FINAL JUGEMENT
〜 賢人達 〜





















―――思い返すと、偏った視野とは本当に厄介なものだと思わざるを得ない。

『賢人会議』に囮として連れて行かれたシャロンが見たものは、世間による一般的な『賢人会議』の言われようとは、かなり違っていたのだった…。













【 + + + + + + 】













由里とハーディンとシャロンとルーエルテスの四人でたてた計画。

それは『賢人会議』の現時点での本拠地を突き止めるというもの。

その計画の為に、敢えて囮となったシャロン・ベルセリウスは、そのまま『賢人会議』へと連れていかれた。

だが、恐れる事は何も無かった。シャロンの能力――『堕天使の呼び声コール・オブ・ルシファー)/RP>』を使えば自力脱出も不可能ではないからだ。

赤い翼を生成して現実化させ、物理ダメージによる打撃を与える攻撃。そして、量子力学の原理を利用した『干渉不能の掟ロストルール・イリュージョナル)/RP>』がある。

因みに、シャロンが抜擢された理由としては、ハーディンやルーエルテスには動けない理由があるし、由里をサクラに会わせてしまうと、感情を抑えきれずに戦闘になっちゃうかもしれないという懸念が由里にはあり、それが拙いという考えからシャロンが抜粋されたという要素もあった。

因みに、こんなことしなくても、『賢人会議』にはデュアルNo.33…ディーが居るんだから、彼の位置を即座に探し当てる事が出来るクレアヴォイアンスNo.7…クレアに頼めばいいんじゃないかと言われていたが、ディーを匿う形になっているクレアが『反応に引っかからない』などといった答えを返してくる為に、こういう手に出るしかなかったのだ。

だが、それも無理は無いんじゃないかと、銀髪の青年…ハーディンは言っていた。

シティ・マサチューセッツに在籍する『千里眼』―――クレアヴォイアンスNo.7…通称クレアは、デュアルNo.33…ディーの姉のようなものだという事らしい。

つまり、姉として弟を庇おうとする為に、どうやっても口を割らないだろう―――という結論に至ったらしい。

その為に、こういう手を取らざるを得なかったのだ。

まわりくどく、確実性に欠ける手段ではあったけれど、それでも、現状で考えうる限りでは最高の成功率を誇る作戦。

だが奇跡というものは起こるものらしく、ハーディンや由里の思惑通りに事は進んだ。















さて、由里が助けに来るまでに、シャロンは何をしていたのか――――。














【 + + + + + + 】
















「…着いたぞ」

女性にしてはやや鋭さのある声が耳に入り、意識が覚醒し、目が覚めた。

黒の外套にくるまれ、その暖かさ故にいつの間にか眠ってしまっていたらしい事をシャロンの脳が認識した。

周りを見渡すと、ここがどこかの屋敷の部屋だという事が一瞬で理解できた。

黒いカーテンが吊るされた窓、同じ部屋に何本もある柱、ほんの少しだけだが、薄っぺらい本が積まれている本棚。一番上の本のタイトルはひらがなで『ぐりとぐら』と書かれており、表紙には大きな卵を二匹がかりでもっていくリスの姿が描かれていた。

「…こ、ここはどこなの?」

「『賢人会議』の現在のアジトだ。現在、私達はシティの追っ手から逃げるために様々な場所を転々と移動している。
 そして明日、北米のこの地で魔法士の子供達を解放する。シティの追っ手から逃れさせるためにな」

「そうなの」

素直な感情のみを口にし、敢えて深くは追求しなかった。下手に口走ってシャロンの正体やその目的が感づかれては拙いからである。

北米云々という事は、現在地はおそらく世界の北の方だろう。

『賢人会議』は、マザーコアとなる子供達を奪い、何の力も持たない弱い人達を大量に殺す組織だと、ハーディンは言っていた。事実、『賢人会議』によって奪われた命の数は非常に多く、加えて、助かった魔法士の数は非常に少ないと来ている。これでは、賛同される筈が無いだろう。

だがそれは、『賢人会議』からしてみれば、マザーコアとなる子供達を救う組織だという事になる―――という見方もある。

無論、その立場は見方次第で変化するものであるから、皆が皆、同じ答えを出すはずが無い。

どちらが正しいのかはシャロンにも分からないが、多くの命を助けるという点において、シャロンはハーディンらを、厳密には由里を支持していた。

最も、一番の理由としては、シャロンの命を助けてくれた少女への恩返しという想いが最も強かったのだろう。














サクラに連れられ、応接室と書かれたプレートがついた部屋のドアがたちはだかる。

どきどきと、心臓が高鳴る。

この時のシャロンの心の中は、緊張でいっぱいだった。

初めての場所という事で緊張していたというのもあるのだが、正体こそ明かしてないとはいえ、事実上、シャロンは『賢人会議』にとっては敵なのだ。

だが『賢人会議』は天樹由里のお爺さんとお婆さん、そして、由里の知る孤児院の子供達の仇だ―――そう考える事で気を引き締める。

(そうなの。今更考えてる場合じゃないなの)

