―――現在地は『もう一つの賢人会議』の一室。
レシュレイ・セリシア・ラジエルト・クラウ・イントルーダーの5人は、全ての真実が書かれたディスプレイに見入っていた。
『―――『記憶回帰計画』が成功し、ライフリバース計画が理論上ではあるが成功できる目処がついた。
たとえ死者であったとしても、I−ブレインが壊れてさえいなければ、欠けた記憶こそ存在するものの、それでも、嘗ては生きていた人間を、全く違う肉体で蘇らせる事は可能だという結論が『記憶回帰計画』から出た。
性格も、好物も、口癖も、I−ブレインに全て記憶されている。そう考えれば、ある意味では当然とも呼べる結果なのだと思う』
―――ここで、一旦文章が区切られている。
『―――ライフリバース計画。それは、この世界で死にゆく魔法士達の為に作成しようと思った『革命』。
人間達が生きる為にはマザーコアが必要だけど、今のこの世界では、それが『仕方のないこと』ではなく、むしろ『当たり前の事』になっている風潮がある。
普通に生きるシティの市民達は、マザーコアの正体を知らないから無理もないかもしれない。だけど、このままでは、ただ殺される為に生み出される子供達がかわいそうでしょうがなかった。だけど、マザーコアというシステムを撤廃させるのも到底無理な話だって分かってる。そんな事が起こってしまえば、魔法士の代わりに人間が死ぬ、ただそれだけの事態が起こってしまう。
だから、あたしは思った。
それならば、せめて、殺されても、その魔法士が、全く違う体で、死ぬ前までの記憶と感情を受け継いで目覚めて、新たな人として新しい人生を歩めるようにすれば、悲しみは減るのではないのか。永遠の眠りにつくのが怖いなら、その恐怖を取り除いてあげればいいんじゃないかって思った。
『死』を発動のキーとして、あらかじめ作られていた別の肉体に、記憶と感情を移して目覚めさせる――それが、あたしの考え。
それを誰かがやらないなら、あたしがやるしかないと決意した』
「……じゃあこの人、マザーコアとして殺される人の事、考えてたのね……確かに、マザーコアにされる魔法士の子供達は可哀相だって私も思うの。それと、あたし、って事は、この『ライフリバース計画』を考えた人は、やっぱり女性なの?」
セリシアの口から疑問が放たれる。その疑問に答えたのはレシュレイだった。
「ああ、俺もそう思う……そしてこの『ライフリバース計画』だが、現実的にそんな事をしてしまえば…いや、今は続きを見るのが先か。答えを出すのはそれからだ」
『21世紀の段階で、遠距離へと電波を飛ばす技術は開発されていた。
Radioと呼ばれるその仕組みは、データ…即ち電波を光へと変換して遠距離へと飛ばす技術。因みに、21世紀の段階では、あちこちに所謂中間点が必要だったため、あちらこちらに、一旦電波を受け取って次の中間地点へと飛ばすための中継装置が大量に必要だった。
今回の『記憶回帰計画』では、クラウの元の体と、クローンで作り出したクラウの体が近くにあったから必要なかったけど、この『ライフリバース計画』では、『遠距離間での情報の転送と、それを受け取る場所』が必要になってくる。
でも、情報の中間点はあまり多くは作らなくていい。なぜなら、I−ブレインの中に非常に強力な『中間点を必要とせずに、遠距離へとデータを転送できるプログラム』を組んでおけば、中間点が少なくても、データは『電波を受け取る場所』へと届く。
だから、まずは最優先で『電波を受け取る場所』を作らなくてはならなかった』
―――再び、文章が区切られる。
『数ヶ月かけて、研究を重ねて、世界を回って、なんとか、遠距離のデータ転送の中継点、および終点は作り上げることが出来た。
あたしには
続いて、無限に近い容量を構成できるI−ブレインが必要だった。
理由は、その魔法士の記憶や感情を全て記憶し『データ』として記憶しておく為と、大量のデータを終点へと送り込むための膨大なスペックとメモリを確保する為。
その無限に近い容量の中に、その魔法士が生きてきた記憶や感情を詰め込めるだけ詰め込めて、予めI−ブレインに設定された特定のポートからポートへと、一日ごとに記憶や感情をデータとしてバックアップを取り、そのデータを、場所によっては中継点をえて、遠く離れた終点まで転送する仕組み。
さらに、I−ブレインに損傷を負うなどして、I−ブレインが独自の判断基準で起動できなくなると判断した場合は、その段階でデータを終点へと転送する。そうすれば、その魔法士が死ぬ直前までの記憶は、新たな肉体に受け継がれる。万が一、I−ブレインが直接的に完全起動不能な状態に陥らされても、一日ごとに記憶を送っているから、全てがなくなるわけじゃない。もっとも、最後にデータを送った後からの記憶はすっぽりと抜け落ちてしまうけれど、それは仕方のないことかもしれない。
もちろん、披検体となる魔法士にその事がばれないように、あたしだけが解除できる特別なプログラムとパスワードを組んでおく。そうすれば、少なくとも、披検体の魔法士からはこの『ライフリバース計画』関連の真実は隠しとおせるはず。
