FINAL JUDGMENT
〜あの人の面影が〜















―――二人で、とある知人の墓参りに行ってきたい。

2199年のある日の昼下がり、シティ・メルボルンのとある一軒屋のなかでの出来事。

天樹論とヒナ・シュテルンが、二人で並んでそう告げた。













出来る事なら深くは聞いて欲しくないと、論は言っていた。

その顔は完全に暗いとは言い切れないが、決して明るい表情だとは言えない状態だった。

隣に立つヒナに至っては、もう今にも泣きそうな表情である。

その墓参りに行く相手の名前はシュベール・エルステードという少女。あの『もう一つの賢人会議』での戦いで、レシュレイ達の知らぬ所で起こっていた戦い。

最後に告げられたのは、論達も知らなかった、隠されていた真実。以前、ヒナから許可を得て論が話してくれたのだが、どうやらそのシュベールという少女は、ヒナをマザーコアにされるという危機から彼女を救う為に、わざと酷い態度を取っていたという。

因みに、マザーコアとしてヒナが何処に送られる予定だったかは、永遠に闇に葬られた事実となっているようだ。最も、それは最早『無くなった可能性』なのだから、考えるだけ無意味というもの。これからヒナは、普通の人間の少女として、大好きな少年と一緒に過ごしていけばそれでいい。












レシュレイ・セリシア・ラジエルトの三人は、三人とも二人の意思を尊重し、先日、二人を墓参りへと送り出した。

さようならは言わなかった。なぜなら、二人が帰ってくる場所は、もうここにある。

そういうわけで、今、この家は元通りに三人暮らしになっている。しばらくすればまた五人暮らしになるのだろうけれど、それまでに空いた空白というものは、やはりどこか物悲しいものである。

そして今、レシュレイとセリシアは、復旧途上国の状態にあるシティ・メルボルンの繁華街で買い物をしていた。

「ええっと、これくらいでいいかな?」

「ん、そうだな。じゃあ、後は帰るだけか」

買い物かごの中には、合成物とはいえ色とりどりの野菜が入っている。今日の夕ご飯に出すサラダの為に買ったのである。

そして二人が店を出たその刹那―――事件は起こった。

「―――きゃああっ!うちの子がっ!」

「な、何が起こったっ!」

「また、前に来た奴がこのシティ・メルボルンを荒らしに来たのか!?」

突如として起こる喧騒と叫び声。数秒足らずで全ての店がシャッターを閉める。店の中から非難の声が上がったのが確かに聞こえた。その結果、外に取り残されたのは、レシュレイとセリシアを合わせて12名ほどだった。因みに、取り残された人間達には大人が多かった。

騒がしくなった空気が肌で感じられる。戦場とは又違う空気。

「…何か、よからぬ事態が起こったってことか!」

「レシュレイっ、見てっ、あれっ!」

見れば、繁華街の中央にある広場…厳密にはかつて建物があった跡地には、武装した四人ほどの男達が、正方形の陣形を組むように立っていた。しかも、首領格らしき男の腕の中に、一人の、外見年齢13歳位の少女の姿がある。それだけで、何が起こったのか理解できた。

「うちの子を返しなさいっ!」と叫ぶ母親がいた。それに答えるように涙声で「ママっ!」と叫ぶ少女。

「ハイそうですかと返すかよっ!」と言ってのける、犯罪者。

「…軍の警備が手薄だからって、調子にのった奴らがいたって事か…」

「…こんな状態で人の弱みに付け込むなんて…最低な行為です」

レシュレイとセリシアは少し離れた位置から、四人の男に注意の視線を注ぐ。

昨年に起こった『賢人会議』の襲撃事件からそれなりに時が経過し、シティ・メルボルンは前のようにとはいかないまでも、それなりに元通りの、人々の笑顔が溢れる街へと、少しずつ、そう、本当に少しずつ戻りつつあった。

そんな光景をぶち壊した連中が、今、目の前にいる。

当然ながらレシュレイの心の中には、怒りという感情が渦巻いている。目つきが鋭くなっているのが自分でも分かるくらいだ。また、怒っているのはセリシアとて同じで、彼女もまた、いつもより鋭い目つきで犯行を起こした連中を見ている。それでいて買い物袋を手放していないのだから、たいしたものだ。