ぶんぶんと頭を振り、迷いを打ち消す。

ブリードらとの戦いに敗れ、死に掛けていたシャロンを助けてくれた由里には感謝している。それに由里は、たくさんの子供達を助けようと頑張っている。だからシャロンは、由里についていこうと決めたのだ。

故に『賢人会議』を倒さねばならないと決めたのだが、ここでそんな事が言えるわけも無い。言った時点でアウトだ。

そもそも『賢人会議』には、最強の殺戮兵器である『森羅』を所持した人物が居るという。

聞いた話では、モスクワ軍陸戦部隊、五個中隊400人を斬り殺したとか。

そんな人物と戦う羽目になったら、先ず間違いなくシャロンに勝機は無い。技術も経験もないシャロンでは赤い翼による攻撃も当たる可能性が限りなく低いし、もし『干渉不能の掟』が切れた瞬間に斬りつけられたりでもしたら終わりだ。

だから、先ずは周りに流させる。

いらぬ疑いを持たれないようにする為にも、目的を遂行する為にも、本心は隠しておかなくてはならない。

「今から入るから、入室と同時に挨拶をしてくれないか?
 なに、簡単なものでいい…寧ろ、目の前にあるものについて驚かない事を祈ろうと思う」

そんな中、ほんの少しだけ嫌そうな顔をしたサクラが、ドアノブに手をかけた。

シャロンにはその理由が分からないのだが、今はサクラの言う事に従う事にした。

「分かったなの」

「…さっきから気になっていたのだが、その『なの』というのは貴女の口癖なのか?」

シャロンの返事を聞いて、むう、という声と共にサクラは顎に手をあててシャロンに問う。

「そうなの、私は生まれつき、こんな口癖を持ってるなの」

こんな事で嘘をついても仕方がないので、正直に答えておいた。

「分かった。余計な事で時間を取らせて済まなかったな。では、今度こそ入ろう」

がちゃ、と、サクラの手によってドアノブがねじられ、扉が開けられる。

一歩、二歩、三歩と進むと、部屋の全貌が明らかになる。

肌色を基調とした強化カーボンの壁に包まれており、左右には小さな本棚があって、床には刺繍の入った緑色の絨毯がしかれている。

「こんにちは、君が、今回マザーコアにされかけた魔法士だね?」

声が、聞こえた。

反射的に振り返ると、目の前には確かに人がいた。

そして、そんな事をあっさりと言ってのけたのは、目の前の大き目の黒い机に腰掛けて、手を組んでにこにこしている、眼鏡をかけた二十代前半の男だった。


















その部屋には、眼鏡の男以外にも、銀髪の少年と、金髪の少女がいた。

銀髪の少年は僅かに驚いた様子で「あ」と口を空けた。

金髪の少女も小さく口を空けてぽかんとする。

一瞬、二人が何故同じようなリアクションをとったのかが分からなかったのだが、金髪の少女がポニーテールだという事実を理解すると、自然とその理由が察知できた。

シャロンもポニーテールだからだ。おそらく、マザーコアにされかけた子が似たような髪形をしていたから、ほんの少し驚いた…それくらいの事だろう。

(なるほど、そういう事なの)

理由を理解して、口元に小さな笑みを貼り付けるシャロン。

刹那、眼鏡の男から一つの質問が飛んだ。

「…ええっと、いきなり失礼な質問かもしれないけど…君は今何歳なんだい?
 ああいや、別に下心があるような質問じゃないよ。ただ、ちょっとだけ思うことがあっただけだから…」

(…!)

