夜が過ぎ、朝が来る。
365日24時間が灰色の空に包まれたこの世界では朝の概念など無いに等しいのだが、それでも人々の体には朝昼夜の概念が未だにあるらしく、朝起きて夜寝るという、普通となんら変わらぬ生活サイクルを送っている。
そして今は、夜の一時を回ったところだ。
南米の高原にたった一つだけポツンとそびえている小さな建物の周りに、五人ほどの人間がいた。
服装はかなりくたびれているが、そいつらの仕事は分かる―――傭兵だ。
それを見下ろすのは、聳え立つ崖の上でしゃがんでいる、全身を紫のマントで包んだ人物。
傭兵に見つからないようにうまく身を隠しながら、状況を確認する。
一通り確認し終えた後に、その人物は一言だけ呟いた。
「この時を待ってたんですっ……『賢人会議』」
そう、あの寂れた建物の中に居るのは、シティ・メルボルンで大参事を引き起こした『賢人会議』だ。
シティ・メルボルンの住民に五万人以上もの甚大な被害を与えておいて、のうのうと生きている組織。
その目的は『魔法士の人権の尊重とマザーコアの廃止、その代償は二億人の人々の命』だと、とある一人の人物から聞かされた。
…どこの口がそんな事を言えるのか。と思った。
今や世界の敵…厳密には各シティの上層部にとっての敵である『賢人会議』が何故こんなところにいるのかというと、それは、マザーコア被検体の魔法士の子供達を逃がすためである。
以前、『賢人会議』は百人近くのマザーコア用の子供を南米に逃したという話を、シティ・シンガポール付近の
つまり、『賢人会議』は子供達の数がある程度に達すると、安全な場所に逃がすようだという事が分かった。
全ては極秘で行われた行動。
そして、シティ・メルボルンの事件の後、各地でマザーコア披検体強奪を行っていた『賢人会議』の元には、シティ・メルボルンの事件の時と合わせて、約六十人ものマザーコア被検体が居るとかいう話だ。
今回も、マザーコア被検体の魔法士達を逃がすためにここに来たのだろう。
ならば、シティ運営の為にそれを取り返すのみ。
――最も『以前逃がした子供達』が、『もう一つの賢人会議』という組織によって大半が取り返され、シティを動かすエネルギーにされたというのは、『賢人会議』も知らないだろう。
ちなみに、この話はパートナーである茶髪のポニーテール少女から聞かされたものだ。
尚、由里は以前、とある出来事から『もう一つの賢人会議』に忍び込んだのだが、その時は当初の目的を果たせずに退くしかなかった。
真相は定かではないが、これが終わったら再び確認しに行こうかな、と思った。
ちょうどいい事に、今では『もう一つの賢人会議』の構成員だった者が居るのだから。
シティ・メルボルンの事件以降、『賢人会議』は表舞台には姿を現さない。
いや、誰も表に姿を現せないのは当然の理屈だ。
今や、『賢人会議』の面々は全てがS級国際手配犯と言っても過言ではない。
一瞬でも姿を現すことは『見つけてください』と言っていることに他ならないからだ。
うーん、と考えて思い出す。
現実時間にして二秒足らずで、脳の中に答えが浮かび上がった。
確か、今の構成は―――。
・『賢人の創立者』―――サクラ。
・『異能ならざる双子』の片割れにして、一部では『人間を裏切った男』と呼ばれし者―――天樹真昼。
・『虐殺の森羅』―――二重No.33。
・『世界唯一の光使い』―――セレスティ・E・クライン。
この四名を主として『賢人会議』は成立している。
後の構成員は、契約という名の薄い絆で結ばれた傭兵あたりか。
傭兵には終身雇用制など存在しないため、金さえもらえばなんでもするが、任務が終われば縁を切られる。
そして、今日が『賢人会議』の傭兵の雇用が終わり、大半の人数が抜けた日の筈だ。
「…だから、今日しかないんですっ」
紫のマントで目以外を隠して、少女は屋根の上から眼下を見据える。
建物の周りは四十メートルもないであろう、小さな小さな研究所。
だが、そんな誰も住んでいないような場所だからこそ、『賢人会議』の連中はそこに居る。
いくらなんでも、寒空の下に子供達を逃がすような真似をするわけが無い。
防寒装備があっても、耐え切るには厳しい寒さ。
そんなところに、魔法士とはいえ身体が未発達な子供を放置するなど、自殺行為以外の何者でもないからだ。
…もっとも、そのお陰で子供達が一箇所に集まるから、こちらとしては都合がいいのだが。
脳内時計が『午前二時二十分』を告げた。
時は来た。
パートナーを信頼し、今まさに、作戦を決行する。
下調べは十分だ。
ならばここに、目的のものがある。
そう、やるべきことなどもう決まっている。
過去に『賢人会議』が奪ったもの…マザーコア被検体を奪い返すだけ―――。
あの子達は元々シティで生み出されたもの。だから、元ある場所に返すだけ。
シティが生きてくれなければ、たくさんの人が死んでしまうから。たくさんの子供達が死んでしまうから。
これは正当防衛だと、己に言い聞かせる。
人間達のものを人間達に取り返してあげて何が悪いのか。小さな子供達に未来を見せたいと思って何が悪いのか。
このままでは、『賢人会議』はさらに子供達を奪取し続けるだろう。
そして、シティを滅亡へと導いていくだろう。
そんなのは許さない、許せない―――そんな事、終わりにさせる。
終わりにさせられなくても、せめて、奪われた子供達を奪い返すくらいはしておきたい。
それ以後もマザーコア被検体を奪取し続けるなら、私がそれを取り返すだけ。
「―――ッ!!!」
その結果としてマザーコアにされる子供たちの事を思うと、胸がずきりと痛む。
心が痛い。とっても痛い。張り裂けそうになるほど痛い。
だけど、これは仕方がない事だと、自分に必死で言い聞かせる。
クレセント孤児院の悲劇を繰り返させない為にも、ラクシュミ孤児院の子供達が普通に生活できるようにするためにも、何の力も持つことが出来ないシティの人々が平和に生きるためにも、これ以外の道なんて選べない―――少なくとも、少女にとっては。
百人の人間が居て、百人の人間がみんな助かる都合のいい答えがあるなら一番いい。
だけど、実際はそうはいかない。
だから、一人を切り捨てて九十九人を助ける。そうするしかないと、その人物は思っている。
人間だからそう簡単には切り捨てられることではないけれど、それはどうしようもないことなのだ。
それは、紫のマントの人物が悩みに悩んで出した、非情の結論だった。
…だから、サクラの考えが許せない。
一人を助けて九十九人を切り捨てるなんていうめちゃくちゃな理屈が信じられない。
そんな異常で非常識で反秩序的な理屈なんて、私が打ち砕くんだから。
―――そこまで考えて、寂れた建物に視線を向ける。
心の中に浮かぶのは、僅かな期待。
時間が来たとなれば、絶対に動くはずだ。
(どこ―――どこにいるの?)
動いてくれているはずの人物の姿を探す。
今回の計画にあたり、『賢人会議』にスパイ…でいいのだろうか…を送っておいた――というよりは、厳密にはわざと『賢人会議』に連れさらわせたのだが。
そして今頃、あちらでは
いや、きっとうまくやってくれる。
目を凝らして、建物を良く見てみると―――。
(…居た!成功したみたいですっ!)
