「―――その質問はどういうつもりか」
今この時は、シティ・マサチューセッツの研究棟の中の一室での会議の最中。
白を基調としたコートと、紫を基調とした服に身を包んだ黒髪の男…ルーウェン・ファインディスアは苦々しげな表情と共に、目の前の男を睨みつけた。
冷たい空気が周囲を漂う。
但し、部屋の温度調節の失敗などではない。所謂殺気というものが飛び交う空間ゆえの冷たい空気である。
会議室らしき部屋では、おおよそ十人ほどの人間が椅子に座り、円形で中央が空洞となっているテーブルでお互いに向かい合い、睨み合っている。
だが、ルーウェンの鋭い瞳で睨まれても、目の前の男は怯む様子など微塵も見せない。それどころか、すぐに的確な言葉で反論してきた。
「ですから、ワタクシはこう申しているのです。
…あの少女を何処にやったのか?と」
長く伸びて先端でくるくる巻きになっている己の髭を指先でいじりながら、男はそう言ってのけた。
その顔は、見た目的にどことなくペテン師かインチキマジシャンを髣髴とさせ、顔を見るたびに、その顔を殴り飛ばしたい衝動に駆られるような顔―――と形容すればよいのだろうか。
「その件なら先に申したとおりだ。
既に彼女はマザーコアとして交換した。それ以上でもそれ以下でもない」
「なら、その『彼女』の洋服まで消えているのはどういうことで?」
目の前の男は、言葉にねちねちとした嫌味をかぶせる。それが地なのか演技なのかといわれたら、ほぼ間違いなく前者だろうと、ルーウェンの持つ今までの経験で判断できる。
この、人を舐め腐っているゲスを相手に話す事すらしたくないというのが本音だが、ここでこの男の相手をしないと真っ赤な嘘をあちらこちらに振りまかれる恐れがあるので、相手をせざるを得ないというのが正直なところだ。
胃薬を準備しておいたのは本当に正解だっただろう。
「必要ないから処分したまでだ」
「リサイクルすれば良かったのでは?」
「服の一式程度がそれほど重要になると本当に思っているのか?」
ふぅ、と軽く息を吐いた男は、再び髭を弄りながら肩を竦めた。
「まあ、ワタクシもそうは思っておりませんがね。
…しかし、色々とおかしいと思いましてね」
「何がだ。言いたい事があるならはっきりと言ってもらいたい。生憎と、我らは中途半端が嫌いでな」
ルーウェンは敢えて強気な、それでいて何も知らないような口調を貫き通す。多少ながらも言葉に棘があるのは、心の中に募る苛立ちを隠しきれないからだ。もっとも、この男を目の前にして苛立たない方がよほど珍しい事だろう。
「あれほど彼女を可愛がっていた貴方達が、彼女の形見まで早々簡単に処分するとはとても思えないのですよ。寧ろ、忘れ形見として大切に残しておく可能性の方が高いのではないのか――と、ワタクシは思っているのですけどね。
特にルーウェン殿、最も彼女に執着していたのは貴方ではないのですか?それこそ、実験体と研究者の枠を超えた感情を持ってして…」
「それは貴方の思い違いだな。我らは、死人の遺産になど執着しない。
それに、実験体と研究者の枠を超えた感情とやらがどんなのかは知らないが、そんなのに捕らわれてしまっていてはなすべき事もなせなくなってしまうという考えから、我らはそんなものには左右されない事を第一に研究に勤めている。だからそのような事は無い」
「そうですかそうですか。
と…どうやらもうこのような時間のようで。
ワタクシにもやるべき事がございましてね。帰らせていただきますよ」
わざとらしく腕時計を見やる態度と、のらりくらりとした声は、いつもながら癪に障る。
そもそも、男が視線を上にそらせば円形の時計が直ぐに目に入る位置にあるのだ。間違いなく『これ以上は話し合っても意味が無い』と判断し、颯爽とこの場を去ろうとしている事が丸分かりだ。最も、ルーウェンとしてもこの汚物の相手をするのは一秒でも早く切り上げたいと思っているので、そういう意味では好都合ではある。
「分かったなら結構。早いところお帰り願いたい。貴方達も一介の研究者としてやるべき事があるのだろう?このようなところで油を売っている場合か?」
ちょっとした嫌味を込めて、最後に反撃する。
「おやおや、嫌われたものですねぇ。
…しかしまあ、貴方の言うとおりワタクシ達にもやるべき事があるのは事実。それでは、これで」
ルーウェンの言葉を殆ど気にする様子も無く男は立ち上がり、長く伸びて先端でくるくる巻きになっている己の髭を指先でいじりながら歩き、会議室を出て行った。
そう、この男は『その手』の人種。
表では偽善を振りまき、その心の中では他人を馬鹿にしているような小物。
そして、他人をだましても、他人を踏みにじっても何も感じぬ冷血な男。仮に仕事を紹介してやるなら、詐欺師か訪問販売か悪質リフォーム業者辺りの仕事がふさわしいような、そんな人間だ。
