FINAL JUDGMENT
〜力を試す時。力が明かされる時〜





















「…大まかな戦闘能力の把握、だと?」

シティ・マサチューセッツの軍の一室に集まった、男女七人の魔法士。その内訳はイル・クレア・ハーディン・由里・シャロン・フェイト・デスヴィン。

驚きを含んだ今の声は、その中の一人、紫系の服に身を包み、室内だというのに特異な形の帽子を被っている20台前半と思しき青年、フェイトが発したものだった。

因みに『大まかな戦闘能力の把握』という言葉を出したのは、短めの銀髪の20台前半の青年、ハーディンである。

彼は、シティ・メルボルンを始めとする、世界に残された六つのシティを本当に守りたいと考えている『聖騎士』として、軍の内部に広く知られている。

因みに、シティ・マサチューセッツとシティ・モスクワが停戦協定を結んだ為に、イルとクレアが同室に居られる。最もこの二人はある意味では兄妹みたいなものだから、例え所属する派閥が違おうとも、別に一緒に居たところであまり問題は無さそうなのだけれど。

そして、フェイトの質問に答える為にハーディンが笑顔で口を開く。

「いえ、『賢人会議』と真っ向から対峙するにあたり、お三方の戦闘能力がどれほどなのかと思いまして。
 僕も長い事シティに居ますから、イルやクレアさんの戦闘能力は知っていますが、由里さん、デスヴィンさん、シャロンさん、そしてフェイト、あなた方4人の戦闘能力については、殆ど知らないに等しいのです。
 そして、これから協力して戦う以上、互いの能力を知っておく必要があるかと思いまして、今回、あなたがた4人能力についてこの目で確かめておきたいと思いまして、この案を発案したのですよ」

「…んー、要するによ、いわば『入団テスト』みたいなものなの?」

頭に疑問符を浮かべて、あごに小さな右手の手の甲を乗せて、シャロンがそう言った。

「まあ…確かにニュアンスとしては間違ってはいませんから、それでよしとしましょう」

何故か苦笑を交えつつ、笑顔のままのハーディン。

「…ところで、何故に今更なんだ?
 ここに来てそんなものを開く意味が分からん。そもそも、それだったら最初から俺達がシティ側に所属する時に入団テストのようなものを行えばよかったんじゃないのか?」
 
普段から基本的に寡黙を決め込んでいるデスヴィンが、珍しく口を開いた。

口数が少ない分、デスヴィンが発する一言一言は、殆どにおいて意味のあるものが殆どだ。

「いえ、これから同じ戦場で戦う以上、互いの能力を知っておく必要があるかもしれないと思いまして。それはつまり、仲間同士がうまく連携しあわないといけないという事です。
 そして、仲間同士がうまくやっていくその為には、最初が肝心です。ですから、最初はそれほど縛りを設けずに、皆さんを受け入れたのです。
 この前の様子を見る限り、基本的に拙そうなところはありませんでしたからね…まあ、一部を除いて、ですが」

最後の方で苦笑いをするハーディン。その視線はフェイトに向けられている。

「それは誰の事なんだかなあ?」

わざとらしい口調で、口の端に意味ありげな笑みを浮かべて聞き返すフェイト。

その言葉に、部屋の隅で椅子に座っているボブカットの少女がフェイトに鋭い視線を向けるが、当のフェイトは全くもって気にしていない様子。或いは分かっていてあえて無視を決め込んでいるのか…何れにせよ、現状ではこの二人はこのような関係で、ハーディンがそのあたりを懸念しているというのは、この一同の暗黙の了解となっていた。

「ま、切り札は隠しもっておくのが定石なんだが…ま、ちいとばかりなら手の内を明かしておくのも悪くは無さそうだな」

ふ、と、小さく笑みを浮かべて納得するフェイト。さっきまでのおちゃらけた態度など微塵も残っていない。

おちゃらけているかと思えば唐突に真面目になる。これがフェイトという男の食えないところである。

「…んでハーディン、その能力試験っちゅうんは、おれとクレアとハーディンを除いた全員が受けるっちゅうことか?
 少なくとも、ハーディンはおれやクレアの能力については知っとるやろ?まあ、由里やフェイトやデスヴィンにも知って貰おうっちゅーんなら別にええねんけどな」

後頭部をぽりぽりとかきつつ、イル。

(※イルもフェイトも一人称が『おれ』なので、一瞬どちらがどちらの台詞なのか分からなくなるかもしれないが、口調で判断してくださいませ)

「いえ、今回の試験は、フェイトと由里さんだけに行います」

「…ハーディン、それはどうして?」

思わぬハーディンの言葉に、部屋の隅で椅子に座っていたクレアが問いを投げかける。

「そうですね。説明いたしましょう。
 まず、周知の通り、少なくともクレアさんの能力は、戦闘向きではないでしょう。
 戦闘で使うためには戦艦を使用しなくてはなりません。ですが、こんな事の為にFA-307を起動させるのもいささか問題でしょう。だから、クレアさんに関しては例外です。
 イルの場合ですと…そうですね、やはり、僕がイルの能力をよく知っているからでしょう。この後で皆さんに説明いたしますが、彼の能力は、本当に特殊なものなので。
 デスヴィンに関しては、彼と初めて出会った日に手合わせを行いました。第三次世界大戦を生き抜いたという言葉に偽りはなく、その力を認めることに意義はありませんでした。イルのスカウトも、たまには当たるのですね」

「大きなお世話や!」

大声を上げて、イルは拳を振り上げた。そんなイルの様子を見たハーディンは僅かに苦笑する。その隣で由里も口元に手を当てて小さく笑っていた。

だが数秒後には、ハーディンは咳払いをし、真面目な顔に戻り、話の続きを伝える。

「…これは失礼いたしました。では、話の続きといきましょう。
 …あと、シャロンさんは、今回の作戦では、前線要員から外させていただくので、能力テストの必要性がありません」

シャロンの瞳が大きく見開かれるのが、ハーディンの目にしっかりと映った。











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「ど、どうして私がそういう判断を下されたなの!?」

シャロンはハーディンの言葉に素早く反応し、反射的にちょっと大き目の声を出した。

むぅ、と小さく唸って、シャロンが上目遣いにハーディンを見る。シャロンから見ればハーディンはとても背が高く、どうしてもそうせざるを得なくなってしまうのだ…というより、この七人の中で最も身長が低いのは他ならぬシャロンである。

勿論、気にしていないといえば嘘になるが、周りにいるメンツを恨んでも仕方がないと割り切ってしまうしか手はない。こうなったらもっと牛乳を飲もうかなとか、シャロンは寧ろそんな事を考える。

で、そんな風に考えてしまっているシャロンにも、ハーディンは優しく答えた。

「シャロンさんの能力ですが、由里さんから聞いた限りでは、なんでも紅い翼を物理化して攻撃する類の能力でしたね。
 どうにも『天使』の変異系の能力らしいですけど…それだけでは、あの戦場では危険すぎます。ましてや、相手を『同調能力』の支配下に置けないのでは、尚の事でしょう。
 しかし貴女は、傷を治す事に特化していると聞かされました。なら、その能力を皆のために役立ててください。そういうわけで、後方支援についてくださいね」

どうやら、嘗て、由里に初めて出会った時に話した内容を、由里はそのまま伝えたようだ。

「天使」という単語が出てきた瞬間、一瞬、その次には『天使だからマザーコアにします〜』とか言われると思ったのだが、どうやらハーディンはそういう類の人間ではないらしい。シティを守る身であるとはいえ、それくらいの分別はついているようだ…少々失礼な言い方かもしれないが。

そして、ハーディンのその笑みは、演技や社交辞令では到底作る事の出来ない代物と言っても過言では無い。基本的には差別などせずに誰にでも笑顔を向ける…ハーディンとはそんな人物だ。だからこそ、多くの人に好かれるのであろう。

