少女達は明日へと歩む
〜It has not ended yet 〜















シティ・ロンドンの研究練の廊下を、リチャード・ペンウッドは歩いていた。

自室で一服しようと思ったところ、ほんの一時間前、研究室付近の喫煙所に自分用の灰皿を持っていっていた事を自室に戻ってから気がついて、取りにいく真っ最中である。

研究練内のルールで、くわえ煙草をしたまま歩くわけにもいかないので、手には何も持っていなかった。

もう少しで喫煙所に着くというところで、リチャードは向こう側から向かってくる人物に気がついた。その人物はリチャードに比べると遥かに身長が低い。白髪ウェーブのロングヘアの容姿は少女のそれ。

そして、リチャードにとっては、ここ数日間で見慣れた顔。

「おや、こんにちは」

右手を上げて、挨拶をしてみる。

「こ、こんにちは」

リチャードと少女ではかなり身長差があるので、少女は立ち止まって此方を見上げ、小さな声だけどはっきりした発音でリチャードに返事をする。

「お前さんもすっかりここに慣れたみたいだな。いいことだ」

リチャードの語り掛けに、アルティミスと呼ばれた少女は、嬉しそうな顔でこくん、と小さく頷いた。

アルティミス・プレフィーリング…それが、少女の名前。数日前にこのシティ・ロンドンに、とある経緯を得てやってきた魔法士だ。

そして、今やアルティミスは、シティ・ロンドン内部のちょっとしたマスコットになっていた。

研究練の誰かがアルティミスに挨拶をすると、アルティミスもまた、笑顔で挨拶を返してくる。その仕草が可愛らしいという意見が、研究錬の科学者達から多く寄せられていた。

最も、意見の大半は男性からのものだったりするのだが、男性に限らず、女性からもそう言われている。時代を問う事無く、無邪気な子供の笑顔というものは、抜群の破壊力を秘めているという事を頷かされる。

最早、彼女がこのシティ・ロンドンに来ることになった事について問いただす者はいない。それを聞くこと自体がタブーだという事が、リチャードの方から説明されていた。無論、シティ・ロンドンの政府軍の方にも、アルティミスの事は伏せてある。もし言ってしまえばどうなるかは…火を見るよりも明らかだ。

何より、研究練のマスコットになっているをわざわざ手放すほど、研究練の科学者達も愚かではない。

(しかしまぁ…この子も変わったもんだ)

最初は、誰かが声をかけるたびに小さく震えていた少女も、今ではこのようにきちんと返事をしてくれるようになった。

付属された手紙から、リチャードはその理由を全て知っているが、まだファンメイにはその全てを話していない。

まだ早い、という気持ちがあるのが半分、もう半分は、もしかしたら再びファンメイを戦闘に参加させてしまうのではないかという懸念で構成されている。

ただでさえ、ファンメイの身体は『黒の水』の暴走による崩壊の危機をはらんでおり、戦闘行為などもっての他。出来ることなら戦いなど起こる事無く今回の件が終わって欲しいと願わずにはいられない。

だが、現状で考えると、それよりも問題なのは、目の前の少女の方になる。

ヘイズはアメリカ方面でアルティミスを発見したと言っていたが、という事は、シティ・マサチューセッツからの逃亡者ということも考えられる。

もしそうなるとしたら最悪のケースだ。あそこはシティの中でも魔法士に対する人権が最も低い国である。そんなシティ・マサチューセッツが、逃亡したアルティミスの事を放っておく可能性はかなり低い。

勿論、シティ・ロンドンにアルティミスがいることに気づいているかどうかは定かでは無いから、シティ・ロンドンにシティ・マサチューセッツの刺客か何かが来るとは限らないが…。

「…リチャードさん、どうか…したの?それと、ちょっと、こわい…」

何時の間にかアルティミスがリチャードの目の前に居た。どうやら、リチャードは考え事に徹するあまり、廊下の真ん中で立ち止まってしまっていたらしい。しかも『こわい』という台詞が入っていたとなると、どうやら、表情の険しさも相当だったのだろう。