怒りに任せて犯行を起こした連中をぶっとばそうかと思ったが、レシュレイの心の中にあった懸念がストッパーとなり、行動に移させなかった。

自分一人だけなら別段問題は無い。レシュレイが『真なる龍使い』であれば、レシュレイ一人だけでこの犯罪者達を片付ける事は十二分に可能だ。

だがそれは、相手に人質が居ない事が最大の大前提。何より、人質になっている少女はこうしている今も、目に涙を浮かべてかたかたと震えているし、男が持つナイフは、少女の喉元にあてられている。

勿論レシュレイとしても真っ先に助け出したいとは思うが、そういう行動を起こした矢先、相手がどういう反応を取るかの予測がつきにくい今では、そうそう迂闊な行動は起こせない。

しかも厄介な事に、犯行を起こした者達の構成員の殆どは剣を持っている事から、その能力は騎士である可能性が非常に高い事が推測される。『自己領域』を使えるとは思わないが、少なくとも『身体能力制御』程度なら使えるだろう。そうでなければ、このような犯行など起こせる訳がない。少女を人質に取る際に『身体能力制御』を使ったとみて間違いないだろう。

一瞬で少女を攫った手際のよさ、そして、それを行う為の必要時間から判断するに、相手は魔法士だ。さすがに所持スペックまでは分からないが、I−ブレインの埋め込みを受けていない普通の人間に比べれば、遥かに強い力の所持者である事は間違いない。

さらに、ここでレシュレイが迂闊な行動を取れば、人質の少女以外で危険に晒されるの可能性が一番高いのは誰なのか―――そんなのは言うまでもない。今、レシュレイの胸の中で震えているセリシアだ。元より『光の彼方』を持ってきていないこの状況では、セリシアがまともに戦える理由が無い。

―――ましてや、あの『もう一つの賢人会議』での戦いの後、セリシアは戦う事など到底出来ない状態だ。もし、そんな彼女を戦いに赴けるような奴がいたら、この目で見てみたいものだと本気で思う。

いずれにせよレシュレイに出来るのは、非常に苦惜しいが、ただ、事の成り行きを見守るだけ。

この後、状況がいい方向に向かうのか、悪い方向に向かうのかなんて分からない。全てはなるようにしかならないのだ。

その間にも時は流れていく。ここにきて、首領格の男が口を開いたのだ。

「おおっと、流石に人質を取られちゃ誰も動かねぇか。
 ま、安心しな。俺達は何も人殺しをしに来たんじゃねぇ。ちいとばかり食料が足りなくなってよ、配給して欲しいわけよ」

ふざけている、とレシュレイは思う。いや、それはレシュレイだけではなくセリシアも、そして、この場に居合わせた連中、後の10人が全て、一人の例外もなくそう思っただろう。ただ、人質が居るから反論しないだけだ。

言うなれば、シティに住む事を許されなかった連中が、無理矢理侵略に来たという事だ。

普段ならそんなふざけた要求はつっぱねるのが主流だが、流石に少女一人の命がかかっているとなれば話は別になる。男達のその発言から五秒もたたない内に、母親らしき女性が、たった今買い物をしたばかりの買い物袋を持って、一歩を踏み出した。

それを見た首領格の男の顔に笑みが浮かぶ。















―――刹那、状況の変化が起こった。















「―――ふん!」

何の前触れも無しに、男達の前に、一瞬の間で『何か』が到来したと思った次の瞬間、そんな声がした。それと同時に『ずごしゃあっ』という、すさまじい音までした。

「あわびゅっ!」

180cmはあるであろう首領格の男の体が思いっきり吹っ飛んだ。その後、首領格の男は、たまたま吹っ飛んだ先にあった空き家の壁にめりっとうつぶせ状態でめり込み、そのまま動かなくなった。よくて昏睡、悪くすれば死。

同時に、人質を取った男の背後から現れたのは、身長が2メートル近くもある、白銀の仮面を被り、全身をマントで覆い隠した大男だ。しかもいつの間にか人質の少女を助けており、その腕に少女の小柄な身をしっかりと抱きかかえている。

先ほどまで人質の身だった少女は未だに震えている。それを見た仮面の男が口を開いた。

そのまま、仮面を被った男は辺り一面を見渡す。

気のせいか、こちら側を見た瞬間、本当に一瞬だが、男の動きが止まったような気がした。まるで、何か気になるものを見つけて目を向けたような、そんな感じだ。

その後、誰よりも早く男は行動を起こす。懐から取り出した黒くて小さな塊を地面に置いたのだ。

するとたちまちのうちに、残り三人の男達は膝を突き、苦しそうにうめき始めた。

(あれは…ノイズメーカー!)