一瞬、心がどきりとときめいたが、それは本当に一瞬の事。ぶんぶんと首を振って否定する。

シャロンの心の中には、ずっと一緒にいてくれた赤い髪の青年の姿が、いまだに強く残っている。それと同時に、おてんばでトラブルメーカーだったけれど、いつもシャロンの事を思いやってくれた一人の少女の姿が脳裏に浮かぶ。

最後まで笑顔を崩さずに死んでいった、二人の仲間。

二人の事を忘れた事は、一日たりとも無い。だが、そうやって二人の顔を思い出すたびに、シャロンの瞳に涙が溜まる。

「…シャロンさん?どうかしました?急に首を振ったかと思えば、今度は沈んだりしていますし…そして、なんだか泣きそうですし…どこか、体の具合でも悪いのですか?」

思考と意識が一気に現実に引き戻される。そこには、心配そうな顔のハーディンが目の前にいた。

…そう、目の前にハーディンが居た事をすっかり失念していたことに、シャロンは今更ながらに気がついたのだった。

「な、なんでもないなの!」

で、とっさに取った行動はそれだった。反射的に両手をわたわたと振ってしまったのだ。

そして、人は行動してから後悔するものである。やっと我に返ることの出来たシャロンは今の行動を脳内で思い出して、

(わ、私、何してたなの!?)

あんな行動をみんなに見られたと思った刹那、途端に顔が赤くなった。

周囲を見渡すと、六人がそれぞれの表情を浮かべていた。

由里はきょとんとしていて、クレアとハーディンは苦笑いを浮かべていて、フェイトとイルはにやにやと笑っていて、デスヴィンは相変わらず無表情を貫いている。

「…な、なんでもない、なの」

それだけを告げて、シャロンは俯いた。何れにせよ、今のシャロンの状態ではこれ以外の行動はとても取れそうに無い。

文字通り、ぐうの音も出なくなったシャロンであった。











【 + + + + + + + + + 】















地下訓練室Aと書かれたプレートのある部屋の扉をくぐった先には、強化カーボン製の瓦礫が無造作に置かれていた。

因みにこの周囲には、地下訓練室Bや地下訓練室Cといった部屋が存在している。ちらりと、地下訓練室Cの方を除いてみた所、一面の強化カーボンによる白い壁が、大小様々な傷跡のせいでぼろぼろになっていた。

「あちらの部屋では、騎士同士が訓練をしていましたからね。ここはそういう場所なのですよ」

ハーディンの説明に、なるほど、と、フェイトは頷く。

「―――では、先ずはフェイトからお願いしますね」

無造作に置かれた強化カーボン製の瓦礫を指差し、ハーディンはそう告げた。

「なんだ、これがおれのテストか?」

フェイトは一瞬呆気に取られたが、図具に我に返り、聞き返す。

「ええ。フェイトは確か、荷粒子砲のような能力を使う…と、報告書には書かれていましたので」

「んー、ああ、まあ、そんなもんだと思っておいてくれ…んで、あの瓦礫をぶっ壊すのか?」

「あれくらいの物を壊せないようじゃ、あんたを戦力として数える事なんてできないわよ」

吐き捨てるようにクレアが告げる。クレアがフェイトを見るその目には、僅かな不信感が込められている。クレアからしてみれば、どうにもフェイトのような人物を好きになる事はできない。理屈ではなく、本能的に。

「ちげーよ、あの瓦礫だけをってのが難しいんだよ」

クレアの視線を殆ど気にせず、はぁ、と面倒くさそうに溜息を吐くフェイト。

「…ま、百聞は一見にしかずとも言うし、おれとしても回りくどいのは好きじゃねぇ。よく見とけ、仏頂面女」

そして当のフェイトは、左手で額を押さえて大口を開けて子供のように笑う。当然ながら、クレアはきっ、とした視線をフェイトに向けた。

「…フェイトさん、女の人をそんなにからかっちゃ駄目ですっ」

それを横で見ていて、同じ女性としてやりきれなくなったのか、由里がちょっとだけ頬を膨らませてフェイトに抗議した。

フェイトは一瞬だけ目を見開き、小さく息を吐く。

「よかったなクレア、味方が居たぞ」

「だーかーらー、なんであんたはそう、由里には優しくてあたしには憎まれ口叩くのよ!」

きーっ、と、前のめりになって拳をぶんぶんと振り回すクレア。ついでに、その瞳の端にはうっすらと悔し涙が浮かんでいる。

「…さて、おしゃべりはここまでだ。火傷したくなかったら黙っておいた方がいいんじゃないのか?」

だが、その時には当のフェイトは既に銃を構え、狙いを定めていた。

いや、それを銃というのは語弊があるだろう。フェイトが背中に担いでいた巨大なケースから取り出されたのは、全長一メートル以上は超えるであろう巨大な…レールガンだ。

どれくらいの重さがあるかは分からない。だが、その大きさとは裏腹に、それを構えるフェイトの腕には震えがない。これはあくまでも予測だが、特別製の金属を使う事により軽量化に成功しているのかもしれない。

さっきまでクレアをからかっていた人物とはとても同一だとは思えないほどの、静かな声。

その目つきがいつもよりさらに鋭くなっていた。元々キレ目なので、本当に目の端が切れてるように見えなくも無い。

固唾を呑み、胸の前で両手の拳を握り締めて、真剣な顔で行く末を見守る由里とシャロン。

クレアとイルとデスヴィンとハーディンは何も言わず、だた沈黙。但しクレアのみ、ちょっと目つきを悪くしてフェイトの事をねめつけている。













「…Action、Let's Lock!!」

沈黙の最中、フェイトの口から、小さくそんな言葉が放たれて、
















―――爆音が、轟いた。

















硝煙と焦げ臭い匂いが、地下訓練室Aの一室を支配する。

つい先ほどまでは部屋の中央に置いてあった瓦礫が、その周囲二メートルの壁まで巻き込んで、完膚なきまでに消失していた。

力を抜いたフェイトが、はぁ、と溜息をつく。

「…ま、見ての通り、おれの武器はレールガンだ。
 内部に電磁場を発生させて、その威力で特別製の弾を撃つ。
 ま、出力を抑えてコレだ。ぶっちゃけ、生身でこの一撃に耐え切れる奴なんていねーだろ?」

がしゃり、と、巨大なレールガンを地面に置くフェイト。その銃身の先からは白煙が上がっており、レールガンの内部に高温の熱が発生した事と、内部に熱が残っている事を周囲に理解させた。

「こ、こんな能力が存在したのですか…」

由里は文字通りに目をまん丸にして驚きを隠さないでいる。

「…こいつは、あの女の使う能力に似てんなぁ」

顎に手を当てたイルが、ふむふむと頷く。

「連発こそきかないものの、単発の破壊力だけなら非常に高い能力か…あまり世界では類を見ないタイプの能力だな」

静かな顔で分析をするデスヴィン。

「………」

ハーディンはただ、黙って目の前の光景を見ている。その瞳に移る色は、恐らくだが、期待と忌諱の両方が入り混じったものだろう。

「こ、この人が敵じゃなくてよかったなの…」

びくびくとしながらも、小さく安堵の息をつくシャロン。

「すごい、わね…」

そして、フェイトが引き金を引くまではあれほどフェイトの事を睨んでいたクレアが、小さく開けた口に右手で蓋をしながら、そう呟いていた。

この事実を目の前にして、クレアの脳がとある事実を理解してしまったのだ。

フェイトは口が軽い男。その認識は間違っていないだろう。だが、口は軽くてもその実力が本物であるということもまた事実だと。

あれが最大出力で放たれた日には、FA-307の荷流子砲などとても敵わない―――その点に関しては、素直に認めざるを得ないとクレアは判断した…物凄く、ものすご―――く不本意だが。

