神戸に来てから、一番最初に仲良くなった人物だった。
『養子にならないか』という誘いを受け、それに対しアルテナは首を縦に振って答えた。この時。アルテナは家族を得たのだった。
家族構成は、みんなアルテナより年上の4人。
痩せ型で、でも温和な表情を浮かべた父親。
如何にも主婦をやってますという感じの、うでっぷしが強そうな母親。
いつも楽しい事を考えている、ひょうきん者の兄。
常に、あらあらうふふと微笑む姉。
それが、アルテナを迎えてくれた『家族』だった。
―――そして、その人達との幸せな暮らしは、ある日、突然失われた。
シティ・神戸が崩壊したその日、アルテナは1人、買い物に行っていた。その為、一旦家族と離れていた。
シティ・神戸崩壊の放送を聴き、アルテナは自宅へとむかった、だがそこには、アルテナの目の前で、巨大な瓦礫につぶされた家族の姿があった。
アルテナは、家族4人に対して、別れの言葉すら言う事が出来なかった。
後に、なんとかして家族4人の遺体を瓦礫の下から取り出すことには成功し、埋葬することが出来たのが、唯一の救いだったのかもしれない。
―――そして、少女は、泣いた。
胸いっぱいの悲しさと辛さに身を任せて、ずっと、ずっと泣きつづけた。
そして、母親がアルテナにと作ってくれたゴスロリ服しか、家族をつなぐものがなくなってしまった。
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん――あたしは……」
―【 キャラトーク 】―
ノーテュエル
「アルテナの過去話、来たわ――っ!」
ゼイネスト
「それはいいんだが……アルテナの性格が最初の方と全然印象が違ってないか?最初の方はわりとおしとやかだったのに、今は…なんというか、少し冷たいというか……残酷になったというか」
ノーテュエル
「んー、無理ないと思うわよ。私。
だって、フィアも錬も、アルテナにとっては文字通りの親兄弟の仇って事になるじゃない。そんな人間を目の前にしたら、そりゃ少しは変貌するわよ」
ゼイネスト
「憎しみが人を変える…か」
ノーテュエル
「そう、それ」
ゼイネスト
「そして忘れてはならないのが、アルテナの中でも様々な感情が交錯している、という点だな。
フィアが死んでも家族は戻ってこない。しかし、だからといって、家族を殺したにも等しいフィアが、何の罰も無く生きていられるのが憎い……難しいよなぁ、人間は。
後、アルテナはシティ・神戸の崩壊に、七瀬静江が関わっている事を知らないようだな。まぁ、当事者である七瀬静江はとうに死んでしまっているから、どうやっても七瀬静江を責めることも出来ない。と」
ノーテュエル
「でも、もっともっと気になる点があるわよね……アルテナがシティ・メルボルンでノートを盗み見たとか……ん?これって……」
ゼイネスト
「―――話がつながってきたな。おそらく、それが今回の注目点だ。そして、アルテナは優れた科学力を持っていた。それは『記憶回帰計画』や『ライフリバース計画』でも明らかだ。これ以上は次回以降で明かされるので黙っておくか」
ノーテュエル
「そうねー。んじゃ次回は『繋がりが明かされる』で!」
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Moonlight butterfly
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