レシュレイには、仮面の男が何をしたのかが一発で分かった。それはセリシアとて同じであっただろう。

それを裏付けるように、仮面の男が叫ぶように状況説明をしてくれた。

「これはノイズメーカーだ!これでこいつらは暫く動けない!今のうちに他の者は逃げろ!こいつらは魔法士だ。お前達のかなう相手では無い。後は俺がなんとかする!
 これ以上人質を取られてしまうと、こいつらにとってますます有利な事態になってしまうぞ。
 特に、そこで大事そうに彼女を抱きかかえている少年、お前とかはな」
 
名前こそ言われなかったものの、具体的な例として示されて、レシュレイは少しばかり恥ずかしいようなむずがゆいような、少々複雑な気持ちになる。

しかもその発言のせいで、なにやら男達の視線が此方に集中的に注がれているような気がしてままならない。ここは確かに、レシュレイ達は退いた方がよさそうだ。色々な意味で。

そう判断し、レシュレイはセリシアの耳元に口を寄せ、小さな声で呟いた。

「…あの人の言うとおりだ。不本意だけどここは一旦退くのがいい。セリシアもそれでいいな?」

「…で、でも、あの人はどうするの?」

「残念だけど、今の俺じゃ何も出来ない。
 でも、あの人があんな風に言うんなら、きっと、あの人にはこの状況を打破できる術があるのかもしれない。だから、それに任せるしかないんだ。
 …それに、早くしないと、あいつらがどう動くか分かったもんじゃない」

セリシアはそこまで聞いて、うーん…と悩んだ顔で考えていたようだが、答えは直ぐに返ってきた。

「私としても物凄く納得いかないけど、このままじゃ他の人にまで迷惑がかかりかねないわ。だから、あの人の言うとおりにしましょう、レシュレイ」

その答えにレシュレイは言葉を返さず、代わりに頷いて答える。

改めて回りを見回してみると、人質が取り返された今、自分達にまで被害を被るのは御免だと考えたのか、シティ・メルボルンの住民達も、被害のおよばなそうなところまで避難を開始している。

「―――なら任せたぞ、名も知らぬ人」

レシュレイもそう告げて、右腕に買い物袋を持ち、左手でセリシアの手を掴んで走り出した。

「ま、待って〜!」

その際に、よく知る少女の、ちょっとだけ情けない声が聞こえた。

















逃げる間中、追っ手の類は一切来なかった。どうやら、あのノイズメーカーが結構長い間効いてくれていたらしい。

ふぅ、と、安堵の息をつく。無論、レシュレイは息切れなどしていない。なるべく息切れしないようにゆっくりと走った為だ。それが功を相したのか、隣に居るセリシアもそれほど息切れしてはいないようだ。

「…ねぇ、レシュレイ」

「ん?どうした?」

「あの人…似てたと思わなかった?」

セリシアの声は、消え入りそうなまでに小さかった。

あの人、というのが誰を指すかは、言われなくともレシュレイには分かっていた。先ほど、犯罪者達から子供を奪い返した大男の事だ。

あの後、あの男はどうなったのかは、今、ここにいる自分達には分からない。けれど、何故か、根拠もないけれど、あの男は絶対に負けないんじゃないだろうかという想いが、レシュレイの胸をよぎっていた。