しばらくの間、沈黙が流れる。

「…おい、結果通知はまだか?ハーディン」

その沈黙を破ったのは、他ならないフェイトだった。その一言で、ハーディンははっ、と我に返り、口を開いた。

「…これは見事ですね、フェイト。
 これなら『賢人会議』の連中に一泡吹かせることも可能でしょう。
 テストの結果は…まあ、言うまでもなく合格でしょう」

「ちょっと!こんな奴を採用するの!?
 た、確かに能力が凄いって事は分かったけど、あたしはこいつの性格を認める心算は無いからね!」

で、当然の事ながら、ハーディンのその判断に、クレアがあっさりと納得するはずも無い。

「…とまあ、そういう事ですので、フェイトは出来る事ならクレアさんへの悪戯は慎んでくださいね。クレアさんも、それでよろしいですか?」

やんわりと微笑んだハーディンは、一字一句、ゆっくりとそう告げた。そして、その裏にある感情を理解するのは難しくない。

「…ま、そうだな。これ以上やると、マジで戦闘中に後ろから狙撃されかねねぇしな。あんた、根に持ちそうなタイプだしよ」

「だーかーら!そういうのをやめなさいって言ってんでしょっ!」

因みに、『戦闘中に後ろから〜』の部分は図星だったのだが、クレアはそれを口には出さなかった。









…兎にも角にも、フェイトには『合格』のしるしが出された。

そして次は、由里の番だった。










【 + + + + + + + + + 】















比較的こぎれいな状態を保っている地下訓練室Dは、ただっぴろくて何も無い、まさにがらんどうの物置というに相応しい場所だった。

障害物が無いという事は、邪魔をするものが無いという事に直結する。裏を返せば身を隠す場所が存在しないという事にもなるのだが、一対一の一騎打ちでは身を隠す必要性はないだろう。

おおよそ中央といえるであろう場所にたったハーディンと由里は、無言でめくばせをした。

事前にハーディンは『本気を出してくれても構いません。但し、周囲に大きな被害が出るような能力の使用は控えてください。もし周囲に大きな被害が出るような能力を由里さんが保持しているなら、詳しい旨は後でお聞きします』との旨を告げている。だから由里も、それほど大掛かりな能力は使わない。

二人は互いに背を向けて歩き出し、25メートルほど離れたところで立ち止まる。振り返った由里が『お願いします』というと、ハーディンは『こちらこそよろしくお願いします』と言い返した。

その後、一礼した二人は、それぞれの武器を構える。

ハーディンは、レイピアの形状をしている己の騎士剣を両手で正眼に、由里もまた、両手で己の武器である槍―――ゲイヴォルグを構えた。

その様子を、イルとクレアはドア付近で、シャロンとフェイトとデスヴィンは強化ガラスの窓越しに眺めている。

イルとデスヴィンとフェイトとクレアが無言で見守っており、シャロンだけが両手に拳を握って、真剣な顔つきで二人を見ている。

ちらり、と由里がシャロンに視線を送ると、シャロンが小さく手を振る。

こくり、と小さく頷いた後に、由里はハーディンに向き直った。

『I−ブレイン、戦闘起動』

I−ブレインが戦闘起動を開始し、システムメッセージが脳内を駆け巡る。

由里は『魔術師』である為に、なにも『騎士』の能力に拘る必要など無かったのだが、『騎士』の能力以外だと訳ありで決定的な破壊力に欠けるし、ハーディンも『騎士』系の能力を使ってくる事を考えて、この能力を使うことを選択した。

さらに、聞いた所、ハーディンは荷粒子砲も使えるという話らしい。『今回は出力を最小限に抑えるので被弾しても大丈夫ですよ』とは言っていたが、それでも安心は出来ない。

そして『騎士』と『光使い』の両方の能力を使いこなせるハーディンはまさに規格外の魔法士だと形容するに相応しい。

そんな人に、由里は今から挑もうとしているのだ。

「―――行きますですっ!」

一声を発する。

すり足で一歩を踏み出すと、ハーディンはそれに答えるように一歩、足を引いた。

いざハーディンの姿を目の前にしてみると、隙の無い構えであるという事が、素人である由里にもそれなりにだが感じられる。

ハーディンの運動の加速率は、I−ブレインがはじき出した数値によると、おおよそ36倍ほど。単純に考えて由里の1.5倍以上もある。

(…どうなるの?)

心の中に、ちょっとした不安が浮かぶ。

今此処は、自分の力を見せ付ける場でもあり、相手の力を見せ付けられる場でもある。

(…ううん、迷ってなんていられないですっ!)

頭を振って不安を打ち消し、とにかく前を見つめる。

対騎士用の術なら、おじいさんとおばあさんに教えてもらった。勿論、あれだけで勝てるとは思わないけれど、それでもやってみるしかない。

そこまで考えた瞬間、右足に力を込めて、由里は真っ直ぐに駆け出した。

通常の二十倍の速度に加速された由里の体は、静止した世界を常人よりも圧倒的に速い速度で駆け抜け、滑るようにハーディンの背後に回りこんだ。

流れるように身を翻しざま、ゲイヴォルグを真っ直ぐ前に突く。本来、槍という武器は突きの威力に特化した武器である。その為に、刃の幅が小さい剣に対し有利で、幅の広い斧には不利と言われるケースも存在するらしい。

加速度が全身の筋肉を水のように伝う。そのまま流れに任せて、迷いの無い突きを五連続で放つ。

だが、由里が放った攻撃はことごとくハーディンの剣戟によって裁かれ、ハーディンの身体は既に由里と向き合って対峙する形になる。まるで由里の動きが最初から分かっていたかのような反応だ。

「そ、それならっ!」

左足で大地を思いっきり蹴りそのまま上空に跳躍し、ゲイヴォルグの先端を地上へと向けて急降下。

高空から降り注ぐように放たれる槍の一撃の威力は、地上で勢い任せに放つ突きの威力を遥かに超える。御伽噺などで竜騎士と呼ばれる者達の使った常套手段。

「…いい事を教えてあげましょうか、由里さん」

だが、迫り来る槍の先端を見据えていながらも、ハーディンの顔には僅かな微笑みが浮かんでいる。

「上へと飛んだ場合…大抵は足元がお留守になるのですよ」

そう告げた刹那、ハーディンが跳躍。

ハーディンの言葉の意図をいち早く察知した由里は空中で体制を整え、ゲイヴォルグを横に構える。ハーディンが真横に放った一閃をゲイヴォルグの棒の部分で受け止め、ゲイヴォルグを掴んだまま腕を前に突き出しての反動を利用し、ハーディンから距離を離す。

両足が地面についたのを確認した後に、由里は再びハーディンへと向かって駆け出した。









【 + + + + + + 】








「…ふむ」

中々やりますね、と、ハーディンは素直に思った。

由里の話が本当ならば、由里はこれまで戦闘らしい戦闘をした事が無かったという話だ。

だが、由里の動きは、戦闘をした事が無い者にしては、優れすぎた動きだ。

もしかしたら、由里のI−ブレインには何らかの形で戦闘技術がプログラミングされているのかもしれないと考えながらも、目の前から襲い掛かってくる槍の一閃の嵐を次々を回避していく。

フェイントの使い方も、此方の反撃に対する応対も良好。実戦経験が無い事を考慮しても、この動きは見事なものだ。

(…ですが、その腕では僕には勝てませんね)