思わず頬が緩む。
屋根の窓の向こうには、あの子が手を振っている姿が確認できた。
私が頷くと、頷き返してすぐに姿を消した。おそらく、目立つのを防ぐためだろう。
なら、後は私が頑張るだけ。
きっ、と目の前の建物を睨みつけて、
『―――行きますっ…『賢人会議』!―――』
心の中に燃えるその思いを胸に、『少女』が飛翔した。
同時に、脳に命令を送る。
自由落下開始と共にI−ブレインが起動し、
(『
一瞬の後に、少女の体が万有引力の法則に逆らい空中でぴたっと止まった。
世界に存在するあらゆる物質、法則、思考、etc…。
それらの『存在情報によって形成される巨大な構造体を、科学者は『情報の海』と呼ぶ。
世界には我々が一般に認識している現実世界の他に、『情報の海』と言う側面を持っているのだ。
その『情報の海』を直接書き換えて、それによって現実の世界を操作し、物理法則を捻じ曲げる。
現実世界と情報の海は互いに干渉し影響し合っている。
故に、ある一定以上の(非常に速い)演算速度を持つコンピュータを用いて情報を押し付け、情報の海を書き換える事で、現実の世界も改変する事が出来るのである。
改変する事が出来るのは、主に物理法則または物理定数。
それが魔法―――情報制御。
魔法士とは、脳内に生体コンピュータ『I−ブレイン』を持ち、思考演算によって物理法則を操る者達の総称だ。
人類はこの技術により熱力学第2法則「エントロピー増大の法則」を突破し、永久機関の創造に成功している。
刹那、そのまま背後の壁を蹴ると、次の瞬間には、まるで空を飛ぶかのように少女の身体は真横へと移動する。
『重力制御システム』は『騎士』の『自己領域』にあたる能力で、騎士剣の補助記憶領域を限界まで使って情報制御を行うことで、自己の周囲の物理定数を根本から書き換えて『自分にとって都合がいい時間、都合がいい重力』を作り出す。
紫のマントの中に隠した『少女の相棒』が、騎士剣の役割を果たしてくれるから、なんら問題は無い。
先に確認したとおり、建物の周囲には遭難者を装った傭兵がいる。
だが、眼下に移る五人の傭兵らは、真上の侵入者に気づく気配は無い。そのまま、計画通りに行動を開始する。
今回の作戦は、あくまでも『奪われたマザーコア被検体の奪還』である事は間違いない。
しかし、万が一の事を考えると、少女の相棒とも言える武器を置いていくわけにも行かない。
その為に、紫のマントの中に『少女の相棒』を隠し、今回だけサブウェポンとして使う事を決めた得物をスカートのポケットから取り出す。
少女の手に握られたそれは――銃だった。
但し、その先端は鋭くとがっており、まるで注射針のようだ。
空を飛んだまま、器用に照準をセットしてトリガーを引く。
一瞬の反動の後に、一瞬だけ痙攣した傭兵の一人が、音も無くゆっくりと倒れる。
無論、それを見届けたからといってぼうっとしている場合ではない。
その倒れた傭兵が地面へと横たわる前に、次々と傭兵達を狙撃する。狙いは一点、うなじの部分だけだ。
作戦段階で考え抜いて編み出した、I−ブレインを使わないで相手を眠らせる最適の手段。
弾丸に注入するのは効果を高めた睡眠導入薬。
銃はサイレンサー仕様で音がしない上に、睡眠導入薬入りの弾丸を発射するわけだから、この銃は人を殺すための銃ではなく、薬物で人を眠らせるための銃だ。
あれよあれよという間に、五人の傭兵らが全て眠りに落ちた。
これは、むやみな殺戮なんてしたくないという考えからたどり着いた答え。
いくら『賢人会議』に味方しているとはいえやはり人間。殺さずにすむならそれでいい。被害は最小限に抑えたいものだ。
何故なら、『私』は『サクラ』とは違うから。
『やむを得ず人間を殺す』なんて生易しい免罪符には甘えない。
『やむを得ず魔法士を殺すのはいいのか』と聞かれれば素直に首を縦に振ることは出来ないが、それは『人類が、より多くの命が生きるためには仕方がないのですっ』と思う事で押さえ込む。
再び、心がずきりと痛んだけど我慢する。
市場に振り回されてはいけない。今というこの時を頑張らなければ、二度とチャンスは訪れないからだ。
(『重力制御システム』解除)
I−ブレインに命令を送った事で、少女の体が万有引力の法則に従い落下。
ふわり、と、下からの風を受けた紫のマントがいい具合にパラシュートになり、少女の身体をゆっくりと降下させる。
両手でスカートの端をしっかりと押さえ、たっぷりと二十秒の時間をかけて、少女は音をたてることなく着地。
そのまま、足音を立てないように、しかし早足で歩く。
余計な能力を使う必要など無い。
少女は一人で行動こそしているが、見張りとして雇われた傭兵の数も、シティなんかに比べれば雲泥の差。
やはり、先日のシティ・メルボルンの件で、『賢人会議』で仕事をする傭兵は減っているようだ。
(…でも、私にとってはこっちの方が好都合なんですけどね)
そんな事を思いながら、脳内時計を確認。
『午前二時二十三分』
今のところは作戦通りの時間だ。
『賢人会議』は、子供達を建物の中に集めてから、少しずつあちこちに逃がすつもりらしい。
で、あの子から得た情報から、その前に少し休ませておくとの事らしい。
だから、チャンスは、子供達と『賢人会議』が休息を取っている『今』というわずかな間しかない。
エントランスを横切って扉の前に立ち、静かに扉を開ける。
この扉には鍵がかかっていないのは、前もって調査済み。
細い身体を滑らせるようにして割り込ませて、素早く移動。
先は長いが、一つずつ突破していくだけ――――――。
(I−ブレイン起動『
思考演算が体内の物理法則を改変し、運動と知覚の係数速度を書き換える。騎士の「身体能力制御」に当たる能力だ。
運動係数と知覚係数の差は三対一。
I−ブレインの力を借りて、ライトの薄明かりに照らされた闇の通路を少女は高速で駆ける。
踏み込む足がタイル張りの床を捉え…そうになったところで足をずらして、音をたてずに駆け足を続ける。
視界の端を横切る案内標識の緑光。
I−ブレインは瞬時にその情報を手に入れて、脳内に地図を展開して現在位置を確認する。
その次に、脳内時計で時間を確認。
…予定時刻と比較すると、現実時間にして五秒のタイムロス。どうやら、戦闘開始前の余計な確認が少しだけ仇となったようだ。
だが、そんな事は些細な事で、これから取り戻せばいい。
自身にそう言い聞かせて、少女は疾走を続けた。
―――今回の計画は、賭けだった。
シティ・メルボルンの大規模な戦いの後も、サクラは行動すると少女は踏んでいた。
そこで、『次にサクラが狙いそうな場所』の管理人への交渉に踏み切った。
つまりは、罠を張ったのである。
シティ・ニューデリーのマザーコア管理部部長に話をすると、当然ながら最初は反対された。
だが、一人の『ミッションコンプリーター』の巧みな話術により、交渉を比較的簡単に進めることが出来た。
条件は、自分の事を決して他者にもらさないこと。
そして、決して自分達を裏切らないこと。
その代わりに、絶対に子供達を取り返してくるという約束。