故に、今の程度の嫌味ではダメージすら通ったかも怪しい。だが、少なくとも今の言葉で、ルーウェンの心の中に溜まったストレスは少しながら吐き出された。
…因みに、ルーウェンとしては名前を脳内に記憶する事自体が忌わしい事この上ないあの男の名前は―――ヅァギ・オリヴィエルなどというふざけた名前だった。
シティ・マサチューセッツの研究棟に戻るなり、ルーウェンは部屋の中に居る四人の人間を一箇所に集まるように呼んだ。
彼らはルーウェンと同じプロジェクトに携わるエンジニア達。
さらに、先の会話はルーウェンと相手の男とで行われたために、その間、エンジニア達は研究棟で仕事をしていたという事になる。
「ルーウェン殿、反対派との会見はどうでした?」
最初に、鼻の下に髭を生やした、やや年老いた男が近づいてきて口を開いた。
「…拙いな。どうやら反対派は感づいているようだ。我らがアルティミスをどこかに移動させたという事がな」
チッ、と舌打ちするルーウェン。
同時に、まるでインチキマジシャンかペテン師のような顔をした『反対派』のリーダーの顔が脳裏に浮かび、不快感が蘇ってくる。
正直、あの顔を見るたびにズタボロにしてやりたいと思うが、それをやったら一触即発で厄介事になるので我慢している。
「どうします?このままでは、折角逃がした彼女の身に危険が迫ってしまいます。
いえ、下手をすれば、反対派がこの事を軍に告げ口し、シティ・ロンドンまで攻め入るという選択肢も出てくるかもしれません」
部下の一人が静かな声で告げる。ルーウェンより若く、やや童顔なところがある事から『青年』と定義するのがいいだろう。
だが、その言葉の裏には確かな焦りが見え隠れしていた。
取り乱さないようにと感情を押さえているのが目に見えて分かる。本来、彼は熱き血潮のたぎる熱血漢だ。こういった地味な事は性に合わないのだろう。
「…いや、それは無いだろう。
シティ・ロンドンとて『龍使い』の事は極秘にしているはずだ。故に、シティ・マサチューセッツがいくらシティ・ロンドンに攻め入ろうと、シティ・ロンドンは黙秘権を行使するだろう。
寧ろ、そうなると何の理由も無く攻め込んだとされるシティ・マサチューセッツ側の分が悪くなる。そうなれば、隙を見てシティ・マサチューセッツに攻め入ろうとする他のシティも攻撃を開始するだろう。
あまりにもリスクが大きすぎる作戦だ。ゆえに、上層部が許可を出すとはとても思えない」
「…だといいのですが」
ルーウェンの答えを聞いても、熱血漢の彼は納得し切れていないようだ。無理も無い事なのだが。
「油断は出来ぬぞ、ルーウェン殿。
『反対派』は、あらゆる手段を用いて此方の妨害をしてくるでしょう。
奴らの中には非常識な思考を持つ輩も居ますし、ずるがしこい輩も居ます。くれぐれも油断なさらぬように」
鼻の下に貫禄のある髭を生やした中年男が告げる。
精神科医の免許を持つ彼は、そういう仕事を潜り抜けてきたせいか、人を見る目がある。つまり鋭いのだ。
そういう面に関してはルーウェンも信頼している彼がそう言うなら、この忠告を脳内に止めておかねばならないだろう。
「承知した。心得ておこう」
「ルーウェン殿、この後は一体?」
最後の一人、ボーイッシュな黄色い髪をしている、眼鏡をかけた女性が口を開いた。
この五人の中で最もアルティミスを可愛がっていたのは、他ならない彼女だった。
尚、彼女曰く『アルティミスはルーウェン殿を気にしてるみたいですよ』との事らしい。
その言葉に対しルーウェンとしてはどう答えたらいいのかかなり迷った覚えがある。当のルーウェンとしてはどちらかというと妹を可愛がるようなそんな感じだったのだが、アルティミスとしてはそれどころではなかったらしい。
結局、その場は『残念だが、我にはそんな気はない』と素っ気なく返しておいた。すると彼女はにやり、と怪しい笑みを浮かべたのだった。そして、それ以上彼女と対峙している気にはなれずに、早足で別の場所に移動したのだった。間違っても逃げではない…と、心の中で自分に言い聞かせながら。
流石に今のこの状況では、目の前の彼女もその事には触れてこない。
顎に手を当てて、ふむ、と頷いた後に、ルーウェンは返答する。
「…そうだな。そろそろ我も動かねばなるまい。
故に『P.R』を行おうと思っている。だから、その間、シティ・マサチューセッツの事はお前達に任せようと思っている。
…つくづく、お前達には苦労をかけるな」
息をつくと同時に、自然と申し訳ない顔になってしまう。ルーウェンにも自覚があるのだ。自分についてきてくれたこの者達に、肩身の狭い思いをさせているという事を。
「そんな事ありません!