もちろん、ハーディンが負ける事は先ずありえない。

そもそも、由里の動きはあくまでも『実戦経験が無い事を考慮して』での『なかなか』なレベルだ。

第三次世界大戦を生き抜いたハーディンの体には、多種多様な実戦経験が積み重ねられている。だから、由里の動きは全てハーディンの予測範囲内に収まっている程度だ。

勿論、それは今言うべき言葉では無いという事を、ハーディンは理解している。

だから、この場では、由里の能力を見定める事に集中する。

五連続の突きを回避し、上空からの急降下攻撃を難なくやり過ごし、その隙を狙って反撃を叩き込む。そして、由里は様々な手段でそれを防いだり裁いたりする。ハーディンの攻撃に対し何とか軌道をあわせてゲイヴォルグで弾いたり、どこからか氷の盾を作って防ぐなどの手段を用いている。

後者の能力は明らかに騎士のそれではない、恐らく『炎使い』の能力を用いているのだろう。

由里の能力については、ハーディンも詳しくは聞いていない。由里自身がそれほど詳しく話そうとしない為に、無理矢理に聞きだすのは控えている。だから、未だにハーディンは由里の能力の全貌を知らない。だから、今回のテストである程度検討をつけてみようと思ったわけでもある。

ハーディンは荷粒子砲による攻撃は殆ど行わない。行ったとしても、由里がバックステップで距離を離した時への追撃程度に、出力をかなり弱めた一撃を放つ程度だ。

それを大慌てで弾く由里の姿はどこか可愛らしくすら見える。それを見ると、ふと、笑顔を作りたくなる衝動に駆られるが、由里に見られると笑ったと勘違いされそうなので何とか誤魔化している。

戦闘開始から、現実時間にしておおよそ八分が経過し、由里にだんだんと疲労が現れてきた。足に僅かなふらつきが見られるのが、その証拠だ。

戦いなれてない為に体力を温存する術を知らないのか、或いはハーディンの手加減の度合いが足りないのか。

だが、その時になって、由里の瞳に強い意志の色が浮かんだ。

左足を蹴って、ハーディンへと飛び掛ってくる。何度も見た光景だなと思いながらも、由里の動きを見ていたところ、

「―――ッ!?」

刹那、ハーディンは息を飲んだ。

由里の『自己領域』の速度が、今一瞬だけど飛躍的に上昇した。

速度はおおよそ50倍以上。今までの速度の3倍近い数値。

(…これは、一体?)

一瞬だが生まれる疑問。そして一瞬置いた次のタイミングでなんとかその速さに追いつき、ぎりぎりで弾く。

何かの間違いかと思ったが、I−ブレインの記録には、今の由里の速度は確かに通常時の50倍という数字がきちんと記録されていた。

その50倍の速度のまま、由里は再びハーディンに猛攻をかける。

今までに比べると遥かに早い連撃。無論、それがハーディンとって見切られない速度ではないにしろ、予測だにしなかった展開に少なからず驚かされたのもまた事実である。

ここに来て、ハーディンは守勢を維持し続ける羽目になる。反撃しようと思えば反撃できたが、その後に襲い来るであろう攻撃の事を考えると、迂闊な行動は起こせないと判断。まぐれの一撃という事もある。

そして、由里の顔は真面目そのもので、手を抜いている様子は見られない。

(どうやら僕も、手を抜いていられる余裕は無いという事か…由里さん、少し、本気を出しますよ)

きっ、と、ハーディンの瞳に強い色が混じる。

次の瞬間には三回、地面を蹴る音。三歩の跳躍は全てバックステップ。それによりハーディンは由里との距離を離す。引き続き、I−ブレインに命令を送り、騎士のそれとはまた別のプログラムを呼び起こす。

(『聖槍ホーリーランス)起動―――射出』)

一瞬の間を置いて、騎士剣の先端より、威力をある程度弱めた荷粒子砲が放たれた。

由里は目を見開いて驚きの表情を見せたが、咄嗟に地面を蹴って右方向に飛び、荷粒子砲を回避。そしてそのまま体制をたて直し、ハーディンの居る方へと一心不乱に駆け出す。

目標を失った荷粒子砲は、強化カーボンの壁に僅かなこげを作って消えた。

それを見届ける事もなく、ハーディンは次の行動を開始。此方へと向かう由里を迎撃する形で、フェイントをかけまくった剣捌きにより騎士剣が嵐のように乱舞する。そして、由里はそれを全て、ぎりぎりではあるものの避けきり、一旦ハーディンとの距離を置いた。

(…ん?)

その刹那、異変は突然に起きた。

つい先ほどまで通常時の50倍の速度で動いていた由里の速度が急激にダウンしたのが目に見えて分かった。I−ブレインが割り出した数値は通常時の10倍ほど。速度がそこまで一気に落ち込んだのだ。それと同時に、由里の表情にも苦痛の色が見えた。

(…速度が遅くなった?何れにせよ、今しかないっ!)

先ほどと比べて明らかに疲れきった様子の由里が三連撃を放った隙を狙い、ハーディンは由里が動くであろう箇所に狙いを定めて、騎士剣の一突きを放つ。

丁度騎士剣の先端に由里の姿が現れる。勿論、由里が自分から騎士剣の先端に突っ込んできたとかそういうわけではない。ハーディンの経験を活かしたが故の先手だ。

「きゃぁっ!」

驚いて顔をあげた由里は、反射的に身体をそらそうとする。

その一瞬の隙を狙って、ハーディンは姿勢を低くして由里へ足払いをかける。それも、由里が仰向けに倒れるように。

今の由里は身体をそらそうとしていたわけだから、後ろからすくうような力を加えられれば、当然ながら仰向けに倒れてしまう。

「わ、わわ…」

慌ててわたわたと手を振って姿勢を正そうとするが、既に遅い。由里はそのまま地面に仰向けに倒れこんでしまい、由里の背中が強化カーボンの床に触れた次の瞬間に、ハーディンは騎士剣を由里の喉元に突きつけた。

「…チェックメイト、ですよ」

穏やかな顔でハーディンがそう告げる。同時に、すぐに騎士剣を由里の喉元から外した。少女の顔が怯えに染まっていたからだ。

「…でも、良く頑張りましたね。結果の程は、もう少々お待ちください」

そう言って踵を返し、部屋の隅においてあった椅子に腰掛け、腕を組んで、脳内に考えをめぐらせた。








【 + + + + + + 】








由里はハーディンの近くに移動し、答えが来るのを待つ。

「由里さん。大丈夫、なの?」

その隣に、よく知っている少女が近づいてきて、由里の隣に腰掛ける。

「あ、シャロンちゃん…やっぱり、ハーディンさんは強かったです。私じゃ、敵うわけなかった…」

「由里さん…」

すぐ近くにいるシャロンの顔には、心配という感情がありありと浮かんでいる。

十分ほど続いたテストの結果、由里は惨敗だった。流石にここまでズタボロにされるだなんて思ってなかった。

ハーディンに触れることこそ出来たが、一本なんて取れるわけが無かった。逆に、ハーディンの猛攻が始まれば由里は防戦一方に持ち込まれ、反撃の攻めのタイミングなどハーディンは見つけさせてくれない。

防御面だけではなく攻撃面もそうだ。由里が渾身の力を込めて放った攻撃はその全てが回避され、持ちうる技術を尽くしてのフェイントはかなりの確率で見破られた。

最後の方で、由里の持つ『魔術師』としての『特殊な力』を使ったものの、それでも届かなかった。そもそも、ハーディン相手に勝とうという事自体が無理だったのかもしれない。おそらく、これではテストの方もアウトだろう。そう考えると、心の中に何か暗くて重いものが押し寄せる。