シティ・ニューデリーのマザーコア管理部部長は、しばし悩んだ後にその申し出を承諾した。
やはり彼らも『賢人会議』の襲撃に恐れを抱いていたのだ。
いざ計画を実行しても、この計画には一つだけ運の要素があった。
それは、最後のキーポイントである―――『賢人会議』が来るかどうか…だった。
そこだけが完全に賭け。来なければ、この計画は全て頓挫する。
だが、三日目に奇跡が起きた。
『賢人会議』の長――サクラが、単独で攻め入ってきたのだ。
作戦を知っていた研究員達は、我先にと逃げた。
元より研究員達が『賢人会議』に敵う訳もない。
一応、怪しまれないように見張りの兵士をつけておいた。
但し、彼らはあくまでも『賢人会議』が来たら場所移動をして、なるべく『賢人会議』と鉢合わせにならないようにするようにという作戦だった。
そしてサクラは、そこにいた魔法士の子供を連れ去って行った。
そう―――シャロン・ベルセリウスを。
この事実が分かった瞬間、少女は計画の半分が成功した事を確信した。
建物の中をしばらく駆けて、少女は異常に気づく。
(…おかしい)
同時に、心の中で呟いた。
―――そう、見張りがあまりにも少なすぎるのだ。
加えて、ノイズメーカーによる障害も存在していないとなると、ますますもって怪しい。
確かに人員がいないであろう理由は先に述べたとおりだが、それでも、いくらなんでもこれは少なすぎる。
最初の五人以降、全くと言っていいほど見張りがいないのだ。
本当に大切なものを守る気があるのかと言いたくなる。
(でも、それならそれでいいのですっ)
それをプラスの方向へと考える。
ネガティブ思考など持ち合わせてなるものか。人生は常に前向きに生きる限る。
『賢人会議』との戦いを決意したあの時から、そう決めた。
少女はただ、人間を、そして、多くの人達の、多くの子供達の住むシティを守りたいだけ。
これまで『賢人会議』のエゴによって、累計おおよそ数十万人の罪無き人間達が殺されている。
それも、全てはたった数人の、時にはたった一人の魔法士の子供を守るために、だ。
(…ふざけてるっ…どうしてそんな考えが出来るのっ!!)
この場にいない『賢人会議』の長に対し、ふつふつとした怒りが心の底より沸き出でて声を出しそうになったが、歯を食いしばって耐える。
落ち着いて、と自身に言い聞かせる。
心のうちをさらけ出すのは、『賢人会議』に一矢報いてからでいい。だから、この計画は絶対に成功させる。
あやういバランスの上に成り立っているこの世界と、この世界に生きる人間達を守る為に。
それに…『賢人会議』のせいで、お爺ちゃんとお婆ちゃんは…。
(―――っ!!!)
今はもう亡き二人の顔を思い出し、由里の瞳に涙が溜まる。
視界がぼやけるが、服の袖で涙を拭う。
血の繋がりこそなかった。
だけど、少女を本当の孫のように可愛がってくれた、ずっと優しかったお爺ちゃんとお婆ちゃん。
―――一年ほど前に、『賢人会議』の騒動に巻き込まれて、お婆ちゃんは銃で撃たれて、お爺ちゃんは瓦礫の下敷きになって死んでしまった。。
少女は泣いた。
ずっと泣き続けた。
二人の亡骸にすがり付いて、泣いた。
服が血で汚れるのも構わなかった。
ただ、悲しかった。
とてもとても、悲しかった。
(―――だから、許さない―――絶対に!!!)
その思いと共に、涙にぬれた少女の瞳が凛とした輝きを放つ。
今は亡き二人の事を思い出した少女の怒りの炎が、さらに赤く燃え上がった。
自然と、走る早さもあがっていった。
だが、早すぎては良くない。
突如、何らかの仕掛けがあって、原則が間に合わずに引っかかる可能性がある。
周囲を警戒しつつ早足に進む。十メートル毎に立ち止まり、ある程度進んだところで真横の壁の端末にアクセスする。
背後から、とても静かに、だが確実に隔壁の下りる音。
合計三枚。壁と呼ぶにはあまりに頼りないが、無いよりはまし。
周囲にトラップの類が無い事を確認した後に、扉の前で足を止める。
レーダーの反応は、扉の向こうから来ている。
この向こうに、魔法士の子供達が居る。
「…ふう、とりあえず第一段階のゴールみたい…」
ため息を吐いた数秒後、小さく息を吐き、意を決して踏み出す。
オートロックの扉は少女が踏み出しただけであっさりと開く。
当然だ。こちらには『内通者』がいるのだから。
一歩を踏み入れると、緑光の淡い光が廊下を照らしている。
壁にはドアが設置されており、書かれた文字は『トイレ』である。二つあるところを見ると、男の子と女の子、両方のトイレが隣り合わせにあるようだ。
入り口に小さなスリッパがいくつも乱雑に並んでいるのを見て、ちょっとだけ笑みを漏らす。
だけど、それはそれ、これはこれだ。
この子達は、人類の希望。
この子達がいなくては、人類が死への片道切符をたどる以外の道が無くなるのだから。
少女が目指すのは、そのすぐ先。
一見ぴったりと閉まっている、頑丈な扉。
だが、少女は全く臆せずに、扉の前に立って、小さく一言。
「『S・B』」
刹那、スーッ、という音と共に、頑丈な扉はあっさりと開いた。
万が一の可能性を考えて、少女は槍を―――『ゲイヴォルグ』を構える。
だが、その心配は杞憂だったようだ。
「…由里さん、こっちなの」
ドアの向こうでは茶色い髪のポニーテールの少女が、手招きをしていた。
茶色い髪のポニーテールの少女の下へと、由里、と呼ばれた少女は駆け出す。
そしてフードを脱ぎ、ふぅ、と息を吐く。
長くて綺麗な黒髪が、ふわっ、とたなびくようにして肩口を包み込む。
黒髪で、その一部をツインテールというその髪型が、確かな形であらわになった。
そう、もう一人のパートナーとは、他ならぬシャロン・ベルセリウスの事である。
そして、今回の計画の第一人者は―――天樹由里。
計画の前半は、とても簡単なものだった。
シャロンはシティ・ニューデリーのマザーコア作成室にまぎれて、マザーコアにされる魔法士のふりをしていたのである。
あの時『賢人会議』は魔法士を―――シャロンを連れていった。
結果、作戦は成功し、シャロンは『賢人会議』内部に入れた。
後は、事前に由里が支持したとおりに、窓の鍵を外しておいたりしてくれればいい。もし窓が無ければ、どこかに無理やり穴を作るという最終手段に出てという方向で作戦を決定したが、どうやらその案は実行されずに済みそうだ。
尚、レーダーには、シャロンの皮膚の中に超小型のレーダーを埋め込む事で解決した。それは嘗てシティ・メルボルンがデュアル.NO33に埋め込んだものだったとか。
かつて、シティ・メルボルンが使った手口と同じ方法だったが、どうやら通じたようだ。
おそらく、二度も同じ手段でくるとは思わなかったのだろう。
―――これ以外に手があったかと言われれば『無い』と答えざるを得ない。
『賢人会議』が魔法士に対して甘いという事を逆手にとった、非情の作戦だった。
尚、人質役にシャロンを抜擢したのには理由がある。
なぜなら、『
本来なら、その能力の全貌を聞いたときに由里は少なからず恐れおののいたが故に、シャロンに戦いを強要させるような事はしたくなんてなかった。