ルーウェン殿は、我ら『賛成派』の中で、常に先陣を切って戦ってくれました!あなたがいなければ、ここまで統率を取る事なんて到底不可能だったと思います!」
先ほどの熱血漢な青年が、ルーウェンを庇護してくれた。
「その通りですな。あなただからこそ、私たちはついてきたのですぞ」
鼻の下に貫禄のある髭を生やした中年男がそれに続いた。
「あのような者達の戯言など、聞き流せばよいのですよ。そんなものに一々流されるほど未熟な人生など送ってきた覚えは無いしのう」
やや年老いた男が、告げる。
「あの子は本当に可哀相だった…だから、あの子に幸せが訪れるなら、なんだってやってやろうって思ってるわ」
最後に、ボーイッシュな黄色い髪をしている、眼鏡をかけた女性が元気よく言い放った。
ルーウェンはしばし沈黙し、そして、今の心の中にある言葉を素直に告げた。
「…ありがとう」
感謝の礼と、共に。
今のシティ・マサチューセッツでは、一人の『マサチューセッツ製の龍使い』を巡って二つのグループが出来ていた。
お互い、派閥というほど巨大なものではないから、グループという名称で十分だろう。
そして、その話の中枢となる『龍使い』は、十年以上も前にシティ・北京が製作した、『黒の水』と呼ばれるデバイスを利用して、身体構造制御を行って戦う魔法士の総称。
物理と情報の両面において鉄壁に等しき防御力を所持しており、特に『騎士』との戦いに対し圧倒的な有利をつけられる。
反面、広範囲での戦闘には向かない、と、得手不得手がはっきりと分かれた魔法士だ。
だが、黒の水が本体を侵食する事により暴走する欠陥を解決できなかったため、大戦への投入は見送られてしまった。
…しかし今、『龍使い』は、アルティミス・プレフィーリングという形で存在している。
そうなると、これはどういうことになるのか――という疑問が浮かぶのも当然だろう。
そう、この話には、れっきとした裏があった。
シティ・マサチューセッツの軍の上層部は、
お互いになりを潜めては居るが、状況的には一触即発。どちらかになんらかの動きがあれば、その一点を激しく追及する流れになるのはいつもの事。
以前も、シティ・マサチューセッツから逃走したファクトリー製魔法士『デュアル.No33』を巡り、軍とシティとの間にはひと悶着が起こった。
そして最終的には決着がつかないまま終わったのだが、近年、逃走した『デュアル.No33』が『森羅』という兵器を手に入れてシティ・モスクワの兵士四百人を斬り捨てた後に逃走し、最終的には『賢人会議』などという世界の『敵』に所属したという話だ。
そして、このまま『賢人会議』が手をこまねいているとは到底思えず、何らかの手を打たねばいけないと思ったシティ上層部は、上辺だけとはいえシティ・モスクワやシティ・メルボルンと連携を取ることにした。
さらには、いつ来るかわからぬ『賢人会議』の侵略・さらには人々への蹂躙に備えて、全てのシティが協力すべき姿勢を取るべきだという提唱が出ている。
これが本日―――2198年11月10日の話だ。
だがこの場合、軍は『賢人会議』に対し戦力を集中させるために、WBFへの対応がおろそかになる可能性もある。そして、時と場合によってはWBFからのクーデターが起こるの可能性もゼロではない。
その為、WBFのまさかの反乱に備えて、軍の方でも秘密兵器として『龍使い』を極秘に生成していたのだ。
だが、本来なら軍は魔法士の製造には着手していない事になっている。それは軍の総括者とて例外ではない。
つまりこれは、ごく一部の軍の科学者らが行っている、イレギュラーな出来事に他ならない。
水面下で事を進めて、時が来れば切り札とばかりに『龍使い』を戦場に駆り出し、一騎当千の活躍をさせ、自分達の名を売りつける。
古典的かつ姑息でもあるが、それ故に良く使われる手だ。
―――だが、その場合、戦場に駆り出される『龍使い』の件はどうなるのか。そして、その『龍使い』は誰なのか――。
それはもう、説明するまでも無いだろう。
また、肝心の『龍使い』の情報は、十年前の第三次世界大戦の真っ最中に得たものである。
あの時代、いつ終わるとも知れぬ長い長い戦いが続いていた。
その為、生きようとする人々の中には、どこからか盗んだ特Aランクの情報を他のシティや軍に売りつけて金を稼ぐものも居た。
また、逆にシティから大量の報酬をもらう事で、他のシティから情報を盗み出すという仕事をするケースもあった。
そういった者達は総じて『
金の為ならいかなる情報をも盗み出す、技術と金銭欲に埋もれた外道という言われ方が影で流行ったが、情報買売人達はそのような汚名に対しても眉一つ動かさず、ただただ報酬の為に動き続けた。
そして、シティ・マサチューセッツは情報買売人と手を組み、シティ・北京が極秘に開発しているといわれる新たな種類の魔法士についての情報を探ってもらうように依頼した。
無論、特Aランクに値する情報だった為に、何人もの情報買売人が犠牲になった。
だが、情報買売人の一人が、ついにその『情報』を手に入れる。
それこそが、シティ・北京が極秘で製作していた魔法士―――『龍使い』だったのだ。
―――ルーウェンはおおよそ三年ほど前から、このシティ・マサチューセッツに居る。