それが悔しさだという感情だと気づくのはすぐだった。同時に目じりに涙が浮かぶ。

だが、そんな中、ハーディンはとても意外な言葉を継げた。

「そう気を落とさなくてもよろしいですよ。由里さん」

「…え?」

ハーディンの言葉の意味が分からず、由里は思わず顔を上げた。

「テストは合格です。少なくとも、僕の判断する基準のラインは超えていますよ」

由里の顔に、ぱぁっと花が咲く。

だがその直後に、ハーディンはその花が枯れるような発言を直に告げた。

「…ですが、これでサクラと戦えるか、と聞かれれば―――僕は首を横に振りますね」

「―――え」

今しがた明るさを取りもどした由里の顔が一瞬にして暗くなり、さらに次の瞬間には泣きそうな顔になる。

「ど、どうしてっ!」

ハーディンの言葉が信じられず、両の手に拳を握り、上目遣いでハーディンを見上げる由里。ハーディンの方が背が高いから、どうしてもこうなってしまう。

ハーディンは左手で額を押さえて少しばかりの間を置いた後に、口を開く。

「確かに、模擬戦闘では悪くない数値だと、悪くない反応だとは思っています…ですが、このまま由里さんをサクラとの戦いに投入する事はできません。
 まず一つ―――由里さんという命は、一度死んでしまえばそれまでなのですよ。
 かつて僕の部下にも、腕に自身がある者がおりました。そしてある日、その人は凶悪犯罪犯…ああ『賢人会議』では無いですよ。…を追って、無残にも殺されました。
 僕自身、彼に任せておけば大丈夫だと思っていました。性格が単純だという問題こそあったものの、実力は本物だったからです。しかし、その思い上がりがこのような結果を招いてしまったのです。
 ―――前おきを長々と申し訳ありません。要約して言わせてもらいますと『戦いでは何が起こるか分からない』という事です。『賢人会議』の戦闘能力の全貌が分からない限り、由里さんを前線投下するのは危険が過ぎます」
 
ハーディンの言っている事は、正しい。故に、由里はただ、膝の上に手を当てて、黙って話を聞くことしか出来なかった。

(ハーディンさん、ずるい…そんな顔をされたら、反論できないじゃないですかっ)

胸の内には、ぐるぐるした想い。ハーディンが由里の事を本当に心配してくれていると分かるから、そういう想いが生まれてきた。最も、その感情はおおよそ半分ほど。残り半分は、ハーディンへの疑念で構成されている。

そのハーディンが、再び口を開いた。

「そしてもう一つ…これは、僕が最も懸念している事なのですが…由里さん、あなた、人を殺した事はありますか?

「…………え?」

一瞬、思わぬ言葉に唖然としてしまった。

やはり、という顔をしたハーディンは、そのまま言葉を続ける。

「…その様子ですと、一度も無いようですね。そして、僕が最も懸念しているのは、その点ですよ。
 由里さんが今まで人を殺した事が無いというのなら、尚更の事です。
 『賢人会議』を、サクラを倒したいという気持ちは分かります。ですが、その為に由里さんの人生の経歴に『殺人』の汚点を加えていいものなのでしょうか…と思ったのですよ。
 …確かにこの世界、誰かを殺さないで生きるのは非常に難しい事なのかもしれません。己が生きる為に他人を殺す事が酷く当たり前の認識になっている事も否定はいたしません―――ですが、だからといって、由里さんまで人殺しに手を染める必要性は何処にも無いのですよ!
 …殺すのは、既にこの手が血で汚れた、最早手遅れな領域に足を踏み入れている僕らの役目ですから」

「…あ、う…」

ハーディンの言い分は、とてもよく分かる。だから由里は言い返せなかった。

確かに由里は今までに人一人殺した事が無い。それは事実だ―――だが、心のどこかで、納得できていない由里自身がいた。

「…でも、私…」

俯いたまま、ぽつり、と言葉が零れる。

「…でも、じゃありません!子供みたいな我侭を言って、僕を困らせないで下さい!」

それに対しても、ハーディンは素早く応対した。そして、その応対の中に、今の由里にとって、もっとも言われたくない言葉が混じっていた。

それは『子供みたいな我侭』という言葉。

そして『賢人会議』は、子供のような主張で多くの人々を犠牲にした組織であり、由里の育ての親の仇でもある。

―――そんな『賢人会議』と一緒にされたような感情が胸の中に沸きあがり、頭に血が上る感覚と共に、何も考えられなくなる。それと同時に、今すぐにでもここからいなくなりたい衝動に駆られ、気がつけば、由里は立ち上がっていた。

「…もう、いいですっ!どうせ…どうせ私は子供ですっ!!」

半ばやけになって、後はどうでもいいですという感情に身を任せたまま叫ぶ。次の瞬間に踵を返した由里は、右腕で両目を覆い、そのまま扉のある方向へと走り出す。

「え?ええ?ちょっと!由里さんっ!?」

「由里さんっ!」

「おい、何処行くねん!ハーディンはお前の事を思ってやなぁ!」

「そうよ!だから待ちなさいってば!」

「駄目だ!やけになってやがる!」

「無理だ、もう止められん…」

ハーディンの声もシャロンの声もイルの声もクレアの声もフェイトの声もデスヴィンの声も無視して、駆け続けた。

誰の声も、聞きたくなかった。










【 + + + + + + 】











どうしてあんな事をしてしまったのだろうかという後悔の念が、由里の心の中でぐるぐると渦を巻く。

ベランダに座り込んで、膝を抱えて顔を埋めて、小さく泣く。

感情が抑えきれない。少しずつ流れる涙が止まらない。

泣いていたって物事が解決する訳ではないのだが、今は他にどうしていいのか全くもって考える事ができない。

果たして、何分ほどそうしていたのか。

「…え?」

反射的に、ぴくん、と背中が動いた。背後に何かの気配を感じたからだ。

(誰…?)

それが人の気配だという事はすぐに理解できた。

そう考えると、理由は分からないけれど、心の中に僅かな期待感がこみ上げる。その間にも、一歩、また一歩と気配が近づいてくる。

「…おー、いたいた。探したで、嬢ちゃん」

五秒もしないうちに、白髪の少年、イルがその姿を現した。

…何故か、ちょっとだけ、心の中だけでがっかりした気分になった。










座り込んでいる由里に対し、イルは上から声を掛けてきた。

「…ほれ、はやいとこみんなのとこに戻らんと。ハーディンとか、嬢ちゃんの事結構心配してたで」

「……すみませんけど、今、そんな気分じゃないのです」

ぷい、とそっぽを向いて、膝に顔を埋める。

すると、何も言っていないのに、イルは由里の隣に腰掛ける。今の由里には何も言う気がしなかったので、特に文句の類の言葉は言わなかった。

少しばかりの沈黙の後、イルが口を開いた。

「…しかし嬢ちゃん、戦闘中に『炎使い』の力も使ってたようやけど、なんでそれをハーディンに使わなかったんや?」

その話題に関しては答えられる内容だったし、由里としても話題を変えてくれたことに関しては、正直なところありがたかったので、少し考えてから答えを出す。

「炎使いの力じゃ、騎士には不利です…それに、ハーディンさんは騎士だから、私も正々堂々と騎士の力でテストを受けたかったの。それだけだったんですっ」

「…そーいう事かい。全く、妙に律儀なんやなぁ」

ふう、と息を吐き、イルはどことなく空を見上げる。

「ま、それはおいておくとして、問題はこっちやな。
 嬢ちゃん…ほんまにあの女を討つ気かいな?」

「…っ!」

その問いに対し、由里はすぐに回答を出す事ができない。心の中でぐるぐると回る感情が、明確な答えを出すのを躊躇っている。そんな感じ。

先ほどハーディンに言われた言葉がまだ脳裏に残っている。

言われるなんて思ってもいなかった、サクラを討つ事に対しての異議。

確かにハーディンのいう事は正しいのかもしれない。だけれど、それでは今までサクラを討つ事を目的として生きてきた由里にとっては、とてもじゃないが納得なんて出来ない事だった。