本当に失礼である。

温和な笑みこそ浮かべているが、その下に何か黒いものがあるというのを、シャロンは一瞬で感じた。

ふと、隣のサクラをちらりと盗み見ると、左手の握りこぶしがふるふると震えていた。ついでに額にくっきりと浮かんだ青筋の存在を確認する。

一瞬の間にそこまで確認した後に『あなたって、本当に失礼なの』とそのまま言い返してやろうかと思ったが、ここでそんな事を言うのは得策ではないので、素直に答えておく事にした。

それに、言い返したら言い返したで、なんとなくこの人の手の上で踊らされたような気がするので、そうなってはシャロンとしては凄く面白くないだろう。うん。

「16歳なの、実年齢は2歳なの」

そう答えると、男が答えた。

「…へぇ。そうだったんだ。
 いや、見た目がセラにそっくりだったから、ちょっと聞いてみたくなっただけなんだ。
 という事は、セラも後六年くらい経てば、きっとこんな風になるのかな?なんてね」

「え…ええっ!」

その発言に、セラ、と呼ばれた金髪ポニーテールの少女が僅かに顔を赤らめた。

「真昼さん…セラが困ってますよ」

溜息を吐いた銀髪の少年の言葉。デュアルNo.33…通称ディー。

後に分かった事だが、現存する『森羅』の所持者は彼だった。『森羅』―――それは、命という命を奪い続ける血塗られた剣。

そんな力を持っていながらも、どうして彼が『賢人会議』なんかに居るのか―――その理由が愛だと気づくのに、そう時間はかからなかった。

―――しかしそれよりも、問題は目の前にある。

この眼鏡をかけた男、天樹真昼というらしいが、どうにもこうにも胡散臭いと、シャロンは思っていた。

そして数分後、最初に感じた腹黒いオーラは気のせいでも何でもないという事を確信するのに、そう時間はいらなかった。

何せ、かけられた質問が、

「君が持つ魔法士としての力を、出来る事なら教えてくれないかな?」

「君はここに来る前は何をしていたの?」

「サクラよりずっと発育がいいみたいけど、そのコツをサクラにも教えてあげてくれないかな」

である。

特に一番最後のは無礼極まりない。ただのセクハラ親父だ。隣にいたサクラもがーっと口を空けて「真昼―――ッ!」と叫んだほどである。

胸の中に湧き上がる怒りを抑えつつ、とりあえず返答しておいた。が、怒りは完全には隠し切れずに、最後の問いに答えた時には流石に本音が出た。

「天使なの」

「マザーコアにされそうだったなの」

「あなたなんか一回くらい死んじゃえばいいと思うなの」

であった。

最後の答えを言った際に、隣に居たサクラが「一遍どころか十遍ほど死んだ方が身の為だと思うがな」と付け加えたのを、シャロンは聞き逃さなかった。










【 + + + + + + 】














真昼との会見後、シャロンは自分にあてがわれた部屋に戻った。

数分後、コンコン、とドアが叩かれる音した。

「はーい、今いくなの」

がちゃり、と扉を開くと、その向こうには自分と同じポニーテールの子が立っていた。先ほどあの部屋で出会った、セレスティことセラだ。

「あれ?セラちゃん、何か用なの?」

シャロンの問いに、セラはじぃ、っとシャロンの顔を見つめている。

(ま、まさか、私の正体がばれたなの!?)

一瞬、シャロンの心の中に嫌な予感が走る。もしかしらたという思いのせいで、どくん、どくんと心拍数が上がっていく。

冷や汗が一筋頬を伝い、少しだけ喉が渇いたような感覚を覚える。

セラは赤くなったその顔で「あ、あ…」と何度もつっかえながらも、やっとその一言を口にした。

「あ、あのっ…『天使』って、どんな能力なんですか?」

「…………え?」

…予想していた質問とあまりにかけ離れていたものだったので、思わず聞き返してしまっていた。

「わたし『天使』の能力って見た事が無いんです…だから、どんな能力なのかが凄く気になって…。
 シャロンさん…でいいんですよね?」

「え?う、うん、それでいいなの」

生まれて初めてさん付けで呼ばれた事が、シャロンの心に僅かな動揺を走らせる。

その間にも、セラは話を続けていた。

「『天使』って、どんな能力なんですか?『天使』っていうくらいだから翼があるんですよね?そ、それで…で、できれば見せて…ほしいなって…あ、で、でも!迷惑なら別に構いません!」

最後の方はしどろもどろになりながらも、何とか言い切ったようだ。

サファイアのような青い輝きを持つセラの瞳に宿る感情は、おそらく期待。少女が知らない事に対する探究心。

きらきらと光るその瞳が「『天使』の翼を見たい」と確かに訴えてきている。

(…確かに『天使』を見た事が無くても無理は無いかもしれないなの)

少し考えると、脳内で結論が出る。

そもそも『天使』は、マザーコアに最も適した魔法士として生み出された。

故にこの世界で『天使』が生存している割合など、0.1%にも満たないだろう。そうなれば、セラが『天使』の存在を知らないのもごく当たり前の事。

…自らの手の内を晒すのは危険だが、『堕天使の呼び声』さえ出さなければ大丈夫だろうと判断。加えてここは『賢人会議』。『天使』の能力をおおっぴろげに使ったとしても咎められる事の無い場所だ。