なので、今から話す内容は当時のデータベースを調べたり、古参の者から聞いたりした情報から再現したものである。
一部の科学者達が『龍使い』プロジェクトに着手してから度重なる失敗を重ねて、ついに『龍使い』―――アルティミス・プレフィーリングは完成した。今から四年前の話である。
これにより、考案者である一人の科学者と、科学者を取り巻く者達によって、北京産以外の『龍使い』がやっと完成したという事になる。
科学者達は『黒の水』の危険性を知っていた為に、何とかしてバグが起こらないような『黒の水』の開発を行っていた。
だが結局、研究の中でそれが不可能である事を悟ってしまった。故に、アルティミスは普通となんら変わらない『龍使い』として生み出された。
I−ブレインを正常に成長させる為に、最初の三年ほどは普通の人間として育てた。
その頃のアルティミスは、近くに誰かが来ればにこりと小さな笑みを浮かべる少女だった。まるで赤子のような無邪気な態度は、周囲の者達の安らぎの一つになっていた。
しかし、時が来て、いざ戦闘の為の実戦訓練を学ばせようとした時、そこで初めて科学者達は失敗に気がついた。
アルティミスは無邪気で泣き虫で内気で引っ込み思案と、とても戦場で戦わせられるような性格になってしまっていたという事だ。
初めての『龍使い』という事で、甘やかしすぎたのかもしれない。一部の連中はアルティミスの誕生時から「甘やかしすぎだ」という意見を出していたが、それが的中していたという事を認めざるを得ない状態だった。
無論、科学者達の説得にもアルティミスは耳を貸さず、只ひたすらに説得をつっぱね続けた。
『戦いたくなんてない』『傷つけるのなんていや』『人殺しなんて出来ない』―――それだけで全てを拒絶し、いやいやと首を振って全力で否定し、怒られれば子供のように泣き出す。
もっとも、外見年齢的にも精神的にもアルティミスは子供そのものなのだから、子供のように泣き出すというのは寧ろ当然。増してや、シティ・マサチューセッツでは初めての『龍使い』だったが故に、周囲によって溺愛というほど甘やかされて育ったなら尚更の事である。
だが、この世界でアルティミスが生きる以上は、予期せぬ事態に備えて戦いの知識も無ければならないという考えが出された。万が一、突如の襲撃でアルティミスが倒されては意味が無いし、そうなってしまっては悲しむ人も居る、という、別なベクトルでの理由もある。
それを発言したのが、アルティミスの考案者である一人の科学者だった。
生みの親の言葉とあってはアルティミスも従わないわけにはいかなかったらしい。しかし、科学者はアルティミスの事を思いやって、強化カーボンで作った人型を相手に、『黒の水』を使用した武器の作り方を教える…といった、本当にソフトな訓練から始める事にした。
アルティミスとしても『もしもの緊急事態に生き延びる為』なら仕方がないと理解したらしく、いやいやながらも訓練はしていた。
科学者の横で誰だったかが告げた『戦闘技術だけもっていても、運がよければ戦わなくてすむかもしれないから』という言葉も、アルティミスに対し安堵感を持たせ、訓練への嫌悪感を取り除く要素になっていただろう。
訓練の日程も、アルティミスにあまり負担をかけないようにする為に、数週間に一回の割合で行われていた。
『訓練』の結果は、かなり…とはいえないものの『良好』ではあった。
アルティミスの戦闘技術面…といっても『黒の水』で武器を作り出すのだが、アルティミスが作り出した武器の形状は『花』だった。それも、薔薇や百合やコスモスといった綺麗な花を作るのである。
しかし形状がなんであれその強度は凄まじく、叩きつけただけで、安物の強化カーボンの壁を粉砕…とまではいかないものの、砕くだけの破壊力はあった。
その破壊力を計測してみたところ、人間相手ならその衝撃で昏倒に陥らせられる…を通り越して撲殺出来るレベルだと判明し、関係者達は驚き、そして胸を躍らせた。
『これなら、万が一にWBFによるクーデターが起きても鎮圧させられる』と。
無論、この事はアルティミスには伝えていなかった。アルティミスの無邪気な性格から、その事を教えるのはよしたほうがいいと、科学者が判断した為だった。
尚、当時はルーウェンも研究者グループの中に居たのだが、当時の段階ではルーウェンはまだまだ下の方に位置する人物だった為に、その事は知らされなかったのだ。
そして、その『訓練』が佳境に差し掛かった頃、実戦訓練という名目での『戦闘テスト』が行われた。
シティ・マサチューセッツの街の近くに、シティのエネルギーを利用して生きている夜盗達がいた。
その夜盗達を一網打尽にするべく、いざという時の実戦テストも兼ね備えての意味で、アルティミスが出撃させられる事となったが、当然ながらアルティミスは嫌がった。
だが、当時アルティミスの世話係を担当していた人物が言葉巧みに説得。その内容は、以下のようなものだった。
『殺さなくていい、動けなくすればいいのだから。それに、そいつらを放っておいたら、シティに住めない弱い人達がさらに酷い目にあってしまう。何も悪く思う必要は無い。悪い奴を倒すのに理由は要らないさ。それに、今の俺達が動けないからこそ、お前の力が必要なんだ』