けれど、シャロンは『この力が正しいことに使われるならいいなの』と、少し曇った表情で告げてくれた。
もちろん、由里としてはその事態は起こってほしくなんてなかった。
今のところはシャロンから『堕天使』としての能力を使ったという報告はないが、これ以後も、出来ることならそんな物騒な能力は使ってほしくないと本心から思うから。
「ありがとうシャロンちゃん。大変だった?」
「いいえ。マザーコア披検体だって言ったら、あっさり信じてくれたなの。
人を騙すのは嫌いですけど、悪い人を騙すのなら…我慢できるなの」
「…そう。
ところで、見張りが殆ど居なかったんだけど…どうしてだか分からない?」
「あ、今日はその人が見張りをやると言っていたので…」
シャロンが指差した先へと、由里は視線を向ける。
そこには、椅子に座った銀髪の少年が幸せそうにすやすやと眠っていた。
近くにある小さなテーブルにコップが置いてあり、その中には水が注がれていた。
「卑怯かもしれませんが、飲み物に睡眠薬を入れておいたなの」
「…よく疑われなかったです」
「はい、今時珍しいくらいにいい人なの」
「…そんなにいい人なら、『賢人会議』なんかに入る事無いのに…と、いけない。
こんな事で時間を食ってなんて居られないです。早く始めないといけないの」
立ち上がり、目的の扉を見据える由里。
シャロンも立ち上がり、由里と同じ方向を見る。
次の瞬間、二人は同時に歩き出す。
走ってはいけない。後ろの銀髪の少年を起こす可能性がある。
そんな不安に駆られながらも、二人は何とか危険領域を脱出した。
豆電球のうっすらとした輝きの中、すうすう、という静かな寝息が幾つも聞こえる。
おおよそ六十人を超える魔法士の子供達が、小さな布団ですやすやと眠っている。
「…ついに、ここまで来ました」
「…来たなの」
「うん、この子達を、あるべき場所に返すために」
「…由里さん、私達のやっていること…本当に正しいなの?」
刹那、由里の顔に疑問が浮かぶ。
「…どうして今頃、そんな事を聞くの?」
「だって…この子達を軍に返しちゃったら、この子達は…」
シャロンの答えを聞いた由里の顔が、一瞬だけ沈んだ。
だけど、次の瞬間には顔を上げて、凛とした表情で答えた。
「…うん、それはどうしても避けられない。
だけどシャロンちゃん、この子達がいないと、シティの人達はみんな死んじゃうんだもの。シャロンちゃんだって、それは嫌でしょ?」
「はい…やっぱりそうなの」
「…ごめんね…でも、これだけは協力してちょうだい。
これが終わって、嫌気がさしたら、いつでも出て行っていいから…」
「そんな事できないなの。
確かに私は、人間がそんなに好きっていうわけでもないなの。
だけど、だからって、たくさんの人達がいっぱい殺されるのを黙ってみていられるほど非情な人間じゃないなの」
それを聞いた由里の瞳の端に、涙が一滴。
「…ありがとう」
「はい、だから由里さんも泣かないでなの」
それで会話を打ち切り、二人は分散して作業を開始する。
といっても、すぐ近くで寝ている子供達のうち、誰かを運ぶだけだ。
外には、この計画の三人目となる協力者が大型のフライヤーに乗って待っている。
その人物は万が一の時の為にもフライヤーから動くわけにはいかない。だから、二人で任務を遂行しなくてはならない。
由里は赤い髪の女の子を、シャロンは緑の髪の男の子をそれぞれ抱きかかえる。
二人は頷きあい、同時に駆ける。
緑光の淡い光が廊下を照らしている廊下を駆けている途中で、由里がだっこしている女の子がうっすらと目を開けた。
由里の顔をぼんやりと見上げ、「サクラおねえちゃん…」と呟く。
「落ち着いて…今、貴方達を最優先で安全な場所に移動しているだけ。
だから、寝ていていればいい」
報告書にあったサクラの口調を由里は真似る。
加えて、ぼそぼそ声で喋っているので、別人だとばれない。
「…うん、分かった、サクラおねえちゃん…むにゃ…」
寝ぼけ眼の女の子が目を閉じる。
女の子は寝ぼけていた為に、目の前に居る
由里としては複雑な心境だが、この時ばかりは文句を言っている暇は無かった。
何故なら、由里の容姿は黒髪のツインテール。ただし、ロングヘアーの一部をツインテールにした感じだ。
加えてこの視界の悪さである。寝ぼけた子供がサクラと由里を見間違えるのも無理は無かったろう。
(…ごめんね)
由里の心の中に浮かんだ罪悪感。
これから自分は、何も知らない子供の命を奪おうとしている。
より多くの命を生かすために、魔法士の子供をエネルギーとして使用しようとしている。
(…ごめん、ね…)
もう一回、心の中で謝った。
だが、ここでいくら謝っても、声に出して謝ったとしても、きっとこの子は許してくれないだろう。
この子からすれば、マザーコアにされることは非情に理不尽な事なのだから。
だけど、それでも、由里にも譲れないものがある。
それから少し走ると、子供達が真っ先に逃げれるように、少しばかりの滑走路のような道路の先におあつらえ向きに非常口が存在していた。
無論、非常口の向こうは極寒の世界だ。
だが、案ずる事はない。
子供達は、特別製の防寒トンネルを使ってフライヤーの荷物置き場に運ぶ為、凍傷の心配は無い。
寧ろ、心配事は他にある。
「…ここまで来て、罠じゃなきゃいいんですけど」
「…分からないなの。でも、行くしかないなの」
シャロンがずい、と一歩歩みでて隔壁のボタンを押して、外への最短距離への道を開く。
誰かが待ち構えているかと思ったが、幸い、目の前には誰の気配もない。
「…大丈夫みたいなの」
「良かった…」
シャロンと由里は一時だけ安堵し、子供達を抱えたまま外へとでる。
まさかの可能性を考えて、由里は一瞬も緊張を解かなかった。
そして、非常口の扉が開いた瞬間―――。
―――外には、誰もいなかった。
否、いないという表現はおかしいだろう。
人間の――否、魔法士の姿が二。三人ほどあった。但し、うつぶせに倒れている状態で。
後は、フライヤーが一機だけ鎮座しているだけだ。
この状況から、そのフライヤーに乗っていた人物が、見張りを倒したという事が理解できた。
「…H・F」
フライヤーの操縦席から立ち上がった影が、そう告げた。
ミラーシェードで目を隠し、全身を防寒着に包んでいるために、作戦前の姿の面影など微塵も無い。
だが、その言葉と声から、目の前にいる人物が、今回の三人目の協力者だという事が判明した。
だから、自信を持って答える。
「A・Y」
「S・B」
由里とシャロンは、それぞれの合言葉を答えた。
一瞬の沈黙の後に、
「…
正解の合言葉が返ってきた。
「…どうやら成功したみたいだね。
こっちの見張りは、僕が気絶させておきました」
三人目の協力者の声は、男性のものだった。
「気絶って…目覚めちゃった時にどうするなの!?」
三人目の協力者の物言いに、少しばかりだが驚愕するシャロン。
相手を殺していないという事は、回復されるという可能性があるという事だ。
「そう言われても…殺すわけにもいかないでしょう」