そしてレシュレイがそう考えている間、セリシアは小さな声でぽつりと呟いた。

「…でも、そんなわけ、ないよね。だって…あの人は、私…」

「それ以上は言わなくていいっ!」

セリシアの発言を、レシュレイは半ば無理矢理に途中で遮った。

一瞬、セリシアが小さく息を飲んだが、レシュレイはそれを敢えて気にかけないように振舞う。

それは、レシュレイとて考えていた事だ。先ほど見たあの男と非常によく似た雰囲気を持っていた男を、レシュレイは知っている。だが、その人物は、今、この世には―――。

「…きっと、他人の空似だ。偶然だったんだ。だって、声が違っただろ…」

「…ボイスチェンジゃーの可能性だってあるわ」

「…そこまでする理由が分からないじゃないか」

「じゃあ、きっと、何らかの理由があったんじゃないかなって、私は思うの」

どうしても譲ろうとしないセリシアに対し、レシュレイは自分でも本意では無いと分かっている行動を敢えておこした。

「…本当の事を言うと、俺としてはこんな事を言いたくはないけど…セリシアは今、そうやって口に出しているだけでも辛いんじゃないか?」

「………」

図星を指摘されたらしく、ついには、セリシアは俯いて黙り込んでしまった。

そう、できる限り、セリシアにはあの人の事を思い出させてはならない。

避けられない理由があったとしても、兄殺しの罪を被ってしまった少女が、この事を思い出してしまうような、そんな環境はあってはならない。

ただし、間違っても、あの人を嫌っているとかそういうわけでは断じてない。

―――だが、口ではいくらでも嘘はつけるが、心の中でまで嘘はつけなかった。

レシュレイの心の中に渦巻いていたのは、疑念と、ちょっとした期待と、虚無感の三つだった。

(…そりゃ俺だって、あの人が生きてくれてたらって思うんだ。だけど、残念な事に、現実的に、そんな事は起こるわけが無いんだ…)

そこまで考えて、ぎり、と歯を食いしばる。

その次の瞬間、ふと、脳裏に思いつくものがあった。

(…そうだ。先ずは、この空気を変えよう。そうしないと、この話題が何時までも続いてしまう)

思い立ったら即実行。レシュレイはいきなり明るい笑顔を作って、とんでもない発言を口にした。

「―――そうだ。ちょうど周囲には誰もいないし、ここからはこうやって帰ろう!」

「え?こうやって…っていうと?
 ……きゃぁあ!ちょ、ちょっと、いきなりなにするのっ!」

言うが否や、レシュレイはセリシアの身体を持ちあげて、所謂お姫さま抱っこと呼ばれる抱きかかえ方をして、慌てふためくセリシアの声を聞きながらも、たったった、と、そのままゆっくり走り出した。因みに、買い物袋はセリシアが抱えている。

当然ながら、セリシアの顔はりんごよりも真っ赤になる。しかも耳まで真っ赤に染まっている。

「安心しろっ。誰もみていないから大丈夫だっ!」

「だ、だけど!ね、ねぇ!や、やっぱり降ろしてー!自分で歩けるからー!」

「聞こえない!聞こえても降ろさない!絶対に降ろさない!このまま、家に帰り着くまでずっとだ!」

「も、もう〜!無理矢理なんだから〜!後で何を言われても、私、知らないから〜!」

二人きりの帰り道に響く、元気な少年の声と、拗ねた少女の声。

だけど、そんな拗ねたような言葉とは裏腹に、セリシアの表情は、先ほどとは比べ物にならないほど明るくなっていたのを、レシュレイは確かに見た。










【 + + + + + + + + + 】













「さて…、と。これでいいか」

人質にされていた子供とその親を含めて、全員が仮面の男の言うとおりに広場から離れて、誰もいなくなったのを確認してから、仮面の男はふぅ、と小さく溜息をついて、改めて犯罪者達に向き直った。

人質となった少女を母親の元へと返した時、親子はきちんとお礼をしてくれた。そうなれば尚の事、後始末をきちんとしておかなければならない。そう、突如として平和を乱した愚か者たちに対しての制裁を加えるという形でだ。

ノイズメーカーの効果もそろそろ切るべきだろう。ハンデのある相手と戦っても嬉しくないのが本音だ。最も、ハンデがなくても負ける心算は全く無い。

相手は複数の魔法士に、しかも全員が戦うための武器を持った男たち。だが、それでいて、仮面の男は身じろぎ一つしない。逆に、その仮面の下にも、焦りの色などは欠片もない。