結果、アルティミスはずっとうんうんと唸り続け、最後の最後で首を縦に振った。説得は、最終的にアルティミスを戦場へと向かわせる事に成功したのだった。
戦闘の結果、アルティミスが人を殺す事は無かった。
人を殺す事を極端に恐れていたアルティミスは、戦闘訓練の中で護身用の技術としてカリキュラムに組み入れられていた『急所を外す攻撃』だけを行っていた。
その結果、夜盗達はアルティミスによって負わされた重傷によってまともな逃走すらままならず、そこを軍の動かした兵士達によって取り押さえられた。
しかしそれ以降、人を傷つけた罪の意識からか、アルティミスは酷く内気になってしまった。そして、今まで人間らしく育ってきた感情が、一気に引っ込んでしまった。殺してないとはいえ人を傷つけたのだ。ある意味では当然とも言える結果であった。
事件の後に開かれた会議の結果『彼女には実戦はまだ早すぎた』との結論の後、アルティミスの件は不問となった。
よって、アルティミスを作った科学者は、アルティミスに対する戦闘への参加を見送る方針を定めた。
―――しかし、当の『龍使い』プロジェクトの一部のメンバーにとっては、それだけでは終わらなかった。
そもそも、軍の一部が極秘で魔法士の創生に乗り出したのは、WBFの反乱に備えて、だ。彼らの目的は、自分達にとって都合のいい『龍使い』の創生。WBFに対する抑圧手段の作成である。だが、実際に生まれたのは、戦闘には全くと言っていいほど向いていない性格を持ったアルティミスだった。
そして、この事件を境に『龍使い』プロジェクトのメンバーに亀裂が生じる。
ある者はアルティミスを失敗作として扱い、『処分』した後にその黒の水だけを奪い、今度こそ、自分達の言う事だけを聞く、さながらロボットのような魔法士を作り上げる旨を告げる。
またある者は、アルティミスについては後はこのまま彼女に人としての人生を歩ませる事を信条とし、また別の『龍使い』を作る事を意見した。
どちらにしても新しく『龍使い』を作る事は共通しているが、相違点は『アルティミスを処分するかしないか』だ。
そして『賛成派』と『反対派』が出来上がる。『賛成派』はアルティミスに人としての人生を歩ませる事を信条とする派で、『反対派』がアルティミスを失敗作として扱う派。
そして、自分達の手で命を生み出しておきながら、失敗すれば自分達の都合で殺す者達と相容れるなど、ルーウェンには到底考えられなかった。故にルーウェンは我先にと『賛成派』に名乗りを上げた。
『反対派』の意見も分からなくは無かった。確かに現実を見据えるならば、そういった判断も、そういった考えも必要なのだろう。しかしそれでも、ルーウェンは『反対派』に属する事は一切考えなかった。
それに、少なからずとも、皆、アルティミスを作っている時には一致団結していた。そして、出来る事なら彼女が戦わなくて済むようにあってほしいと語るものも居た。あの時の気持ちを思い出せばこんな分裂など起こらない筈だと、ルーウェンはそう思っていた。
だが、理論と現実と感情はおりしも一致しないもので、ルーウェンが属する『賛成派』についたのは、ルーウェンを含めて僅か五人であり、残り八人は全て『反対派』に回った。
裏金か、裏切りか、心境の変化か―――何れにせよ『反対派』にそのような事を聞く事は躊躇われた。加えて、そうなった以上説得など無意味だろう。
そして、ルーウェンは四人を連れて、反対派とは別の研究棟で研究を続ける事を決意する。当然ながら、アルティミスは此方の方についてきた。
不思議な事に『反対派』はその事についてはあまり言及してこなかった。『反対派』があっさりとアルティミスを手放したことに対しては油断はしていない。おそらくだが『反対派』は、新たな『龍使い』のコンセプトが完全に纏まってから行動を起こすだろう、と、その時のルーウェン達はそう判断したのだった。
その後、アルティミスの心のケアは専ら女性の科学者が行い、ルーウェン達は彼女から聞いたアルティミスの様子を元にデータをまとめる。
それ以外の者は、アルティミスの代わりとなる魔法士の製作に取り掛かる。
時には笑い、時には悩み、時には怒りながら―――そんな感じで、時は流れていった。
そしてある日、事態が急変した。
今思い返しても、その場所に居合わせることが出来たのは本当に偶然だった。
休憩時間中、ルーウェンは研究棟の外に買い物に出かけようとした。
…が、いつも通るルートが、なぜか今日に限って人で賑わって混雑していたので、別なルートを通る事にした。後に思うと、この選択肢は正解だったと思わざるを得なかった。
何気なく廊下を歩いていると、複数人の声が耳に入った。
「しかしよ、こうしてみると、こいつの体、意外と成長してねぇか?」
「お、徹底的に調べるとしますか…」
「なら身体検査だな!!」
「おい、服を脱げ!!!!」
(…何かが、起こっている!?)
只事ではないという事を一瞬で察知し、息を潜める。すると、次に聞こえたのは聞き覚えのある声だった。
小さくて、そして消え入りそうな声。
「あ…アルティミス、そんなのいやで…」
―――ガッ!!
「きゃ…!!!」
自分の事をアルティミスと呼んだ人物。
(この声は―――!)