だから、答えられない。

そのまましばしの沈黙が流れたその時に、イルが再び口を開く。

「…んー、一つ言っていいか?」

「ど、どうぞ」

「んじゃ、おかまいなく…。
 これはあくまでおれ個人の意見なんやが、あの女への復讐に決意を燃やす事を責めたりはせえへん、まあ、嬢ちゃんが復讐に身を焦がしすぎて、死相が見えるようになっちまったら流石に引き止めるけどな。
 だけどな、いくらこの世界がこんな世界やからって、人を殺す事が当たり前になったらあかんのや。
 おれがハーディンの事を気にいっているんはそこや。確かにあいつには、その地位を行使して無理矢理でもいいから事を進めるところがある、その辺はまあ、今更言ったって直るようなもんやないし、諦めるしかないのかもしれへん。
 だけどあいつは、ほんとなら人を殺す事を望んでない。殺すのは、ほっといたら甚大な被害が出ちまうと判断した場合や。んで、『賢人会議』の場合がまさにそれに当てはまるんや。
 おれの言っている事、わかるか?」

イルの言葉に対し、俯いたまま答える。

「…うん、ほんとうなら、誰だって殺したくなんてないですっ。
 でも…でも、私…」

由里の言葉は、イルによって遮られる。

「嬢ちゃんが育ての親を殺されて悔しい思いをしているってのは分かるんや。おれだって、数え切れないほどのシティの住民を『賢人会議』に殺されたんやからな。
 だけど、それで命を奪おうっていう、安易な考えに走るのはよくないとおもうんや。
 そりゃこんな世界やから、殺さなきゃ殺されちまうってのは真理かもしれへん。だけど、一旦命を奪っちまうと、その重さに耐え切れなくなっちまう奴もいるんや。
 で、嬢ちゃんが仮にあの女の命を奪った場合、その後も普通に暮らしていけるかどうかと言われたら、そん時になってみないとわからへんって回答しか出せへん。
 だがいっとくで…殺した命ってのは、重いものなんや。勿論、世の中には人を殺しても何にも思わん奴もいるへんけどな。だけど、嬢ちゃんはそんなイカレた感覚なんてもっとらんやろ?」

「あ、当たり前ですっ!」

「せやから、おれは…いや、おれだけじゃあらへんな。ハーディンらも心配なんや。
 そん時が来ない方がいいって思うのは、当たり前の事なんや。
 …仮に聞くで。
 もし将来、嬢ちゃんに子供が出来て、その子が人を殺したらどう思うねん?」

子供、という単語に一瞬思考が止まるものの、何とか意識を現実に引き戻して、感情のままに叫ぶ、

「そ、そんなの嫌ですっ!断固として止めますですっ!」

刹那、イルは、その答えを待っていたとばかりに告げる。

「―――そう、今のハーディンがそんな感じなんや。
 …だから、嬢ちゃんももうちょっと落ち着いて、ハーディンのいう事を理解してやってくれや」

「…あ」

ぽかん、と口を開ける。

気づいてしまったのだ。

『賢人会議』を討つという目的が達成される事により、由里が背負ってしまうであろうものを。

そしてそれは、由里が敢えて考えないようにしていた事。それを考えてしまっては、絶対に、敵討ちなんて出来なくなる…そう、思っていた。

だから由里はその考えを否定していた。気づくまいと蓋をしていた。

でも、今、それを現実として見なくてはならない事に気づく。

命を奪ってからでは、もう取り返しがつかない。ハーディンが言いたかったのはそれなんだと、やっと落ち着いた頭が理解する。

そう考えると、自然と、次の行動が頭の中で決まる。

イルもそれを察したのか、一声をかけてくれた。

「…とりあえず、謝ってこいや」

「………うん」

こくり、と小さく頷いた由里は、立ち上がり、たたっと小走りで駆け出した。










【 + + + + + + 】








「…はぁ、世話のやける嬢ちゃんや…にしても、なにしとんのかなぁ、おれは」

由里の姿を完全に見送った後に、イルは額に右手を乗せて、大きな溜息をついた。










【 + + + + + + 】











―――夜が、訪れた。

物音一つしない静かな廊下を、ハーディンは無言で歩く。

昼間の由里の件を思い出すと、やはり、もう少し言いようがあったのでは、と、今更ながらに思った。

あの後、まだ涙の後の残っている顔で謝りに来た由里を見て、かなり気まずい気分に陥らされた。

今思えば、心配のしすぎで言葉が過ぎてしまったのは認める。だが一方で、あれくらい厳しく言わないと拙いのではないかという思いもあった。

しかし謝らなければ事態が進展しないようにも思ったし、ハーディンとしても、よくよく考えたらやっぱりあの答え方は拙かったかも、という考えが浮かんだので、頭を下げて謝罪した。

もっとも、だからと言って由里が命を奪うような事を認める訳ではない旨も伝えておいた。しかし、あの短時間で、イルが何らかの形でフォローをしていてくれて、そのお陰で考えを改めてくれたらしく、それに対しての反論は来なかった。

その時の由里の顔には不満がありありと浮かんでいて、ついでに頬がぷぅっと膨れていて、その仕草がまた可愛いなと思ってしまったりもしたけれど。

そして、それで一応その件は収まりを見せたようだった。

「ふぅ…なんとかなった、というところでしょうか」

そこまで思い出し、軽く息を吐く。溜息ではなく、安堵の息を。

「…ん?」

刹那、前方から人の気配を感じた。

警戒しながらも歩みは止めない。万が一、シティ・マサチューセッツに潜りこんだどこかの刺客という可能性も捨てきれないからだ。そんな状態で無闇に足を止めてはあちらに感づかれる危険もある。だからこそ、ハーディンは外面上の行動や態度を変えず、ただ心の中だけで警戒しながら、普通に歩く。

少しの緊張に包まれた中、その人物は実にあっさりと姿を現した。

「よう」

その姿を見た途端、ハーディンの心に安堵が戻る。それは、ハーディンが知っている顔だったからだ。

「フェイト?どうしてここに?就寝時間までもう少しなのだから、部屋に戻っておいたほうがいいと思うのですが」

それを聞いたフェイトは、顎に手を当てて「あー…」と唸った後に、顎から手を離して告げた。

「…まあ、ちと散歩にでも―――なんて御託はいらないな」

フェイトの表情が変わる。惚けた様子の表情は一瞬にして、にやり、と薄い笑みを浮かべた表情へと変化を遂げた。

「あー、面倒だから単刀直入に言わせてもらうぜ…ハーディン、お前だって持っているんだろ―――アルカナを」

はっ、と、弾かれたように顔を上げたハーディンは、次の瞬間にはフェイトの顔を正面から改めて見据える。青と緑のオッドアイを見開いたその顔には少しの驚愕が現れているのが自分でも分かる。同時に、その頬をつぅ、と、一筋の冷や汗が流れた。

「…なぜ、君がそれを知っている。アルカナを知っているのは、アルカナに関わった連中だけの筈だ―――」

少しばかり震える声で、それを口にする。

喉がからからになる―――とまではいたってはいないが、心臓が僅かながらに高鳴るのは抑えられない。目の前にいる青年に対する見方が変わる。

必死で隠し通してきた、自分しか知らないはずの秘密を知られたような、そんな感じ。

フェイトは口の端に小さな笑みを浮かべ、頭に手を当てて笑った。

「ははっ、分かりやすい奴だね。お前…ま、そんな風に正直な奴の方が、話が早くて丁度いいけどな。
 いまやアルカナ・リヴァイヴァーの設立からおおよそ十年経ち、俺達を作った科学者達もその多くが死んでいった。だが、科学者達が残してくれた俺達は、いまやこうやって存在している。
 ま、実際に生き残ったのが何人だかなんてのは、おれも知らないけどな。下手すりゃおれ達以外はみんなして死んじまっているかもしれねぇし、或いは全員生きてるかもしれねーし…」