「…ああ、いや、なんでもない。ちょっと、この後の予定を考えていただけだ」

咄嗟にごまかす。当人の目の前で、この事を口に出すわけにはいかない。

「…ほんとう?」

「ああ、本当だ。
 それよりも、アルティミスは今廊下で何をしていたんだ?」

全然『本当』ではないのだが、この場は敢えてそう告げる。世の中、ついた方がいい嘘も存在する。

「ええっと…今、ファンメイさんとお昼寝してて、アルティミスだけちょっと先に起きちゃったから、書き置きを残してお外にちょっとおさんぽに…。
 あ、いけない…ファンメイさん、もう起きて待ってるかも。じゃ、じゃあ、アルティミス、ファンメイさんのところに行ってきます」

そう告げて、たたっ、と駆け出す。

「はぅ!」

…一秒後に、前のめりに盛大にコケた。

「おいおい、ほんとに大丈夫か?」

アルティミスはゆっくりと立ち上がり、スカートのすそを両手でぱんぱんと軽くはたいで埃を落とした後に、恥ずかしさで僅かに赤らめた顔をリチャードの方へと振り向いて、「え、えと…じゃあ…行ってきます」と告げて、たたっ、と、再び駆け出した。

(…やはり、そういう事なのだな)

先ほどアルティミスが転んだ時、リチャードは一瞬だけ、アルティミスが泣くかと思ったが、リチャードの予想とは違って、当のアルティミスは泣かなかった。その理由を、勿論リチャードは知っていた。


















――――――そう、アルティミスが『龍使い』であるなら、痛みを感じるわけが無い―――




















『龍使い』―――それは、黒の水と呼ばれるデバイスを利用して、身体構造制御を行う。「物理面」「情報面」ともに鉄壁の防御力を持つ魔法士の総称だ。痛覚が脳に届く前に処理をして『痛みを痛みでなくしてしまう』のと、肉体への治癒能力が非常に高いという特徴をもつ。

今では世界にファンメイ只一人であるはずの『龍使い』が、何らかの形でシティ・マサチューセッツで一体だけ製作されていたらしい。それがアルティミスである事は、もはや説明の必要は無いだろう。

だがリチャードは、今の今まで、この事をファンメイには明かしていなかった。

正直、明かすべきかどうか、迷っていたのだ。

今後の事を考えれば明かすのが最善の策なのだが、その場合、下手すれば、先ほども危惧したとおり、何らかの形で余計な事態を生み出しかねないし、何より、今、ファンメイが感じている、幸せの時間が壊れてしまう。

或いは、万が一の『その時』が来てしまった時に、初めてファンメイに打ち明けるという方法も考えてあった。

いずれにせよ、ファンメイの幸せな時間は、一時とはいえ終わりを告げてしまうが、それでも、ファンメイの幸せな時間を延長できるという意味では、リチャードは此方の案を選択すべきだと、そう思っていた。

(……と、そういえば私は、煙草を吸うために…)

そこまで考えて、リチャードは、自分が立ち止まっていたという事に再び気づく。

刹那の間を置いて我に返り、最後に一度だけ後ろを振り向き、心の中だけで一言だけ呟く。

(……それとも、やはり世界というものは、あいつらを放っておいてはくれないのだろうか)

その後、リチャードは本来の目的を果たすべく、歩き出した。
















真紅色の船が、アメリカ大陸の上空を、雲に隠れながら、ゆっくりと運行している。

その船は、名をHunterPigeonと言う。フリーの便利屋で、世界に3機しかない雲上航行艦の一つ。

マスターの名はヘイズ。その服装はというと、黒いスラックスとシャツの上に暗い血色のジャケット。

身体的特徴は、薄茶色の左目に真っ赤な義眼の右目、見事なまでの赤毛には一房だけ染めた青い髪。

そして今、そのヘイズは、操縦席のシートに座り、目の前にあるテーブルに足を乗っけて、両腕を頭の後ろに回して、ぼんやりと外の景色を見ていた。

赤い髪の中にある青い染髪もあってか、はたから見れば、やさぐれてしまったようにも見えなくはない。

「ヘイズ、もう少しでシティ・ロンドンに到着の予定です」

ヘイズ一人しか乗っていない筈のHunterPigeon内部に、声が響いた。

同時に、ヘイズの付近にあるモニターに、横棒が三本ほど出現する。雲上航行鑑「Hunter Pigeon」に搭載された管制システムの擬似人格プログラム…ハリーだ。

機械のくせして妙に表情豊かで、今のヘイズにとってはかかせないパートナーである。もとはシティで開発されたものだったが、あまりに個性的過ぎたことから破棄されそうになっていた所を、ヘイズを拾った空賊らによって奪われたのが、ヘイズとハリーの縁の始まりだった。