それに、いざ理由を求められても、『より強力な能力を使う為のメモリの確保に必要』という説明をしておけば、大方騙しとおす事は可能だと思う』
「―――なるほど。『もう一つの賢人会議』の魔法士達が、無限に近い容量を得られるようになっていた理由は、こういうことだったのか……ん?て、事は……いや、やめておくか」
腕を組み、いぶかしげな顔をしたラジエルトがそう呟く。どうやら、脳内で何か仮説が出来上がったらしい。だが、この文章を最後まで見通すまで、それを口に出すつもりは無いようだった。
『それから数ヶ月、『ライフリバース計画』はほぼ予定通りに進行した。だけど、一つだけ問題があった。
それは、『ライフリバース計画』は、披検体が死ななければその全貌を成功させることが出来ないということ。だけど、あたしには、あたしの手で、あたしが手がけた魔法士を殺すことなんて出来なかった。もう、人を殺すのは絶対に嫌だった。
……だけど、幸運か不運か、同時期に、『もう一つの賢人会議』の研究者であるヴォーレーン・イストリーが『
しかしながら、当のヴォーレーンは、それを自分の作った魔法士に搭載するかどうかで悩んでいた。そして、同じ科学者としてのよしみなのか、それをあたしに相談してきた。
話を聞いたところによると、『殺戮者の起動』と『狂いし君への厄災』は、圧倒的ともいえる戦闘能力を手に入れる事が出来る反面、一定期間、人を殺したり傷つけたりしないと殺戮衝動に襲われるという、ある意味では麻薬のような症状を引き起こす能力。
『堕天使の呼び声』は、上記二つの能力と同系列だけど、本人の意思がしっかりと存在する点が異なるらしい。
……そして、あたしは、これはチャンスだと思った。
これらを何とかして魔法士に搭載させれば、ヴォーレーンの研究結果を試せるし、『ライフリバース計画』も試せる。まさに一石二鳥だった。
なぜなら、そんな能力が搭載されれば、自ずとその魔法士の死が近いものになる。つまり『ライフリバース計画』が発動する確率が非常に高くなる』
――再度、文章が区切られる。
『ノーテュエル・クライアント、ゼイネスト・サーバ、シャロン・ベルセリウス。
この3人が、ヴォーレーンの作り上げた魔法士の名前。しかしながら、ヴォーレーンはこの三人の魔法士に、自分が生み出してしまった能力を搭載するつもりはないと、断固として決意していた。だから、あたしもその件については何もいわなかった。
だけどある日、転機がおきる……ヴォーレーンが急な心臓発作で突然死を告げたのだ。
原因は不明―――だけど、急性の心臓発作は誰にでも起こりうる死の形。あくまでもあたしの推測だけど、ヴォーレーンは研究の疲労が心臓発作を誘発してしまい、そして死んでしまったのではないかと思う。
……そして、不謹慎だけど、あたしはこれをチャンスだと思い、行動を開始した。その時、胸に、何か、黒くて大きな塊が詰まったような心苦しさを覚えたけれど、それを何とか押し殺した。
ノーテュエル・クライアントという女の子のI−ブレインには『
この時点ではノーテュエルはまだ魔法士として目覚めていなかったし、I−ブレインの書き込みが完全な形で完了していなかったから、能力の後付けが出来た。
続いて、ゼイネスト・サーバという男の子のI−ブレインには『騎士』と『無限大の脳内容量を持つ魔法士型』と『
最後に、シャロン・ベルセリウスという女の子には、『傷を癒すことに特化した天使』と『ライフリバース計画』のプログラムと『堕天使の呼び声』を追記した。
もちろん、各々の能力がどんなものなのかは、『ライフリバース計画』関連を全て除いて、説明をきちんと記載しておいた。強大な能力には、それ相応の詳しい説明書があるべきだと思ったから。
―――でも、転生後は『殺戮者の起動』や『狂いし君への厄災』や『堕天使の呼び声』などの忌まわしい能力は引き継がない設定にした。
理由は、生まれ変わってもあんな能力に縛られるのは、可哀想だと思ったから』
―――ここにさしあたり、この文章を読んでいる者達全員が、一言もしゃべらずに、ただ、じっと、この記録を読むことに集中していた。全く予測すらつかなかった展開に、目をそらすことが出来なかった。
『だけど、あたしは、さらなる保険が欲しかった。
プログラムを一部改変し、別々のデータとして保存した『
そんな中、ワイス・ゲシュタルトという、魔法士にして科学に精通している男の人が居た。先天性魔法士で、『人形使い』としての能力を持っている人だった。
ワイスは、シュベール・エルステードとリリィ・エルステードという二人の魔法士の作成にいそしんでいた。
シュベールという子は、生命維持層の中で15歳ほどに育っていたので、4人目の披検体は彼女に決めた。埋め込む能力は『処刑の乙女』にした。
因みに、リリィという子の方は、まだ外見年齢が6歳ほどだったので、能力を投入するのは流石に出来なかった。
―――また、この頃になって『セレニア・フォルテス』という人が、新しく『もう一つの賢人会議』へと入ってきた。出生は殆ど不明と言っていたけど、ここにいる科学者はほとんどがそういう訳ありの人達なので、さして気にはならなかった。