その後に聞こえた鈍い音。焦りと嫌な予感が心の中を駆け巡る。
「脱げって言ったのが聞こえなかったのか!?口答えしてんじゃねぇぞてめぇ!!」
「うっ…うぅ…ぶ…」
「鼻血流してる場合かよ!!」
扉越しに会話が聞こえる。その会話だけで一体何が起こっているのかを理解するのは簡単な事だった。
だが、ルーウェンの心の中にあったのは焦りなどではなく、不思議と妙に冷え切った感覚だった。
アルティミスが酷い目にあわされている―――その現実は確かにルーウェンの感情を熱く高揚させるものだったが、それよりも『どうやってアルティミスを助けるか』という想いが、心に冷静さを与えていたのだと思う。
会話内容から察するに、男達の数はおそらく三人ほど。
ルーウェンなら、その程度の人数を相手にするのは、よほどの事が無い限り苦も無いだろう。
しかしながら、そのプロセスに移行するためにはどうすればいいのだろうか、という思考が脳をぐるぐると回る。
いざ部屋の中に入ってみて、アルティミスが男達によって人質当然の状態になっていたら手の出しようが無い。
だから、会話を聞きつつ思考をめぐらせる。出来る事なら、手遅れになる前に結論を出さなくてはならない。
「…だから、さっさと脱げって言ってんだよ!」
「…や、やだ…どうして…どうしてそんなことするひつよ…」
―――ぼきぼき。という音。
「ああ!?てめぇ話を聞いてなかったのか?
ならもう一度言ってやる!!『賢人会議』かどうかを調べるための身体検査だよ!」
(―――貴様!)
卑劣な大法螺に対し、現実時間にして一秒足らずでルーウェンの脳内で結論が出た。
同時に、そろそろ我慢の限界が来たという事を、心の中に湧き上がる怒りという感情が教えてくれた。
勢い良く扉を開けて、部屋の中に入る。
突然の来訪者に、部屋の中に居た四人が振り返った。
三人と一人に別れており、その内の一人は、白い髪の少女だった。ルーウェンの存在に気づいた少女は、あ、という小さな声をあげて、此方に顔を向ける。
間違いない、アルティミスだ―――ルーウェンはそう確信する。
だが、今のアルティミスは何時もと違った。額についた擦り傷と、スカートの一部が破かれていて白くて細い綺麗な足が露になっている。
それを見た刹那、ルーウェンの心の中に、怒りの感情と殺意が同時に沸きあがった。一秒でも早く目の前の男達を殴りたい気持ちだったが敢えて堪える。
出来る事なら、男達を油断させて、その隙をついたほうが手っ取り早く、また、アルティミスの安全も確保できる手段がある―――その為に、ルーウェンはこの作戦に出ることにしたのだ。
「…ほう、なにやら面白い事をやっているようだな」
心の中で燃え上がる激しい怒りを静かな笑みで隠し通し、ルーウェンは前に出た。
「…何だテメェは。
今、俺達は保健体育の一環として、このガキの身体検査中なんだよ」
今までこの場に居なかった者が突如として登場した事に、男達三人の顔が歪む。
同時に、それは、今まさに始まろうとしていたお楽しみを邪魔された事による怒りも含まれているだろう。
しかし幸いにして、男達はルーウェンの顔を知らないようだ。だが、実はルーウェンは男達を知っている。敢えてその事を口に出さずに、ルーウェンは言葉を続けた。
「成るほど、要は弱いもの苛めか。下賎な行動の正当化、ご苦労な事だな」
口もとに蔑むような笑みを浮かべた、やや低めのトーンで放たれた自分の声。
加えてその台詞は、男達の神経を逆なでするには十分なものだったようだ。
「なんだとてめぇ」
いきり立つ男に対し、ルーウェンは敢えておちゃらけた口調で対応する。
「いきりたたれる覚えは無いな。その状況がどうみても弱いものいじめにしか見えない以上、我は見たままを言っただけだが」
男の態度もなんのその、さらりと軽く流すふりをする。
「…ま、それはお前の好き勝手に解釈しな。
で、何だ?まさかテメェ、こいつを助けに来たナイト様とでも言ってのける気か?」
ナイト様、という言葉に、アルティミスの表情にほんの僅かの希望が浮かんだ。
だが、次にルーウェンの口から出た言葉は、その希望とは正反対のものだった。
「いや、それは違うな。
我にもやらせてほしいという事だ。『
「ひ…!」
青年のその発現に、びくん、と身体を震わせるアルティミス。一瞬の罪悪感がルーウェンを襲う。
(すまない…少しだけ我慢してくれ、アルティミス)
祈るように、心の中で呟く。
「おーおー、分かってんじゃねーか」
男達の中の一人が、やや調子付いた声をあげた。どうやら、突然登場した青年…ルーウェンを仲間だと認識したらしい。
「い…やぁ…!!」
三人が四人に増えて、アルティミスが絶望を隠すことなく、首を振っていやいやをする。
罪悪感がさらに強くなる。仕方がないとはいえ、アルティミスを怯えさせるような態度を取っているのだ。
「さて、それでは始めようか」
青年がずい、と一歩を踏み出す。
アルティミスは反射的にぴくんと反応し、両手で頭を押さえて目を瞑った。だが、それはルーウェンにとっての好機の天来を意味する。
周りの男達も完全にルーウェンを信じきっているし、男達の視線は完全にアルティミスに釘付け…要するに―――隙だらけだという事だ。
(―――今しかない!)