だが、フェイトの言葉の大半は、ハーディンの耳には殆ど入らなかった。何故なら、ハーディンの頭は、フェイトの発した一つの単語にのみ集中していたからだ。

『アルカナ・リヴァイヴァー』。

フェイトが口にしたその単語は、ハーディンにとっては、仮に切ろうと思っても切れない関係にある単語。加えて、その単語を知っているとなれば、フェイトが言っている事がほぼ全て真実という事になる。

フェイトに対し疑念を抱きながらも、フェイトの会話の中に出た『アルカナ・リヴァイヴァー』という単語について思い返していた。

―――思い返すことなど難儀でも何でもなかった。己の埋まれ故郷を簡単に思い出せない者など、そう簡単にこの世界にはいない。










―――アルカナ・リヴァイヴァー。

それは、十年前に、世界のどこかに存在した組織。タロットカードの持つ神秘性に惹かれた者達が一箇所に集まり、22対の魔法士を作り上げる事を目的とした、ある意味ではオカルトな、ある意味では科学という名の自己顕示欲の表れを具現化した組織だ。

非常にマイナーな組織だった上、その当時、人々の興味やらなんやらはほぼ全て目の前の第三次世界大戦に注がれていたから、アルカナ・リヴァイヴァーが世間に注目される事はなかった。最も、逆にそれは彼ら・彼女らにとってはとても好都合な事だったのだが。

但し、その目的は至って自由。殺し屋な魔法士を作るもよし、戦うのが嫌いな魔法士を作るもよし。

そして、作った魔法士には、できる限り仲間の名前を教えない事、というルールが課せられた。何故なら、22人が全て味方ではつまらないだろう―――という、創始者による考えからだ。

勿論、自分の作った魔法士同士が殺しあうのなんて嫌だ、という意見も少なからず存在した。その為に、将来、自分の作った魔法士達を協力させたいと思っていた者達は協力しあった。逆に、そうなっても構わないという者は単独行動を取った。

最も、後者の道を選んだ者の中には、己の作った魔法士こそが最強だという事を証明したいという類の輩も居たのだろうと思われる。即ち、尽きる事のない自己顕示欲にまみれた、どんな場所にでも当たり前のように存在する人種だ。

『アルカナ・リヴァイヴァー』で作られた魔法士がどんな奴なのかなんて、ハーディンは知らない。

下手をすれば第三次世界大戦中に敵として出会い、殺してしまったかもしれないのだ。

これがアルカナ・リヴァイヴァーの最大の恐ろしさ。自分達と生まれを同じくした者達と戦わなくてはいけない場合が存在するという残酷さ。

だが、そんな中、幸運にもハーディンは生き残れた。然しながら、生き残る為に手段など選ばず、他者を斬りすてた事など幾度とあった。

それを責める者は誰一人居なかった。そう、ハーディンの良く知る、とある人物も含めて。

そして今、目の前にいるフェイトもまた、第三次世界大戦を生き抜いて、幸運にも生き残れた人間だという事が、これらの事実から如実にされていた。









髪をかきあげて、実にあっけらかんとフェイトは語る。

「そうだなー。アルカナ・リヴァイヴァーじゃ、おれの三つほど隣の培養層にお前が居たんだぜ。どうやら、お前とおれの生みの科学者は友人同士らしかったからな。少なくとも、おれにはその事を教えてくれた」

「…え?
 なら、どうして僕の製作者は、君の事を教えてくれなかったんだ?」

ふと発生する、疑問。ハーディンの目からはいまだに疑惑の色が消えていない。

「あー、そいつはおれにもわかんねーな。
 …んだが、お前が銀髪でオッドアイだったのが幸いしたな。オッドアイじゃなかったら、きっとお前だって分からなかったぜ。世間には銀髪なんてたくさん居るからな」

「確かに、僕のこのオッドアイは、世界でも希少なものかもしれませんしね。
 …もしかしたら、それがあったから、敢えて僕にはフェイトの事を教えなかったとか?」

「んー、そうかもしんねーぜ。
 まぁ、真相はとうの昔に闇の中なんだがなぁ。いやーまいるね。こりゃ」

「そこは笑い飛ばすところだとは思えませんが…」

「あ?笑いでもしねーとやってらんねーだけだっての」

額に手を当ててぶっきらぼうに告げるフェイト。どうやら、フェイト自身も心の底では不満らしい。

「…そうなのか」

どうやら、この疑問が氷解するという事態は、現状では起こりえないという事をハーディンは悟る。

「しかしフェイト…じゃあ一体、君のアルカナは?」

「んー、そうだな。めんどいのは嫌いだからはっきり言っとくか。
 俺のアルカナは―――『運命の輪』。アルカナの10番目だ」

そう言って、フェイトは服のポケットから、金色のカードを取り出した。白く光る一つのメビウスの輪が描かれた絵柄が、『運命の輪』の証拠だ。

「因みにこのカード、指紋認証がなされてて、本人以外が触ると焼けどするようにできてやがる。ある意味最強の盗難防止装置だな」

「ええ、それは僕も知ってます。だから助かりますね。本当に」

「んで、これが柄さ」

ぴっ、と、金色のカードを裏返し、絵の面がハーディンに見えるようにするフェイト。

ハーディンはしばしの間それを眺め、目を離す。

「確かに、確認したよ。
 そして…僕の『正義』は11番目か…偶然とはいえ、連番とは驚きですね」

「ああ、全くもってすげぇ偶然だよ。
 …どうする?アルカナ同士の再会だ。酒でも一杯やるか?互いに、外見年齢20は超えただろ」

「…賛成ですね。但し、明日の事もありますから、軽く済ませることにいたしま…」











「―――そうか、お前達も『アルカナ』か」











「!」

「っ!」

ハーディンとフェイトが、声のした方に同時に振り返る。

闇夜に照らされた通路の奥に、一人の人間の姿があった。

ハーディンやフェイトより僅かに高いその影が、光の当たり具合のせいで何倍にも長く伸びて見える。

そしてハーディンもフェイトも、その人物には見覚えがあった。いや、寧ろ見覚えが無いほうがおかしいだろう。何故なら、その人物はつい先ほどまで、ハーディンやフェイトと一緒に居たのだから。

―――その名はデスヴィン・セルクシェンド。常に寡黙で、あまり表に感情を出さない男だという認識が強い人物だ。

「盗み聞きとは趣味が悪くねぇか?デスヴィンさんよ」

口調に嫌味を込めるフェイト。だがデスヴィンはそれに動じず、寧ろ堂々と言い返す。

「何を言う。俺が一階上にあるベランダで夜風に当たっていたら、下で勝手に会話を始めたのはお前達ではないか」

「…あ、そういえば、デスヴィンにあてがった部屋はそこでしたね…」

思い出したかのように、ハーディンがそう告げる。

そう、デスヴィンの言うとおり、彼にあてがった部屋は、この場所の丁度真上だ。

「―――まあいい、まだ寝る気にはならなかったからな。それに、面白い話も聞けた。其方の方がより大きな収穫だ」

「…そいつはどうも。デスヴィンさんよ。
 ところでよ。あんた、さっき言ったよな―――『お前達も』って。ってことはだ。もしかしなくてもあんたもアルカナ・リヴァイヴァー生まれの魔法士だって事だな」