「…ありがとう、無理なお願いを聞いてくれて」
と、これは由里。
「どういたしまして」
青年も一言だけ返事を返す。こんな時に長々と会話をするわけにはいかないと分かっているからだ。
「…でも、おかしいなの」
刹那、シャロンがいぶかしげに考える。
「何か気になる事でも?」
これは三人目の人物の声。
「これだけの事が起こっている筈なのに、何の動きも無さ過ぎるのが返って怪しいなの。
サクラだったらそろそろ気づいてもおかしくないはずなのに…まさか…」
「そ、それは杞憂だと思うわ…急ぎましょう」
不安をかき消すために、とっさに由里がそう告げた。
「そうなの」
「では、その子達をこっちに。
後は、子供達を次々と連れて来てください。
申し訳ありません…万が一の緊急脱出の為に僕はここを離れられないのが非常につらいところであります」
少しだけ頭を下げて平謝りする三人目の人物。
良くも悪くも、この人物は頭が固い上にいい人過ぎるのだ。もっとも、それがその人らしさを表した最もな特長ともいえるのだが。
「あ、謝る必要なんて無いですよ…協力してくれるだけで、ありがたいのですから…。
じゃ、じゃあ行ってきますね!」
「行ってくるなの!!」
時間がない事を自覚していた由里とシャロンは、同時に駆け出した。
逸る心を落ち着かせながら、由里は駆ける。
そうだ、最悪の可能性を考えるな。
今はただ、急がなくてはならないのだから。
止まってなんて、いられないんだから――――――。
特別製の防寒トンネルの中を行ったり来たりを繰り返して、フライヤーの中へと魔法士の子供達を次々と搬送する。
圧倒的に人手が不足しているのを痛感するが、下手に大人数で動くと逆に感知されそうだったので、今回は敢えて少人数で作戦を決行したのだ。
初めてだというのに異常に統率の取れた動きは、まるで軍の更新のようだ。
そんな中、シャロンが運んでいた男の子が、うっすらと目を覚ました。
シャロンの顔をぼんやりと見上げ、あれ?セラおねえちゃん?と呟く。
「はい。ちょっと今、部屋が暗いから髪の毛の色が違って見えるんです。
気にしないでおねむしてください」
シャロンはシャロンで、かなり厳しいものの、セラの口調を真似てみる。
…その直後、正直な話、似てないにも程があると自分で思った。
だが、目の前の男の子はそれを信じたらしくい、うん、と頷いた後に男の子は目を閉じた。
…こみ上げる罪悪感から心の奥でちくんという痛みがしたが、気にしている場合ではないと割り切る。
―――この子は悪くないと、魔法士として生まれてしまっただけでこうなってしまったのだと、頭では分かっている。
だけど、この子がいればシティの人達が助かる。
だから、より多くの命を助けられるほうを選んだだけ。
(…ごめんなさい…私、なるべく多くの命を救おうって決めたなの。
私の前で誰かが死ぬのも、もう嫌なの)
脳裏に浮かんだのは、金髪のお下げの少女と、紅い髪の少年の姿。
若すぎる死を迎えた、生き延びる事の出来なかった二人。
一瞬、目じりに涙が浮かんだが、なんとかそれを押さえた。
今は、泣いてなんていられないから。
(ほんとうに―――ごめんねなの)
心の中で男の子に謝罪し、シャロンは作業を続けた。
そう、由里がパートナーとしてシャロンを選んだ理由のひとつがここにある。
由里はサクラに似ているし、シャロンはセレスティ・E・クラインに、髪型だけなら少し似ているのだ。
相手は寝ぼけている子供ゆえにそう深く詮索される恐れはないし、『暗いからよく見えないのは仕方がないなの』で誤魔化せば何とかなるからだ。
…まあ、相手が純粋な子供だからこそ通じる策なのだが。
自分達のやっている事が何なのかはわかっているつもりだけど、それでも、譲れないものがあるんだから。
作業開始からおおよそ五分ほどかかって、最後の一人を運び終える。
子供達は、フライヤーので今も幸せな夢を見ているだろう。
唯一の問題点は、フライヤーには操縦者を除いては、これ以上一人も乗れないということ。
だから、この中で最も運転技術に優れている三人目の人物がフライヤーを操作する事にした。
ちなみに三人目の人物は「すみません…出来れば僕が残りたかったんですけど…」と、本当に申し訳なさそうにしていた。
しかし、由里としてもシャロンとしても、ここは三人目の人物に一任しておきたかった。
万が一事故など起こしたら、それこそ大惨事だからだ。こういう大事な時には、最も経験の多い者に任せるに限る。
そして、三人は戦艦の前に携わり、
「…これで終わりみたいなの。撤収なの」
「じゃあ、後は例の場所で落ち合いましょ」
「ええ、了解しました」
そんな会話を交わした後に、三人目の人物がフライヤーを起動させて離陸を開始した。
段々と遠くに消えていくフライヤーを見送る。
その後、由里は紫色のフードを被りなおして、シャロンはこの建物の中から見つけた防寒服とフードを装着した。
I−ブレインで気温調整が出来ているとはいえ、ずっとそれにまかせっきりというのも問題だからだ。
その後、由里とシャロンは顔を合わせて、
「戻りましょ、シャロンちゃん」
「うん…ふわぁ…眠いなの」
由里はフードの下に隠れた笑顔で、
シャロンはフードの下で欠伸をして、それぞれ一歩を踏み出して、
突然の声に、振り返った。
由里とシャロンの心拍数が、どくどくと高鳴っていく。
振り向いてから、嫌な予感が的中した事を理解した。
…暗闇の中、黒髪ツインテールの少女が、そこに立っていた。
黒髪ツインテールの少女のシルエットが、通路のライトに照らされてはがされる。
その先にあるものは、黒髪ツインテールの少女の素顔だ。
「…全てはこういう事だったのか。
そして、まさかその少女…シャロン・ベルセリウスがあなたの仲間とはな…油断した」
気の強そうな口調。
他者を射抜く鋭い視線。
雰囲気こそかけ離れているものの、自分に似た顔。
…その時、由里は確信した。
間違いない。こいつが―――こいつがシティ・メルボルンの孤児院の子供達を殺した犯人。
由里の育ての親二人を殺した犯人。
そして、マザーコア被験者を次々と奪い、シティの人間達を危機に陥れる『賢人会議』の長。
心の中に、熱いものがこみあげる。
…やっと会えた。
…やっとサクラに会えた。
…やっとお爺ちゃんとお婆ちゃんと子供達の仇に会えた!…と。
だが、今はサクラに戦いを挑む時ではない。
今の由里達の戦力では、サクラと戦ってまともにすむとは思えない。
故に、最初の作戦通り、由里はサクラに対しての視線をはずさないまま、ちらりちらりと退路を探す。
「…いつから気づいたの?」
退路を探していることを気づかれないように、口だけは開いておく。
「ついさっきだ。もう少し遅かったら危ないところだった。
…さて、まず最初に聞くが、子供達をどこへやった」
表面上は平静を装っているが、その表情の裏に隠された怒りの炎は、離れていてもひしひしと感じられた。
「…答えなければどうするんです?」
「殺す」
由里が惚けるように口を開いた時、突き刺すような言葉が返ってきた。
こうなれば、もはや説明など不要だろう。