そして、セレニアはこの『もう一つの賢人会議』で、一人の女の子の魔法士を作り上げる。
名前はヒナ・シュテルン。
あたしはセレニアに内緒で、まだ目覚めていないヒナに、分からないようにして『自動戦闘状態』を埋め込んだ。本格的に目覚める前の魔法士なら、比較的簡単にプログラムを埋め込むことが出来た』
「―――とんでもねぇ奴だな。勝手極まりなく行動してやがる」
ラジエルトが舌打ちしながら悪態をつく。
レシュレイとセリシア、そしてクラウとイントルーダーは黙り込んでいたが、4人とも、その目には怒りの色が浮かんでいた。
『―――さらに、その少し前に、ラジエルト・オーヴェナという科学者が『もう一つの賢人会議』から脱走した。
理由は、ワイスがセレニアを殺したことだった。このとき既に、セレニアとラジエルトは惹かれあっていた。なお、ワイスがセレニアを殺した理由は分からない。
『もう一つの賢人会議』は基本的には『来るものは拒まず、去るものは追わず』だったので、誰も追撃をかけようとはしなかった。
だけど、ここで一つ、重大な発見があった。
それは、ラジエルトって人は、自分が作った魔法士を目覚めさせないまま、ここにおいていってしまったのだ。
ラジエルトという人の部屋の中の一番奥の培養層の中には、ものすごく屈強な男の人が、目を瞑ったまま立っていた。近くにおいてあった資料を調べてみたところ、名前はエクイテス・アインデュ−トというらしい。
……そしてあろうことか、このときあたしは、これもまたチャンスだと思ってしまった。
埋め込む能力は『地獄の神のお祝いに』に決めた―――披検体は、これで7人になった』
―――ラジエルトが手元のキーボードを操作し、無言でページを送る。
忌まわしき記憶に触れたくないということを、この場に居合わせた全員が一瞬で察知した。だから、何も言わなかった。
『―――そして、最後に『イントルーダー』という魔法士がいた。誰が作ったのかはあたしも知らない。
披検体用の能力はストックを全て使い果たしてしまったので、『無限大の脳内容量を持つ魔法士型』だけを搭載した。
非常に身勝手な真似だと分かっていた。他人の作った魔法士を勝手に弄るなど、到底許される真似ではない事くらい理解していた。
それで、あたしのやるべき事は全て終わった。
あたしは正しいことをしていたのだと、ずっと思っていた。
――――でも、違った』
「ここに来て『違った』だと…?一体どういうことだ?まさか、その段階でようやく気づいたとでも言うのか?」
「それは読めば分かるわ…」
ラジエルトの呟きに、クラウが疲れたような声で答えた。
『―――数ヵ月後、あたしは、ここに来て、やっと間違いに気づいた。
あたしのやっていた事は、マザーコア披検体の為でもなんでもなく、ただの、命に対する冒涜だった。
そもそも『ライフリバース計画』を、シティのマザーコアになる魔法士に適用してしまったらどうなるか。
―――答えなんて決まっている。「どうせ死んでも転生できるんだろ?なら死ね!」などと言われて、今よりもさらに多くの魔法士の子供達が生み出されて、そして当たり前のように殺されていくことになってしまう。今のこの世界でただでさえ低い『命に対する概念』が、さらに低くなってしまう。
―――さらにあたしが見落としていたのが、披検体の気持ちだった。あたしは、自分の研究を成功させたいが為だけに執着してしまい、成功すれば大丈夫、と思い続けて、その傍らで、披検体の魔法士の気持ちなんて欠片ほども考えていなかった。
…もしあたしの脳内に、生まれた時から『殺戮者の起動』や『狂いし君への厄災』などという能力が搭載されていたら、どれほど怖くて、どれほど苦しくて、どれほど泣きたくなるか―――想像すら出来ない。そんな事を、あたしは、あの子達に、自分の身勝手な気持ちで搭載してしまった……そう考えると、自分がしてきたことが、すごい怖い事だって、今更ながらに理解して、そして後悔して、泣いた。
―――見えなかった。ずっと、見えなかった。
マザーコアにされる子供達を救いたいという気持ちだけが先走っていて、大事な事が見えなかった。今思うと、どうして見えなかったのかと思ってしまうほどだった。
『ライフリバース計画』こそが正しいことなのだと思っていた。だけどそれは、あたしのとんでもない勘違いだった。
……でも、もう『ライフリバース計画』は動いてしまった。一度動き出してしまった運命の歯車は止められない。それに、あたしには『ライフリバース計画』を適用させてしまった魔法を殺す権利なんてあるわけがない。
―――だからあたしは、全ての研究を破棄し『もう一つの賢人会議』からも姿を消すことにした。
あたしの今までの行動こそここに記録として残してあるけれど、それ以外は、機材・研究レポート・その他諸々は、跡形もなく処分した。もはや、この『ライフリバース計画』に、未練なんてない。
―――これで『ライフリバース計画』についての、全ての記述を終了する。
願わくば、あたしと同じ間違いを犯す人が出てこないことを祈りたい』