刹那、ルーウェンは動いた。
「―――ふっ!!!」
自分でも驚くほどに、ものすごく鈍い音がした。
真横に拳を突き出し、男の中の一人をぶん殴る。ぶん殴られた男の体は壁にめりこんでおり、顎の骨が砕けていて、口の周りは血みどろだった。
「…な、なんの心算だテメェッ!!!!」
仲間をやられた事と、ルーウェンの予想外の行動に、残り二人の男は激昂した。
当然の事ながら、明らかな殺意を纏ってルーウェンを睨みつける。
「ん?最初に我は言っただろう」
だがルーウェンは、それがどうした。と言った感じの涼しげな顔で作業的に答えた。
「こんなか弱そうな少女一人に対して、三人がかりで暴行の限りを尽くそうとする弱いものをいじめる、とな。
―――これでどういう事か完全に分かったであろう?
我の言った弱いものというのは、貴様らド外道三人組の事を言ったという事だ!!!!」
「…あ」
アルティミスの小さな声が耳に入る。
振り向くと、目元を押さえて泣きじゃくっているアルティミスの姿が目に入る。
「無事…みたいだな。アルティミス」
安堵の息を漏らすと同時に、自分の表情が緩んだのが自分で分かった。
「ふぇ?……う、うん…っく…ひっ…く…うっ……うう…ふわぁ〜〜ん」
返事の後に、アルティミスはまた泣き出す。こうなると、ルーウェンとしてはどうしていいかわからない。下手に手を出してますますな貸せたら拙いのは分かっているが、かといって、このまま放っておくのも問題だ。
「……待て、泣かれると困るんだが」
とりあえず、素直な思いを口にしてみた。
「…だ、だって…っく…ひっく…」
しかし、それでもアルティミスは泣き止まない。
「参ったな…どうすればいいのだ?」
実際問題、本気で参ったと思う。答えが見つからず、ルーウェンは顎に手を当てて考え込み始める。
「…おい、俺達を無視して何ラブコメなんかやってやがる」
泣きじゃくるアルティミスを前にしてルーウェンが悩んでいると、つい先ほどから完膚なきまでに無視されていた男の声。
(いかんな、こいつらが雑魚すぎてすっかり忘れていた)
アルティミスにばかり注意がいっていたせいで、男達の事を忘れていた。そう、後二人居たのだ。
まあ、ルーウェンとしては、仮に背後から銃か何かで攻撃されてもかわしきる自信はあったのだが。
「成程、そんなに早く死にたいか…」
静かに呟き、ルーウェンは男達の方へと振り向いた。振り向き様に、鋭い目線で男達を睨みつける。
「…実は、内部のものから連絡があってな。研究室にたてこもって一人の少女に暴行を加えている連中があると聞いていた。
で、立ち入り禁止と書かれていたから、入ってみたら案の定という事だ。
しかも貴様らは嘗ては『龍使い』プロジェクトに関わっていた連中で、我等を裏切り『反対派』についた連中ではないか」
…そう、つまりはそういう事。
目の前の男達は『龍使い』プロジェクトの『反対派』。
しかし目の前の三人は、ルーウェンの事を知っている素振りを見せなかった。もしかしたら『反対派』の新入りで、ルーウェンの顔を知らないのかもしれない。
逆に、ルーウェン達『賛成派』は『反対派』の人員を随時チェックしている。ルーウェンが男達の顔を知っているのはその為だ。
「…へぇ、そこまで調べてあんのか……」
吹っ飛ばされた男が、左腕で鼻血を拭いながらルーウェンを睨みつける。
「なら、生かして返す訳にはいかねぇなぁ…いっとくが、最初にやられたあいつは喧嘩が弱い。だが、俺達は違うのさ」
ぽきぽき、と拳をならす男。
「己が不幸を呪うんだなこの野郎。俺達がそこんじょいらのチンピラか何かと同系列の人間とでも思ったか?
ならそれは傲慢というもんだ。なんせ、俺達はな―――」
そして、もう片方の男がその台詞を口にする前に、男の目の前を何かが通り過ぎる。
「―――ぶべら!!」
青年の放った拳の一撃がもう一人の男の頬を直撃し、横方向のベクトルを加えられたその体は僅かに宙を浮いて直線状に吹っ飛び、最初の男と同じ運命を辿った。
(…全くもって煩い)
声を聞くのも嫌になったので、体が勝手に動き、男をぶっ飛ばしていた。
「んなっ!!」
残された一人の男の顔が驚愕に歪んだ。
喧嘩慣れしている筈の相棒が一撃で沈んだのだ。無理もないだろう。
「―――ああ、言い忘れていた」
ふぅ、と軽く息を吐き、ルーウェンは最後に残された男の方へと振り向いた。
いい加減終わらせたい、という思いと、アルティミスを安心させたいと思う気持ちが一緒になったが故に、出した結論は一つ―――速攻勝負。
声高らかに、ルーウェンは最終宣告を告げた。
「我の名はルーウェン・ファインディスア。
シティ・マサチューセッツ所属、『極秘龍使い』プロジェクトに携わる者の一人にして――――――『時詠み』の魔法士!!