サクラは、本気だ。
魔法士の子供達を助ける為なら世界すら敵に回すと言われている事が、一片の嘘偽りもなかった事を再確認させられる瞬間。
見る人によっては異常極まりないと言われるであろう、魔法士の子供達に対する執着。全てを犠牲にしてでも魔法士の子供達を助けようとする一心不乱。
―――だがそれは、言いかえれば偽善と独善と矛盾と独りよがりによる反世界体制である事も確か。
「あの子達は私達の大切な仲間だ。返してもらおうか」
サクラが発したその言葉に、由里は一瞬むっ、として、
「それは間違いですっ。
最初に盗ったのはそっち。それで、私達は盗られたものを取り返しに来ただけです。
それ以上もそれ以下もありませんっ!」
負けてなるものか。という気持ちを強く持って、自分の考えをはっきりと述べる。
「今更な質問だが、あの子達がマザーコア被検体だと知っているからか?」
「…そうだと言ったらどうするのですかっ?」
「という事は、あなたは『幻影』の刺客か何かか?」
『幻影』―――とは、おそらくシティ・モスクワの幻影No.17の事だろう。
これまでの戦いにおいて唯一、サクラとまともな勝負を展開したらしい、シティ・モスクワが誇る最強クラスの魔法士。
「…当たらずとも遠からず…でしょうか」
今回の計画に幻影No.17は関与してないが、この場はそう言いつくろっておく。下手に真実を言う必要などない。
「惚けるな…もう一度聞く―――あの子達をどこへやった」
段々と、険悪な空気が漂ってきたのを肌で感じる。
同時に、由里の心の中に焦燥が生まれつつあった。
(…拙いですっ)
刹那、直感で由里は思った。
おそらくだが、これはサクラの策。
ディーやセラといった『増援』が来るまでの時間稼ぎ。
こちらとしては、そんなものに付き合うつもりも理由も無い。もしまともに戦闘なんてしたら、負ける確率のほうが遥かに高いのは言うまでも無い。何故なら『賢人会議』には、最強の殲滅兵器『森羅』を使うデュアルNo.33が居るのだ。その実力は四百人の魔法士を相手にしても生き延びるほど。
ならばここは、当初の作戦通りに姿をくらませて逃げるのみだ。
そして、チャンスは増援が来ていない今しかない。
「―――悪いけど、貴女の都合に付き合う余裕は無いのです。
私達は、ここでおいとまさせてもらいます―――行きますよ、シャロンちゃんっ!!」
「!!」
由里が駆け出すと同時に、シャロンも駆け出した。
先ほどから一言も発しなかったのは、由里がどんな指示を出しても即座に動けるようにとスタンバイしていたのだろう。
「逃がすかっ!!」
刹那の間を置いて、サクラは太ももの部分に忍ばせておいたナイフに手を伸ばす。
「――させないなのっ!!!」
それと同士に、由里の真横でシャロンが叫ぶ。
その瞬間、由里のI−ブレインが強大な力の発動を感知して―――、
―――刹那、風を切るような鋭い音と共に、具現化した紅い何かがサクラの腹部を直撃した。
「―――がっ!!」
その勢いと威力によって、サクラの体が大きく吹っ飛ばされる。
「…行きますなのっ!!」
「うん!!」
シャロンの言葉に由里は即座に反応し、全力で疾走を開始した。
視界の隅に一瞬だけ見えた、紅い『何か』に対し、一瞬の疑念がわきあがる。
だが、今のシャロンにそのようなものは欠片も見当たらない。だが、おそらくこれこそが『堕天使の呼び声』の能力なのだろう。
しかし、今はそんな事に対して質問したりしている暇などコンマ一秒もなく、ただ、突破へと全ての集中力を向けていた。
(成功したなの)
白銀の雪原を駆けながら、シャロンはそう思った。
サクラに一撃を喰らわせ、その隙に距離を離す。
由里には『堕天使の呼び声』の正体は明かしていたが、ここでこういう行動に出るという事までは由里には告げていなかった。
敵を欺くにはまず味方から―――とはちょっと違うかもしれないが、結果的には不意打ちが成功した事には変わりないので、今のところはそれでいい事にしておこう。うん。
由里から聞いた話から、サクラの能力の正体は知っていた。
I−ブレインを後天的に書き換える事が可能な『悪魔使い』だ。
ならば、明確な能力を見せなければいい。そうすれば、少なくともこの場でシャロンの『堕天使の呼び声』の『紅い翼』をコピーされることは、多分無い。
さらに『堕天使の呼び声』は、一度発動さえしてしまえば、後はシャロンの意思で自由に発動が可能になる仕様だという事に気づいたのは、由里のベッドの上で目覚めた時の事。
で、由里と再会してから『堕天使の呼び声』を試したところ、シャロンの意識はそのままで『堕天使の呼び声』を発動できたのだ。
因みに『もう一つの賢人会議』での戦いで『堕天使の呼び声』を起動した時はそれほど気にならなかったのは、あれが戦いの最中であって、シャロンが正常な判断力を失っていたからだろう。
しかもこの能力は『
この能力を埋め込んでくれた何者かに、少しの感謝を送りたかった。
…同時に、これだったらノーテュエルやゼイネストの能力も、意思を保ったまま戦えるものにしてくれれば良かったのに、という怨嗟も込めて。
「――――くっ!!」
飛翔と攻撃準備を同時に妨害されたサクラは空中で姿勢を立て直し、二本の足でしっかりと大地を踏みしめて着地し、目の前の二人を見やる。
いきなり放たれた予測不可能な攻撃の正体は、依然として分からない。
覚えているのは、突如として出現した赤い何かが、サクラの体を吹っ飛ばしたという事くらいだ。
灰色の空を見上げると、そこには何もありはしない。
魔法士の子供達を乗せたフライヤーが、空の向こうへと消えた事が事実だということを再確認。
今から追いかけても、間に合うかどうかはかなり微妙だ。
なら、最後の鍵は目の前の二人。捕まえて一言だけでも吐かせるだけだ。
サクラがそう決意したまさにその瞬間に、
「…これで大丈夫。後は…」
「逃げるだけ…なの」
サクラの目の前で、紫のマントを羽織った人物とシャロンは顔を見合わせた後に、再び逃走を図ろうとする。
「させるか―――っ!!」
サクラの脳内で激鉄が叩き落される。
記憶領域からプログラムが展開され、処理が始まる。
電磁気学制御が目の前の空間の情報を書き換え、電磁場を捻じ曲げて細い銃身を形成する。
処理はそこでは終わらず、細い銃身の周囲をさらに電磁場が取り巻き、一回り大きな銃身が形成される。
それに新たなプログラムが加わり、銃身はまた一段階成長する。
その照準は、常に目の前の二人に向けられていた。
「…これは、何ですっ!?」
「分からないなのっ!でも、喰らったら拙い事だけは確かだと思うなの!!」
「そんなの当たり前ですっ!!」
逃げ惑う二人が動転する間にも、装填は着々と進んでいく。
「―――私に任せてなの!!」
うろたえる紫のマントを羽織った人物に、シャロンが強い口調でそう告げた。
「え、ええ!?シャロンちゃん!!本気で言ってるのっ!?」
「本気なの!!」
「―――!!」
シャロンの瞳に宿ってる『確かな強さ』を理解したらしく、少女はそれ以上は追及しない。