…全てが、明らかになった。
まさに『ありえない』としか思えない真実から、3人は目を逸らす事が出来なかった。
3人とも、喉がからからになったような感覚に襲われ、声が出せなかった。冷や汗が背中をつたう感覚がとても気持ち悪い。
「なんなんだよ…こいつは。エクイテスや、他の魔法士は、こんな事のために死んだのかよ……」
一番早く我にかえったラジエルトが、震えながら口を開いた。
「……これ、嘘じゃないんですよね?」
セリシアの声は震えていた。その目じりにはかすかな涙が浮かんでいる。信じたくない、と如実に語っていた。
「待ってくれ、父さん、セリシア……まだ、続きがある」
レシュレイが、ディスプレイの最後の一文に気がついた。
日記の最後には、ご丁寧にもこのプロジェクトの、この日記の製作者の名前が記されていた。
普通なら書かないか隠滅するであろう製作者の名前が記されていたという事は、この世界のどこかにいるそいつを探し出せという事か。或いは、自分がその行動を実行したという証拠を残しておきたかったのか。それとも、ただの日記として纏めておきたかったのか。
現段階では真実など分かりはしないが、それでも、手がかりがあったという事は、またとないチャンスだという事を脳内で理解した。
「…なんなんだ、この名前は……」
「―――ん?これは……おい、嘘だろ!?どうして、どうしてあいつがこんな事してんだよっ!!」
最後の一文を目にした瞬間、ラジエルトは反射的に椅子から立ち上がった。椅子ががたーんと音を立てて後ろに倒れこんだが、そんな事を気にする余裕すらないようだ。
「やっぱり、この人を知っているのね!」
「ああそうだ、クラウ。俺はこいつを知っている……だが、俺には、どうしてこいつがそんな事をしたのかが分からない。あいつは、いつも微笑んでいて、いつも皆に優しかった。
―――いや、優しかったからこそ、こんな事を思いついちまったのかもしれねぇな。そうなると、どうしてこんな事をしたのかも納得がいく。文章を読んだ限りでは、あいつは、マザーコアにされる披検体の事を考えていて、その為の打開策の為に夢中になってしまったんだ。無理もねぇ。真面目な子だったからな……」
ラジエルトは、ディスプレイに映し出された、『ライフリバース計画』の犯人の名前を、ただ、見つめていた。
そして、その名前は―――。
コンピュータの中に隠された全ての真実を知った後、10分間の休憩を取った。
その休憩の最中に、食料生産プラントから、合成コーヒーを5人分準備したクラウは、小さなテーブルに5つのコーヒーカップを置いた。
5人は小さなテーブルに向かい合うように、無言で腰掛ける。
誰も、しゃべらなかった。無言のまま、目の前を見つめている。
無理も無いことだった。『ライフリバース計画』の全貌は、普通の人間が聞いたら、目の色変えて困惑してもおかしくないであろう内容だったからだ。
「……俺から、いいか?」
しーんとした空気が1分ほど続いたところで、先ず最初に口を開いたのはレシュレイだった。
「なに?」
と、答えるクラウ。
「……確か『ライフリバース計画』っていうのは、魔法士の記憶や人格を、死ぬ直前の状態から別の肉体に『完全に』コピーする為の計画なんだろ?つまりそれって……披検体になった魔法士は、みんな……」
「―――そう。みんな、生きているかもしれないってこと。うまくいけば、最初の身体は死んでも、その人格と記憶は全てが保存されて、別の肉体に転生しているのよ。最も、その為の肉体がどこにあるのかは、結局分からずじまいだったけどね」
レシュレイが口ごもった部分を付け足すかのように、クラウが続けた。
「……しんじ、られないです」
「セリシアの意見も最もだ。正直、俺も最初は信じられなかった。だが、信じたくない気持ちも分かるが、全てはれっきとした真実だ。それも、どいつもこいつも、目の色変えて憤慨する事が確定している真実だ」
セリシアの『否定したい』という気持ちのこもった発言を、イントルーダーは否定する。厳しいが、目の前にある真実を信じないことには何も始まらない―――つまりは、そういうことなのだ。
「……セリシア、気持ちは分かるけど、ここまで来たら信じるしかないんだ。それに……本題はこれからだ……実は、俺は……いや、俺とセリシアは、先日、兄さんに良く似た人を見たんだ」
レシュレイの発言に、隣のセリシアが小さな声で「レシュレイ、それは…」というのが聞こえた。
「―――おい、どういうことだ?」
イントルーダーが、頭に疑問符を浮かべて聞き返した。
「心当たりがあるの?」
と、これはクラウ。クラウもまた、頭に疑問符を浮かべている。
「……おいレシュレイ、もしかしてあの事件の大男がそうだというのか?」
顎に手を当てたラジエルトが、怪訝な顔をしていた。
そして、レシュレイと同様に、あの光景を目の当たりにしたセリシアだけが、ただ、黙っていた。
「ああ、あれは間違いなく兄さんだと、俺は思ってる。今から、その事件の詳細を、俺が知っている範囲で話すから、聞いてくれ」
凛とした声で、レシュレイははっきりと告げた。そのまま、その時の情報を、レシュレイが知っている範囲で、分かりやすく説明する。