「うーんと…口で説明するより、見てもらったほうが早いなの」

シャロンが目を瞑る。

I−ブレインに命令が行き渡り、マスターであるシャロンの命令を忠実に実行する。

(『翼』具現化)

刹那、シャロンの背中に、今まで無かった何かが出現するような感覚がよぎる。

目の前の少女から、わあ、という声が聞こえた。

シャロンが目を開いた時には、両手の拳を握り締めて、僅かに口を開けて、シャロンの背中に出現した白い翼に見惚れている様子のセラの姿。

その瞳は純粋な輝きを伴って、先ほどの輝きに輪をかけてきらきらと輝いている。まるで、欲しい物を買ってもらった子供のような、そんな瞳。

「す、すごいです!本当に、本当に天使様みたい!」

「喜んでもらえて光栄なの」

不思議と、悪い気はしないシャロンだった。












その日の夜、寝る時間がやってきた。

この建物の一室で、マザーコアになる運命を逃れる事の出来た魔法士の子供達は、すやすやと眠っていた。

みんな、見た目はまさに子供。年齢が二桁に達していない子も多い。

この部屋は子供達で一杯一杯だったために、シャロンが寝るにはスペースが足りない。よって、シャロンは一人だけ空き部屋を使わせてもらった。

サクラは少々申し訳無さそうにしていたが、シャロンにとっては此方の方が好都合なので、笑顔でやんわりと承った。








(ふふ、ほんとに、よく寝てるなの)

何も知らずに幸せそうに眠るその顔は、由里と一緒に行った孤児院の子供達となんら変わらぬ無邪気なもの。

試しに、すぐ近くにいた男の子のほっぺたをつまんで、軽くむにっとぴっぱってみる。

マシュマロみたいに伸びる。そして柔らかい。

そうしている間に、なんだか知らないけれど、シャロンの心の中に楽しいという感情が浮かんだ。

ふんふんふ〜ん、と鼻歌を口ずさみ、男の子の頬をつついてみたりして楽しむ。

―――刹那、ちくり、と、心に何かが刺さるような痛みを覚えた。

(え?)

はっ、と顔を上げ、胸を押さえた。

(なんなの…今の)

自分でも予想していなかった感覚に、シャロンは軽い驚きを覚える。

だが、しばし考えてみると、その正体に行き着くのは非常に簡単な事だった。












―――この子達は、あの孤児院に居た子供達とどこが違うのか。











そう、違うのは魔法士の子供達であるという事と、人間の子供達であるという事。

たったそれだけ。それ以外は、ほぼおんなじなのだ。

(…けれど…私…)

…だが、今思い浮かべた疑念は否定すべき事だと、心が警報を告げる。

一を犠牲にし十を救う為に必要な、魔法士の子供達。

死ぬ為に生まれてきた命を活かせば、今度はその何十倍もの、何百倍もの命が失われる。

だから、シャロンは由里の意見に共感出来た。

誰も犠牲にならずに済むような都合のいい答えなんてこの世には絶対に存在せず、犠牲が出る事は避けられない。

ならば、その犠牲を最小限に減らすくらいの努力をするまで。それが正しいんだと信じて、ここまで来たのだ。

(―――分かっている、なの)

心の中で、ぽつりと呟く。

(初心忘れるべからず…私は、この選択肢を選んだなの。
 一を殺して十を生かす、この道を選ぶなの。
 これ以外の選択肢なんて考えられないし、考えたくないなの)