シャロンは紫のマントを羽織った人物をかばう形でサクラの前方二十メートルに立ちふさがり、一歩も退こうともしない。
いい度胸だ。とサクラは思った。そうくるなら、答えてあげなくてはならない。
しかし、殺してしまっては子供達の手がかりを完全に失ってしまう為に、急所を外して攻撃しなくてはならない。
少々面倒だが、仕方がないことだと脳内で割り切って、
「――――言ったはずだ、逃すつもりはないと!!」
凛とした声で、サクラは叫ぶ。
限界まで強化された電磁場。
周囲の空気が電離し、歪んだ空間に火花が散る。
サクラの目の前には『展開完了』の文字が浮かび―――、
「覚悟するがいい!」
サクラは外套の一番奥のナイフを掴み、目の前の砲身に投げ入れて、
最後の命令を、叩き込んだ。
投擲ナイフの刀身が、一瞬で砕けた。
砲身内部の複雑な電磁場構造が生み出す力のねじれに耐え切れず、ミスリルの刀身は無数の細かな欠片に分解された。
飛び散った欠片を電磁場が捕らえ、ローレンツ力によって加速。
但し、これは相手を殺さないように速度を調整。
殺してしまっては、それこそ、連れ去られた子供達の行方が完全につかめなくなる。
螺旋状に形成された加速路の中、小指の先ほどの小さな破片は数秒で光速の六十九パーセントを突破する。
摩擦熱を無視するように情報の側からの操作を施された銀の弾丸が、相対論に従い質量を本来の数倍に戻す。
十数の光速の弾丸が、電磁場の砲身から放たれる。
並みの魔法士でも、動けなくなるくらいのダメージを負うように威力を調整した一撃。
だが、それを見ても尚、シャロンは一欠けらの恐怖すら顔に出さなかった。
「私にしっかりと捕まっててなの!!」
シャロンが、紫のマントの人物としっかりと手を繋ぐ。
その瞳には、確かな『強さ』があったように見えたのは、きっと気のせいではなかっただろう。
だがもう遅い。賽は放たれたのだから。
その直後、十数の光速の弾丸がすべてシャロンに命中した…かのように見えた。
―――――――――だが、シャロン目掛けて放たれた一撃は、シャロンと紫のマントの人物に一発も当たることなく、全てがシャロンと紫のマントの体を貫通して背後の岩や残骸を木っ端微塵にするという結果に終わった。
同時に、シャロンの背中から巨大な紅い翼のようなものが出現し、シャロンと紫のマントの人物を守ったのを確かに見た。
「―――なっ!!」
今度こそ、サクラは驚愕した。
手加減したとはいえ『魔弾の射手』が一つも当たらずに回避された。
シャロンの背中から突如として出現した紅い翼が、手加減した『魔弾の射手』の全てのダメージを防ぎきったと見るよりは、物理法則を無視して全てを貫通させたように見えた。
物理法則の面から考えて絶対に回避不能なはずの攻撃が、かすり傷すら与える事が出来なかったのだ。
ありえない。と同時に、サクラはひとつの近視感を覚える。
…そう、この能力には見覚えがある。
シティ・モスクワの白髪の『幻影』が使用した、量子力学を利用した――――――、
「…今よ!!シャロンちゃん!」
サクラがそう考える間もなく、紫のマントの人物が叫ぶ。
「はいなの!!」
その声に応じて、シャロンは紫のマントの人物と共に駆け出す。
「まだだ―――逃がすかっ!!」
無論、二人を呆然と見逃すようなサクラではない。
予備のナイフを取りだし、一歩目を駆け出そうとしたその刹那、
(上空より高密度の攻撃反応を感知。危険度はSランク)
「―――っ!?」
圧倒的質量を伴う攻撃の存在を、サクラのI−ブレインが感知する。
上を向くと、灰色の空から一点の白い何かが見えた。
それはコンマ一秒ごとにどんどん大きくなっていく。
そして、次の瞬間、I−ブレインが告げた危険感知の対象がまさにそれだと気づいた。
圧倒的熱量と破壊力を持つ、『光使い』が使うような荷粒子砲。サクラの『魔弾の射手』に非情に近い分類の攻撃。そして、何の冗談か、その先端には小さな箱が、荷粒子砲の先端に押される形で存在していた。
何故だ?と思う間も無かった。
白い荷粒子砲は、ただ一点、サクラのみを的確にターゲットオンして放たれたものだと気づいた時には、既にサクラは回避行動に入っていた。
真昼やセラが居る居住区はここからまだ遠いから良いものの、ディーはすぐそこで眠っている。
彼を抱えて少しでも遠くに逃げなければ、とんでもない事になってしまう。
今は、シャロンと紫のマントの人物に関わっている余裕など無い。
そう結論付けて、心の中に浮かぶ非常口へと引き返し、テーブルの上で眠りに陥っているディーを抱えて走り出して、
(高密度攻撃、着弾直前――――――)
…I−ブレインがとても機械的にその言葉を告げ、サクラの視覚と聴覚は、それぞれ目をくらませるような閃光と轟く爆音によって塗りつぶされた。
…立ち込める土煙が、視界を白く染めていた。
サクラは巨大なコンクリートの塊の上に立ち上がり、ゆっくりと視線を巡らせた。
ディーも複雑な表情で、周囲を見渡している。
あっちこっちを回って、幾度目かの隠れ家。
今日というタイミングの悪い日を衝かれ、子供達を全て連れて行かれたサクラの心の中は空っぽで、何も入っていないように感じた。
あの子達を、マザーコアにされる運命にあった子供達を解放するまで、後は最後の一歩を踏み出すだけだった。
だが、その最後の一歩を踏み出さんとしようとした矢先に、思わぬ形で来訪者が訪れた。それも『賢人会議』と敵対していたであろう連中とだ。
「やられたね…」
苦々しげに真昼が呟く。
「あちこちに仕掛けておいたノイズメーカーのスイッチが切られてた。おそらく、あのシャロンって子がやったんだと思う」
ノイズメーカーと言うのは、屋敷のあちこちに仕掛けていた、侵入者用のものだ。
それのスイッチが全て切られていた為に、その機能を発揮できなかったのだ。
真昼だけに解除できるような設定にするのが一番だったのだが、その為の時間が無かったし、そうすると非情に面倒なプロセスをこなさなくてはならなかった為に、今回は見送ったのだ。
だが、それが結果的に仇になってしまったのは、皮肉としか言いようが無かった。
「ごめんなさい…わたしがあの子を信じていなければ…」
シャロンの事を信じて、保護してあげようと最初に言い出したセラが、本当に申し訳無さそうに頭を下げる。
セラが眠りに吐く前にシャロンは『何かあったら私が連絡するなの』と言っていた。
眠気が限界に来ていたセラは、それを信じる事にした。
そして招いたのはこの結果だ。
セラが小さな拳を握り締めて、顔を俯かせていると、その肩にぽんぽんと手が置かれた。
セラが顔を上げると、そこにはディーの姿があった。
ディーは左手に持った、一枚の紙切れをセラに渡す。
「その件なんだけど、テーブルの上にセラへの書き置きを見つけたよ。
…あの子、もしかすると、本当は…」
ディーから一枚の手紙を受け取り、目を通す。
はっ、と顔を上げたセラは、力なく俯いた。
サクラもその手紙を見てみると『セラちゃん、騙してごめんね』―――と、そう書いてあった。
「…あの人…一体何者だったのでしょうか?