(…今だから思うが、どうせなら、もっと可愛い子の擬似人格ならよかったかもしれねぇなぁ)

「ヘイズ、今何か、物凄く失礼な事を考えませんでしたか?」

横棒三本のうち、二本が対照的な斜め線を描いており、残り一本はへの字を描いていた。誰がどう見ても分かる、怒り、あるいは疑念の表情である。

機械の癖に妙に鋭いヤツだ、と、ヘイズは心の中で舌打ちをひとつ。

「いや、なんでもねぇよ…んで、もうそんな時間なのか。
 ま、何時になろうが、ファンメイに怒られる可能性があるって事は何時までたっても消えねぇだろーし、怒られちまうなら怒られちまうで、さっさと怒られておいたほうが、余計なストレスにならねえからそっちがいいだろうな」

「おや、すっかり諦めモードに入ってますね」

「世の中、いくら頑張ってもどうにもなんねー事がいっぱいあるって事だ」

「例えるならば、ヘイズの借金とかですね」

「……ハリー、お前、オレが気にしている事をそこであっさりと言うんじゃねーよ」

歯噛みし、恨めしげな視線をハリーに向けるヘイズ。

「真実ですから……おや?」

ヘイズの呪詛を鮮やかに聞き流してにっこりしていたハリーの顔に、一瞬だけ疑問を表すハテナマークが表示され、次の瞬間には元通りの表情に戻る。

「―――ヘイズ、突然ですが、通信です」

「通信?誰だ?」

「――受け取ってみれば分かります。
 念のために言っておきますが、やはり、あの少女の件、このまま穏やかに終わるつもりは欠片も無いようですよ」

「……いや、それだけで十分だ。そんだけで全部分かった」

ヘイズの顔に、僅かな陰りが生じた。それは、言うなれば『やっぱりこうなっちまったのかよ』という言葉を体現したような、そんな表情である。

ハリーの台詞だけで、ヘイズはその通信が誰のものか、一瞬で検討がついた。厳密には『この件』のあたりで、だ。

こういう時の危惧は得てして当たるものだ。そして、状況が最悪な方向に進展するのもまたお約束。

ヘイズは通信のスイッチをオンに切り替え、相手からの第一声を待つ。

『聞こえるか、ヘイズ』

第一声は、通信スイッチをオンに切り替えてから、コンマ一秒のずれも無く、ジャスト一秒後にヘイズの方へと放たれた。

「…あん?その声、ルーウェンじゃねえか。一体どうしたよ?一応、依頼は達成したぞ」

口ではそういいながらも、ヘイズの心の中に芽生えている『嫌な予感』はいまだに拭えない。心の奥に、ざわついたものを感じている。

そもそも、完全に依頼が達成できていれば、通信の向こうの相手が、こんな風に連絡を取ってくる事はほぼ無いはずだからだ。

通信の向こうにいる相手は…ルーウェン・ファインディスア。シティ・マサチューセッツに所属する今回の件の依頼者だ。

また、このルーウェンという男、今現在の情報だけではヘイズの憶測の域を出ていないが、魔法士である可能性が高い。ヘイズが出会った時は、ルーウェンは剣を携えていた。今のヘイズの持つ情報から判断するに、ルーウェンの能力は『騎士』なのではないのかと踏んでいる。

『ああ、それは既に確認してある。だが今、厄介な事態が発生した…このままだと、シティ・ロンドンに被害が及ぶ危険性が…』

「――待ちやがれ!どういう意味だそりゃ!」

ルーウェンの言葉を途中で遮り、ほぼ反射的にヘイズは叫んでいた。

シティ・マサチューセッツ内部の内戦が、シティ・ロンドンに被害を及ばせる。その言葉だけで、ヘイズの感情を煽るには十分だった。シティ・ロンドンが戦闘に巻き込まれれば、どうなるかは少し考えただけで直ぐにわかる。