恐れる事は無いと知っているからだ。目の前の連中では、この身体に傷一つつけられないと分かっているから。

故に仮面の男は堂々とノイズメーカーを解除。三人の男達が、先ほどはよくもやってくれたなとばかりに立ち上がる。そして各々の武器を持って、仮面の男に斬りかかってきた。

だが、仮面の男は動かなかった。

その間に迫る、三本の騎士剣。

しかし、次の瞬間、ありえない音がした。

『カイインッ!』『カキンッ!』『カンッ!』

男達の本気をこめた一撃は、仮面の男の肉体にかすり傷一つつける事無く弾き返された。

男達が己の騎士剣を見つめて驚いている間に、仮面の男は腕を動かし、一番近くにいたヘルメットを被った男の頭に、その大きな手を乗せて、その手に力をこめた。

「へっ、こ、このヘルメットはな、並の人間の力じゃ砕けないようなカーボンで作られてい…て!?」

―――メキメキメキメキメキメキメキッ!!

ヘルメットを被った男が早口でまくしたて、その言葉を言い終わらないうちに、かすかに余裕の残っていた表情は驚愕に変わる。

にやけた笑いを浮かべた、犯罪者の一人が被っていたヘルメットは、まるでプレス機にでも潰されたかのようにひしゃげた。ヘルメットはその巨大な掌の握力によって潰されていたのだ。

現実的にありえない光景を目の当たりにした刹那、掌が完全にヘルメットを砕き、その勢いは止まる事無く、ヘルメット男の頭を骨ごと砕いた。

「ぐるびゅあ!」

最早断末魔とすら呼べない、声になってない叫び。血と骨と脳漿が勢いよく飛び散る。

それと同時に、男は血と骨と脳漿が飛び散る瞬間に、近くにあった布キレで、自分に血と骨と脳漿がかかるのを防いでいた。

ひぃっ、という声が周囲から上がる。無理もないだろう。自分達が握力だけで人間の頭を潰すような化け物を相手にしていたと、今更ながらに気づいたのだ。

「 …ず、ずらかるぞ!こ、こんな化けモン相手に勝てるわけねぇだろ畜生がぁ!!」

モヒカンの男が逃げ出そうと一歩を踏み出そうとした刹那、まるでワープでもしてきたかのように仮面の男が目の前に立ちはだかった。

「え、うそ」

あまりに突然の出来事にモヒカン男の思考が麻痺したらしく、モヒカン男は呆然としてしまった。そしてその『間』が、モヒカン男の生死を分けた。

次の瞬間には、眼前に迫った拳があった。刹那、モヒカン男の思考は止まり、視界は永遠の闇に閉ざされた。

当然ながら当人は知るよしもなかったが、モヒカン男の死に様は非常に酷いものだった。仮面の男の拳の一撃で、モヒカン男の頭はスクラップにされたかのように、生命活動維持が不可能なまでにひしゃげ、拳の勢いで首がちぎれ、頭だけが吹っ飛んでいったのだ。

その様子を見ていたのは、最後に一人残された、どこにでも流通されていそうな騎士剣をもった男。しかし、今やその顔はブルーハワイよりも青ざめており、全身はがたがたと、今にも立てなくなりそうなほどに震えている。

「…こいつ『身体能力制御』をもってやがる!しかも俺のI−ブレインによると、速度は通常の二十倍を超えてやがる!最高でも通常の四倍でしか動けねぇ俺が勝てるわけがねぇ!」

最後の一人も仮面の男の前から逃走しようとしたが、現実的に考えて逃げ切れるわけも無く、結局、モヒカン男と同じ末路を辿った。










【 + + + + + + + + + 】













戦いが終わり、全てが静かになる。

店という店はまだシャッターを閉めているが、この静けさに気づいた店からシャッターを開けるだろう。そしてこの場面が見られた場合、下手をすれば仮面の男自身が殺人犯となってしまう。流石にそれは避けたいところだった。

「…下らん。たとえお前達が五万人束になってかかってきたところで、俺には勝てぬだろう。
 全くもって時間を無駄にしてくれたな…さて、人目につく前に、最後の仕上げを終えるか」