それに、どうしてこんな事を?」
今日の出来事と、手紙に書かれた内容の矛盾に気づき、シャロンを本当に信じていいのかどうか分からなくなったセラが呟く。
「分からない…分からないけど、これだけは言える」
真昼が辛辣な顔で、呟くように言い放つ。
「あの子は―――僕らの敵…ってことさ」
紫のマントを羽織った人物の姿を脳裏に思い浮かべて、敗北の味を噛み締めたサクラの目つきが鋭くなる。
「ふざけるな…」
ぼそりと呟き、コンクリートの塊から飛び降りる。
爪が食い込むほど強くこぶしを握り締めて、足元の石を力任せに蹴り飛ばす。
完全に崩壊してしまった、子供達の居た部屋。
ほんの数時間前まで、ここには魔法士の子供達が居た。
希望を手に入れ、未来を見れるはずだった子供達。
だが、それが今ではこの有様だ。
子供達は誰一人残らず連れ去られ、後にはぼろぼろの布団と瓦礫しか残っていなかった。
全ては、あの紫のマントを羽織った人物とシャロン、そして、上空から荷粒子砲の一撃を放った者達の仕業だ。
シャロンはあの人物の指令どおりに動いていた。それは確かだ。
だけど、その間には、偽りの無い本物の友情が存在している。実際、シャロンの紫のマントの人物を見る目は、信頼しきっているものの目に間違いなかった。
雇い主と傭兵の間柄では絶対に成立し得ない、とても、とっても強い絆で結ばれた関係。
「信頼関係…か」
ぷっ、と赤い唾を吐き捨てて、サクラはため息を吐く。
紫のマントを羽織った人物は、声からして性別はおそらく女。それ以外は分からない。
シティ・モスクワに忍び込んだ時のサクラとは違い、瞳以外を殆ど紫のマントで覆っていた。
「……」
大きく息を吐き、目を閉じる。
紫のマントを羽織った人物の唯一の手がかりは、その手に持っていた槍。
それも、一般の騎士が使うような安物ではなく、おそらく、相当の性能を誇る特別製のもの。
サクラのI−ブレインは、その形状を正確に記憶している。
後で端末に繋げば画像データも取り出せる。手がかりはまだ残されている。
この線から辿れば、尻尾は無理でもその切れ端くらいはつかめる。
逃がさない。
許さない。
命ある限り、地の果てまで追い詰めてみせる。
「…このままで、済むと思うな」
灰色の空を見上げて、無意識にサクラは呟いた。
その、数日後の事だった。
『賢人会議』の本拠地に戻り、シャワーを浴びたサクラが、部屋でバスローブからいつもの戦闘服へと着替えていると、
「サクラ!これ!!」
真昼が大慌てでダイレクトにドアを開けてくれた。
―――よりによって、サクラが下着を着けかけていた時に。
「…って…え」
「………」
「……」
「……」
硬直する二人。
頭一つ以上に差がある身長。
年の割には発育不足な白い裸体。というか寧ろ断崖絶壁。
そして漂うのは、炎すら凍るほどの冷たい空気。
「…ごめん」
それだけを言い残し、真昼は、本当に申し訳無さそうに静かにドアを閉めて去っていった。
それからたっぷり三秒が経過し、
サクラの怒声が、館中にこだました。
だが、いざテレビを見てみると、サクラの表情が変わった。
言うなれば『怒り』から『憤り』へと。
ディスプレイには、シティ・モスクワのマザーコア換装作業が無事に終了したというニュースが流れていた。
大勢のシティ・モスクワの住民は万歳三唱で大喜びしており、中にはパイを他人に投げつけるお調子者まで見られた。
だが、サクラからしてみれば、それら全てが憎悪の対象にしかならない。
映像の向こうで浮かれ騒ぐシティ住民を前に、サクラは再び自分を呪う。
「…!!!」
刹那、2194年の時に、助けられなかった女の子の姿が脳裏に浮かぶ。
まただ、と思った。
またしても、救えなかった。
シティという相手はとてつもなく強大で強力。
しかし、それを相手にしてでも、成し遂げたい想いがある。
そしてサクラは、心に一つの決意をする。
―【 おまけどころじゃない存在感になっちゃってるらしいキャラトーク 】―
ノーテュエル
「ねーゼイネスト、一つ思ったんだけど…」
ゼイネスト
「その切り口は何度も聞いたが、一応聞いておく…何だ?」
ノーテュエル
「ゼイネストはさ、サクラと由里、どっちを支持するの?」
ゼイネスト
「難儀な問いだな。
まあ、答えてみるとすれば、魔法士だけ助けて人間全てを見捨てようとするサクラと、魔法士も人間も両方とも助けたいと思う由里。
ただ、魔法士を含めた人類が少しでも生き延びたいのであれば、由里の考えの方が正しい。
…そんな訳で、どっちかというとであるのなら、俺は由里を支持する」
ノーテュエル
「そっか、そうなんだ。
私は――まだ迷ってる」
ゼイネスト
「どうした、いつになくしおらしいな。何かあったのか?」
ノーテュエル
「…別に、なんか複雑な気持ちになっただけ。
サクラの行動は確かに正しいとは言えない。
けど、サクラが動かなかったら、マザーコア披検体はずっと虐げられてた。
サクラはサクラなりに世界を変えたかった。
『世界があの子に死ねと言うのなら〜〜』のところで、それが現れてるわね。
―――なんて、作者の受け売りなんだけどね」
ゼイネスト
「まあ、それはそうなのだがな…。
しかし、それでも俺はサクラを認めるのは難しいな。理屈じゃなく、な」
ノーテュエル
「なるほど、ゼイネストはそういう意見にいたったわけね。
いいんじゃないの?こういうのに正しい答えはないんだし。
…ところでさ、最後にサクラは言ってたよね。
『伝えなくてはならない―――シティの人間達に、今まで人間達の安穏とした生活を支えてくれたマザーシステムの正体を!!』って。
これってつまり…」
ゼイネスト
「ああ、おそらくお前の思っている通りだ。
―――『賢人の宣戦布告』が始まるな」
ノーテュエル
「それって、WB五巻の最後のあの宣戦布告の事よね。
…さて、その時、DTRの面々はどんな反応をするのかしら…」
ゼイネスト
「さあてな…。
だが、いずれにしろ、それが起こってしまえば物語は大きく進む。
そしてその辺りから、徐々に伏線が明かされていくはずだ」
ノーテュエル
「うわ、そう言われるとちょっとワクワクしちゃうかも。
では次回『とても大切な日』でまた会いましょう!!」
ゼイネスト
「ちょっと待て、そのタイトルは―――な、なんだ!?
が、画面が『次回までお待ちください』という一枚絵に――――――――っ!!??」
プチッ!!…ざざ――っ…ツーツーツー…。
<作者様サイト>
Moonlight butterfly
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