『……気持ちは分かるが、取り乱しても状況は好転しない。頼む、落ち着いて説明するから聞いてほしい』
 
ここで、ヘイズは気づいた。

ルーウェンの声はあくまでもいつもどおりの平静を装っていたが、声には憤りの感情がこもっている。

それで判断した。つまり、この男もまた、この状況を嫌悪しているのだと。

ヘイズから見た感じでは、ルーウェンは至極真面目な部類の人間に入る。そんなルーウェンが、他のシティを巻き込んだりする事をよしとする訳がない。そんな事をよしとするのは、出世欲と土地欲と自己顕示欲にまみれたクソバカ共だけだ。

『―――シティ・マサチューセッツの軍のごく一部の連中が、シティ・ロンドンに向かっている。狙いは勿論…アルティミスだ』

「おい待て、そりゃ一体どういう事だ。あの嬢ちゃんの事はシティ・マサチューセッツ内部じゃ極秘扱いだったんだろ?」

ここにきて、ヘイズは疑問を抱く。

アルティミスはシティ・マサチューセッツ内部で極秘に作られていた筈なのに、どうして、その件で態々シティ・ロンドンまで押しかけるのだろうか。

シティ・マサチューセッツが『龍使い』を所持・および製作しているという情報は、他のシティに漏れてしまった場合、只事では済むはずの無い問題だ。それなら寧ろ、完全にシラを切ったほうが、シティ・マサチューセッツとしては好都合なはずである。

『どういう事もこういう事もない。今、我の言った言葉が全てだ。
 我らは、アルティミスをマザーコアにするかどうかで、賛成派と反対派に分かれていた。もちろん、我は反対派だ。
 そして、ここからが今回の件の最も重要な事なんだが…賛成派がどうしてあそこまでアルティミスに拘るのかというとなんだが…奴等は出世したいからだ。
 シティ・マサチューセッツが『龍使い』を作ろうとした理由は、『WBF』に対する反乱鎮圧要素としてだ。だが、アルティミスは、シティ・マサチューセッツの軍の望む形の龍使いではない。戦う事を拒んでいる』

(そりゃ、あの嬢ちゃんの性格じゃ、戦う事なんて望まねぇだろうな)

『今回の件が成功…つまり、アルティミスを作り変えて、改めて戦闘向けの『龍使い』を生成できれば、賛成派の頭領、ヅァギを始めとして、賛成派は大きく出世出来るだろう。
 ……だが、シティ・マサチューセッツとしては、この事が外部、及びWBFに漏れるのを防ぐ為に、そろそろ今回の件から手を引こうとしているんだ。
 そして、そうなってしまえば、ヅァギ達にとって、出世の種が一つ潰れる事となる…だから、ヅァギ達は必死になっている。それに、奴はこれまでシティ・マサチューセッツの任務で色々とミスを犯しているから、軍の上層部からの信頼も非常に薄い。まぁ、自業自得なのだがな。
 ……因みに、これはあくまでも噂話の域を出てないが、シティ・マサチューセッツの軍の上層部としても、正直、奴等の存在を煙たいと思っているようだ。だから、この際消えてくれたほうがありがたいとすら思っている。
 故に、シティ・ロンドンからシティ・マサチューセッツへ抗議をしたとしても『ヅァギらが勝手にやった事だ。俺達は知らねぇな』と言われるのが関の山だろう』

ルーウェンの話を聞き終えたヘイズの心の中に、怒りの感情が沸きあがっていた。

今のルーウェンの言葉の中に、どうしても聞き捨てならないものがあったからだ。気がつけば、ヘイズは両手の拳を強く握り締め、葉を食いしばっていた。

「…おい、一つ聞かせろ」

怒気を孕んだ声がヘイズの喉から発せられた。

『何か、気になる点でもあったのか?』

「大有りだ」

ここで一呼吸置いて、ヘイズは告げた。

「今、お前が言った『アルティミスを作り変えて』ってどういう事だよ。確かお前さんは、オレに、アルティミスを逃がしてほしい理由を、マザーコアにされるからって話したよな。その辺りをきちんと説明願いてぇ。もう、ここまで踏み込んじまったら、後戻りなんてできねぇんだからよ」

ヘイズが最も気になったのは、そこだった。

そう、あの時、シティ・マサチューセッツで初めてルーウェンと出会った時に、ルーウェンは確かに『アルティミスはマザーコアにされる予定の魔法士だが、そうさせたくないから逃がす』といった旨の内容をヘイズに伝えたのだ。