―――説明の為に言葉を一つ、また一つと口に出すたびに、レシュレイの脳裏には、つい先日の出来事が鮮明に蘇っていた。
それは、レシュレイとセリシアが、復旧途上国の状態にあるシティ・メルボルンの繁華街で買い物をしていた時の事。
繁華街にて、武装した四人のテロリストが現れた、そいつらは魔法士で、しかも、真っ先に人質を取るなど、実に用意周到なテロリストだった。
しかしそこに、身長が2メートル近くもある、白銀の仮面を被り、全身をマントで覆い隠した大男が現れた。
大男は真っ先にノイズメイカーを使用した後に、近辺の住民に避難するように呼びかけた。
その時の言葉は、一字一句間違える事無く、今でもしっかりと脳裏に焼きついている。
『これはノイズメーカーだ!これでこいつらは暫く動けない!今のうちに他の者は逃げろ!こいつらは魔法士だ。お前達のかなう相手では無い。後は俺がなんとかする!これ以上人質を取られてしまうと、こいつらにとってますます有利な事態になってしまうぞ。特に、そこで大事そうに彼女を抱きかかえている少年、お前とかはな』
レシュレイは、この声に聞き覚えがあった。だが、その声の主は、数ヶ月前にレシュレイ達の目の前で死んだはずの男の声だったから、そんな事はありえないと思った。もしかして、という希望的観測が出来るほど世の中が甘くないということくらい知っている。
だが、状況が状況だったので、レシュレイもセリシアも、その場は大男に任せて、安全な場所へと避難するしかなかった。その間に大男が人質を取り返してくれたのが把握できたが、レシュレイは、大男に加勢して戦おうとは思わなかった。
『もう一つの賢人会議』での戦いで、レシュレイはともかく、セリシアが戦う事が到底出来ない状態だったのと、大男の気持ちを無視するような行動を取りたくなかったからだ。
―――因みに、後に知った事だが、犯人らしきテロリストは全て殺されていたらしい。中には、頭蓋骨を握りつぶされて殺された者もいたという話だった。
……なお、その後の『お姫様抱っこ』については、敢えて口に出さないでおいた。この状況下であんな事を堂々と言ってのけるだけの無神経さなど、持ち合わせているつもりは無い。
「……とまぁ、俺とセリシアが知っているのは、ここまでだ」
全てを語り終え、レシュレイは小さく息を吐いた。
「……それは、確かに、エクイテス以外には出来そうにも無い芸当だな。頭蓋骨を握りつぶせるだけの怪力を持った魔法士など、この世界ではエクイテス以外に該当者がいない。まぁ、断定は出来ないがな」
話を聞き終えた直後に唖然としていたイントルーダーが、顎に左手をあててぽつりと呟く。
「でも、レシュレイもセリシアも、この話を聞くまではそれをエクイテスだとは思ったかもしれないけど、断定は出来なかったんでしょ。私としても、それが普通なんじゃないかなって思うけどね。あんなことがあったんだもの、死んだはずの人間とよく似た人間がいた。たったそれだけだって思うわよ」
腕を組んだクラウがそう告げる。
「……いずれにしろ、もし、今度、偶然にも会う機会があったら、思いっきり名前を呼んでやれ。いまんとこはこれ以上の議論は意味ねぇし、今、俺達に出来る対策はそれだけだろ」
椅子に座って、足を組んでいるラジエルトは、軽い口調でそう言ってのける。だが、この場に居合わせた者全てが、その目が笑っていない事に気づいていた。
(……父さん。一番辛いのはあなたのはずなのに……)
心に思ったその言葉も、口に出さない。否、出せない。
外見年齢こそ近いが、それでも、親にとって子はやはり子。その子を目の前で失い、今、その子が生きているかもしれないと知ったラジエルトの胸の内にどんな感情が渦巻いているのかを察するのは難しいことではなかったが、誰も彼もが、敢えてそれを口に出さなかった。
「そうだな、父さん。俺としても
ラジエルトの言葉と気持ちを汲み取り、レシュレイは一旦この話題を止め、他の話題へと切り替える旨を口に出す。
「そうね。私もそうした方がいいと思うわ」
レシュレイのその発言に対して、最初に同意の旨を現したのはクラウだった。
「……じゃあ、次に聞きたいのは…その、俺達の知らない、ノーテュエルとゼイネストって子は、一体どんな子だったんだ?」
レシュレイがノーテュエルという名前を口に出した刹那、クラウの顔がわずかに曇ったのを、レシュレイは見逃さなかった。
ノーテュエル……『狂いし君への厄災』という能力を埋め込まれた、悲劇の少女。
今のクラウの様子から、クラウとノーテュエルという子の間には何か深いつながりがあったのだなと、レシュレイは察した。だが、それを口に出すようなことはしなかった。
「これが顔写真よ。といっても、もう、結構前のものだけど」
クラウはテーブルの影においてあった鞄の中から一枚の写真を取り出し、レシュレイへと手渡す。
「私にも見せて」と言いながら、セリシアが近くに寄り添う。「俺にも見せてくれ」と、ラジエルトがセリシアの反対側の位置に立つ。おそらく誰も意図しなかったとはいえ。結果的に、レシュレイが3人の中央にいる形となった。最も、いつも一緒にいる3人なので、当のレシュレイは、そんな事は気にも留めない。