この事を罪人用牢獄で覚えておくんだな!」
ルーウェンの能力を持ってすれば、このような連中など、本来なら相手にする必要すらなかった。所要戦闘時間は現実時間にしておおよそ6秒にも満たない。
三人を打ちのめし、気絶させたのを確認。三人とも起き上がる気配が全くと言っていいほど無い。
こいつらのその後は決まっている。こいつらをダシに『反対派』への攻撃をすればいい。
「――無能が」
ふん、と鼻を鳴らし、倒れ伏した男達に対し踵を返す。そう、こいつらよりもずっと、ずっと大事なことが、すぐ近くにある。
「無事…か?」
ぺたんと尻餅をついて、かたかたと震えているアルティミスにゆっくりと近づく。
「…あ」
最初に出たのは、小さな声。
そして次の瞬間には、目の前の少女―――アルティミスは、ルーウェンが予測だにしなかった行動をやってきた。
「…こ、怖かった…怖かったのっ!!」
ルーウェンより30センチ以上も小さな体が、抱きついてきた。
「誰も、誰も助けに来なかった!アルティミス、もう、駄目なのかなって思ったの!
でも……でも……!」
ルーウェンを見上げる顔が、涙でぐしゃぐしゃだった。
服の裾がぎゅっ、と、その小さな手に掴まれる。
鼻をすする音と、嗚咽を漏らす音と、泣き声が空間を支配する。
そして、ルーウェンは、己の人生の中で学んできた経験の中から、一番効果的と思われる行動を選択した。
ぽん、と、アルティミスの頭の上に手を置いた。
それから、言葉を紡ぎ出した。
「―――安心するんだ。
これからは、我に…いや、我らに任せておけばいい。
絶対なる責任をもって、アルティミスを危険な目に遭わせないと誓おう」
―――それはまさに『
それが、アルティミスとルーウェンが、初めて繋がる事のできたきっかけだった。
それ以来、アルティミスはルーウェンになついてくるようになった。
物的証拠があっては、流石の『反対派』も反論が出来なかった。
よって、今後は『反対派』の手の届くところにアルティミスを置かない方針で行く事にした。
その結果、今までに比べてアルティミスが笑顔でいる時が格段に増えた。
培養層の中でも、誰に対しても小さな笑顔を向けるようになってきた。
――ところが、数日後に突如起きた『事件』により、それどころではなくなってしまった。
幸せというものがあっさりと壊れるという言葉が、嘘ではないという事を思い知らされるような事件が起きたのだ。
それが、今まで起こった、ルーウェンが知る限りでの、アルティミスに関する出来事だった。
―――そして今、ルーウェンは考えている。
自分にあてがわれていた部屋で、静かに、ただ一心不乱に考えている。
アルティミスがこのシティ・マサチューセッツから居なくなって…厳密には、ルーウェンとヘイズの手引きによってシティ・ロンドンに逃されてから、四日。
その四日というとてつもなく早い時間で、奴らが、反対派が動こうとしている。
「こうも早く時が来るとは思っていなかった…。
ならばもう迷っている猶予など無い。我らも行動を起こすだけだ!」
くっ、という声と共に、右手の拳を強く握りしめ、同時に、右隅のロッカーに目を向ける。
あの中には、ルーウェンが生まれてから使い続けた『相棒』が入っている。
再び『相棒』の封印を解く時が来たという確信を胸に抱き、ルーウェンは立ち上がる。
―――手段を選んでなんていられない。
その思いが、ルーウェンに一つの決意をさせた。
―――コメント―――
どうも。
こういう『物語の真相を明かす話』になると、異常なまでに執筆速度があがる画龍です。
やっぱり種明かしとかする瞬間って、かなり楽しいものなんでしょうね。
こういう人道的な連中と非人道的な連中との対立とかって、物語の流れ的には面白いな、と思います。
ただ、シティVS『賢人会議』レベルにまで昇華しちゃうとアレなんで、どっちが正しい側によってるかってのが分かりやすいようになってます。
人間って基本的に勧善懲悪を望む生き物なんで、メディアの都合上、正義側が勝つのはある意味当然な流れなんですが、果てさて、本作はどういう流れになるのか…あんまり期待しないでお待ち下さい。
後、ルーウェンのキャラがどうしても既存キャラと被りがちな気がしないでもない…。
でも、こういう話でおちゃらけたキャラだといまいち重みがない気がしましてね。それに、私自身が基本的にこういうキャラ書くの好きなものですから…って、それは散々別シリーズでお分かりでしょうけどw
あ、因みに、ヅァギの元ネタは北斗の拳の「ジャギ」です。
実はもういっこ「アヴィバ」という「アミバ」のパロディな名前もありましたが、某駅前留学と被るので却下いたしましたw
「ボルゲ」のパロディで「ヴォルゲ」でも良かったんですけどね。
要するに、全部悪党の名前から拝借しています。
それでは、また次回まで。