…尚、『初心忘れるべからず』の使い方を間違っているという点については突っ込んではいけない。















―――目の前で何が起きようとも、シャロンの思いは変わらない。

それを再確認して、シャロンは自分の部屋に戻り、眠りについた。













【 + + + + + + 】













翌日、朝食を終えた後は、行動をおこすだけだった。

先ず、散歩と偽って、この館の内部を掌握する事から始める。

何故なら、由里が進入する際に必要な入り口を開けなくてはならないからだ。

窓があればそれでよし、無ければドアの鍵を開ける。もしドアも無ければ―――その時に考えるだけだ。

という懸念があったのだが、それらはすぐに解消された。

廊下を歩き、階段を上がってからしばらく歩いていると、黒いカーテンの下げられた窓が並んでいるのを発見した。

カーテンに手をかけてずらしてみると、外の景色―――といっても吹雪に遮られて何も見えないのだが―――を見る事が出来た。と言っても、相変わらずの白銀の景色だが。

鍵も壊れておらず、由里が進入する際にはなんら不都合が無い。

念の為に周囲を見渡すが、監視用のカメラの類は見当たらない。

発信機の類も、シャロンが調べた限りでは見つからなかった。

その後は来た道を引き返し、今度は玄関の方へと向かう。

『危ないから出るな』とサクラに言われていたものの、それでもシャロンは行かねばならなかった。

そう、感じ取れたのだ―――玄関に仕掛けられていたセンサーの反応を。

長い事ノーテュエルやゼイネストと共に過ごしてきたシャロンは、センサーの類に対して敏感になっていた。それに加えて『天使』であるシャロンは、人一倍の察知能力を保持しているのと同意語だ。

おそらく、ここがセンサーの類を総括するブレインのようなもの。つまり、ここのセンサーさえ止めてしまえば、由里が進入した場合に気づかれる可能性を下げる事ができる。

…それを理解したシャロンは、その場所を脳に記憶しておいた。














――そしてその夜は、手はずどおり、由里が助けに来た。

最終的に作戦は成功し、『賢人会議』によって奪われた子供達は全て取り返された。

シティは安息の時を取り戻し、再び一時の平和が取り戻されたかのように思えた。













―――だが、シャロンの心の中の異変は、その後に起きた。













【 + + + + + + 】














ディスプレイを眺めている由里の隣で、シャロンは両手で胸を押さえていた。

(―――どうして、心が痛むなの…)

全てが終わったその時、シャロンの心の中には、わだかまりのようなものが蠢いていた。

ずきり、ずきりと、心が悲鳴をあげる。

分からない。

分からない。

分からない。

一を殺して十を救うという決意なんて、とうに出来ていた筈―――だったのに。

どうせ助けるなら数の多いほうを助ける事の方がきっと正しいって、そう思っていたのに。

シティの人間達を、孤児院の子供達を救う為にはこれしかないと心に決めて頑張って来た筈なのに。

だけど今、心が痛い。

テレビに映っているのは、はしゃぎ、喜ぶのはシティ・モスクワ市民達の姿。

―――そんな市民達の姿を、何故か素直に見れないシャロンが居た。

















「シャロンちゃん、どうしたの?何か顔が青いです」

隣に居た由里に声を掛けられて、おっかなびっくりにシャロンは振り向いた。

「え?そ、そうだったなの!?
 だ、大丈夫、なんでもないなの。ちょっとお腹の具合が悪くて…と、トイレに行ってくるなの!」

駆け出す。本当はお腹の具合が悪いわけなどないのだが、そういって逃げる事にしたのだ。

「あ、ちょっと!シャロンちゃん!?」

後ろから由里の声が聞こえたが、振り向こうにも振り向けなかった。















…分からなかった。

望んでやったはずの行動が、どうしてこんな気持ちになるのかが、分からなかった。

あの男の子の顔を思い出すと、胸の痛みが激しくなっていく。

セラの顔を思い出しても同じ事。シャロンはあの子を裏切ったようなもの。














――――――ここに来て、シャロンは初めて、己の行動に疑問を持った。

だけど、答えを出す事は、どうしても出来なかった。

胸のうちを襲うわだかまりに耐えられなくなり、部屋に戻ったシャロンは、ベッドにうつ伏せになるように倒れこんだ…。

誰にも、会いたくなかった。






























<To Be Contied………>















(…今回、キャラトークはお休みします)



















(あってもなくてもどうでもいいような)作者のあとがき>









…以上、『賢人会議』に忍び込んだ(!?)シャロンの物語、及び回想でした。
『賢人会議』メンバーの行動が詳しくかかれていないのは…正直、どう書いていいかわからなかったんですよね。
そういうシーンが本編でなかったものですから。


今回のシャロンですが…なんと言いますか、実際に行動に移してみてはじめて気がついたってパターンですかね。
やってみるまでその重要性とかそういうのに気づかなかったんですけど、いざやってからやっとこそれに気づいたみたいな、そんな感じ。
時折あったりしませんか?何気ない行動が、いざ結果を見てみるととんでもない事になっていたとか。

シャロン自体、こういう事を考える事が滅多に無かったから、こうなったのかもしれません。


真昼は…やっぱりこういうキャラにしないと嘘でしょうw
属性名はにっこり腹黒系でどうか?


それでは、次のお話まで失礼。






○本作執筆中のお供
Vicks Medicated Drops







<作者様サイト>
Moonlight butterfly


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