レシュレイの赤い瞳が、クラウに渡された写真を見つめる。
金髪で、長い髪の毛を二つに分けて、何故かちょっと怒り顔に少女と、赤い髪で、肩をすくめている少年と、苦笑している茶色いポニーテールの少女の、3人の姿が、その写真に映し出されていて……。
そして、気がつかないうちに、レシュレイは、その言葉を口にしていた。
「―――待て、俺はこの二人を見た事があるぞ……」
「……ちょ、ちょっとっ!ノーテュエルとゼイネストに会ったの!?何処で!?何時!?何時何分何秒地球が何回まわった時!?」
レシュレイの発言に、ガタン!と席を立ったクラウが、テーブルに両手をついて、いつものクラウからは想像も出来ないような早口でまくしたてる。
「落ち着け、クラウ」
ぽん、と、クラウの肩にイントルーダーの手が置かれた。
「だって!ノーテュエルやゼイネストを見たっていう情報が、今、この場でレシュレイの口から告げられたのよ!これがどうやって落ち着けというのよ!」
「……それをこれから聞くんだからこそ落ち着くんだ。気持ちは分かるが、あわてても何にもならない」
「う…」
イントルーダーに諭され、クラウはようやく落ち着きを取り戻す。
「そ、そうね…ごめんなさいね。取り乱しちゃって……」
顔をわずかに赤くしながら、クラウはついさっき倒してしまった椅子を立て直し、椅子に座りなおす。
「……で、教えてくれレシュレイ。お前がノーテュエル達を見たって言うのは本当なのか?いや、お前がこんなことで嘘をつくとは思ってなどいないが」
イントルーダーの強い瞳がレシュレイを見据える。当たり前のことだが、行方不明の人間が見つかったという情報を聞いて真剣にならない人間はいない。
「覚えてないか?かなり前のことだけど、買い物に行った際に、服だったかのバーゲンセールをやっていた事があった筈だ。それで、バーゲンセールと聞いて我先にと品物を物色する主婦達に混じって、その…金髪の女の子が、負けじと物色してて、パートナーらしき赤い青年に止められていただろ?」
「……えっと、ごめんね。覚えてないの」
レシュレイの説明を聞いて、うーん、と考えこんだセリシアだが、数秒後に、本当に申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
「んー、正直、知りもしない人間のことをそこまで覚えているってのも、逆にすごくねぇか?もしかしてレシュレイ、お前、その金髪の少女の事が気になったんじゃねぇのか?」
軽口交じりの口調で、ラジエルトはそんな事を言ってのけた。
「レシュレイ、それって…」
セリシアのじと〜っとした視線が、レシュレイへと降り注ぐ。
「いや、待て、流石に待て。あれはあれで結構印象に残る場面だったから覚えていたんだけだ!だからセリシアも変な想像を膨らませるな!俺にとって何よりも大切なのはセリシ……って、こんなとこで何を言わせ……」
「……お前ら、惚気話はよそでやれ」
はぁ、とため息混じりにイントルーダーが『やれやれだぜ』と言いたげに肩をすくめた。
「…ちょっと待ってよ」
クラウの声が、震えている。
「えっと、レシュレイの話が正しければ……あの子達、生きて…いるってことでしょ?ノーテュエルも、ゼイネストも、今、世界のどこかで生きているんでしょう?」
それは、まるで何かに懇願するような口調。
「俺の記憶に間違いがなければ、高確率でそうなる。もしかしたらものすごく似ていただけの人物かもしれない。それに、その二人を見たのはそれが最後で、それ以来は一度も見かけていないんだ……」
「そうなの……でも、ありがとう。それが分かっただけでもうれしいわ」
クラウはぎこちない笑みを浮かべて、レシュレイに謝辞の言葉を継げる。
「―――ところでセリシア。今頃になってこんなことを聞くのはどうかと思うんだが……今のお前の気持ちはどうなんだ?お前が殺めてしまったというエクイテスは、今、生きている可能性がある事が判明した。そうなった以上、いつまでもそんな顔をしていてはいけないのではないのか?」
突然として前の話題に触れる内容を含んだイントルーダーの発言に、セリシアの肩がぴくんと震えた。
「イントルーダー!」
クラウに呼び止められても、イントルーダーは己の発言を止めない。
「……無論、俺とて古傷を呼び起こすような真似をしたくはない。だが、セリシアはここに来てから、ただひたすらに暗い表情ばかりでな。正直、見ていていたたまれなくなった。無論、この場所で明るい顔をしろという方が無理な注文だということくらい、俺とて分かっているつもりではあるがな。エクイテスが生存している可能性がある事が判明したなら、もう少し明るい顔をしたらどうだ?」
「……えっと、兄さんが生きていた事は、凄く、物凄くうれしいです。でも、それでも、私が……」
「待った、それ以上は言わない事だ」
俯いたまま、セリシアはぽつり、ぽつりと、搾り出すような声で言葉をつむぐ。だんだんと小さな声になっていくセリシアの発言を、レシュレイは右の掌を突き出す格好で制する。