「ああ、その通りだ。そして俺のアルカナは―――『死神』だ」

腰につけている四角い小さな袋から、デスヴィンは一枚のカードを取り出した。ハーディンのアルカナと同じで、裏面が金色で染められている。

その絵には、黒い衣装に身を包んだ、鎌を持った骸骨の姿が描かれている。まさにまごうことなき『死神』である。

―――『死神』。

その言葉を聞いて、ハーディンとフェイトは驚きの声を上げずにはいられなかった。

『死神』はアルカナの13番目に位置するカード。不吉を思わせる13を司るに相応しく、『不幸』を象徴する意味合いが強い。但し、逆位置の場合はこの限りではなくなるが。

「―――おい、こりゃなんの冗談だ?偶然にしちゃ出来すぎってもんじゃないのかオイ。おれには、何処かのどいつがうまいこと介入してるようにしか思えねーぞ」

フェイトの頬を、冷や汗が一筋流れた。その口の端には笑みが浮かんでいるが、それが苦笑いだと察するのはとても簡単な事である。

だが実際、これを偶然と片付けていいのかは、ハーディンもデスヴィンも決めかねるところだろう。

何せ、『アルカナ・リヴァイヴァー』で作られた魔法士が三人も同じ箇所に集ったのだ。偶然にしては少々出来すぎていると勘ぐるのが普通の反応。もしくは、何者かの介入があったと考える事の方が当たり前。

だが三人は、敢えてその可能性を追求する事はしなかった。

「いえ、分かりませんよ…。
 もしかしなくても、今まで僕達が戦ってきた者達の中にも、アルカナは居たかもしれないんだから。
 世界は広いようで狭いのかもしれませんよ、フェイト」

「そーみてーだな…ったくよ、どうやらカミサマってのは相当悪戯が好きらしいな」

頭をぼりぼりとかきながら、フェイトはその台詞を吐き捨てた。

「それでは、再会の一杯のテーブルは、三人用のものを準備しましょう」

「んだな。細かい事は後回しだ。今はただ飲み交わそうぜ。再会を祝ってよ」

「酒か…長らく飲んでなかったから、こうやって飲み交わすのも悪くないだろうな」










…その後、間違ってウォッカを飲んだデスヴィンが酔いつぶれてしまい、ハーディンとフェイトがデスヴィンの両肩を支えながら、彼を寝室まで運んでいく羽目になったりもしたのだが。

因みに、後から分かった事なのだが、デスヴィンは下戸だったとか。ついでに追記しておくと、ハーディンは普通で、フェイトに至ってはザルである。





























<To Be Contied………>















―【 おまけどころじゃない存在感になっちゃってるらしいキャラトーク 】―











「…ん?」

ヒナ
「…あれ?」


「…ああ、成程。久しぶりに来たな。ここはあれか。キャラトークという名の大暴走が繰り広げられるカオスな空間か」

ヒナ
「論…それは、はっきりといいすぎだと思う…」


「いや、ヒナ。そうだとしても、これ以外にどうやって形容すべきなのか分からないんだが。そういうヒナにも、この空間をどういう名称で呼んだらいいかって分かるのか?」

ヒナ
「…えと、えと、えと、その…う、うう〜」


「っと!
 ま、待てっ!何も泣きそうになる事はないだろ!
 …ったく、このままじゃ話が進まないから、ささっと始めたほうがいいみたいだな」












「さて、ついにフェイトの能力の正体が判明したみたいだよな」

ヒナ
「ええ、えっと…レールガンって言われる武器を使用してました。
 確か『魔弾の射手』と同系列に並ぶ能力だと思うんだけど…」


「そう、その通り。レールガンってのは、物体を電磁誘導により加速して撃ち出す装置の総称だと言われてる。さらに言うと、銃の内部に電磁場を発生させるって事だ。
 因みに弾体自身は電流を全く通さない樹脂などの非伝導体で作り、弾体後部に導体を貼り付ける様式が一般的らしい」

ヒナ
「電磁場…って、あれですよね。
 人間が触れちゃうと、血液沸騰を起こして爆発しちゃうんですよね…」


「…む、その辺はオレも詳しい論理は分からないんだが、一般的知識ではそれで正しいはずだ。確か、血液中の鉄分だったかが関係するんだったと思ったが。
 そうなるとフェイトの能力は…」

ヒナ
「す、ストップです、論!
 それ以上はネタバレになっちゃいます!」


「おっ…とと、そうだったそうだった。危ない危ない。
 まー、鋭い人にはもう分かっちまったかもしれないけどな。
 何れにせよ、もう少し物語が進めば明らかになるから、その時まで取っておくのが最善だと思うな。
 んー、他にフェイトについて語れそうな事あるか?」

ヒナ
「ええと、フェイトさんについては、それくらいでいいと思います。
 後は、由里さんの能力ですけど…」


「ああ、全くもって不思議だ。
 一応『魔術師』らしいんだが、一体どんな能力なんだ?
 一時的にしろ速度が50倍にまで跳ね上がったらしい描写があったんだが…」

ヒナ
「うーん、なんとなくですけど、これはこれ以上は追求しないで、黙っておくほうがいいと思います」


「―――成程、ヒナがそういうならそうしよう」

ヒナ
「論…」


「か、勘違いしないでくれ。ま、また泣かれそうになったら困るだけだっ」

ヒナ
「…論、顔が真っ赤」


「す、少しは黙っててくれっ!
 んで、最後には…アルカナってのが気になるな」

ヒナ
(もう…てれ隠さなくてもいいのに…ちょっと残念です)
「…ハーディンさんもフェイトさんもデスヴィンさんも、全てアルカナだったんですね…。
 なんかもう、出てくる魔法士がみんなしてアルカナとか、そういう流れが来そうな予感なんですけど…」


「…流石にそれは無いと思うんだけどな。あまりにも偶然がすぎる。
 だが、やはり同じ組織内で作られた魔法士ってのは、互いに引かれ合う運命にあるのかもしれないって思うのもまた事実だ。『もう一つの賢人会議』がそうだっただろう」

ヒナ
「う、うん…そういわれればそうでした。
 そういえばアルテナさんも魔法士だけど…一体、どんなカテゴリの魔法士なんでしょうか?」


「分からん。情報が少なすぎて分からん事が多すぎる。
 …ゆえに、今はまだ、待つしかないのかもしれないな」

ヒナ
「んー、そうですね。
 …それにしても、二人だけで話していると、なんだか不思議な気持ちになるの。
 誰からも邪魔されないで、論と一緒にいられて…まるで、新婚夫婦みたいで…」


「ヒナ…」

ヒナ
「論…」














ノーテュエル
「たっだいま―――――――――っ!!」














論&ヒナ
「っ!!」

ノーテュエル
「あれ?どうしたの二人とも?
 お互いに見合っちゃって。んー、キスにしちゃ距離が遠いみたいだけど……」


「い、いや、なんでもない。
 た、只単にキャラトークをしていただけだ…そ、そうだよな、ヒナ」

ヒナ
「…うう(いい雰囲気だったのに〜)」

ノーテュエル
「…」(拙いタイミングで出てきちゃったかしら、私…)














「さて、次回は…『奪還』だそうだ」

ヒナ
「それでは、こ、今回はこの辺で…」















<こっちもTo Be Contied〜>




















(あってもなくてもどうでもいいような)作者のあとがき>



流石ノーテュエル。空気読まなさが半端じゃないぜw

いや、あんな展開にしたのは他ならぬ私なんですけどw





とまあそんな事はおいておいて…やっとフェイトの能力が明かせました。

最初は全然コンセプトの違う能力だったのですが、様々な方から指摘をもらってしまうような能力だったので変更したのですよね。まぁ、結果的にはこっちの方が正しかったと思いますが。





…むーん、キャラ達に代弁させるという事なくなるわ…って、この愚痴も何度目なのだか^^;

まぁ、締まらない終わり方ですが、今回は此れにて。





<校正協力>
デクノボーさん。

<作者様サイト>
Moonlight butterfly


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