そう言った後に、先ほど壁にめり込んだ男を引き剥がし、すっかり気絶している事を確認した後に、懐から特殊製の紙とペンを取り出し、この場で起こったことについての書き置きを残しておいた。

もう数分もすればシティの安全パトロール隊がここに来るだろう。後始末はそいつらに任せておけばいい。














この場でやれる事を終えた男は、わずかに血の匂いの残る広場に対し背を向け、最後に一度だけ、とある方向を振り返ってから再び向き直って駆け出し、高速で移動して姿を消した。

仮面に隠れて外からはよく分からなかっただろうけれど、その表情には、僅かばかりの安堵の色があった。それは、強いて言うなら、知っている人間が無事だったことを確認して、安心した人間の表情だった。






















<To Be Contied………>















―【 毎度おなじみキャラトーク 】―










ノーテュエル
「―――相変わらずのバカップルっぷりを見せ付けてくれるわね!レシュレイとセリシアは!!」

ゼイネスト
「開口一番からそれか。まぁ、そういいたくなる気持ちは分からんでもないけどな」

ノーテュエル
「確かにこの物語はカップルが多いけどさー!
 その中でもこの二人はダントルでそういうシーンが多いじゃないのー!」

ゼイネスト
「読者の皆さんもそう認識されているからな。そういうカップルにしなくては意味が無い」

ノーテュエル
「…よし!いつまでもカップル話していてもしょうがないから、話を変える!
 途中で出てきたあの男だけど…ゼイネスト、あんた……あの男についてどう思う?
 私は…まさかと思っているんだけど」

ゼイネスト
「奇遇だな。俺もそのまさかじゃないのかと邪推している」

ノーテュエル
「……そうよね。だって、少し前に『あの話』が出たんだから…」

ゼイネスト
「おっと、それ以上は言わない事だ―――と言っても、勘のいい読者であれば、このからくりに既に気づいている可能性もあるけどな」

ノーテュエル
「ま、それはおいておいて。
 論とヒナはシュベールのお墓参りに行ったみたいね。これはもしかしなくても、先行者さんの書いてくれた『ハカマイリ』の話につなげているのかしら」

ゼイネスト
「おそらく、折角先行者さんさんが書いて下さったんだから、という理由で繋げてみたのだろう。
 さしずめ、同盟作家どうしのつながりというやつか」






ゼイネスト
「…よし、今回はこの辺でやめにしよう」

ノーテュエル
「なんでよ?最近、切り上げるのが随分と早くない?」

ゼイネスト
「いや、なんでも、作者がこのキャラトークに使うネタが尽きてきたとか…」

ノーテュエル
「ただの作者の都合じゃないのよ!」

ゼイネスト
「そうはいうが、DTR一話目から散々やってるんだ。ありきたりなネタは全て使いきってしまったと思うぞ。
 だからしばらくは縮小して、ある日、一気に放出するんだってことだろ」

ノーテュエル
「ま、期待してないで、それに賭けてみましょっか」

ゼイネスト
「お前にしては珍しいほどに随分と素直だな」

ノーテュエル
「別にー。反発したっていいことないだろうから、敢えて従ってみただけ。
 それじゃあ次は『戦う理由、守りたい人』でお送りするわね」















<To Be Contied>




















<あとがき>



さて、ここでいきなり、何方かに似ている人が出てきました。

勘のいい読者の方は、この話を元に、殆どのからくりをあばいちゃうかもしれませんね。





FJに移行してからはレシュセリの出番が少なめだった気がしたので、今回出してみました。

作者としては出したいのが本音ですが、FJではこの二人には戦闘させたくないのもまた事実なんですよ。この二人の戦いは、DTRで終わっているんです。

だから、戦闘が起こらないような場所で、静かに物語を進める役になってもらっています。

これが本当に主人公とヒロインの扱いとしていいのかについては少々ながら疑問が残りますが、まぁ、たまにはこんなのもいいんじゃないでしょうか。

…と思うのは私だけだったりして^^;





なんだかんだで、ここまで話が進んでまいりました。

もう暫くお付き合いいただけると幸いです。


それでは。



※校正担当。 昴さん・デクノボーさん、ありがとうございました。

<作者様サイト>
Moonlight butterfly


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