「……イントルーダー、出来ることなら、その手の話はやめにしてくれ。確かに俺達は覚悟を決めてここに来たけれど、それでも今はまだ触れないでほしいんだ」
続いて、イントルーダーのほうへと向き直ったレシュレイは、静かな声でそう告げた。その声にはかすかな怒りが混じっている。
「レシュレイ……」
顔を上げたセリシアが、ほんの僅かに顔を赤らめて、小さな声でぽつりと呟く。大好きな恋人にフォローしてもらったのが、余程うれしかったのだろう。ましてや、それが彼女にとって触れてほしくないこととくれば、なおさらのことだ。
「さすが恋人ね。彼女へのフォローはばっちりじゃない……そしてイントルーダー、もうちょっと、言い方を考えたらどう?」
「悪いがクラウ、その手の感情や常識は、どうやら俺の脳内では欠落しているらしくてな……何が言いたいかというと、俺はこういう時にどう言っていいのか分からないって事だ。俺自身が他の奴らとずれた感覚を持っている事は自覚してるがな」
「もう、だったら私が言うわよ……うーんとね……レシュレイ、誤解しないでほしいんだけど…イントルーダーはただ単に『もうちょっと明るい気持ちでいて、もっと笑顔でいた方がいい』って言っているだけなのよ。ただ、イントルーダーが生まれ持った感性っていうのかしら。それのせいでそんな発言になっちゃった……そんなところなの。
イントルーダーね、数ヶ月前にあなた達と別れた後に、皆の心配をしてたのよ。『ブリード達は無事に過ごせるのか』とか『論がうまくヒナを支えてくれればいいんだが』とか『セリシアは大丈夫だろうか、近くに恋人がいるとはいえ、不安はぬぐいきれない』とか……」
「クラウ!それをこの場で言わなくてもいいではないか!」
「あら、図星をつかれて顔が赤い人に言われても、説得力が無いわよ」
珍しく顔を赤くして叫ぶイントルーダーに対し、クラウは『ふふん』と鼻を鳴らして意地悪な笑みを浮かべた。
「……ま、まあ、イントルーダーにも悪気が無かったって事と、心配してくれているって事は分かったさ」
「そういうこと。分かってくれればいいのよ」
先ほど、そうとは知らずに怒りの感情を言葉に表してしまったことに対して引け目があったのが、レシュレイの口調は彼にしては珍しく、少々ぶっきらぼうになっていた。それを察知したクラウが即座に一言を付けたしてサポートする。
「へぇ、お前も結構いいフォローするみたいだな」
と、ラジエルトは感嘆の声をあげる。
「あいにくと、おだてても何もでないわよ。
……まぁ、この不器用男の事はおいておいて……過ぎたことを何時までも気にするものじゃないって点に関しては私も同感ね。もちろん、そう簡単に割り切れないってのも当たり前なんだけど……でも、きっと、エクイテスは全て許してくれるんじゃないかしら。だって、自分のせいで身内が苦しむのを見て、黙っているような人じゃないもの。いい意味での真面目な人だったから」
「その口ぶり、やけにエクイテスの事を知っているじゃないか」
クラウに『この不器用男』扱いされて少しばかりへそを曲げたのか、少しばかり意味深な口調でイントルーダーがそう告げる。
「んー、エクイテスには何回か格闘技の稽古をつけてもらったこともあったし、それ以外の面でも結構お世話になってたからかしら。エクイテスはあれでも結構面倒見がいい人だったから、いろんな人に慕われていたのよ。
ただ、私としては、エクイテスには異性としての特別な感情は抱いてなかったかしら。あくまでも、同じ格闘術を扱う者としての付き合いだったかしら」
「何気にきっぱりと言うなあんた……」
「おとーさんは複雑な感情みたいね。今の私の発言で、私がエクイテスの恋人候補か何かだと思ったでしょ?」
「ああ、ものの見事にそう思ったとも」
「残念だけどはずれよ」
「冗談でもそう言ってくれたほうがうれしかったんだがね」
「あいにくと、私は嘘が嫌いだから」
「ひでぇな、おい」
「ふ、世の中の半分は女性で出来ているという言葉があるぞ」
ははは、と、ラジエルトとクラウとイントルーダーが声に出して笑う。
「えーと、私達も、笑った方がいいのかな…」
「いや、やめておいた方がいいと思うが…」
レシュレイとセリシアは、なんていっていいのか分からず、苦笑いをするしかなかった。
―――笑い声は、一瞬にして止まった。
「――今の声はっ?」
「ええっ!?」
「……空耳じゃねぇぞ」
「どうして、ここに…!?」
「冗談じゃねぇのか!?噂をすればなんとやら、か――!?」
レシュレイ・セリシア・ラジエルト・クラウ・イントルーダーの、五者五様の驚きが、静かな空間に響き渡った。
刹那にして、場の空気が一変したのを、この場に居合わせた全員が確かに感じた。
―――今の今まで、この場に居なかったはずの、6人目の声が響き渡ったからだ。
重みのある、ずっしりとした男性の声は、5人とも聞き覚えのあるものだった。
とある人物にとっては、同じ組織で育った魔法士。
とある人物にとっては、自分が生み出した魔法士。
とある人物にとっては、兄。