だが、今のルーウェンの発言は、あの時の会話に比べると明らかな矛盾である。

待つこと3秒、通信機の向こうから声。

『……すまなかった。あの時は、『マザーコア』と言うしかなかったんだ。
 いきなり貴方に『無理矢理殺されて作りかえられそうな魔法士を助ける為に協力して欲しい』とは言えなかった。
 しかし、貴方が信用できなかったわけではない。出来れば、この件は、このまま終わって欲しかった。貴方はマザーコアとなる魔法士をシティ外に逃がして、我は当初の目的を果たす…もちろん、貴方はアルティミスがシティ・ロンドンに逃亡を果たす本位を知らないままで、だ。
 我としてはそうなってほしかった。シティ・マサチューセッツの者でない貴方を、ここまで巻き込むつもりは無かった…だが、何の悪戯か、結局はこうなってしまった。
 だから今、全てを話した。それだけだ」

それは、静かな謝罪の声。

(……あー、なるほど、そういう事かよ)

ルーウェンの気持ちも分からなくはない。確かにヘイズはシティ・マサチューセッツとは……というより、表向きはシティに所属していないという扱いを受けているし、シティ・モスクワからは指名手配すらされている。必要以上に他者を巻き込みたくないと、ルーウェンはそう言っているのだ。

それと、事実を隠していた点だが…流石にこれにはヘイズも同意せざるを得ない。

いくらなんでも真っ向から『無理矢理殺されて作りかえられそうな魔法士を助ける為に協力して欲しい』などと依頼する馬鹿正直な奴は、この世界ではまず生きていけない。それに、そのせいで背後関係、しいては、シティ・マサチューセッツの内部事情を悟られてしまう事も考えられるだろう。

さらに、ヘイズの心の中には、先ほどとはまた別の怒りがこみ上げてきた。怒りの対象は、当然ながらヅァギである。

失敗作は作り変えればいいという考えは、ヘイズにとってはもっとも嫌う考えだ。刹那、『失敗作』の烙印を押された時の過去が脳裏によぎりかけたが、ヘイズが頭を振って思考を停止させたために、すぐに霧散する。

ヘイズが力強く噛み締めた歯が、ぎり、という音をたてた。

「……つまり、てめぇで生み出しておいて、思い通りにならなければ作り直しかよ…そいつらはほんとに自分勝手だな!
 さらに、このままじゃ出世できないせいで焦ってるアホ共が、玉砕覚悟で特攻してくるってやつかよ!」

『要約するとそういう事だ。あと、アホ共という発言は実に的を得ている。実際、奴等の顔や発言には知的な部分など欠片もない』

(……お前が言うと嫌味に聞こえかねないんじゃないのか、その発言…)

ヘイズは心の中だけでそう呟いた。実際、男のヘイズから見ても、ルーウェンは美形と呼べる顔をしている。

(……っと、今はそんな事を考えてる場合じゃねーな)

刹那の間に思考を切り替えた。それに、そろそろシティ・ロンドンに到着する。そういう訳で、この辺りでルーウェンとの会話を一旦止めなくてはならない。

「…なら、オレのやる事は決まったな」

『…やる事?』

ヘイズは、いつもの軽い口調で、言葉を紡いだ。

「ここまで来ちまったんだ。こうなったら、そいつらを徹底的に叩いてやろうじゃねーか。シティ・マサチューセッツがどーのこーのとかもう関係ねぇ。乗りかかった船だ。最後まで付き合ってやるぜ!!」

そう告げる口の端には、にやり、と、かすかな笑みが浮かんでいた。

『―――貴方がそういうなら、我も、それに答えねばならないな。ならば今から作戦会議といこうではないか』

そう発したルーウェンの声は、今までで一番真剣味を帯びていた。




















【 続 く 】



















―――コメント―――











以上、言うなればインターミッションのような13話目でした。

後半戦に入って、悪役も動き出しました。

もうちょっとでバトルに入るかな。と思います。

…といっても、こちらはストーリー重視の物語なので、バトルはあってないようなものにする予定でしたが
…まぁ、一箇所くらいは戦闘が無いとなぁ。と思いまして。

ではでは。






画龍点せー異




HP↓

Moonlight Butterfly