―【 キャラトーク 】―
ブリード
「……あれ?なんで俺らがここにいるんだ?」
ミリル
「もしかして…今回のお話でノーテュエルさんとゼイネストさんが、復帰してた事が判明したからなんじゃないかって思うんだけど…」
ブリード
「ああ、なるほど……あの二人はDTR前半で死んでいたからこそ、こっちでレギュラー化していたわけで、んで、生きていたって判明したから、こっちのレギュラーを下ろされ…」
ノーテュエル
ゼイネスト
「俺は降りたいんだがな」
ブリード
「よっ」
ノーテュエル
「やっほー!こんにちはー!」
ミリル
「な、なんかノーテュエルさん、いつもよりテンションが高くないですか?」
ノーテュエル
「だってー!私達、死んでそのままじゃなかったもの!あの世界で生きてる事が判明したんだもの!これほどうれしいことなんて無いじゃないの!」
ゼイネスト
「…まさかあのシーンが伏線となっていたとは…正直、俺も分からなかったぞ」
ブリード
「あれ?でもおかしくねぇか?だってよ、お前達がFJの舞台で『生きてる』って事は、FJの序盤のあのシーンで明かされているのに、なんでずっと死んだもんだと思ってたんだ?」
ゼイネスト
「あれはあくまでもレシュレイの視点で見た話だからだな。本編じゃレシュレイは俺達と面識がない。だから、俺達だって分からなかったんだ」
ノーテュエル
「そうそう、それに、あの場面で『実は私達生きてましたー』なんて言えるわけ無いじゃないの」
ブリード
「あー、そういうことかよ。
…で、最後にはエクイテス出てくるしな……この流れで本当にいいのかって思うけどな。俺」
ノーテュエル
「なんでよー!死んだままの方がいいっていうの!?」
ミリル
「えっと…そうじゃなくて、ブリードは『死んだ筈の命が蘇るって事は、生命に対する冒涜じゃないのか』っていいたいんじゃないかって思うの」
ゼイネスト
「……まぁ、現実的に考えれば、それが普通の考えだな。
だが、この場合はケースが違う。俺達が『最初から死ぬ為に、そして生き返る為に生み出された…』存在だからだ。普通の人間とは、大前提自体が違うんだ。まぁ、ここに来て、初めて知ったことではあるけどな」
ノーテュエル
「それよりもさ……途中、気づいたわよね?」
ブリード
「ああ、気づいたぜ……なんでここにあの名前があるんだ?なんで彼女がこんな事をしたんだ?『狂いし君への厄災』や『殺戮者の起動』が生み出され、そして埋め込まれた理由は判明したけどよ、肝心の『どうして彼女―――アルテナがこんな事をしたのか』ってのが、結局、今回じゃわからねぇままじゃねぇか!俺、もうわかんねぇよ!」
ミリル
「…あの人、とてもそんなことする様な人には見えなかったのに…どうしてなのかな……」
ゼイネスト
「……それこそ、これからの展開を待つとしか言えんな。だが、少なくとも本編を読む限りで分かるのは、アルテナは『ライフリバース計画』を、本当に、マザーコアにされる魔法士の為に実行したという訳だ。しかし、それをやってしまうと、取り返しのつかないことになるって、実行した後に気づいたんだろう」
ブリード
「確かに、そんなもんが世界に広まったら、マザーコア用魔法士を殺しまくってもいいっていう前提が成り立っちまうからなぁ…」
ノーテュエル
「そういえばさ『記憶回帰計画』の際、クラウはアルテナに生き返らせてもらったって言ってたわよね。でもさ、クラウがアルテナの事を口に出したシーンってあったっけ?」
ゼイネスト
「その頃にはもうアルテナは『もう一つの賢人会議』にいなかったんだから、話題に出さなかったんじゃないのか?」
ブリード
「案外、作者の後付け設定だったりしてな…」
ミリル
「ブリード、それ言っちゃ終わりになっちゃう…」
ゼイネスト
「後は……クラウとイントルーダーに襲い掛かってきたフードの人物も、アルテナなんじゃないかと踏んでいるんだが…」
ブリード
「おい、ちょっと待てよ……なら、俺とミリルはアルテナに襲われたってことになっちまうぜ!?なんでだよ!?俺達、襲われる理由でもあったかよ!?」
ノーテュエル
「あー、それなんだけどね…私さ、理由がなんとなく分かるのよ。この物語を外から見てきた立場だから分かるのかもしれないけど」
ミリル
「え、ええっ!?教えてくださいノーテュエルさん!どうしてアルテナさんは私達を『賢人会議』に行かせない様にしたんですか!?」
ノーテュエル
「それはきっと、この先、物語の中でアルテナ自身の口から語られると思うわね。だから、それまで待つしかないわよ……さってと、今回はこの辺かな」
ブリード
「ああ、そうだな……んじゃ、次回予告と行こうかね」
ミリル
「次回は『否定してきた過ち』です」
ゼイネスト
「さて、次はどんな話になるのか…楽しみに待とうじゃないか」
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Moonlight butterfly
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